原題:Cassandra’s Dream

2007/イギリス/108分/ビスタサイズ/ドルビーSR/字幕翻訳:古田由紀子 提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム

2010年09月03日よりDVDリリース 2010年3月20日より恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー

(c)2007 WOLVERINE PRODUCTIONS LIMITED.

公開初日 2010/03/20

配給会社名 0012

解説


天才ウディ・アレンの魔法のような話術に魅了される
人生の愛と夢、そして罪と罰をめぐる極上の人間ドラマ

 幾多の名作を世に送り出したニューヨークを離れ、2005年から映画作りの拠点をヨーロッパに移したウディ・アレン。若い女性たちの恋愛心理をユーモアたっぷりに綴った『それでも恋するバルセロナ』も記憶に新しい彼が、『マッチポイント』『タロットカード殺人事件』に続くロンドン3部作の締め括りとして撮り上げたのが、この『カサンドラ・ドリーム』である。
 野望や冒険心を胸に秘めた男女が華麗なる上級階級の世界に足を踏み入れていった前2作とは異なり、今回の舞台は労働階級の人々が暮らすロンドン南部の街。新天地である異国の文化、風俗、風景を好奇心いっぱいに探検しながら、ニューヨーク時代から変わらぬ人生哲学を下敷きにした軽妙なドラマを紡ぐアレン節はますます快調に冴え渡る。齢70を超えても年に1本のハイペースで新作を発表している天才監督の若々しさと懐の深さに、今さらながら驚嘆せずにいられない。
 ホテルへの投資を足がかりにしてきらびやかなビジネスの世界に進出したいと願うイアンと、酒とギャンブルと恋人と過ごす日々にそれなりの充足感を得ているテリー。そんな兄弟が“カサンドラズ・ドリーム号”と名付けた小型クルーザーを購入したことから、彼らの人生がドラマチックにうねり出す。イアンは若く美しい舞台女優アンジェラに心奪われ、彼女との優雅な新生活を実現させようと焦りを募らせていく。一方、テリーは出来心でのめり込んだポーカー勝負で惨敗し、巨額の借金を背負うはめに。その苦境を救ってくれるはずの大金持ちの伯父ハワードから“ある頼みごと”を持ちかけられた兄弟は、とてつもない代償を伴う人生の賭けに身を投じていく……。
 「人生において確実なのは“死ぬこと”だけだ」。この劇中セリフが象徴するように、根っからの悲観主義者として知られるアレン監督は、一寸先は闇の人生の不条理を繰り返し掘り下げ、目には見えない運命や偶然に翻弄される登場人物の行く末を描いてきた。そうしたモチーフをお好み次第でコメディ、ミステリー、ロマンス、心理ドラマなどに仕立ててきたアレンが、今回は究極の“悲劇”に挑戦。ギリシャ神話やドストエフスキーに代表されるロシア文学の影響を色濃く滲ませながら、危ういモラルの一線を踏み外して破滅への坂道を転がり落ちる兄弟の姿を映し出す。
 とはいえ観客は、苦行のような重苦しさに耐える必要など一切ない。見栄を張ってよりよい人生の夢を追い求める主人公はごく普通の人々であり、彼らが一瞬の幸福に酔いしれ、罪と良心の呵責にもがく様には誰もがシンパシーを覚えるはず。人間という生き物の切なさやおかしさを、丸ごとあぶり出す鋭い観察眼とユーモア。そして登場人物がところどころで出くわす“運命の分かれ目”に観る者を立ち会わせ、さりげなく手に汗握らせるサスペンスの妙。さすがはアカデミー賞の脚本賞ノミネート歴が実に14回を数える話術の達人、アレンの魔法の威力に脱帽の一作と言えよう。

悲劇の兄弟に扮したユアン・マクレガー&コリン・ファレル
二大スターの役者魂みなぎる迫真の演技に酔う

 「私の映画作りで重要なのはふたつのこと、つまり脚本と俳優です」。そう語るアレンの作品には名だたる大物俳優がこぞって出演を熱望しているが、今回その夢を叶えたのはユアン・マクレガーとコリン・ファレルである。スコットランド出身のマクレガーは、言わずと知れた『スター・ウォーズ エピソード1〜3』『天使と悪魔』などのハリウッド超大作で活躍しつつ、インディペンデント映画でも持ち前のナイーブな存在感を発揮しているトップスター。一方、アイルランドから国際舞台に躍り出たファレルも、巨匠たちと組んだ『アレキサンダー』『ニュー・ワールド』『マイアミ・バイス』で堂々と主役を務め、ワイルドかつセクシーな魅力を放ってきた。そんな互角のネームバリューと異なる個性を持つ二大俳優に、対照的な性格の兄弟役をあてがうという意表を突いたキャスティング! 人気スターとしてのセルフ・イメージを潔くなげうって役者魂を絞り出したマクレガー&ファレルの驚くべきケミストリーから、ひとときも目が離せない。
 アレン作品の音楽というとジャズのスタンダードが定番だが、今回はストーリーの悲劇性に沿ったオリジナル・スコアを現代音楽の巨人、フィリップ・グラスに依頼。主人公たちに忍び寄る不吉な運命を予感させる旋律を創造し、映画に荘厳なムードを吹き込んでいる。また『未知との遭遇』『ディア・ハンター』といった数々の名作を手がけてきた撮影監督ヴィルモス・グジモンドは、『メリンダとメリンダ』以来2度目のアレンとのコラボレーションとなる。助演俳優では『フル・モンティ』『フィクサー』のトム・ウィルキンソンが要注目。善人も悪人もこなすイギリスきっての実力派が伯父ハワードに扮し、物語のターニングポイントとなる中盤で衝撃の豹変演技を披露する。女優の発掘眼にも定評あるアレンに抜擢され、気まぐれなヒロインをいきいきと演じたヘイリー・アトウェルは、これが映画デビュー作となる期待の新星である。
 ちなみに題名の“カサンドラ”とはギリシャ神話に登場する、予言能力を持つ王女のこと。神話の中で悲劇的な運命をたどった彼女の名前をあしらった船が、映画の冒頭とラスト・シーンを彩るという皮肉な構成が、兄弟の“夢”のはかなさを観る者にくっきりと印象づける。

ストーリー


 ロンドン南部に暮らすブレイン家の長男イアン(ユアン・マクレガー)は、父親が営むレストランで働きながら、バラ色の未来を思い描いていた。カリフォルニアのホテル事業に投資し、そのリターンを元手にビジネスマンとして新たな人生を踏み出す。それが労働階級の日常に満足できないイアンの夢だった。
 イアンほど切れ者ではない弟テリー(コリン・ファレル)の夢は、もっとささやかで現実的なものだった。自動車修理工場に務める彼は、酒とギャンブルをこよなく愛し、さしたる不満もない気楽な日々を送っている。いずれ優しい恋人ケイト(サリー・ホーキンス)との庭付きマイホームさえ手に入れられれば、何もほかに望むものはなかった。
 内に秘めた夢も性格も対照的なのに、持ちつ持たれつの良好な関係を保っているイアンとテリーは、格安の6000ポンドで売りに出されていた小型クルーザーをローンで共同購入する。テリーがドッグレースで大穴を当てた犬の名にちなんで“カサンドラ・ドリーム”と名付けたその船は、前の所有者が死亡した処分品だったが、兄弟はそんな不吉なことに気も留めず、快適な初航海を満喫するのだった。
 まもなく“カサンドラ・ドリーム”が幸運をもたらしてくれたかのように、イアンは運命的な出会いを経験する。郊外の田園地帯をドライブした帰りに、車の故障で立ち往生しているアンジェラ(ヘイリー・アトウェル)という若い女優を助け、そのお礼として彼女が出演中の舞台に招待されたのだ。アンジェラは上昇志向が強く、つねに周りには男の影がちらついていたが、聡明で美しい彼女はひたすら眩しい存在だった。やがてテリーの修理工場から借りた高級車でリッチな雰囲気を演出し、港町ブライトンに繰り出したイアンは、モデルの仕事を終えたアンジェラとホテルで結ばれ、自らの人生がぐんぐん輝き始めたことを実感する。
 ところが思わぬ落とし穴が待っていた。テリーがマイホームの資金ほしさに危険なポーカー勝負に手を出し、ヤミ金相手に9万ポンドもの借金をこしらえてしまったのだ。テリーに泣きつかれたイアンはレストランの金庫からこっそり親父の金を持ち出すが、それも焼け石に水。でかいセリフを吐くくせに根が小心者のテリーは、頭を抱えて縮こまるばかりだ。
 そのとき奇跡のように救世主がロンドンに舞い降りた。カリフォルニアや中国で美容関係の事業を行っている伯父のハワード(トム・ウィルキンソン)が、家族と会うためにやってきたのだ。一族きっての成功者であるハワードならば、きっとテリーの借金もイアンのホテル投資話の軍資金もやすやすと肩代わりしてくれる。ところがハワードは「実は君たちに相談がある」と意外な交換条件を切り出し、すっかり大船に乗った気分の兄弟に冷や水を浴びせた。
「マーティン・バーンズという男を処分するんだ」
 ハワードの説明によると、近いうちに彼の財団に税務調査が入り、元同僚バーンズの証言によって取り返しのつかない違法行為が明るみに出そうなのだという。もし、それが現実になればハワードの監獄行きは免れられない。つまりハワードが言う“処分”とは、口封じのための“殺人”を意味していた。まるで極悪人のごとき目つきに変わったハワードの剣幕に圧倒された兄弟は、雷に打たれたようなショックを受ける。
 その日、眠れぬ夜を過ごしたイアンは、ハワードからの理不尽な提案を受け入れる決意を固める。臆病なテリーは極度にうろたえて拒絶するが、アンジェラとカリフォルニアに移住してゴージャスな新生活を送るという夢に執着するイアンは、強引な理屈をつけて弟を説き伏せるのだった。
 ホテルのレストランで標的であるバーンズの顔を確認した兄弟は、手製のピストルを胸元に忍ばせ、いよいよ殺人を実行しようとする。はたして計画は成し遂げられるのか。そしてイアンとテリーは人生の輝きを取り戻せるのか。運命の女神のみぞ知る彼らの行く手には、予想だにしなかった結末が待ち受けていた……。

スタッフ

監督:ウディ・アレン
製作:レッティ・アロンソン、スティーヴン・テネンバウム、ギャレス・ワイリー
製作総指揮:ヴァンサン・マルヴァル
脚本:ウディ・アレン
撮影:ヴィルモス・ジグモンド
プロダクションデザイン:マリア・ジャーコヴィク
衣装デザイン:ジル・テイラー
編集:アリサ・レプセルター
音楽:フィリップ・グラス

キャスト

ユアン・マクレガー:イアン
コリン・ファレル:テリー
ヘイリー・アトウェル:アンジェラ
サリー・ホーキンス:ケイト
トム・ウィルキンソン:ハワード
フィル・デイヴィス:ナーティン・バーン
ジョン・ベンフィールド:イアンとテリーの父親
クレア・ヒギンズ:イアンとテリーの母親

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