原題:A Serious Man

『ノーカントリー』の天才、コーエン兄弟が放つ
ストレンジで刺激的な面白さに満ちた悲喜劇

2009年/アメリカ/106分/カラー/ドルビーデジタル/ビスタ/字幕翻訳・佐藤真紀/提供:Focus Feature International
配給:フェイス・トゥ・フェイス
宣伝:メゾン

2011年2月26日より ヒューマントラスト渋谷ほか全国順次公開

(c) 2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

公開初日 2011/02/26

配給会社名 1132

解説


驚くべき完成度と美学を誇る1984年の犯罪映画『ブラッド・シンプル』で鮮烈デビューを飾り、その後は無尽蔵にあふれ出る奇想と魔法のごとき演出力で、一作ごとに世界中を魅了してきたジョエル&イーサンのコーエン兄弟。2007年の『ノーカントリー』でアカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞に輝き、名実共にアメリカ映画界の頂点に立った彼らは、今や巨匠と呼ぶにふさわしい存在となった。それに続いてブラッド・ピット、ジョージ・クルーニーらのビッグネームとのコラボレーションを楽しむかのように、軽やかに撮り上げたブラック・コメディ『バーン・アフター・リーディング』も記憶に新しい。
 そんな名うての兄弟監督の最新作は、『ハート・ロッカー』『アバター』『第9地区』などとともに第82回アカデミー賞の作品賞候補に名を連ねた話題作『シリアスマン』である。いつものコーエン兄弟作品がそうであるように、波瀾万丈のストーリーがあれよあれよと展開していくが、怒濤のサプライズが続出するこの映画は、ジャンル分けすら容易ではない“底知れない面白さ”が満ちあふれている。巨匠であると同時に、鬼才とも曲者とも称されるコーエン兄弟ならではの“ストレンジ”なテイストが全編を支配し、またしても観る者をかつてない刺激的な映像体験へと誘う。まだかまだかと首を長くして日本到着を待ったすべての映画ファンの期待を裏切ることなく、なおかつあらゆる予想を根こそぎ吹っ飛ばす破格の野心作の登場だ。

人間のおかしさが弾け、人生の不条理が暴走する
“世界一不幸な男”の想像を絶する運命とは?

 時は1967年。アメリカ中西部郊外に住むユダヤ人の大学教授ラリー・ゴプニックは、ひたすら平凡な人生を歩んできたマイホーム・パパだ。それぞれ秘密を抱えた息子ダニー、娘サラ、兄アーサーと暮らす彼は、妻ジュディスから突然別れ話を突きつけられ、ハンマーで脳天を殴られたようなショックを受ける。さらに落第点をつけた学生からワイロを渡され、隣人トラブルにも頭を悩ますラリーは、やがてモーテル暮らしを強いられ、こつこつ貯めた銀行預金も底をついてしまう。そんな相次ぐ不運を嘆くラリーは「なぜ自分だけがこんな悲惨な目に?」の答えを求めて、地元コミュニティーの指導者であるラビたちのもとを訪ねるのだが……。
 いわば、これは人生崩壊まっしぐらの一大パニックに陥った“世界一不幸な男”の運命をたどる2週間の物語。コーエン兄弟の作品では、しばしば犯罪に関わった人間の破滅が描かれるが、本作の主人公ラリーは何ひとつ悪さをしていない。むしろ善良で無害な小心者が、常識ではありえないほどの厄災に嵐に見舞われてしまう。そう、まさしくこの映画は常識外れ。悪い奴が懲らしめられる、いい人の努力が報われる、といった因果応報の“納得感”がどこにも見当たらないのだ!
 主人公の置かれた状況がドミノ倒し的に悪化していく物語の流れは、これまでのコーエン兄弟のほぼ全作品に共通し、今回はそこに『バートン・フィンク』『ノーカントリー』にも通じる不条理フレーバーを濃厚に加味。『ファーゴ』『ビッグ・リボウスキ』などで人間の悲哀や滑稽さをあぶり出してきた鋭い観察眼、つい癖になってしまうドライ&シュールなユーモア感覚も健在だ。おまけに観る者を呆然とさせるのは、冒頭と中盤に挿入された奇妙な小話である。“悪霊”と“歯”にまつわるそのふたつのエピソードは珠玉の短編映画のような出来ばえだが、どちらも明確なオチがなく、この映画に盛り込んだ真意すら不明。主人公ラリーがたどり着くラスト・シーンの唐突感も含め、大いに謎の残る異色作となった。にもかかわらず結果的に、この世の真理のようなものをさらりと大胆に浮き上がらせてみせるコーエン兄弟の懐の深さには、やはり脱帽せざるをえない。

コーエン兄弟が少年期のルーツをたどった
1967年の中西部、ユダヤ人コミュニティーの世界

 主要ロケ地となったミネソタ州ミネアポリスは、コーエン兄弟の出身地だ。つねに物語の背景となる“時代”と“場所”にこだわる彼らは、少年時代を過ごした1967年のミッドウエストに舞台を設定し、「たとえ長い間離れていようと逃れられない、自らのアイデンティティーの一部」(イーサン・コーエン)の映像化に取り組んだ。主人公とその周辺の人々が属するちょっと神秘的なユダヤ人社会も、兄弟にとっては馴染み深いコミュニティー。劇中に登場するラビのキャラクターは、彼らが子供の頃に知っていた宗教指導者を下敷きにしたという。あまりにも型破りな内容ゆえに“半自伝的”とまで言うのはいささか大げさだが、希代の天才兄弟のルーツの一端が覗けるようで興味は尽きない。
 監督、製作、脚本を兼任したコーエン兄弟をサポートするスタッフは、常連の切れ者たちで固められた。撮影監督は、コーエン兄弟作品4本を含む8作品でアカデミー賞にノミネートされた実績を持つロジャー・ディーキンス。『ブラッド・シンプル』以来のパートナーであるカーター・バーウェルが音楽を担当し、ジェファーソン・エアプレインのヒット曲「あなただけを」が挿入歌として強烈な印象を残す。そして「観客にあまり知られていない俳優を起用したかった」との兄弟の意向により、ニューヨークの演劇界を中心に活躍するマイケル・スタールバーグを主演に抜擢。脇役陣にも個性豊かな風貌の実力派がひしめき、“一寸先は闇”な人生の悲喜こもごもを絶妙のアンサンブルで体現している。

ストーリー




 1967年のアメリカ中西部。郊外の住宅地にマイホームを構えるラリー・ゴプニックは、地元のミッドウエスタン大学で物理学を教える中年のユダヤ人だ。家庭内での威厳はいまひとつだが、彼がこなすべき当面の課題は、勤務先の大学に終身雇用を受け入れてもらうことと、2週間後に迫った息子ダニーのバル・ミツバー(ユダヤ人の男の子が13歳になるときに行われる成人式)を無難にやり過ごすことくらいなもの。要するに、絵に描いたように平凡な男だった。

 しかしゴプニック家では、小さな問題が幾つも持ち上がっていた。ラリーの兄アーサーは無職で無気力なうえに病気を患っており、居候中のこの家から出て行く気配がまったくない。鼻の美容整形を密かにもくろんでいる娘サラは、伯父にあたるアーサーがいつも長時間バスルームにこもっていることが我慢ならなかった。授業中にラジオを先生に没収されたダニーは、乱暴者の同級生フェーグルにマリファナ代金の20ドルを支払えず、ぼこぼこに殴られるのではないかと脅えている。

 そしてラリーにも厄介なトラブルが降りかかる。落第点をつけたアジア系学生クライヴがそのことに不満を表明し、現金入りの封筒をワイロとして研究室に置いていった。帰宅すると愛想の悪い隣人ブラントが、平然と敷地の境界線を越えて庭の芝刈りをしている。それ以上に慌てたのは、長年連れ添った妻ジュディスが何の前触れもなく別れ話を切り出し、「離縁状を書いてほしい」て告げてきたことだった。すでにジュディスは再婚まで考えており、しかもその相手はラリーの友人のサイだという。妻が自分を捨て、厚かましい気取り屋のサイとの未来を選んだことに、ラリーはショックを隠せない。

 ラリーの災難はまだまだ続く。大学の研究室には会員制のレコード会社から用件不明の電話が何度もかかってくるし、TVアンテナを直すため屋根に上がった際には、隣人のサムスキー夫人が裸で日光浴しているのを目撃して目眩を覚えた。大学にはラリーを誹謗中傷する匿名の投書が届いていることも発覚。そしてジュディス、サイとの初めての三者会談の席では、“3人が納得できる生活面の取り決め”と称して「とりあえず家を出て行ってくれ」などと言われて唖然とし、兄アーサーとともにモーテル暮らしをするはめになってしまう。さらにワイロ学生クライヴの父親からは、「これは文化的衝突だ。名誉毀損で訴えてやる」と抗議を受けるはめに。いったいなぜ自分がこんな理不尽な目に遭わねばならないのか、ラリーにはとうてい理解できなかった。

 困り果てたラリーは、地元コミュニティーの指導者であるラビに助言を請うことにした。ところが不在のナフナー師に代わって応対した若い下位ラビのスコット師は、「物事を新鮮な目で見るんだ」などと珍妙な“神の存在の感じ方”を力説するばかりで、さっぱりピンと来ない。そして「母さんが大変だよ」というダニーからの電話を受けて自宅に戻ると、ジュディスが号泣していた。何とサイが交通事故で突然死亡したのだという。住宅ローン、モーテルの宿泊代金、弁護士への相談料、故障した車の修理代に加え、サイの葬式費用まで負担することになったラリーは、目の前が真っ暗になった。

 すっかり意気消沈したラリーは、ふたりめのラビのナフナー師と対面した。年長者のナフナー師はいかにも思慮深そうな人物だったが、なぜか彼が語り出したのは、ある歯科医が体験したという世にも風変わりな物語。おまけにその話にはオチがなく、ラリーが求める神や人生についての疑問の答えもなかった。どうやらナフナー師は「君が抱える問題は歯痛のようなものだから、少し辛抱すれば痛みも消えるよ」と言いたいらしい。
 苦悩深まるラリーの唯一の慰めは、不気味なまでにセクシーでミステリアスな隣人、サムスキー夫人から勧められたマリファナによるトリップ体験だった。しかし最後の頼みの綱である最長老で最上位のラビ、マーシャク師との面会に失敗したラリーは、賭博や男娼まがいの行為を犯したアーサーが警察の世話になったことにも混乱し、もはや何が現実で悪夢なのかすらわからなくなっていく。

 かくしてダニーの成人式の日がやってきた。ぎこちなくも式を終えたダニーは、マーシャク師からなぜかジェファーソン・エアプレインのメンバーの名前を告げられ、ラジオとマリファナ代の20ドルを返してもらった。ラリーを翻弄する幾多のトラブルも、いずれ時が過ぎれば歯痛のように消えていくのだろうか。しかしこのときすでにラリーの哀れな事情やささやかな願いなどお構いなく、とてつもない巨大な脅威が目前に迫っていた……。

スタッフ

監督・脚本・プロデューサー / ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
エグゼクティブ・プロデューサー / ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー 
エグゼクティブ・プロデューサー / ロバート・グラフ 
撮影監督 / ロジャー・ディーキンス ASC, BSC 
編集 / ロデリック・ジェインズ
プロダクション・デザイナー / ジェス・ゴンコール
衣装/メアリー・ゾファー
音楽 / カーター・バーウェル
キャスティング / エレン・チェノウェス、レイチェル・テナー

キャスト

ラリー・ゴプニック / マイケル・スタールバーグ
アーサー伯父さん / リチャード・カインド
サイ・エイブルマン / フレッド・メラメッド
ジュディス・ゴプニック / サリ・レニック 
ダニー・ゴプニック / アーロン・ウルフ
サラ・ゴプニック / ジェシカ・マクマヌス
離婚弁護士 / アダム・アーキン

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