原題:Precious Life

「人間にも天使がいる」…この小さな命を救いたい

2010年イスラエル・アカデミー賞 最優秀ドキュメンタリー賞 2010年トロント国際映画祭正式出品 2010年エルサレム映画祭正式出品 2010年テルライド映画祭正式出品 2010年ハンプトン国際映画祭正式出品 2010年ミル・ヴァレー映画祭正式出品 2010年AFI映画祭正式出品

2010年/アメリカ・イスラエル/カラー/デジタル/ドキュメンタリー/90分 配給:スターサンズ

2011年7月16日(土)より夏休みロードショー ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー

公開初日 2011/07/16

配給会社名 1100

解説


本作は中立の立場をとりながらも、両者の中途半端な「共存」を求めるようなドキュメンタリーとは一線を画している。——–—臼杵 陽(日本女子大学教授・中東地域研究)

今、命の価値を問う、世界を揺るがせた真実の物語
「命の価値とは?」「母親の愛とは?」「人間の良心とは?」。本作はいま現在も続くイスラエルとパレスチナの紛争を背景に、その対立の中で翻弄される、ひとつの小さな命をめぐる物語を紡いでゆく。そして誰もが持つであろう人としての根源的な問いをあぶり出し、観る者に投げかけ、そして深い感動を呼びおこす。
2010年のイスラエル・アカデミー賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、トロントをはじめ多くの国際映画祭に正式出品され海外のプレスからも絶賛を多数集めた感動作が、この夏いよいよ日本で公開される。
今「生きること」と「本当に大切なことは何か」について考えているすべての人に観て欲しい、心揺さぶる真実の物語を描いた傑作だ。

パレスチナのちいさな命を守るため、
民族も宗教も乗り越えイスラエル人医師とジャーナリストが立ち上がった。
紛争の絶えないイスラエルとパレスチナ。余命を宣告されたアラブ人の赤ん坊が、封鎖されたパレスチナ自治区ガザ地区からイスラエルの病院に運びこまれた。イスラエル人医師ソメフはガザ地区の最前線で20年以上取材を続けるイスラエル人テレビ・ジャーナリスト、エルダールとともに、民族や宗教の対立を越えて立ち上がる。その想いはただひとつ、「このちいさな命を救いたい」。しかし行く手には様々な困難と、パレスチナ人のアイデンティティーと母親としての想いの間に揺れ動くラーイダの苦悩があった…。

劇映画以上にスリリングでドラマチック
監督はパレスチナの現状をイスラエルに伝える取材を、ガザ地区の最前線で続けているイスラエル人テレビ・ジャーナリスト、シュロミー・エルダール。初監督作品ながら長年の取材によって培われた経験を活かした紛争下の爆撃シーンは、劇映画では感じる事の出来ないリアリティを持って生々しく迫ってくる。また登場人物の内面に寄り添う場面では、その詩的な映像が観る者の心を魅きつけて離さない。そして次々と立ちはだかる壁を登場人物たちがひとつひとつ乗り越えてゆくスリリングな展開は、劇映画以上にドラマチックだ。

「人間にも天使がいる」
本作で描かれるアブル=アイシュ医師(パレスチナ人でありながらイスラエルで産科医として活動し、2009年のノーベル平和賞にノミネートされている)が生放送で訴えた悲劇は、世界中で報道されて大きな反響を呼び(※YouTube:「shlomi eldar」か「abu al-aish」で検索可能)、イスラエル国民にパレスチナの惨状を伝える大きな役割を果たした。またアブル=アイシュとラーイダが対面する場面や、監督が「人間にも天使がいる」と賛辞を贈るソメフ医師の言葉の数々は、多くの人に強い印象を残すだろう。そして彼らが起こした小さな奇跡は、未来を照らすひとすじの希望の光となり、それはやがて大きな平和へとつながる可能性を秘めている。

ストーリー




封鎖されたパレスチナ自治区ガザ地区の最前線で、20年以上取材を続けてきたイスラエルのテレビ記者エルダールは、イスラエルのユダヤ人とパレスチナのアラブ人をつなぐ唯一の架け橋であるテル・アビブ郊外の病院に向かっていた。そこに勤務するイスラエル人医師ソメフから、パレスチナ人で骨髄移植が必要な4ヶ月半の赤ん坊ムハンマドを救うために協力してほしいと依頼されたのだ。生まれつき免疫不全症の難病に罹ったムハンマドは、このままだと一歳になる前に死んでしまうという。
エルダールは記者という自分の立場を使って、手術に必要な55,000ドルのためにテレビで寄付を呼び掛けた。ムハンマドの母親ラーイダは「イスラエルのプロパガンダよ。誰も寄付なんかしてくれない」と、当初は寄付を募る事に反対していたが、結果は匿名を条件に全額を寄付するという人物が現れる。 
早速移植手術のために必要な骨髄についてムハンマドの家族の検査をするが、誰も適合しない。落胆したのも束の間、次に従兄たちの検査をする事にする。しかし25人もの従兄たちを封鎖されたガザからイスラエルに連れてくる事は不可能なので、エルダールはそれまでの取材で得た人脈を使って採血したサンプルだけを持ち込む事にした。血液サンプルは検問所で手渡されるはずだったが、奇跡的にラーイダの兄自身がそのままエルダールと一緒に病院まで運ぶことを許可される。検査の結果、従姉の一人が適合することが判明するが、ちょうどその時ガザで再び大規模な爆破事件が勃発し、移植手術のために検問所まで来ていた従姉は、直前でイスラエルに入れなくなってしまう。

3日後、従姉は何とか検問所を通過し、ようやく手術が行われひとまず成功をおさめる。あとはムハンマドの身体に新しい骨髄が受け入れられるのを根気強く待つしかなかった。その後の4ヵ月間、ラーイダは血液を注入し続けて弱った息子を懸命に看病した。
エルダールはラーイダと色々な事について話し合った。そしてエルサレムに話が及んだ時、二人はお互いに「エルサレムは自分たちのものだ」と譲らず、ラーイダは「エルサレムに行くのが夢だ」と語る。さらに「私たちは死を恐れない。誰もがエルサレムのためなら命を捧げられる。ムハンマドが殉教者になってもいい」と続けた。「何のためにムハンマドの命を必死に救おうとしているのか?」。エルダールは彼女の言葉に失望し、動揺する。
次に会った時は父親のファウジーも同席した。エルダールは先日のラーイダの話を納得できず、その想いをぶつけた。すると彼女はその場しのぎで矛盾するような事を言い訳のように話し始めた。その時、ファウジーが親子に対するネット上の書き込みをエルダールに見せてくれた。そこには親子がイスラエル人に助けられたことを、敵と手を組んだかのように思っているガザのパレスチナ人たちによる、彼らを「裏切り者」と蔑む心無い誹謗中傷の数々が有った。
ラーイダは自分が良きパレスチナ人で、パレスチナ人としての理念を守っているという事を、書き込みをしているパレスチナ人たちに証明したかっただけなのだ。そして自分たちを助けてくれるイスラエル人と今でも仲間であるパレスチナ人としてのアイデンティティー、そして母親としての想いの間で板挟みになって思い悩んでいたのだ。エルダールはラーイダの深い心の葛藤を知り、それまで彼女の苦しみを知らずに追いこんでしまったことに愕然とした。
ムハンマドの身体がようやく新たな骨髄を受け入れ、順調に回復してきた。そして彼らがガザ地区に帰る日にソメフ医師は言った。「いつかムハンマドと私の息子が一緒に遊ぶようになってほしい。もし無理でもムハンマドの子どもたちが、それでも駄目なら孫たちがそう出来る日がやってくる。いつの日かきっと。私は信じている」。
彼らがガザに戻って3ヶ月。再びガザで紛争が勃発し、ソメフ医師も軍医として現地に駆り出された。エルダールはテレビ番組で現場のソメフから戦況をレポートしてもらった。またイスラエルで働く有名なパレスチナ人医師アブル=アイシュの娘たちが犠牲になった事も本人の電話レポートで伝えた。それは単なる数字でしかなかった多くの死が、生々しく迫ってくる瞬間だった。そしてやっと連絡が取れたラーイダの家族全員の無事が確認された。
停戦から一週間後、ムハンマドの容体が急変し、数日間待たされてやっと検問所を越えた。ラーイダは「紛争中、イスラエル人は彼らと半年間過ごした私たちを傷つけるはずがないと思い怖くなかった」と話し、再び妊娠していることも告げた。「もう同じ経験はしたくないのかと思っていた」と言うエルダールに、ラーイダは「ガザの女性には口出しをする権利はない。夫がすべてを決める。」と答えた。ムハンマドは深刻な容体だったが、手遅れになる前に手術を行い助かった。
4ヶ月後、夫婦は出産のために再び病院にやってくる。無事に出産を終え、赤ん坊にも異常がないと分かり胸をなでおろす。エルダールはラーイダとムハンマドを夢であったエルサレムに連れていく。しかしラーイダは出産直後だったため、宗教的にモスクに入ることが許されなかった。落胆するエルダールに「見られただけで幸せ」と気遣うラーイダ。そしてムハンマドがヘブライ語で「Toda(ありがとう)」という言葉を口にした。最後にエルダールがもう一度聞くと、ラーイダは答えた。「この子の命は尊い」。

スタッフ

監督/撮影/ナレーション:シュロミー・エルダール SHLOMI ELDAR 
プロデューサー:エフード・ブライベルグ EHUD BLEIBERG 
       ヨアヴ・ゼェヴィー YOAV ZE’EVI 
編集:ドロール・レシェフ DROR RESHEF 
サウンド・デザイン:ロネン・ナゲル RONEN NAGEL 
音楽:イェフダー・ポリケール YEHUDA POLIKER 
カラー・グレーディング: ロイ・ニツァン ROIY NITZAN  
音声編集:ロテム・ドロール/エヤール・クーリッシュ ROTEM DROR, EYAL KULISH 
音響スタジオ: トリム・ポスト・プロダクション TRIM POST PRODUCTION 
美術協力:ノイト・ゲヴァ NOIT GEVA  
編集協力:アリク・ラハヴ・レイボヴィッチ ARIK LAHAV LEIBOVITCH 
グラフィック・デザイン: ラハヴ・ハレヴィー LAHAV HALEVY 
ガザのカメラマン: ムーナス・アブー=ナハル MUNAS ABU NAHAL 
追加撮影:ラフィー・バリティー RAFI BALITI 
タリー・ゴダール TALI GODAR 

唄&楽器:イェフダー・ポリケール YEHUDA POLIKER 
ヴォーカル:エリー・ハダード ELI HADAD 
フルート:アシュート・サハキアン ASHUT SAHAKIAN 
キーボード:ローネン・ヒレル RONEN HILLEL 
ミックス:ローネン・ヒレル RONEN HILLEL 

キャスト

ラーイダ&ファウジー・アブー=ムスタファー RA’IDA & FAOZI ABU MUSTAFFA 
ラズ・ソメフ医師 DR. RAZ SOMECH 
アモス・トーレン PROF.AMOS TOREN 
ナイーム・アブー=ムスタファー NAIM ABU MUSTAFFA 
サウサン・アブー=ムスタファー SAUSSAN ABU MUSTAFFA 
イッズッディーン・アブル=アイシュ医師 DR.IZ A-DIN ABU AL-AISH 
アレックス・ワインガルト ALEX WEINGART 

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