サイの季節
原題:Fasle kargadan
第13回東京フィルメックス特別招待作品
2012年/イラク・トルコ合作/カラー/93分 配給:エスパース・サロウ
2015 年7 月 11 日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
公開初日 2015/07/11
配給会社名 0087
解説
マーティン・スコセッシを心酔させた、網膜になだれこむ圧倒的ダイナミズムの映像世界!
名匠バフマン・ゴバディが亡命中に撮りあげた渾身の最新作
この全世界が待望したバフマン・ゴバディの最新長編作『サイの季節』は、第 37 回トロント国際映画祭でプレミア上映され、第 60 回サン・セバスチャン国際映画祭では最優秀撮影賞を受賞、その後、第 17回釜山国際映画祭、第 13 回東京フィルメックス等数々の国際映画祭での上映と受賞を重ね、あのマーティン・スコセッシがネームクレジットで称賛の意を表した映画史に残る至高の 1 作である。
本作は、イラン政府に許可を得ず撮影した前作『ペルシャ猫を誰も知らない』(09)以来、亡命を続けているゴバディが母国を離れ、異国の地トルコで撮影したことでも注目を集めた。映画への愛から母国を去ることを決断した苦悩と、一方で、亡命によって映画製作に対する困難さから解き放たれた高揚、その相反する彼の心情が見事に織り込まれた作品といえるだろう。デビュー作『酔っ払った馬の時間』(00)でカンヌ国際映画祭カメラ・ドールを受賞し、その映像美に定評のあるゴバディだが、本作はこれまでの自身のどの作品とも一線を画す、まさに真骨頂といって過言ではない。愛する人も地位も自分の存在さえも奪われた主人公サヘルの混沌とした心象風景が、時に突飛とも思えるほど自由奔放で、縦横無尽の想像力で生み出されるダイナミックな映像世界となって、観る者を現実と幻想の魔法的な交錯に引き込む。そして、ともすれば現実にならされてしまった私たちに心地よい刺激と惑乱を与えてくれるのだ。
混沌と悪夢の時代を彷徨い続けた男女のゆるがぬ愛、絡みあう思惑——
イラン、イタリア、トルコが輩出した名優たちの競演が魅せるスリリングな人間ドラマ
イスラム革命時、ある男の企みによって不当に逮捕された詩人サヘル。30 年後に釈放され、生き別れとなった最愛の妻ミナの行方を捜し始めるが、政府の嘘によって彼はすでに「死んだ」ことにされていた。
一方、夫の死を信じ込まされ、悲嘆にくれるミナにはある男の影がまとわりつく。その人物こそがサヘルを監獄送りにし、ミナとの間を引き裂いた男アクバルだった——この物語は、実在するクルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガールの体験談に基づいて描かれた衝撃的なドラマである。バフマン・ゴバディの大胆な構成力と魅惑的な審美眼がつくりだす混乱と陶酔の映像世界に、たしかなリアリティをもたらす名優たちの力強い存在感。時間軸を前後させながら徐々に解き明かされていく真相は、観る者に絶え間ない緊迫感を与え続ける。
悪夢の 30 年間の末、最愛の妻との再会だけを希望に生き続ける老齢のサヘルを演じるのは、イランの伝説的俳優ベヘルーズ・ヴォスギー。その静かで深い悲しみに満ちた瞳と重厚な佇まいは圧巻。そして、革命の悲劇と愛欲の犠牲となる妻ミナをイタリアの至宝モニカ・ベルッチが熱演。長い月日の経過と共に悲嘆にくれ、疲れ果てた老女に扮するもその艶やかな魅力は隠しきれない。また、決して叶わぬミナへの歪んだ愛から大罪を犯すアクバルを演じるのは、トルコの名優ユルマズ・エルドガン。愚かで哀しい男を見事に体現している。
引き裂かれた夫婦、そこにつきまとう男の影。その屈折した三角関係が生んだ戦慄の事実と大いなる復讐の果て——30 年の歴史の闇が紐解かれたとき、彼らが下すそれぞれの“愛の結末”に胸を裂かれずにはいられない。
ストーリー
その残酷なたくらみに、愛し合う 2 人はすべてを奪われた——30 年間の記憶が暴く、許されざる罪と嘘
1977 年、革命前王制下イランの首都テヘラン。
詩集「サイの最後の詩」を出版し、成功をおさめていたクルド系イラン人の詩人サヘル・ファルザン(カネル・シンドルク)は、司令官の娘で美しい妻ミナ・ダラクシャニ(モニカ・ベルッチ)と何不自由ない幸せな日々を過ごしていた。
一方、ミナの家に運転手として雇われていたアクバル・レザイ(ユルマズ・エルドガン)は、密かにミナへ想いを寄せていた。夫婦の仲睦まじい関係を見るにつけ募る、激しい絶望と嫉妬。そしてアクバルは、その許されざる想いをミナに告白したことで、集団暴行を受け、夫婦から引き離されることとなる。
1979 年、イラン・イスラム革命が勃発。
政治体制が一変し、サヘルは“反体制的な詩を書いた”としてミナと共に逮捕される。裁判の結果、サヘルには国家転覆罪として禁固 30 年、ミナには夫との共謀罪として禁固 10 年の判決が下された。事実無根の罪で別々の刑務所へ収監され、引き裂かれた夫婦。2 人を密告し、陥れた人物こそ、革命による形勢逆転で新政府の指導者的存在となったアクバルであった。ミナへの異常なまでの執着愛とかつての恨みが彼を不正へと走らせたのである。その後、自分の権力を使い、ミナに早期釈放を持ちかけたアクバルだが、彼女はそれを強く拒み、刑務所にとどまる決断をする。こうしたミナの態度に逆上したアクバルは、かくもおぞましい行為によって夫婦に新たな悲劇をもたらすのだった。
10 年後。
ミナは刑期を終え、獄中で授かった双子の子供と共に釈放された。生き別れとなった夫サヘルの釈放を待ちわびるなか、政府から夫の死を告げられる。彼が埋葬されているという墓の前で泣き叫ぶミナ。そんな彼女の前に現れたのは、いまだミナへの想いを抱き続けているアクバルであった——
2009 年、イラン。
一人の男が 30 年という長い刑期を終え釈放された。
それは、“死んだ”とされていたサヘル(ベヘルーズ・ヴォスギー)だった。
実は 30 年もの間、獄中で拷問に耐え抜き、生き延びていたのだ。しかし、政府による“嘘”と“偽りの墓”によって、生きながらにして「死者=存在しない者」として扱われることになる。心身ともに酷く痛めつけられ、抜け殻のようになってしまったサヘルを生かしているものは、最愛の妻ミナと再会したいという思いだけであった。
やがて、サヘルはミナの居場所を探りだす。夫の死を告げられた彼女は、トルコへ移民として引っ越し、2 人の子どもと暮らしているという。昔の自分とミナとの思い出をひきずる一方、時折、悪夢のように蘇る拷問の記憶に苛まれながら、サヘルは愛する女性を探しにイスタンブールへと旅立つ。
2010 年、イスタンブール。
ミナは彫り師(タトゥーを彫る人)を生業としながら子供たちと静かに暮らしていた。彼女は、愛する夫サヘルが残した詩を人の体に刻むことで、未だ彼の死を悼み続けていた。しかし、彼女のそばには、自分と夫を引き裂いた男アクバルの影がなおもしつこく付きまとう。彼に心を許すことはないミナだったが、どうしても関係を断ち切れない理由があった。
一方、サヘルは港町でミナを発見する。しかし、すぐに近づくことはできない。なぜなら彼は“死んでいる”からである。距離を保ちながら、静かにミナの行動を観察し続けるしかない。“存在を消された”ことへの絶望と悲しみをまといながら、サヘルはただ、亡霊のように漂わざるを得なかった。
そんな中、偶然に出会った若く美しい 2 人の娼婦。いつのまにか彼女たちの運転手兼用心棒となるサヘルだったが、この出会いによって思いもよらない衝撃の事実を突きつけられることになろうとは、知る由もなかった・・・・。
スタッフ
監督・製作・脚本:バフマン・ゴバディ
撮影:トゥラジ・アスラニ
提供:マーティン・スコセッシ
キャスト
ベヘローズ・ボスギー
モニカ・ベルッチ
ユルマズ・エルドガン
カネル・シンドルク
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