原題:Son of Babylon

【受賞】 ベルリン国際映画祭 アムネスティ国際映画賞・平和映画賞 カルロヴィヴァリ国際映画祭 NETPAC賞 レインダンス国際映画祭 最優秀国際映画賞 シアトル国際映画祭Emerging Master賞 エジンバラ国際映画祭 Special Mention賞 セビリヤ国際映画祭 最優秀作品賞・青少年審査員賞 セルビア・シネマシティ国際映画祭 芸術賞 ブリュッセル国際映画祭 最優秀審査員賞 サードアイ・ムンバイ国際映画祭 最優秀審査員賞 ハワイ国際映画祭 最優秀審査員賞 ザダル映画祭 ヨーロッパ共同製作賞 2010年 ヴァラエティ紙が選ぶ中東監督 【ノミネート・出品】 アカデミー賞外国語映画賞イラク代表作品 サンダンス国際映画祭正式出品 ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワード 2010ノミネート 釜山国際映画祭正式出品 アブダビ国際映画祭コンペティション部門正式出品 ガルフ国際映画祭 正式出品 イスタンブール国際映画祭 コンペティション部門正式出品 シアトル国際映画祭正式出品 サンフランシスコ国際映画祭 コンペティション正式出品 シドニー国際映画祭 正式出品 メルボルン国際映画祭 正式出品 モロッコ・ラバト映画祭 オープニング サラエボ国際映画祭 特別上映 レイキャビク国際映画祭 クロージング パレスチナ フランコ・アラブ映画祭 正式出品 サラエボ国際映画祭 記念上映 アヤム・ベイルート・シネマイヤ映画祭 リオ国際映画祭正式出品 ガラ上映 オランダ映画祭 クロージング ワルシャワ国際映画祭 正式出品 ゲント映画祭 正式出品 オスロ フィルムズ・フロム・ザ・サウス映画祭 クロージング アラブ・ワシントンDC国際映画祭 正式出品 サード・アイ・アジアン国際映画祭 オープニング テッサロニキ国際映画祭 正式出品 パーム・スプリングス国際映画祭 正式出品 ヨーテボリ国際映画祭 正式出品

2010年/イラク・イギリス・フランス・オランダ・パレスチナ・UAE・エジプト合作/カラー/90分/ 配給:トランスフォーマー

2012年01月25日よりDVDリリース 2011年6月4日、シネスイッチ銀座他全国順次公開

(c)2010 Human Film, Iraq Al-Rafidain, UK Film Council, CRM-114

公開初日 2011/06/04

配給会社名 0248

解説



行方不明になって12年。
顔さえ知らない父を探して、少年の旅が始まる…。

2003年、イラク北部クルド人地区。フセイン政権の崩壊から3週間後、戦地に出向いたまま戻らない息子を探すため、老いた母は旅に出た。12歳の孫アーメッドを連れて。生後間もなかったアーメッドは、父の顔さえ知らない。父子を繋ぐのは、父が残した縦笛だけだ。
わずかな現金しか持たない祖母と少年は、ヒッチハイクをしながら、バスを乗り継ぎ、砂漠の中を進んでいく。クルド語しか解さない祖母を、時折片言のアラビア語で助けるアーメッド。2人は、気のいいトラックの運転手、貧しくても逞しく生きる路上の少年、そして、クルド人殺戮に加担し心に傷を負った元兵士…、さまざまな出会いと別れを繰り返し、過酷な現実に押しつぶされそうになりながらも、やがて訪れる運命の瞬間に1歩1歩近づいていく…。

ベルリン映画祭 アムネスティ賞、平和賞同時受賞!
欧州各国が制作支援!真実のイラクの姿がここに。

度重なる戦争により、夥しい数の行方不明者や、身元不明のままの遺体を今もなお抱える国、イラク。バグダッド出身で、ヨーロッパ各国で映像を学びキャリアを積んできたモハメド・アルダラジー監督は、祖国の現状を伝えるため、2003年長編第1作を製作。何者かに襲われ誘拐されるなどの危険な目に遭いながらも完成させた作品は高い評価を受け、第2作である本作に繋がった。
しかし再び祖国に戻り撮影を開始したものの、前作同様に制作は困難を極め、幾度となく中断に追い込まれた。そんな中にあっても、監督の熱意が米・サンダンス映画祭、イギリス、フランス他のプロデューサーの心を動かし、各国映画人支援の下、作品は遂に完成。
ベルリン映画祭パノラマ部門に出品され、2部門を同時受賞。心揺さぶるラストシーンでは、会場を感動の涙で包み込み絶賛され、アカデミー賞外国語映画賞イラク代表作品にも選出された。

泣かないで。ずっと守ってあげるから。
泣かないよ。もっと強くなるから。

アーメッド役は、現地で抜擢したヤッセル・タリーブ少年。路上ですれ違いざまに見た彼の強いまなざしが監督の心を捉えた。祖母役も、脚本を執筆するためにイラク人家庭を訪れインタビューを繰り返す中で出会った女性のうちの1人。彼女自身も家族の多くを戦争で失い、本作の祖母と同様の経験をしており、全編を貫くリアリティが、観るものの胸に深く突き刺さる。
イラク北部からバクダッドを経て、空中庭園の伝説が残る古都バビロンへ。900キロに及ぶ2人の旅が教えてくれるのは、愛する人を守る強さ。未来を信じる心…。
過去40年間で150万人以上が行方不明となり、300の集団墓地から何十万もの身元不明遺体が発見されているイラク。本作完成後、身元確認を促進する「イラク・ミッシング・キャンペーン」を、監督自らが発足させている。

ストーリー

サダム・フセイン失脚から3週間後
見渡しても誰もいない。ごつごつした岩山に囲まれ荒涼とした赤い大地を歩く縦笛をもった少年アーメッドとその祖母。「おばあちゃん、まだ歩くの」。どのぐらい歩いたのか2人が向うナシリヤまで後900キロ以上もある。アーメッドがぐずり始めたとき、1台のトラックが通りかかり、祖母が道を塞いでトラックを止め、500ディナールを運転手に渡し、バグダッドまで乗せてもらうことになった。荷台に乗り込んだアーメッドは父からもらった縦笛を調子はずれに吹く。「頭が変になりそうだ。吹くならマイケル・ジャクソンを吹いてくれ」。 途中、アメリカ軍の検問に遭い、その日は外で一夜を過ごすことになった。荒廃した国を嘆き、信仰を捨てた運転手はぶっきらぼうにも自分は外でいいから車内を寝床にしろと2人に勧めた。 翌朝、3人を乗せた車は、戦争の惨禍が残る荒廃したバグダッドに到着する。バスターミナルの近くで2人を下ろした運転手は「ばあさんを犬やオオカミから守れ」と言い、アーメッドに金を返した。

アラウィ・バスターミナル
ナシリヤ刑務所行きのバスが出るアラウィ・バスターミナルは、人でごった返していた。アーメッドは、クルド語しか話せない祖母の代わりに、道行く人にアラビア語で目的のバスについて聞き出す。バスが来るまでベンチに腰を下ろすと、祖母は折りたたまれた数枚の手紙をアーメッドに差し出し、読むように促す。「もう百回以上読んだよ」。うんざりしながらも、アーメッドは手紙を読み上げる。それは1991年の湾岸戦争で父イブラヒムに命を救われた友人が祖母に宛てたもので、イブラヒムがナシリヤ刑務所に収容されていることを知らせる内容のものだった。 アーメッドが手紙を読み始めてしばらくすると、祖母は眠ってしまった。ナシリヤ刑務所行きのバスが到着したとの声で目を覚ましたとき、隣にいたはずのアーメッドがいなくなっていた。行き交う人達にアーメッドの行方を尋ねるが、クルド語を話せる人は誮もいない。切羽詰まった様子で辺りを見回すと、タバコ売りの少年を手伝うアーメッドの姿を視界に捉える。耳を掴んでアーメッドをバスまで連れて行くのだが、バスは満員状態。祖母は、先にアーメッドを窓から押し入れて、自分は後から乗り込もうとしたが、無情にも扉は閉まり、バスは走り出してしまう。追いかける祖母。その距離はどんどん離れていく。しかし、先ほどのタバコ売りの少年がバスを止めてくれたおかげで、祖母もバスに乗り込むことができた。2人は抱き合い、イブラヒムが待つナシリヤ刑務所に急ぐのだった。

ナシリヤ刑務所
黒煙が立ち上り、辺りは瓦礫の山。「バース党※1の犬め」と吐き捨て、死体を車から捨て去る輩。「危険だからこれ以上は行けない」と、バスはナシリヤ刑務所の近くで停車した。2人は、刑務所を目指す他の乗客の後を追う。途中、桟橋を渡るときに祖母は「そんな汚い顔で会えないわ」と、アーメッドの体を清拭し、真新しいシャツとズボンに着替えさせる。アーメッドもまた祖母の顔を拭いてあげた。 刑務所内は幾人もの人が行き交い、喧騒としていた。2人は、身内を探している人たちが集う案内所へ行き、イブラヒムについて尋ねるが、「ここにはいない。近くで集団墓地が見つかったから、そこに行くといい」と返される。 祖母は座り込み、息子の写真を抱きながら土の臭いをかぎ、「ここにいたのに」と弱々しくつぶやくのだった。

モスクの囚人
帰りのバグダッド行きのバスには大勢の人が群がっていた。2人は押しつぶされそうになりながらも、1人の男の手助けによって何とかバスに乗り込むことができた。男の名はムサ。 バスは道中、故障してしまい、これから先は歩くことを余儀なくされた。車内でアーメッドを気にかけたムサは、2人と行動を供にする。茜色に染まった空の下、3人は集団墓地へと向かうのだった。 しかしその夜、アーメッドを寝かした後、祖母はムサが昔アンファル※2に加担していたことを知ってしまう。強要されたと弁解するムサだったが、祖母は罪なき民を殺したムサを「殺人者」と罵り、追い払ってしまう。翌朝、ムサはこの近くのモスクに囚人がいて、その人がイブラヒムかもしれないと遠慮がちに2人を案内する。ムサの知人シェイクがイマーム※3を勤めるモスクでその囚人と接見することができたのだが、その囚人はイブラヒムではなかった。イブラヒムと生きて再会する希望を絶たれた2人はただただ抱き合うしかなかった。

2人の決意
トラクターに乗り家路に着く2人と同乗し、途中まで見送ることになったムサ。アーメッドは旅に出たときから行きたいと思っていたバビロンの空中庭園にまつわるおとぎ話をムサに得意気に語る。それを聞いたムサは案内役を買って出て、必ず2人をバビロンに連れて行くことを約束した。 トラクターを走らせていると前方から白いバンが数台通り過ぎる。それは湾岸戦争で亡くなった者たちの棺を乗せていた。祖母は自分の前を通り過ぎる白いバンを見据え、決心する。「イブラヒムを家に連れて帰らなきゃ」。アーメッドもまた胸裡に同じ思いを抱き、まだ見ぬ父への切情を強く持つのであった。

集団墓地
シェイクから聞いた集団墓地に到着した一行。白い布に包まれた遺体がそこここに横たわり、愛する者を失った女たちの叫び声があたりに響きわたっていた。アーメッドをトラクターに残し、ムサと祖母が墓地に眠る者たちの名簿を持つ男にイブラヒムの名前を告げる。しかし、「ここにはいない。マハウィルにも集団墓地がある。神の助けを祈る」と返される。 ムサは疲れ果てた祖母を休ませる。腕に抱えた息子の写真を見ながら嗚咽する祖母に、1人の女が話しかけてきた。夫の行方を捜す女はアラビア語で話し、息子の行方を探す祖母はクルド語で話す。互いに言葉がわからないのだが、2人は底流にある悲しみを分かち合った。 トラクターに戻ると、そこで待っていたアーメッドは、ここからは祖母と2人で父を探すとムサに伝える。「どうして。あなたたちを助けたいんだ」。2人の行く末を心配し引き下がろうとしないムサに「あなたは十分助けてくれた。あなたを許す」と祖母が優しく語りかける。そういうと2人はムサから踵を返し、1台の車に乗り込む。目を潤ませながらムサは「バビロンへ行こう。空中庭園を見せてやる」と見送るのだった。

2人の終着点
マハウィルの集団墓地へと向かう2人が乗ったバス。絶望にくれた人々を乗せた車内には悲調な歌が響いていた。さめざめと泣き、憔悴しきった祖母と、その涙を拭き、着ていた上着を掛けてあげるアーメッド。
バスが停車し、2人は集団墓地へと降り立つ。2人の目の前には、砂埃を巻き上げる横殴りの強風が吹きすさび、女たちの慟哭が響き渡る中、土に埋もれた何体もの白骨が掘り起こされる殺伐とした光景が広がっていた。2人は途方に暮れながら、手に手を取り合って墓地内を歩き、名簿を手にする男を見つける。アーメッドは祖母を待たせ、1人で男に近づき、イブラヒムの名前を告げる。しかし「いないね。別の集団墓地が見つかったから行くといい」と冷たく返される。
アーメッドは祖母の元に返ると、祖母は泣き崩れながら白骨化した1体の遺体を愛おしそうに撫で「どれだけお前を探したことか」と嘆いているのだった。アーメッドは、その遺体はイブラヒムではない、新しい集団墓地へ行こうと泣きながら諭すが、祖母はまったく聞く耳を持たない。「おばあちゃん、お願いだからもう泣くのはやめて。」
祖母はもう限界だった。

バビロンの陽光
集団墓地を後にした2人は1台の車の荷台に揺られていた。
「イブラヒム。お前の赤ん坊の頃を覚えている」。夢幻の世界を漂っているのか、孫のアーメッドに息子イブラヒムの面影を重ねたのか、弱々しくつぶやく祖母。アーメッドが祖母の膝枕で流れる風景をぼんやりと眺めていると、夕陽に照らされたバビロンが視界に入る。「おばあちゃん。バビロンに来たよ」。祖母の肩を揺さぶり、眠りから覚まそうとするが、祖母が目を開けることはなかった。
アーメッドは頬を伝う土埃が混じった黒い涙を手で拭い、しっかりと前を見据えて、遠くなるバビロンに向って縦笛を吹くのだった。

※1バース党:正式名称はアラブ社伒主義バース党。1968年〜2003年3月のイラク戦争によってフセイン政権が倒れるまで、イラクにおいて事実上の一党支配体制を敷いていた。
※2アンファル:1986年〜1988年にかけてフセイン政権下で行われた大虐殺。推定18万人以上が殺害され、その多数がクルド人だと言われている。
※3イマーム:イスラム教の指導者。

スタッフ

監督・脚本・撮影:モハメド・アルダラジー
製作:イザベル・ステッド、アティア・アルダラジー、ディミトリ・ドゥ・クレルク
脚本:ジェニファー・ノリッジ、モハメド・アルダラジー、ミトハル・ガズィー
撮影:モハメド・アルダラジー、デュライド・アルムナジッム
音楽:カード・アッチョーリ
音響:グレン・フリーマントル
編集:パスカル・シャヴァンス、モハメド・ジェバラ

キャスト

アーメッド:ヤッセル・タリーブ
祖母:シャーザード・フセイン
ムサ:バシール・アルマジド

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