原題:Days of Heaven

1978年/アメリカ/カラー/94分/ 配給:日本スカイウェイ、アダンソニ 配給協力:コミュニティシネマセンター

2011年8月27日より新宿武蔵野館にて公開

(c)1978 Paramount Pictures corporation

公開初日 2011/08/27

配給会社名 0107/1104

解説


 寡作でありながら作品を発表するたびに絶賛されるテレンス・マリック監督。この夏公開されるブラッド・ピットとショーン・ペンの共演が話題の最新作『ツリー・オブ・ライフ』も第64回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得した。
73年の初の長編監督作品『バッドランズ』(地獄の逃避行)以来、約40年間に5作品という寡作ぶりや独特の撮影スタイル、ギャラや役柄を問わず出演を熱望する大物俳優が列をなしていること、公の席になかなか出てこないことなどから、生きながらにしてすでに“伝説の監督”と崇拝されている。

『天国の日々』はマリック監督の長編第二作にあたる。第一次大戦さなかのアメリカ中西部を舞台に、季節労働者となって農作物の収穫期に各地をさまよう移民たちの希望と絶望を、繊細な感情の揺れ動きに焦点をあてた演出や、ため息の出るような詩的な映像美とともに描き出している。
78年の公開当時、リチャード・ギアは『アメリカン・ジゴロ』や『愛と青春の旅立ち』で大ブレイクする直前であり、サム・シェパードは本作が本格的な映画デビュー作だった。大スターの出演作でもなく、観客にわかりやすく移民の説明がなされるわけでもない。歴史や宗教、社会的背景は暗黙の了解であって、ただ静かに移りゆく時間の中で予定調和的な悲劇が訪れる物語が地味だとされたのか、当初アメリカでは興行面では成功しなかった。しかし当然のことながら作品を見た批評家はこぞって大絶賛。ニューヨーク映画批評家賞監督賞をはじめ、ナショナル・ボード・オブ・レヴュー最優秀作品賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞撮影賞、同年のアカデミー撮影賞などを受賞(その他衣裳デザイン、音響、音楽各部門でノミネート)。さらにカンヌ国際映画祭監督賞など、数々の映画祭で高い評価を受けている。

そんな名作の誉れ高い作品であったが、日本ではアメリカの興行成績の影響からか、劇場公開されたのは製作から5年たってからだった(劇場公開:1983年5月13日〜6月16日/劇場:シネマスクエアとうきゅう/動員数:1万8667人/興収:¥25,014,000)。その評判にもかかわらず、残念ながらヒットにはならなかったが、フランソワ・トリュフォーの映画で知られる撮影監督・故ネストル・アルメンドロスによる自然光をいかした映像の美しさ、人間の営みや移民の悲哀、若者の青春の挫折といった、いくつもの壮大で普遍的なテーマを、自然と共に暮らす人々の日常や細やかな感情表現の積み重ねで浮かび上がらせてゆく作品は名作と呼ぶにふさわしく、一部の熱狂的なファンによって崇拝されることになった。

特にこの作品を特別なものにしているのはため息が出るほど美しい映像だろう。撮影を担当したネストル・アルメンドロスはスペイン生まれのキューバ育ち。父親が作家でフランコ独裁政権から逃れるためにキューバに移り、大学で文学と哲学を学ぶかたわら短編映画を撮っていた。その後、ニューヨーク市立大学やイタリア国立映画実験センターなどで映画を学んだ後、カストロの革命が起こり、カストロに批判的なドキュメンタリー映画に取り組んでいたことがきっかけとなってヌーヴェルバーグが注目されていたフランスへ脱出。エリック・ロメールやトリュフォーの作品の多くを手掛けたという異色の経歴の持ち主だ。『天国の日々』の撮影はアルメンドロスが撮影した『野生の少年』のモノクロ映像に感銘を受けたマリック監督が熱望したものだという。

マリック監督はアルメンドロスに人工的な光はなるべく使わない方針を伝えたという。時間と機材の手配次第で撮影の多くをその場で決めていく自由度の高いマリック監督のスタイルはいまも変わらない。アルメンドロスはそこで自然光をいかし、フィルターを使わず、画家フェルメールの絵画のように、室内では窓から入り込む光や一つの光源しか使わない方法を用いて、サイレント映画へのオマージュとした。またあの美しい黄金色の麦畑をはじめとする外のシーンは朝焼け、または夕焼けの前後の時間帯(マジックアワー)に撮影し、それ以外の日中は準備に費やされたという。
残念ながらトリュフォー監督の『恋愛日記』のスケジュールがすでに予定されていたため、限られた日数でしか参加できなかったが(残りはハスケル・ウェクスラーが担当/編注:ネストル・アルメンドロスのインタビュー参照のこと)、映画史に残る素晴らしい映像となった。

『天国の日々』という題名は旧約聖書の「申命記」に出てくる言葉からとられたもの。「申命記」はモーゼが約束の地に入るイスラエル人に対して与えた律といわれ、「唯一の神ヤーウェを愛していれば約束の地(天国)に住む日数=天国の日々が多くなる」ことが強調されている。また、全体の構成が「創世記」から借りたもの(ビルとアビーが兄妹と偽るのはアブラハムとサラの関係と同じ)であったり、<小麦の刈り入れ>や<イナゴの来襲>などを映画の重要なシーンとして扱うなど、聖書を想起するエピソードが物語の骨格を成している。

 マリック監督は『天国の日々』以後、約20年間、映画制作から遠ざかっていたが、その沈黙を破ったのが太平洋戦争の激戦地となったガダルカナル島の戦いを描いた『シン・レッド・ライン』(98年)だった。この映画では伝説のマリック監督作品の出演を熱望する俳優が殺到し、ショーン・ペンをはじめ、ジョージ・クルーニー、ジョン・キューザック、ウディ・ハレルソン、ニック・ノルティ、ジョン・トラボルタなど、そうそうたる顔ぶれが揃い、ベルリン国際映画祭金熊賞やニューヨーク批評家協会賞監督賞/撮影賞などを獲得、見事な復活を果たした。

 長編第4作となる2005年の『ニュー・ワールド』はアメリカ人なら誰でも知っているポカホンタスとジョン・スミスのラブストーリーだったが、この作品に出演したクリストファー・プラマーはテレンス・マリックについて「彼はどこか地方都市の大学教授が何かの拍子にショービジネスの世界に迷い込んでしまったような人物」と評し、そのスタイルについて「映画業界特有のやり方をいっさい拒み、独自のやり方で進めていこうとする。そんなところを尊敬している」と語っている。またクリスチャン・ベールは「マリック監督はとても自然で流動的な撮り方をするんだ。彼は打ち合わせやリハーサルをすることを嫌い、(何も言わず)現場でいきなりはじめようとする。だから、誰もが生まれて初めてそのシーンを演じる形になる。監督はミスや突発的な出来事をわざと求めていた。そういうシーンは嘘がないから。僕はこの撮り方を歓迎している」と語っている。役者にとって演じることそのものに自由度があることが出演を熱望する理由なのかもしれない。
 主演のリチャード・ギアはこの作品に次いで撮影した『ミスター・グッドバーを探して』(77)で人気を博し、『アメリカン・ジゴロ』(80)『愛と青春の旅立ち』(82)でスター俳優の仲間入りを果たした。恋人アビー役を演じたブルック・アダムズ、チャック役のサム・シェパード、妹役のリンダ・マンズもそれぞれ素晴らしい演技で注目を集め、この映画がきっかけとなってキャリアを築いた。また、『真昼の決闘』(52)や『荒野の七人』(60)など、古くから脇役として活躍するロバート・ウィルクが射るような眼差しでビルを威圧するベンソン役で、ベテランならではのいぶし銀の演技を見せつけている。

 その他のスタッフに触れておくと、美術のジャック・フィスクは舞台出身で、映画の初仕事はマリック監督の「バッドランズ」(地獄の逃避行)。この作品がきっかけでシシー・スペイセクと結婚。その後『リップスティック』(76)『キャリー』(76)『ブルックリン物語』(78)などを手掛けハリウッドでキャリアを築いた。以後もマリック監督作品には『ツリー・オブ・ライフ』まですべて美術監督として参加。続く最新作も担当する。
制作のバード&ハロルド・シュナイダー兄弟は60年代末にBBSプロダクションを創設して『イージー・ライダー』(69)『ファイブ・イージー・ピーセス』(70)『ラスト・ショー』(71)と立て続けにニューシネマの名作を作り上げた黄金コンビとして有名。兄のバートは近年日本で公開され話題を呼んだ「ハーツ・アンド・マインド/ベトナム戦争の真実」(74)でアカデミー賞最優秀記録映画賞を受賞している。
 なお、マリック監督は、今年早くも(!)ベン・アフレック、ハビエル・バルデムなどの出演する次回作(6作目)に取り組んでいる。

ストーリー


第一次世界大戦が始まったころ。シカゴの製鉄工場で働くビル(リチャード・ギア)は過酷な労働に耐えかね、いざこざを起こして仕事をやめた。ビルは妹のリンダ(リンダ・マンズ)と食うや食わずの生活で、他の移民たちと同様貧しさにあえいでいたが、まだ少女である妹の面倒をみて、互いを励まし合っていた。二人はビルの恋人アビー(ブルック・アダムス)と三人でシカゴから飛び出し、新しい何かを求めて冒険の旅を始めることにした。ビルはどこでもアビーを妹として紹介した。そのほうが世間を渡りやすかったからだ。

旅先で麦刈り人の季節労働の募集があり、三人はテキサスのバンハンドル地方の農場で働くことになった。見渡す限り黄金色の広大な麦畑の光景を目にし、漠然と期待を抱くビル。リンダは少女らしい感性で、季節労働に雇われた、さまざまな国から来た移民たちに接しながらいろいろなことを学んでいく。
しかし収穫が始まると朝から晩まで汗と泥にまみれ、麦を刈り、束ねる作業が延々と続く。休む暇もなく、くたくたになりながら、日が暮れるまで働く労働者たち。少しでも麦を無駄にすると減給され、サボればクビになる。代わりはいくらでもいた。それは都会と同じ過酷な労働だった。

そんな日々が続くなか、彼らに転機が訪れる。若くハンサムな農場主チャック(サム・シェパード)がアビーに目を付けたのだ。チャックの両親はすでになく、彼はひとり身で孤独だった。そのうえビルはひょんなことから彼が不治の病で医者が余命はあと1年と話すのを耳にしてしまう。
刈り入れが終わり、季節労働者たちは次の土地を目指す時期が来て、チャックはアビーにこのまま残ってほしいと持ちかける。戸惑うアビーはビルに相談するが、ビルは意外にもアビーに彼の好意を受け入れるように言う。王様のような暮らしを夢見るビルはこれまでのみじめな生活から這い上がるチャンスがほしかったからだ。悩んだ末、収穫祭の夜にアビーは真実を隠し、ビルとリンダと一緒に滞在することを条件にチャックの申し入れを受け入れた。
収穫祭の夜が明けると大勢の季節労働者たちは列車に乗り、次の土地を目指して行った。静かな時が流れる農場でビル、リンダ、アビーとチャックの新しい生活が始まる。自分の仕事を見つけたいとリンダに語るアビー。どん底から這い上がれない苦しみをチャックに語るビル。ダンサーになりたかったと踊ってみせたアビーに「愛してる」と告白するチャック。その話を聞いたビルは、躊躇するアビーにチャックの余命を思い出させ、少しの間我慢すれば、また三人で別の土地へ行けるはず、とチャックと結婚するよう説得する。アビーは気が進まないままビルの提案を受け入れた。

柔らかな日差しが差す農園でチャックとアビーの結婚式が行われ、二人は新婚旅行に出かけた。屋敷を自由に使っていいと言われたビルは初めて触れる豊かな暮らしに息をのみ、胸が高鳴る。やがて四人の新しい生活が始まった。大自然の中で働く代わりに一日中、冗談を言い、遊んで暮らす毎日。それはまさにビルが長年夢見た王様の暮らしだった。だが、ビルは寂しさからチャックの目を盗んでアビーを夜中に誘い出し、二人の時間を過ごさずにはいられなかった。
そんなビルとアビーに以前から疑いの目を向けていたのは年老いたチャックの使用人ベンソン(ロバート・ウィルク)だった。彼はチャックに「あなたは騙されている」と進言するが、アビーを愛するチャックは余計な摩擦を避けるため、彼に北部の農場へ行くよう命じる。旅立つベンソンは射るような目でビルを見つめ「お前の魂胆はわかっている」とくぎを刺して去って行った。

事実が発覚することを恐れながらもチャックの優しさに愛を感じ始めたアビー。親密になっていく二人を目にし、次第に動揺を隠せなくなるビル。
ある日、チャックとビルは狩猟に出かける。銃を手にして獲物を追ううち、抑えきれないシットでビルは殺気立ち、チャックもそれに気づく。破局が近づいていた。ビルがチャックに真実をぶちまけようとしたとき、突然、空から旅芸人たちの乗った飛行機が現れ、彼の農場にやってきた。退屈な毎日に現れた闖入者。怪しい見世物や珍しい映画、酒、そしてエキゾチックな香り。ある夜、酔ったビルはアビーに熱い口づけをする。それを目撃したチャックはショックを受け、アビーに詰め寄った。アビーは適当な言い訳でその場を切り抜け、チャックに詰め寄られたことをビルに話す。二人の諍いを知り、アビーがチャックを愛し始めたことを知ったビルは家を出る決心をし、アビーとリンダを残して旅芸人の飛行機で旅立っていった。

スタッフ

監督・脚本:テレンス・マリック
製作統括:ジェイコブ・ブラックマン
製作:バート・シュナイダー、ハロルド・シュナイダー
撮影:ネストール・アルメンドロス、ハスケル・ウェクスラー
編集:ビリー・ウェバー
美術:ジャック・フィスク
音楽:エンニオ・モリコーネ
衣装:パトリシア・ノリス

キャスト

リチャード・ギア
ブルック・アダムス
リンダ・マンズ
サム・シェパード
ロバート・ウィルク
スチュアート・マーゴリン

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