原題:ONLY LOVERS LEFT ALIVE

ジム・ジャームッシュ監督4年ぶりの最新作 自らの集大成となる吸血鬼のラヴ・ストーリー

本年度 第 66 回カンヌ国際映画祭コンペティション部門 正式出品作品 本年度 第 38 回トロント国際映画祭正式出品作品

2013 年/米・英・独/123 分 配給:ロングライド

2013年12月20日、TOHO シネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷他、全国公開

公開初日 2013/12/20

配給会社名 0389

解説


4年ぶりの新作は、ジャームッシュ監督が7年間温めていた
自らの集大成となる吸血鬼のラヴ・ストーリー 

 永遠のアウトサイダーとして生きる孤高の映画作家、ジム・ジャームッシュ。米インディペンデント映画の最大の巨匠と呼ばれ、各界の熱いリスペクトを集めつつも、N.Y.を拠点にメインストリームからは常に距離を置き、マイペースで自分の作りたい映画だけを撮り続けてきた。そんな彼が、実に7年構想を温めていた4年ぶりとなる念願の新作が、吸血鬼の恋人同士を描く『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』だ。すでにカンヌ国際映画祭に出品されて絶賛を博している。
 初期の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や『ダウン・バイ・ロー』で時代の寵児となった80年代から、ファッションやアートの分野にも多大な影響を与え、近作『ブロークン・フラワーズ』では円熟したオフ・ビートなユーモアセンスで新たなファンを魅了したジャームッシュ。大人気の短編連作シリーズ『コーヒー&シガレッツ』には、イギー・ポップ、トム・ウェイツ、ジャック・ホワイト、RZAからケイト・ブランシェットやビル・マーレイまで、様々なカルチャー・セレブたちが登場し、彼への深い信頼と交遊の幅広さを窺い知ることができる。
 そして30年もの長いキャリアを通じ、ジャームッシュが一貫して描いてきたのが“放浪するアウトサイダー”の姿だ。特定の居場所を持たず、鋭利な牙を備え、人目を忍んで夜の世界のみに生きる吸血鬼とは、まさにそのメタファー。彼個人の心情が濃厚に託されたこのモチーフからも、今作は集大成的な一本と言えよう。同時にここには、表現の世界においても、名声や富の欲望に溺れて本質を見失った現代へのアンチメッセージが込められている。

困難な21世紀を生きる聡明で儚いアウトサイダーたち

映画の舞台は、自動車や音楽などアメリカが誇る重要な文化的歴史を持ちながら、現在は貧困率の上昇と人口の減少で荒廃が進む、ある種象徴的な都市デトロイト(2013年7月18日、財政破綻を声明。それ以前の夜の同地が映し出されている)。そして神秘的なモロッコのタンジール。困難な21世紀を生きる吸血鬼のラヴ・ストーリーだ。
謎のカリスマ・ミュージシャンとして人知れず活動するアダムと、永遠の恋人イヴが再会し、二人の甘く退廃した日々が描かれる。すでに何世紀にも渡って繰り返されてきた彼らの恋物語。だが現代世界が壊れゆく中、この聡明で儚いアウトサイダーたちは生き残り続けることができるのだろうか?
キャストには新旧を代表する豪華な顔ぶれが集まった。イヴ役にはティルダ・スウィントン。かつてデレク・ジャーマン監督のミューズとして女優のキャリアをスタートした彼女は、『ムーンライズ・キングダム』など個性的な映画作家から『ナルニア国物語』シリーズほかハリウッド大作まで縦横無尽な活躍。今回の企画に最大の理解を示し、ずっと映画化の実現まで待っていた立役者の一人でもある。アダム役にはトム・ヒドルストン。『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』の悪役ロキ役などで現在最も注目される英国若手俳優が、今作では新たな魅力を披露。さらに『アリス・イン・ワンダーランド』や『イノセント・ガーデン』などのヒロインで人気急上昇中の新進女優ミア・ワシコウスカ、『デッドマン』『リミッツ・オブ・コントロール』とジャームッシュ作品の常連でもあるベテランのジョン・ハートが脇を固める。

ジャームッシュ監督がこだわったイギリス文学史

 ジャームッシュは、自分の愛する吸血鬼の物語がバイロンをはじめ、イギリスのロマン派詩人から生まれたことに敬意を表し、メインキャストにはすべて英国人俳優をそろえている。そしてジョン・ハートが演じるクリストファー・マーロウは、16世紀イギリスに実在した伝説の劇作家であり、同い年のシェイクスピアと同一人物ではないか?との憶測も呼んでいる謎多き文学史上のカルトヒーローだ。本作ではこういった文学の歴史を裏ネタ的に組み込んだ重層的な作劇が為されている。また音楽に関する薀蓄の数々。レアなギターやアンプについて、またモータウンなどデトロイトを彩るポップ音楽史など。タンジールのシーンではレバノン人の女性シンガー、ヤスミンのライヴ・パフォーマンスが見られる。映画音楽を担当したのは、ジャームッシュと共同でオリジナル・アルバムを発表しているリュート奏者、ジョゼフ・ヴァン・ヴィセム。この映画はまさに、ジャームッシュの愛するものすべてが詰まった究極の一本なのだ。

ストーリー









 米デトロイト。寂れたアパートでひっそりと暮らすアダム(トム・ヒドルストン)は、何世紀も生き続ける吸血鬼。その姿を隠し、アンダーグラウンド・シーンでカリスマ的な人気を誇る伝説のミュージシャンとして生きている。彼が起きて活動するのは夜間だけ。年代物のギターを愛好し、名前を発表せずに音楽を作る。必要な物の多くはイアンという男に調達を任せている。そして時折、自ら素顔を隠して医師ワトソンの病院を訪れ、極秘に血液を手にいれていた……。

 そんな彼に、ある夜、懐かしい電話が掛かってきた。永遠の恋人、吸血鬼のイヴ(ティルダ・スウィントン)からだ。モロッコのタンジールに滞在していた彼女は、やがてパリ経由で夜間の便を乗り継ぎ、“リュミエール航空”でデトロイトへ。アダムのアパートで二人は久々に再会を果たす。

 アダムとイヴは愛を交わしながら、音楽について、彼らが“ゾンビども”と呼ぶ人間たちが犯した歴史上の蛮行について話す。少し眠ったあと、車に乗って夜の散歩へ。パッカード工場跡の廃墟、ジャック・ホワイトの生家……そして元ミシガン劇場の跡地を案内するアダム。「1920年代に莫大な金をかけて建てられた。4000人を収容し、ここでコンサートや映画の上映も。それいまや駐車場だ」。

 再びアパートに戻り、チェスに興じる二人。何世紀も前の昔話を交わしながら、イヴはアダムにこう伝える。「あなたのヒーローのマーロウがよろしくと」。マーロウとは、クリストファー・マーロウ(ジョン・ハート)。人間の歴史上では16世紀末に死んだとされているこの異端の作家は、いまはタンジールに“キット”という名で身を潜めていた。
そして二人はイヴが冷蔵庫で冷やしていた血の棒付きキャンディーを取り出して舐める。チェリー・フェザーズの1956年のレコード「キャント・ハードリー・スタンド・イット」を流した時、電気が止まった。庭に発電機をチェックしに出ると、地面には季節外れのベニテングタケが生えていた。

 そんな二人の穏やかで堕落した悦楽の日々は、まもなくひとりの闖入者によって掻き乱されてしまう。イヴの妹のエヴァ(ミア・ワシコウスカ)がL.A.からアダムのアパートを突然訪ねてきたのだ。アダムは87年前にパリでエヴァが起こした“ある一件”の怒りがまだ収まらなかったが、このずうずうしい厄介者はすっかり居ついてしまう。

 まもなく事件は起こった。三人でライヴハウスに出向いたあと、エヴァはそこで出会ったイアン(アントン・イェルチン)をアパートに連れ帰り、酔っ払った彼の血を吸ってしまったのだ。妹を庇っていたイヴも「なんてことを! いまは21世紀なのよ」と激昂し、彼女をアパートから追い出す。

 アダムとイヴは哀れなイアンの死体を始末したあと、二人でタンジールに発つ。そして血液を求め現地の「カフェ千夜一夜」を訪れると、汚染された血を飲んだマーロウが死の床についていた……。

 血液の入手手段を失い街角で衰弱していくアダムとイヴ。もはや、この世では高潔な吸血鬼たちは滅びるしかないのだろうか?

スタッフ

監督:ジム・ジャームッシュ
製作:ジェレミー・トーマス、ラインハルト・ブルンディヒ
脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:ヨリック・ル・ソー
美術:マルコ・ビットナー・ロッサー
衣装:ビナ・ダイヘレル
編集:アフォンソ・ゴンサウベス
音楽:ジョゼフ・バン・ビセム

キャスト

トム・ヒドルストン
ティルダ・スウィントン
ミア・ワシコウスカ
ジョン・ハート

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