春との旅
原作・脚本・監督:小林政広 ——8年越し執念の企画 主演:仲代達矢 ——9年ぶり渾身の主演 遂に実現!
第15回釜山国際映画祭正式出品
2010年/日本/カラー/カラー/35mm/ビスタサイズ/DTSステレオ/134分 配給:ティ・ジョイ/アスミック・エースエンタテインメント
2011年01月21日よりDVDリリース 2010年5月22日(土)より新宿バルト9、丸の内TOEI2ほか全国ロードショー
(c)2010『春との旅』フィルムパートナーズ/ラテルナ/モンキータウンプロダクション
公開初日 2010/05/22
配給会社名 0534/0007
解説
日本の家族を見つめて、生きることの素晴らしさを探る人間賛歌。
人は人に寄り添って生きて行く。良いときも悪いときも——。
春四月とは言え、まだ寒さ厳しい北海道から東北・宮城へ。七十四歳の老漁師と十九歳の孫娘が、親類縁者たちを巡る旅に出た。二人の旅の目的は——。そしてその行く先々に何が待ち受けているのか。
旅の始まりは、かつてニシン漁に沸き、今ではその面影すら留めない北海道・増毛の寂れた海辺。そこのあばら家で祖父・忠男と孫娘・春は、つましい生活を続けていたが、時の流れとともに二人の暮らしは行き詰ることになる。
春は、地元の小学校の給食係をしていたが、廃校となって失職。東京に働きに出ようと考えるが、足の不自由な忠男を見捨てることはできない。ふと春の口を突いて出た一言がきっかけとなり、二人は、忠男の老いた身の受け入れ先を求めて、長年疎遠になっていた忠男の姉兄弟たちを訪ねる旅に出ることに。
行く先々で二人を待ち受ける現実には、現代社会の諸問題の余波が及ぶ苦しいものがあった。それぞれの、ごく普通の家庭の事情と、北海の漁師として一途に生きてきた忠男への肉親たちの愛憎と葛藤。心と心の隔たりと通い合い、互いの勝手と情とのあいだで、思いがけない激しい感情が交錯しぶつかり合う。そうした祖父と肉親たちの再会を目の当たりにした春は、これまで長く離別していた父親に会いたい思いに駆られる。春と父親・真一との再会。これまで健気に祖父の世話をし、父母の愛憎、離別による悲苦に耐えて来た春の大きな心の変化と、その後の決心に至るドラマは劇的で、深く力強い魂のクライマックスは胸に響く。生きる道を探し求める老人と孫娘の姿は、愛おしく美しい。
本作は、カンヌ、ロカルノ等、数々の国際映画祭への出品・受賞に輝き、世界で注目される小林政広の最新作。その原作・脚本・監督による家族ドラマである。一九九六年に初監督作品『CLOSING TIME』を世に送った小林政広監督が、その先鋭的かつ実験的な作品群『海賊版=BOOTLEG FILM』『殺し』『歩く、人』『バッシング』『愛の予感』『ワカラナイ』から一転。今回、極めてオーソドックスな脚本作りを試み、名匠・小津安二郎監督作品『東京物語』を彷彿とさせるような家族のドラマに、全国一斉ロードショー作品として、並々ならぬ意欲で挑戦している。脚本を起してより、一〇〇度の改訂を重ね、実に八年越しの映画化が成った。
昨年(二〇〇九)四月六日にクランクイン。撮影は、物語の進行に沿って【順撮り】で行われ、スタッフ、キャスト、協力各地が一丸となって展開。オールロケーションの映像効果を限りなく発揮し、昨年十二月に完成を見た。全篇を通じて、誰しもに訪れる人生の転機を捉え、「人間とは、生きるとは」という永遠不滅のテーマを追求。そこから導き出される、厳しくも愛情とペーソスに溢れた人間ドラマは、時に生きることに戸惑い、時に生きることの素晴らしさに出会う、今を生きる全ての人へ希望を贈る人生賛歌となるに違いない。
キャストは、祖父・忠男に、名優・仲代達矢。六十年近い俳優人生の中で「約一五〇本の出演作中、五本の指に入る脚本」と明言して渾身の演技で九年ぶりの主演に挑んだ。北海の漁師として荒削りに生きてきた老人の圧倒的な存在感を魅せつける。孫娘・春には、『フラガール』」(二〇〇六年)での演技を認められ、小林監督に大抜擢された注目の若手演技派女優・徳永えり。この主演二人を囲むその他俳優陣も充実。忠男の兄・重男に大滝秀治、その妻・恵子に菅井きん。末弟・行男の内縁妻・愛子に田中裕子。愛子の隣人・木下に小林薫。忠男の姉・茂子に淡島千景。弟・道男に柄本明、その妻・明子に美保純。春の父・真一に香川照之、その後妻・伸子に戸田菜穂がそれぞれ適役好演。日本映画を代表する俳優陣による理想的な豪華競演が実現した。
そして全篇を清冽繊細、しかも雄大にして優しさに満ちたテーマ曲で満たすのは、故高田渡と共に数々の優れた音楽シーンを残している佐久間順平。胸に沁みる傑出した映画音楽がドラマを盛り上げている。
ストーリー
北海道から東北・宮城へ——
疎遠にしていた家族を巡る旅のゆくえ。
北海道の四月は、まだ寒い。七十歳を疾うに超えた老漁師・忠男は、孫娘の春と共に寂れた海辺に建つ粗末な家を出た。左足が不自由にも関わらず荒々しく先を急ぐ忠男。リュックを背に後を追う春。増毛駅からローカル線に乗って、そこから東北・宮城へ——。
これまでは祖父と孫娘の二人暮らし。忠男の娘、つまり春の母親が、五年前に自死して以来、春が一人で忠男の世話をしてきたのだった。だが、勤めていた小学校が廃校になり、春は給食係の職を失った。春が東京に出て職を探すと言い出したので、疎遠になった忠男の兄弟たちを巡っての居候先探しの旅が始まったのだ。妻に先立たれて長い忠男の目的は、老いた独り身の居候先だった。
二人が最初に訪ねたのは、忠男の兄、高齢に至った重男夫婦の屋敷だった。兄弟の中でも最も反りの合わない重男に、まず当たってみた。返事はノー。なぜなら重男は老妻・恵子と共に、順番待ちしていた老人ホームに入居が決まったばかりだったからだ。忠男と春はすごすごと長男家を辞した。
旅先の民宿で忠男は酒を飲んだ。二十年ぶりの酒の味。その昔、忠男は羽振りのいい豪気な漁師だった。いつまでも「ニシン漁よ、再び」と夢を見ているうちに、今では体を壊し、無一文の身になっていたのだ。
二人は、忠男の父親の墓参りを済ませた後、弟・行男のアパートを探したが、その姿はなかった。ところが昼食を取りに入った定食屋で、店の女主人・愛子が行男の内縁の妻であることを知った。聞けば行男は、他人の罪を被って長く服役中の身だという。忠男が一番気の合う律儀な弟は、もはや娑婆に住む人間ではなくなっていた。「あの人は刑務所の中でしか生きられないのよ」愛子の言葉が忠男の耳に残った。
二人はやがて、忠男の姉・茂子のいる鳴子を訪れていた。昔からしっかり者の姉は、鳴子温泉街で旅館を切回していた。忠男はこの姉だけには頭が上がらなかった。「働かざる者食うべからず」の言葉で忠男を諭す茂子は、代わりに春の手を借りたいと申し出た。やがては春を後継者にしたいとまで思った茂子だったが、春はその申し出を断った。忠男を一人にするには忍びなかった。二人はこうして茂子の許を辞した。「もう会えないかも知れねえけどな」弟の言葉に、見送る茂子の目に涙が光った。
忠男と春の姿は、仙台駅前にあった。二人は、この地に養子に出て不動産業を営んでいる筈の弟・道男の会社を探したが、そのアドレスは空き地になっていた。探しあぐねて疲れ切った忠男の我侭に、さすがの春も怒った。
二人は、ようやく弟夫婦の住むマンションに辿り着いた。道男は、不況の煽りを食ってか、明らかに経営に失敗していた。今まで勝手放題、尊大に生きてきた忠男に反感を抱いてきた道男は、「今更何だ!」と、バカヤロウ呼ばわり。忠男と道男は、忽ち取っ組み合いの兄弟喧嘩になった。
その夜、道男が取ってくれたホテルのスウィートルームに、祖父と孫娘は、居た。「駄目だったな、全部、駄目だった」と、呟く忠男。すると春が急に父親に会いたいと洩らした。仲違いこそあれ、忠男と肉親たちの絆に、春は反応していたのだ。兄弟のいる忠男が羨ましいと。翌朝、二人はフェリーに乗り、苫小牧の港に着いた。
春の父、真一は、後妻の伸子と共に、静内の地で牧場を経営していた。伸子は、春が驚くほど亡き母に似ていた。忠男は、真一と春を父娘二人きりにして外へ出た。伸子はそんな忠男にこう問いかけた。「よかったら、お父さん、一緒に暮らしませんか」と。居間では真一の前で、春が堰を切ったように泣いていた。これまで健気に耐えていた悲苦が涙と共に溢れ出し、春の心を大きく変えていた。やがて忠男と春は、そっと真一夫婦の牧場を後にした……。
帰途、二人が立寄った蕎麦屋は、他に客の姿もなく、うら寂しい店だった。以前、忠男は、一人娘、春の母親とここに来たことがあった。春を身籠った娘と共に、この地まで真一の実家を訪ねたことがあったのだ。
——そこで春は、ある決心を忠男に告げた。忠男の老いの目に涙が溢れた。二人の姿は増毛へ向かうローカル電車の中にあった……。
スタッフ
原作・脚本・監督:小林政広
エグゼクティブプロデューサー:奥田尚志
プロデューサー:紀伊宗之/小林直子
アソシエイトプロデューサー:脇田さくら/小林政広
制作担当:川瀬準也
アシスタントプロデューサー:萩原直人
撮影監督:高間賢治(J.S.C.)
照明:上保正道
美術:山崎輝
録音:福田伸
編集:金子尚樹
助監督:石田和彦
音響効果:瀬谷満
装飾:鈴木隆之
衣裳:宮本まさ江
ヘアメイク:小沼みどり
制作主任:棚瀬雅俊
タイトルデザイン:山田英二
小道具:細谷恵子
音楽:佐久間順平
企画:モンキータウンプロダクション
製作:『春との旅』フィルムパートナーズ
制作:ラテルナ/モンキータウンプロダクション
配給:ティ・ジョイ/アスミック・エースエンタテインメント
キャスト
忠男:仲代達矢
春:徳永えり
重男(忠男の兄):大滝秀治
恵子(重男の妻):菅井きん
木下(愛子の隣人):小林薫
愛子(忠男の弟の内縁の妻):田中裕子
茂子(忠男の姉):淡島千景
道男(忠男の弟):柄本明
明子(道男の妻):美保純
伸子(真一の後妻):戸田菜穂
真一(春の父親):香川照之
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