私の中にもう一人の私がいる

2001年作品/1時間29分/35ミリ/モノクロ(一部カラー)/アメリカンビスタ 配給:フイルムヴォイス、アルゴピクチャーズ

2003年05月23日よりビデオ発売&レンタル開始 2003年05月23日よりDVD発売開始 2002年3月16日より東京都写真美術館にて公開

サブ題名 The Lonely Affair of the Heart

公開初日 2002/03/16

配給会社名 0090

公開日メモ 「マリリンに逢いたい」「秋桜」のすずきじゅんいち監督最新作

解説



《女性の孤独をポジティブな視点で描く》
大人の成熟した女性でなければ理解できないかもしれない「ハイブローでエロチックな、芸術的香り高い映画」が本作『ひとりね』です。30代以上の知的な女性が興味を持つ現代的なテーマを、クラシックなモノクロ35ミリネガフィルムにおさめたこの作品は、幻想的な日々の描写に、監督のすずきじゅんいちが熟練した演出の冴えを見せています。
この映画のテーマである『孤独』は、仕事に充実した時を過ごしているかのように感じている女性が、ふとした時に抱く感情であると思います。この映画の主人公も、孤独で満たされない日々を送っています。そしてある日、突然見知らぬ若い男が現れます。
実は彼は、姿を変えたもう一人の自分自身であった、という意外な展開が待っています。

《女の欲望、毒、そして哀しみを、主演の榊原るみが意外にも大胆に見事に演じる》
榊原るみは、彼女の持つ、明るく厭味のない透明な感性故、元祖「お嫁さんにしたい女優ナンバー1」と言われ、また現在までそうしたキャラクターの役を演じ続けてきました。その代表的な作品が『男はつらいよ』のマドンナ役であり、また『気になる嫁さん』のヒロインでした。それに飽き足らなかった榊原るみが、引退を決意して臨んだ映画が『ひとりね』です。そして、その決意は、大胆なヌードやオナニーシーンなどに十分に表現され、見事に「女の欲望、毒、そして哀しみ」を演じきり、全く新しい境地に達したことが、この映画によって証明されています。

《想像力をかき立てる映像と音楽》
原作・脚本の馬場当は、古くは篠田正浩監督の『乾いた花』、また今村昌平監督の『復讐するは我にあり』、最近では日本シナリオ大賞の第一回受賞作『豆腐屋のかみさん』などで知られた日本を代表する大ベテランライターの一人です。日本映画を支えたプロとしての技術、芸術性こそが本来、日本映画復活の為には必要とされると思います。
一方、中堅のカメラマンとして、『がんばっていきまっしょい』(横浜映画祭撮影賞)や、昨年の『式日』(東京国際映画祭芸術貢献賞)などの、長田勇市が撮影監督として微妙なモノトーンの映像美を見せ、音楽では篠原哲雄監督の作品や連続ドラマで活躍している村山達哉が美しい弦のメロディを聴かせ、『ワンダフルライフ』や『ひまわり』などの若手編集マン今井剛や、『SAWADA』や『富江』などの録音、中山隆匡などが、堅実な技術を見せる作品でもあります。

ストーリー


風の強い、何やら不安な夏の宵だった。「ただいま」という声に、織江(榊原るみ)が玄関に出ると、知らぬ若い男(高橋和也)がいた。織江の来た様子に振り返った男は、「間違えました」と表情も変えずに立ち去った。
翌日も男は来た。「ただいま」という声に、織江は息を詰め、玄関に出た。男は昨日と同じように織江の来た気配に振り返り、少し笑って織江を見つめ、立ち去った。
その夜織江は、帰宅した夫の白木(米倉斉加年)に、その事を告げた。白木は「君には隙がある。君が悪い」と厳しい表情で織江を見た。
秋も深まった日、小包が手紙ととにも織江に届いた。
「先日は失礼しました。偶然入ったお宅で奥さんが現れて・・・。2度目は奥さんにもう一度逢いたくなって・・・。許して下さい」織江は男の撫で肩を思い出していた。
一方白木は「あいつ、どうした」と男のことを時々織江に尋ねた。何故か白木は男のことを根に持った。「昨夜来たわ」織江は、白木の視線を迎え討つように見つめて言った。白木は、織江のその視線に何時にない艶のようなものを認めた。
織江の、男を夢想するその造形は、次第にふっくらと妖しく色づいて熟れていった。

7年程前、白木の妻(風祭ゆき)は長期入院していた。悦子は、識江の姉だった。ある雨の日、入院している姉の洗濯物を取り込む織江に白木が襲いかかった。織江は最後まで拒めなかった。二人は元々、心の中に互いに対する危うい気持ちを持ちつづけていたのである。程なく姉の悦子が亡くなり、二人は一緒に住み始めた。
あの頃の危うい思いは、時とともに次第に薄れ、白木は織江の知らない所で、幾つかの情事を重ねていた。織江の幼馴染みの直子(余貴美子)とは刃傷沙汰まで起こし、孫ほども年の離れた学生の薫(榊原めぐみ)とも関係を持っていた。
白木が学会参加で地方に発ち、織江は一人になった。丁度44歳の誕生日を迎えた日、織江は街に出た。そんな織江にギターを提げた男(梅田凡和)が声をかけた。織江は、誘われて入ったスナックで、自分の女を存分に振る舞い婉然と微笑んだ。
ギターの男は、その後公園で織江を抱いた。いや、織江が誘うようにしたのか・・・。

秋雨が続いた。男は現れなかった。織江は目を閉じて男を思い、裸で自慰にふけった。
白木の出張はのび、織江はギターの男を求めて、再びあの街を彷徨った。
帰宅すると、白木が思いがけず部屋で織江を待っていた。「体調を崩してね・・・」そう言うと白木は手を突いて、痛みを堪えた。
「ところであの男は現れたか」
「来たわ」と織江は嘘をついた。その夜白木は倒れ、緊急入院することになった。
その夜遅く、男が訪ねてきた。
「癌ですか」「ええ、胆嚢炎にしてるけど」
織江は、男の顔を見つめた。そして初めて今まで男の顔をキチンと見たことがないのに気づいた。その時電話がなった。「あいつでも来てるのか」と白木が電話の向こうで言った。ふと前を見ると男は消えていた。その後、深夜に何度か無言電話があった。白木からか、男からか・・・、しかし織江は男の名前すら知らないことに気がつき疑惑がわき起こった。織江は送られてきた手紙を探したが、見つからなかった。あの男は実在したのか・・・。
白木の容態は悪化し、本人の希望で自宅に戻った。その晩、男がまた現れた。
「死ぬのかな、白木さん」と織江に眩いた。ふと織江が後ろを見ると白木が立っていた。
「誰だ、その男!」見返すと、男は消えていた。白木は「素早い奴だ。どこにいる」と家の中をブロンズの像を手にし、男を捜し回った。そして力尽き、再び床に寝入った。
立ち去ったとばかり思っていた男が、再び織江の前に現れた。
織江は息を詰め、初めて「あなたは誰なの?」とたずねた。
「僕はあなたです」男がそう答えた。

激しいショックが織江を襲った。自分の知らない自分を確かに織江はそこに見たのだ。
「あなたは下卑た女だ。ギターの男を探して街に何度もでた。そして男を思って何度も裸で自慰した・・・」織江は、自分の醜さに対峙することが辛かった。しかし、もう一人の自分は容赦なく自分を責めたてた。織江は、自分に向き合わざるを得なかった。
「白木さんが亡くなると、あなたは拠り所を無くす。そして僕が消えればあなたは一人になる」「嫌っ!みんな私から毟り取るのね」「人は皆一人です。独りにならなければいけないんです・・・」
男が立ち去ろうとした。織江はそんな男にむしゃぶりついていった。
が、男は織江の体の中で突然消えた。その時、白木がことたえていた。
織江は一人、身悶えした。本当の自分と、そして孤独と向き合わなければならないことを自覚して。

スタッフ

監督:すずきじゅんいち

製作総指揮:鈴木隆一、すずきじゅんいち
プロデューサー:小杉哲大
脚本:馬場当、柴田千晶
撮影監督:長田勇市
音楽:村山達哉
録音:中山隆匡
美術:岩城南海子
編集:今井剛
助監督:金丸雄一
製作担当:岩本光弘

キャスト

織江:榊原るみ(『男はつらいよ 奮闘編』マドンナ。)
白木:米倉斉加年(日本を代表する舞台俳優。また演出家、絵師としても活躍)
若い男:高橋和也(『ロックよ静かに流れよ』主演)
直子:余貴美子(『学校3』で日本アカデミー賞助演女優賞受賞)
ギターの男:梅田凡和(『雪の王様』主演)
薫:榊原めぐみ(榊原るみの娘。『秋桜』主演)
悦子:風祭ゆき(『赤い通り雨』主演)
老婆:内海桂子(漫才界の大御所)

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