原題:Paradies: Glaube

2012年/オーストリア/カラー/113分 配給:ユーロスペース

2014年2月22日公開

(C)Wien 2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema

公開初日 2014/02/22

配給会社名 0131

解説


欲望のすすめ。

2012年のカンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、2013年ベルリン国際映画祭と世界三大映画祭のコンペティション部門を踏破し、一作ごとに激しい論争を巻き起こしてきた「パラダイス3部作」が遂に日本に上陸する。ヴァカンスに訪れたケニアの美しいリゾートで、現地青年との“愛”にのめり込む中年女性テレサを描いた『パラダイス:愛』。テレサの姉アンナ・マリアがイスラム教徒の夫からは得られなかった“愛”の拠りどころを、過剰なまでにイエス・キリストへ求める『パラダイス:神』。そしてテレサの娘メラニーが、青少年向けのダイエット合宿で父親ほど年の離れた男に初めての恋をする『パラダイス:希望』。「パラダイス3部作」は現実社会では手にできない理想の愛に満ちた“楽園(パラダイス)”を求め、セックス観光、過激な信仰心、ロリコンと危険な一線をこえてしまう3人の女性をオフビートなユーモアを交えて描いた3つの物語だ。夏休みのひととき、窮屈な日常を抜け出した彼女たちは、ぽっちゃりとした自身の身体から解き放たれようとするかのように、欲望に身をゆだね、三人三様の方法でパラダイスに向かって猛進する。誰もが隠しもつ人間の性(さが)を剥き出しにした女たちの行き着く先は、必ずしも幸福ではない。しかし本3部作が、人間の根源的な欲望を見つめる眼差しはそこはかとない慈愛をおび、むしろ彼女たちをパラダイスに駆り立てる社会の無言の圧力に対して疑いの眼を向ける。

監督のウルリヒ・ザイドルは『予測された喪失』(92)、『Animal Love』(95)、『Models』(98)などドキュメンタリー作家としても世界的な評価を得てきたオーストリアの知られざる実力派。ドキュメンタリーで培った方法論をフィクションの現場に応用し、徹底的にリアリティを追求する完璧主義者として知られている。驚くべき観察眼で、負の部分を含めた人間の姿をありのままに描き出し『ドッグ・デイズ』(01)ではヴェネツィア映画祭審査員特別賞、カンヌのコンペ部門に出品された『インポート・エクスポート』(07)はエレバン国際映画祭で最高賞を受賞。その才能に魅了された映画監督も多く、ヴェルナー・ヘルツォークに「私はザイドルほどに映画で地獄を直視したことはない」と言わしめ、ジョン・ウォーターズは「ファスビンダーが死に、神は代わりにウルリヒ・ザイドルを遣わした」と称賛。同じオーストリアのミヒャエル・ハネケは2007年までカンヌがザイドル作品を選ばなかったことを「上品ぶったカンヌのクロワゼットには、臭うソックスは相応しくないのだろう」と皮肉り、オーストリア人らしい表現でザイドルに対する敬意をみせている。

当初「パラダイス3部作」はある家族の3人の女性を主人公にしたひとつの長大な物語として構想されていた。だが4年の歳月を費やし、プロの俳優と演技経験のないアマチュア双方を起用し、周到に作り込まれた場面設定の中で、俳優に即興で演じさせる“ザイドルメゾッド”で制作された本作のラッシュは80時間にのぼったという。最終的に2人の姉妹とその娘、それぞれの挿話を有機的に機能させるため3つの物語として編み直された本3部作は、名画のように完璧なバランスの構図の中に、『愛』『神』『希望』それぞれのリズムとトーンを獲得し、ひとつの家族の物語としてのつながりを保ちながら、独立した3つの傑出した連作として完成した。

ストーリー

夫婦のすすめ。

ウィーンでレントゲン技師として働くアンナ・マリアは、妹テレサのようにヴァカンスに出かけるでもなく、イエス・キリストのために夏休みの日々を過ごす。高らかに歌う讃美歌と、人々の不貞の罪の犠牲に自らの身体を鞭打つのが彼女の悦び。そして大きな聖母マリア像を携え、移民が多く住む郊外のアパートを一軒一軒訪ね歩いては住民たちに改宗を勧めて歩くのが日課だ。自宅にしつらえた祈りの部屋では、時おり仲間が集まっては祈祷会が営まれる。敬虔すぎるカトリック教徒のアンナ・マリアにとって、パラダイスはイエスと供にあるのだ。ところがある日、車椅子に乗ったエジプト人でイスラム教徒の夫ナビルが2年ぶりに家に戻ったことから彼女の日常が狂い始める。イエスをまるで理想の男のように慕い敬いながら、夫には無慈悲な態度をとるアンナ・マリアの矛盾にナビルは怒りをあらわにする。アンナ・マリアのパラダイスは今、宗教と結婚の両方に亀裂の入った夫婦間の争いの場となってしまった…。

スタッフ

監督:ウルリッヒ・ザイドル
製作:ウルリッヒ・ザイドル
脚本:ウルリッヒ・ザイドル
ベロニカ・フランツ
撮影:ボルフガング・ターラー
エドワード・ラックマン
美術:アンドレアス・ドンハウザー
レナーテ・マルティン
編集:クリストフ・シェルテンライプ

キャスト

マリア・ホーフステッター
ナビル・サレー

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