原題:Household X

第20回PFFスカラシップ作品

2010年/35ミリ/ 90分/カラー
PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)/ リトルモア提携作品
配給=ユーロスペース+ぴあ 宣伝=テレザ

2011年9月24日(土)、ユーロスペースにて ロードショー!(全国順次)

(C)PFFパートナーズ/リトルモア

公開初日 2011/09/24

配給会社名 0131

解説


3.11以降の家族を予知させる家族映画の誕生
主婦・路子(南果歩)が日々寸分の狂いもなく配膳する食卓は、寸分の狂いもないがゆえに家族の息吹がふきこまれることはない。夫・健一(田口トモロヲ)にとっての家は、帰る場所ではなく、終わりのない回廊が張り巡らされた辿り着けない場所だ。息子・宏明(郭智博)は自分がどこにもいないことを知っている。東京郊外の新興住宅地。橋本家もほかと同様、砂上の楼閣のように揺らめき、足場を失っている。姿はあるのに誰もいない椅子、いない部屋、いない家は、最初に路子がバランスを失ったことで傾き、大きな渦に呑み込まれていく…。
住宅街、会社、学校、そして家庭というコミュニティのなかで規格外であることが許されない重圧に埋没し、虚空を抱え、もっとも近しい家族を、そして自身すら見失ってしまう路子たち。しかしそれは、もう一度互いを回復していくための痛みを伴う旅の始まりだった。

3.11以降、家族の有り様が変化するなかにあって、新時代を予知する家族映画が誕生した。29歳の新鋭・吉田光希監督が挑む、“家庭内行方不明者”を探す旅——。昨年『川の底からこんにちは』を送りだしたPFFスカラシップ最新作だ。

 戦後の日本映画は、大家族制度のゆるやかな崩壊を慈しむように見つめた小津安二郎作品にはじまり、常にその時代の家族の在り様を映し出してきた。以後、高度経済成長を背景に急速な核家族化が進む。さらに、バブル崩壊後のゼロ年代へと時代は移り変わっていった。 
そして、誰もが想像しえなかった3.11以降、大きく家族の在り方を問う新時代の家族映画『家族X』が生まれた。 監督は、統合失調症と若年性痴呆症の母と向き合う息子、その苛酷な在宅介護の日常を描いた『症例X』でPFFアワード2008の審査員特別賞を受賞した吉田光希である。

主婦という存在の不確かさ
舞台は、東京郊外の新興住宅地。橋本家の主婦・路子(南果歩)は、朝の勤行のように、今日も洗濯物を干し、夫・健一(田口トモロヲ)のワイシャツを用意し、テーブルクロスを入念に整える。そして、黙々と夕食をつくり、誰も食べる者がいない食卓に料理を並べる。完璧なまでに殺菌されたような、塵ひとつ落ちていない、掃除が行き届いたダイニングとリビング。
しかし、彼女がゴム手袋をして入念に食器を洗っているシーンで、見る者は否応なく、ある異変に気付く。路子の一見、放心とも諦念ともつかない、生気を欠いた表情には、必死になにかに耐えているような言いしれぬ不安感が微かに漂っていることを。

健一は、路子との会話を避けるように、無言で出社していくが、会社でも戦力外を通知され、社内でも行き場がない風情である。退社しても、すぐには帰宅せず、喫茶店で無為に時間をつぶす毎日だ。定職に就いていない息子の宏明(郭智博)は、時間が不規則なアルバイトに明け暮れ、朝帰りもしばしばである。
路子は、夫とも息子ともコミュニケーションがとれずに、次第に苛立ちを募らせていく。互いに孤立したままに、怒りをぶつけることも、本音で向き合うこともなく、上辺だけの平穏さを装っている橋本家は、気まずい沈黙だけが支配する、息が詰まるような密閉空間と化してしまっている。  
路子が、近所の主婦に勧められて購入したウォータークーラーをめぐって、息子が珍しく強くなじり、「この水って、ほっとくと腐るんだぜ」と言い放つ場面が印象的だ。それは、橋本家そのものが、いつのまにか内側から腐食し、朽ち果て、空洞化してしまっていることを暗示する台詞でもあるからだ。実際に映画の後半では、水が青緑に濁りきってしまっている不気味なウォータークーラーが映し出される。と同時に、キャメラは、もはや徐々に感情のコントロールがきかなくなってしまった路子を残酷にとらえていく。

路子は、やがて料理をしなくなる。冷蔵庫に入れておいた野菜を腐らせてしまい、コンビニ弁当を大量に買い込むといった奇行が目立ち始める。そしてある日、スーパーでの帰り路、路子の後ろ姿を延々と執拗にキャメラが追うシーンでは、あたかも彼女を言いしれない不安へと追いやる幻聴のように、近所の人びとの噂話の声や耳をつんざくような不協和音が画面に響き渡り、ホラー映画のような異様な効果を生み出している。郊外の新興住宅という地域社会特有の無機質な冷え冷えとした空間が、悪意をもって一挙に迫ってくるかのようだ。

描かれる希望の光の中で
ごく普通の平凡な主婦が説明のつかない深い孤独感を募らせ、愛を渇望して、次第に精神に変調をきたしていくという作品の嚆矢としては、ジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』がある。このカサヴェテスの名作では、ヒロインを演じたジーナ・ローランズを徹底して追い詰めていくことにより、お互いに愛し合っているにもかかわらず、コミュニケーションがとれない夫婦の危機的な様相をかつてないほどに生々しくリアルに描き出していた。ジャック・ドワイヨン、ジム・ジャームッシュなど、カサヴェテスのインディ・スピリットに深い影響を受けた映画作家たちは枚挙にいとまがない。
吉田光希監督もカサヴェテスと同様に、一切の説明的な台詞を排し、路子というヒロインの孤独の在りようを、あたかも定点観測するかのように、ドキュメンタルな眼差しで、執拗に凝視し続ける。ヒロインを演じた南果歩は、ひとりでいる場面が圧倒的に多いが、何気ない仕草、表情といった身体からに滲みだす、自然な存在感がひときわ印象的である。

そして、ついに、夕食をつくっているさなか、路子は、それまで、抑えつけていた激情が迸るように、料理を盛った皿を投げつけ、ダイニングをめちゃくちゃにして、家を飛び出す。車が疾走する道路を平気で渡り、夢遊病者のようにあてどなく彷徨する路子。
帰宅した健一も、ダイニングの様子から、妻の異変に気づき、急いで車を走らせる。宏明も自転車を駆る。ほとんど、それまで機械的なまでに緩慢に日常的な動作を反復するだけだった彼らが、妻であり母である路子の<不在>という事態に初めて真剣に向き合い、激しく動揺し、アクションを起こすのは感動的である。
それは、自らの存在理由も希薄になり、お互いを見失ってしまった者たちが、家族という最小単位のコミュニティを拠り所にすることがいかに切実なことであるかを、否応なく実感する瞬間でもある。
映画は、ラストシーンで、薄明の時間を映し出す。そこには、安易で楽観的な救済とはほど遠いが、しかし微かな希望や再出発のきらめくようなイメージがしっかりと刻印されている。

ストーリー





失われた家族を人はどう回復していくのか? 3.11以降の日本の家族の姿を予知させる、“家庭内行方不明者”を取り戻す旅が、いま始まる——。

主婦・路子(南果歩)が日々寸分の狂いもなく配膳する食卓は、寸分の狂いもないがゆえに家族の息吹がふきこまれることはない。夫・健一(田口トモロヲ)にとっての家は、帰る場所ではなく、終わりのない回廊が張り巡らされた辿り着けない場所だ。息子・宏明(郭智博)は自分がどこにもいないことを知っている。東京郊外の新興住宅地。橋本家もほかと同様、砂上の楼閣のように揺らめき、足場を失っている。姿はあるのに誰もいない椅子、いない部屋、いない家は、最初に路子がバランスを失ったことで傾き、大きな渦に呑み込まれていく…。

スタッフ

監督・脚本:吉田光希
プロデューサー:天野真弓
撮影:志田貴之
照明:斉藤 徹
録音:加藤大和
整音: 照井康政
美術:井上心平
装飾:渡辺大智
音楽: 世武裕子
編集:早野 亮 吉田光希
スクリプター:西岡容子
助監督:松倉大夏
制作担当:和氣俊之
監督助手:岡下慶仁 荒川慎吾
撮影助手:伊藤俊介 水本洋平 福島友子
照明助手: 藁部幸二 大石貴裕 桃塚健誠
録音助手:原川慎平 加藤康太
美術助手:野中謙一郎
小道具:河野夏美
衣裳:村島恵子
衣裳助手:三上由希子
メイク:大久保恵美子
スチール:三木匡宏
メイキング:岡 健太郎
監督助手応援:中村洋介 福嶋賢治
照明応援:飯塚英倫 長澤清隆 弓田悠大
録音応援:清水剛司
美術応援:大和昌樹

音楽協力:久保田広太 森田浩司
フルート:岩下しのぶ
ヴィオラ?:大森千津子
チェロ:薄井信介
コントラバス:小谷和秀
ドラム:森信行
音楽ミキサー:宮?洋一 
音響効果:小島 彩
スタジオエンジニア:大野 誠
磁気リレコ:杉山 篤
光学リレコ:宇田川 章 深野光洋
編集助手:渋谷陽一 西川貴史
ネガ編集:三条知生
タイトル:熊谷幸雄
フィルム:コダック
現像所:IMAGICA
タイミング:大見正晴 倉森 武
オプチカル:金子鉄男
キーコードテレシネ 大迫優一
HDテレシネ 児島正博
ラボコーディネーター:岡田浩二
ラボマネージャー:立川翔太

車輌:石井雅和 岸井日出一 丸山正剛
アシスタントプロデューサー:大村直之
制作主任:水川敦元 寺田 淳
制作進行:都留 朗 渡辺 桂
制作応援:五藤 遼 間方隆一 野中裕樹

PFFスカラシップメンバーズ: 渡辺敬介 古川一博
原口靖史 川東壮太
穀田正仁 伊藤和宏
藤田充彦 森本英利

キャスト

南 果歩(橋本路子 役)
田口トモロヲ(橋本健一 役)
郭 智博(橋本宏明 役)
筒井真理子(相田暁美 役)
村上 淳(運転手・野崎 役)
森下能幸(小林 役)
田村泰二郎(中年作業員・谷口 役)
大久保桂輔(相田亮介)
杉内 貴(社員・向井 役)
松澤仁晶(社員・沢田 役)
成田瑛其(若い社員・西本 役)
宮重キヨ子(高齢の女性)

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