原題:The Road

2009年/アメリカ/カラー/111分/ 配給:ブロードメディア

2010年12月03日よりDVDリリース 2010年6月26日、日比谷シャンテにてロードショー

公開初日 2010/06/26

配給会社名 0551

解説


世界の終わりは、ある日突然やってきた。いかなる天変地異や核戦争のような厄災に見舞われたのか、今となっては原因すら定かではない。人類が築き上げた文明は呆気なく壊滅し、作物は枯れ果て、生き物は死に絶えた。太陽は灰色の空の向こうに隠れ、凍てついた大地は断末魔の叫びのような地鳴りを繰り返している。

そんな大惨事を生き延び、南の地を目指して旅する一組の親子がいる。父親は少年をひたむきに守り、少年は父親をまっすぐに信じていた。極度の飢えと寒さに苦しみながらも、少しでも人間らしく生きようとするふたりは、人類最後の希望の灯を未来へと運ぶかのように、荒れ果てた世界をただ歩き続ける。はたして、その“道”はどこに繋がっているのだろうか……。

アカデミー賞4部門に輝くコーエン兄弟の『ノーカントリー』(07)に、原作小説「血と暴力の国」を提供した現代アメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシー。彼がそれに続いて2006年に発表し、全米ベストセラーとなったピューリッツァー賞受賞作が「ザ・ロード」である。その映像化不可能とさえ思われた壮大にして深遠な世界観の完全映画化を実現し、観る者の心を揺さぶってやまない奇跡的なロードムービーが誕生した。

文明崩壊後の終末世界を描いた映画は『渚にて』(59)『少年と犬』(75・未)『マッドマックス』(79)シリーズなどの往年の名作から、『アイ・アム・レジェンド』(07)『ウォーリー』(08)『ザ・ウォーカー』(10)といった近作まで数多く存在するが、『ザ・ロード』はこれらのSFやアクションのどれにも似ていない。主人公は何ひとつ特別な力を持たず、ぼろぼろに朽ち果てた大陸を旅する親子。灰色の絶望に染まったその極限世界は、わずかな生存者の理性を容赦なく奪ってきたが、父親と少年は決して人間性を失わず“善き者”であり続けようとする。

我が子を抱き締めることで愛情を伝え、身を危険にさらしてまで強さを示そうとする父親。その教えを胸に刻み、生命や希望の象徴というべき“火”を運ぼうとする少年。そんな父と子のかけがえのない絆と魂の軌跡を描き上げたこの映画は、コーマック・マッカーシーの作品としては異例の優しさや温もりが息づく原作小説のスピリットを鮮烈に伝え、身震いするほどの深い感動を呼び起こす。

また『ザ・ロード』はヴィジュアル面においても、しばし脳裏に焼きついて離れないインパクトで観る者を圧倒する。スクリーンに次々と出現するこの世のものとは思えない荒涼とした風景の数々は、スタッフが全米各地をハンティングして見出した実在のロケーション。それら残酷なまでにプリミティヴな風景は、テロや地球温暖化などの問題にさらされた現代人を不穏なサスペンスに巻き込みながらも、時に詩的な情緒を漂わせる。かくしてこの映画は、鋭い社会批評をはらむ寓話であり、荘厳な神話ともピュアなおとぎ話とも捉えうる豊かで奥深い作品となった。

ハリウッドの多くの業界人がマッカーシーの小説に魅了されながらも、さまざまなハードルの高さゆえに映画化に二の足を踏んだこの企画は、『ロード・オブ・ザ・リング』(01〜03)3部作や『イースタン・プロミス』(07)で名高いヴィゴ・モーテンセンの存在なくしては実現不可能だった。いかなる試練に直面しようとも、たったひとりの我が子を命懸けで守り抜く父親の揺るぎない包容力を体現。撮影中はあえて役作りのためにロケ地の過酷な自然環境に身を投げ出し、自らを追い込んでいったという渾身の演技は、ただならぬ迫力をみなぎらせている。

さらに驚嘆すべきは、もうひとりの主人公の少年に扮したコディ・スミット=マクフィーである。オーディションで抜擢された撮影当時11歳の小さな天才俳優は、全編に渡って寄り添い合ったモーテンセンに「これまでの映画を振り返っても、コディほど優れたパートナーはいない。彼は特別で、驚異的な俳優だ」と言わしめる名演技を披露。無垢な瞳と澄んだ心を持つ天使のような少年を、みずみずしく繊細に演じきった。

短い出演シーンで確かな印象を残す共演陣の顔ぶれも充実している。父親と少年が旅のさなかに一夜だけの交流を持つ老人役は、『ゴッドファーザー』(72)『クレイジー・ハート』(09)やアカデミー賞主演男優賞を受賞した『テンダー・マーシー』(82・未)などで知られる名優ロバート・デュヴァル。『L.A.コンフィデンシャル』(97)『メメント』(00)の実力派俳優ガイ・ピアースが、『ハート・ロッカー』(08)に続いてあっと驚く役どころで登場するのも見逃せない。随所に挿入される父親の回想シーンのパートには、痛切な運命をたどる妻役で美しきオスカー女優シャーリーズ・セロンがお目見えする。

そして本作の映画化権を獲得したプロデューサーのニック・ウェクスラーが、自信を持ってメガホンを託したのはオーストラリア出身のジョン・ヒルコート監督。日本未公開ながら、2005年のバイオレンス・ウエスタン『プロポジション 血の誓約』(05・未)で世界的に絶賛された注目の気鋭が、簡潔にして風格すら感じさせる演出力を発揮し、雄大なスケール感あふれる映像世界を創造した。

ストーリー



その父親と少年はただ黙々と歩き、南を目指して旅をしていた。空は日に日に濃くなる灰色に覆われ、あらゆるものが朽ち果てた地上には生き物がまったく見あたらない。夜は恐ろしいほどの暗黒の闇に支配され、時折凄まじい地鳴りが沸き起こる。ふたりが南に向かっているのは、極度の寒冷化のせいでこのままでは冬を越せそうもないからだ。ショッピングカートを引きながら荒廃した風景の中をとぼとぼと進む彼らの全財産は、防水シート、ポリ袋、毛布、双眼鏡、そして拳銃だった。文明が崩壊して10年以上経ったこの世界では、わずかな生存者の誰もが燃料と食料を探し求めている。しかし道すがら民家を探索しても、食べ物は滅多に見つからない。

そんなある日、道ばたの車中で寝ていた父親は何かが迫りくる気配を感じとり、少年とともに林の中に身を隠す。トラックに乗ったならず者の武装グループだった。林に入ってきた若い男に見つかってしまった父親は、拳銃で相手を威嚇する。若い男は一瞬の隙を突いて少年の首もとにナイフを突きつけるが、父親が放った銃弾を浴びて即死。父親は返り血を浴びて放心状態の少年を抱きかかえて走り、一味の執拗な追跡を振りきった。飢えを凌ぐために蛮行を繰り返すならず者たちは、この世で最もおぞましい人食い集団なのだ。

「あの男は“善き者”ではなかった。悪者には気をつけないといけない。俺たちは“火”を運んでいるのだから」
「“火”って何のこと?」
「心に宿る“火”だよ」
「僕たちはこれからもずっと善き者?」
「ああ、ずっとそうだ」

餓死するか、自殺するか、または道徳と理性を失ったならず者たちの餌食になるか。この非情な世界を生き抜くために、父親は少年にありとあらゆる大切なことを伝えようとしていた。父親にとって、少年はすべての心のよりどころだった。

父親は眠りに落ちるたびに、少年の母親がまだ生きていた在りし日の夢を見る。かつて彼らは、何が起こったのかもわからぬまま世界の終焉の日を迎えた。重い心の病を患っていた彼女は、自宅で少年を産んだのち、しばらくして暗闇の彼方に消え、自ら命を絶ったのだ。夢から覚め、はかない思い出に涙があふれた父親は、過去と決別するために彼女の写真と結婚指輪を捨てるのだった。

あまりの寒さと飢餓感に挫けてしまいそうな旅の中にも、ほっと心のなごむ瞬間があった。スーパーマーケットで見つけた缶コーラを飲んだ少年は、生まれて初めて口にした炭酸の泡を不思議がりながら「おいしい」と言った。滝で水浴びをしたときは、初めて見た虹をきれいだと思った。ならず者集団の“貯蔵庫”がある家に忍び込んだときには命が縮む思いを味わったが、少年は健気に父親の教えを反復した。
「僕らはどんなにお腹が空いても人を食べないよね? 僕たちは善き者だから。“火”を運んでいるから」
「そうだよ」

ふたりはとある民家の庭で、地下シェルターの入り口を発見した。そのちっぽけな空間には、ふたりでは食べきれないほどの豆やフルーツの缶詰、お菓子、飲み物が蓄えられていた。少年は「これ、全部もらっていいの? お礼を言わなくちゃ」と言って、どこの誰かもわからない贈り主に感謝の祈りを捧げた。ふたりは体を洗い、髪の毛を切り、ろうそくの灯りのもとでの豪華なディナーで思う存分、空腹を満たした。

しかし幸せな時間は長く続かなかった。シェルターの外でうろつく何者かの気配を察知した父親は、嫌がる少年をなだめ、持てる限りの食料をカートに積んで再び旅に出る。

ふたりは杖をついて歩いている弱々しい老人に出くわした。「食べ物を分けてあげようよ」と言う少年に根負けした父親は、しぶしぶ老人を夕食に誘う。イーライと名乗るその老人は目が悪かったが、少年を見て天使が現れたのかと思った。その一方で「悪者には気をつけろ」と教えられていた少年は、なぜ父親がきっと善い者に違いない老人に冷たい態度をとるのか理解できなかった。

なおも歩き続けるふたりは丘を越え、ついに浜辺にたどり着く。海は青いものだと思っていた少年は、見渡す限り寒々とした灰色の光景にがっかりした。そして夜になると、ひどい熱を出して嘔吐した。
「聞いていい? 僕が死んだらどうする?」
「お前が死んだら…、パパも死ぬだろうな」
「一緒にいられるように?」
「そう。一緒にいられるように」

父と子は世界の終わりを旅する。人類最後の火を掲げ、絶望の道をひたすら南へ—。

スタッフ

監督:ジョン・ヒルコート
製作:ニック・ウェクスラー、ポーラ・メイ・シュワルツ
製作総指揮:トッド・ワグナー、マーク・キューバン、マーク・バタン、ラッド・シモンズ
原作:コーマック・マッカーシー
『ザ・ロード』(早川書房刊)
脚本:ジョー・ペンホール
撮影:ハビエル・アギーレサロベ
プロダクションデザイン:クリス・ケネディ
衣装デザイン:マーゴット・ウィルソン
編集:ジョン・グレゴリー
音楽:ニック・ケイヴ、ウォーレン・エリス

キャスト

ヴィゴ・モーテンセン
コディ・スミット=マクフィー
ロバート・デュヴァル
ガイ・ピアース
シャーリーズ・セロン
モリー・パーカー
ギャレット・ディラハント

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