原題:A Woman, a Gun and a Noodle Shop

第60回ベルリン国際映画祭 コンペティション出品作品

2009年12月11日中国公開

2009年/中国映画/90分/カラー/2.35:1/ドルビーデジタル/字幕翻訳:丸山垂穂 配給:ロングライド/協力:ハピネット

2011年9月17日よりシネマライズほか全国ロードショー

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公開初日 2011/09/17

配給会社名 0389

解説


中国最高の巨匠チャン・イーモウが
コーエン兄弟の傑作『ブラッド・シンプル』の
驚くべき再創造に挑んだオリエンタル・ノワール

 デビュー作『黄色い大地』や『紅いコーリャン』で中国第五世代を代表する才能として世界中に注目され、その後も『あの子を探して』『初恋のきた道』といった胸に染み入る感動作や、『HERO』『LOVERS』などの豪華絢爛な大作を発表。2008年の北京オリンピックでは壮麗なる開会式&閉会式の演出を手がけたチャン・イーモウ監督は、現代の中国最高の巨匠という名声に甘んじず、飽くなき新境地への挑戦を繰り返してきた。そんなチャン監督には、20年以上前に鑑賞して以来「幾度となく脳裏に甦り続けた」と語る“心の1本”があった。ジョエル&イーサンのコーエン兄弟が1984年に発表した『ブラッド・シンプル』である。
 若き日のコーエン兄弟が自ら製作資金をかき集めて作り上げた『ブラッド・シンプル』は、うだる暑さのテキサスの片田舎を舞台に、妻とその愛人、夫、私立探偵がたどる悪夢的な運命を描いたクライム・スリラーだ。デビュー作にしてコーエン兄弟ならではのディテールへのこだわりや独特の人間観が凝縮されたこの映画は、アメリカのインディペンデント・シネマの可能性を切り拓いた一作と言われ、1999年には再編集版『ブラッド・シンプル/ザ・スリラー』が製作された。コーエン兄弟はのちに『ファーゴ』『ノーカントリー』『トゥルー・グリット』といった数々の傑作を世に送り出すが、『ブラッド・シンプル』に最も深い愛着を抱くファンも少なくない。
 チャン・イーモウ監督の新たな冒険、それは『ブラッド・シンプル』を中国へ舞台を置き換えてリメイクするという意外性に満ちた企画だった。かくして完成した『女と銃と荒野の麺屋』はストーリーの骨格こそオリジナルを踏襲しているが、何と時代物であり、オープニングから次々と刺激的な光景が目に飛び込んでくる斬新な仕上がり。観客を驚かせ、陶酔させ、唸らせることに徹したチャン監督の技巧と美学が冴え渡るエンターテインメント快作となった。

欲望にまみれ、一丁の拳銃に翻弄される
滑稽にして哀れなひとりの女と3人の男
はたして最後に生き残るのは誰なのか?

 万里の長城の西の果てにほど近い荒野の町。そこで中華麺屋を営む中年男ワンは、怒りに身を震わせていた。妻が若い従業員リーとの浮気に走り、ペルシャ商人から拳銃を購入したらしいのだ。巡回警察官チャンからその報告を受けたワンは、妻とリーの殺害をチャンに依頼。ところが麺屋の金庫に眠る大金に目をつけていたチャンは、ワンの思惑とは違う行動に打って出る。このときすでに誰もコントロールできない“人生の悪戯”に絡め取られた勝ち気な妻と臆病な愛人、傲慢な夫と狡猾な悪徳警官の4人は、あれよあれよと破滅への道を転がり落ちていくのだった……。
 『ブラッド・シンプル』からその本質を受け継いだ『女と銃と荒野の麺屋』のストーリーの妙味は、滑稽なまでに愚かで欲深い人間たちの運命を見すえた予測不可能な展開にある。クライム・スリラーにおける完全犯罪はふとした誤解やすれ違いから破綻していくのが常だが、本作の主要キャラクター4人はそれぞれが嫉妬、復讐心、強欲、罪悪感に駆られ、思いがけない悲劇のドミノ倒しを招き寄せてしまう。次は誰が殺され、最後に誰が生き残るのかという手に汗握るサスペンス。そこに一丁の拳銃が登場人物を嘲笑うように翻弄するアイロニーや、死体隠しをめぐるサプライズなどが加わり、一瞬たりとも目が離せない。オリジナル版以上にブラックユーモアをふんだんに盛りつけている点も本作の特色と言えよう。
 チャン・イーモウ監督は起伏に富んだ中国の原野に舞台を設定し、コーエン兄弟のアメリカン・ノワールをヴィジュアル面でもオリエンタルに換骨奪胎した。青空と赤らんだ大地の壮大な風景がはてしなく広がる昼間のシーンと、月明かりが幽玄なムードを照らし出す夜間シーンとのコントラスト。そして登場人物がまとう衣装の鮮やかな色彩が画面に躍動し、京劇の様式美をも採り入れようとしたチャン監督の試みを強烈に印象づける。また映画史上の名場面と語り継がれる『ブラッド・シンプル』のクライマックス“壁を突き破る銃痕の光”が、意表を突いた仕掛けで再現されているのも見逃せない。

ストーリー





すべては荒野の中華麺屋から始まった—
中国・嘉峪関(かよくかん)の荒野にぽつんと立つ一軒の中華麺屋。店主のワン(ニー・ダーホン)と、彼の妻(ヤン・ニー)、住みこみで働く従業員の青年リー(シャオ・シェンヤン)とジャオ(チェン・イェ)、そして小柄な女性チェン(マオ・マオ)の5人で営まれている。

ワンは卑劣で凶暴な上に強欲で、従業員の給料を何ヶ月も滞納しながら、私腹を肥やしていた。ワンに10年前に買われ、虐げられている妻は、実はリーと密かに不倫をしている。

ある日、妻はペルシャの行商人から銃を購入する。「世界最強の武器を手に入れた!」と高らかに笑う彼女の横で、神経質で臆病なリーは、彼女との不倫がばれるのではないかと毎日気が気でない上に、新たに彼女が銃を何の目的で買ったのか、という心配事が増え、胃が痛い思いをしている。一方、こずるいジャオは女が買った銃のことを、またこの地域の巡回警察官のチャンは不倫のことを、それぞれワンに密告する。ふたりともワンから賄賂を受け取っていたのだ。

妻と従業員の裏切りを知り頭に血が上ったワンは、チャンを呼び出し二人の殺害を依頼する。高額な報酬を見返りとして—。「俺に考えがある。証拠はどこにもない。」と暗殺を強要するワン。警察官の乏しい給料では満たされない生活を送っていたチャンは、その殺害計画に乗ることにする。

一丁の拳銃と三つの銃弾  6人の運命が動き出す
翌日、ワンが店を留守にした隙に、妻とリーはこっそり馬車に乗り南の丘で呑気に仲良く昼寝をしていた。そこへ大きな剣を構えたチャンが忍び寄っているとも知らずに—。馬車に慎重に近づいたチャンは、中に隠されていた妻の銃に目を留める。

その夜ワンの元へ、べっとりと血のついた妻とリーの衣服の切れ端を持ってチャンが現れる。ワンがふたりの死を信じ、金庫から金を出し報酬を渡そうとしたところで突然銃を構え、なんの躊躇もなく無表情に引き金を引くチャン。それは一瞬の出来事であった。

ワンが完全に動かなくなったことを冷静に確認したチャンは、金庫の金をすべて持ち出そうとするが、金庫には頑丈な鍵がかけられており、びくともしない。そこへ未払いの給料を取り戻そうと、ジャオとチェンが部屋の入口に忍び込んでくる。抜け目がないジャオは金庫の開け方を調べて把握し、店主がいない隙を狙っていたのだ。チェンはそんなジャオを「犯罪になる」とたしなめ、部屋に入るのを止めようとする。二人が入口で口論している間に、チャンは自分が部屋にいた痕跡を完璧に消し、素早く窓から逃げ出す。机の上に不気味に黒光りする拳銃を残して—。

絶対に、思い通りになんかさせない!
夜が更け、夜空に浮かぶ月だけが目覚めている頃—、ワンの死体からぽたぽたと滴り落ちる血。漆黒の闇の中、そこへまた人影がひっそりと足を忍ばせやって来る—。

果たしてワンの死体は発見されるのか?金庫の金は誰かが盗み出すのか?拳銃は誰かの手に渡るのか?そしてさらなる血が流れるのか?最後に笑うのは誰なのか?
それは誰にもわからない。それぞれの欲望や思惑によって、運命の歯車は思いがけない回り方をするものだから—。

スタッフ

監督: チャン・イーモウ  张艺谋
プロデューサー: ビル・コン、チャン・ウェイピン、グウ・ハオ
脚本: シュウ・チェンチャオ、シー・チェンチュアン
撮影監督: チャオ・シャオティン
美術監督: ハン・ヂョン
音響監督: タオ・チン
音楽: チャオ・リン

キャスト

ヤン・ニー 闫妮   (ワンの妻役)
ニー・ダーホン 倪大红   (ワン役)
スン・ホンレイ 孙红雷   (チャン)
シャオ・シェンヤン 小沈阳   (リー役)
チェン・イェ 程野    (チャオ役)
マオ・マオ 毛毛   (チェン役)

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