原題:Yellow Kid

並みの新人監督は道をあけろ! 映画を撮ることに対する彼の気負いに、君は感動しながら打ちのめされる─

2009年バンクーバー国際映画祭招待作品

2009年/日本/106分/HD/1:1,85/ステレオ 提供:東京芸術大学大学院映像研究科 配給:ユーロスペース

2010年1月30日より渋谷・ユーロスペースにてロードショー 2009年6月27日(土)〜7月3日(金)渋谷・ユーロスペース(レイトショー)にて上映

公開初日 2009/06/27

公開終了日 2009/07/03

配給会社名 0842

解説


「New Director/New Cinema 2010」に選出されて全国公開へ!
そして、バンクーバー映画祭2009で Tiger & Dragon Award入選!

監督・真利子哲也の劇場長編デビュー作となる本作は、わずか200万円の制作費と2週間の撮影期間で作られた東京藝術大学大学院の修了制作作品。メイン・スタッフも平均年齢26歳の同大学生である。
『イエローキッド』は映画館大賞を毎年実施している独立系映画館主のネットワーク、「シネマ・シンジケート」によって、最も将来性を期待される新人監督作品「New Director/New Cinema 2010」に選ばれ、全国主要都市の独立館を中心に、順次公開されていきます。

ボクサー志望の青年と、隠れファンを持つ漫画家の二焦点活劇!
漫画とボクシングという一見すると両極端に位置するものを並列に描き切り、現実と虚構とを縦横無尽に駆け回る真利子哲也の演出は、パワフルかつ正確で、まだ28歳の若さで、本作が長編映画デビューというのが信じられないほどに、成熟した印象を与える。 
ボクサー志望の青年田村と、隠れファンを持つ漫画家服部という二人の登場人物を軸に物語は展開し、その有無を言わさぬ説得力と冷徹な人間観察は、渇望感溢れる日本映画界に一石を投じるに違いない。
 彼の映画を撮ることに対する気負いは、商業映画としての観客への意識と、映画作家としての表現の間を目指した結果であり、今最も注目すべき若手映画監督の一人と断言して間違いはない。

交錯する現実と虚構
 フィクションですら、現実のものとして認識してしまう若者たち。あるいはフィクションの中に自分を置き、周囲が見えなくなってしまう人間たち。そんな人間たちの姿は、いま、どこにでも存在している。何が現実で、何が虚構なのか。どれが本当で、何が嘘なのか? これらのことの境目は、今、とても曖昧になってきている。
それだけに、何が真実なのかを見極める冷静さが今まで以上に求められ、自分の頭で考えることの必要性を深く描こうとした作品が、この『イエローキッド』である。

リアリティ溢れる演出と、精緻なカメラワーク
何より先ず、真利子哲也の演出力に注目である。感情のオンからオフへの切り替え、静から動へと切り替わる瞬間など、俳優陣の巧みな演技力と相まって、作品に独特の緊張感を与えています。この緊張感は観る者の心を掴んで離しません。
 また、今の時代ならではの、殺伐とした空気感を漂わす世界観を描きながらも、決して観客を突き放すことのない、どこかおかしみのある表現、観客の琴線に触れるようなプロットも見過ごせない。
 フェイク・ドキュメンタリーを得意としてきた真利子哲也の演出は、とても生々しく、説得力を保って観る者に迫り来る。ボクシングシーンでは、匂いや質感が伝わるほどの臨場感溢れる演出を披露し、服部とその元恋人麻奈との痴話喧嘩のシーンでは、人間のいやらしさをこれでもかとばかりに切り取っていく。それらを支えているのは、巧みなカメラワーク。とりわけ主人公の青年田村が、発作的に商店街でひったくりを行うシーンでは、ワンカットの撮影ながら、ひとりの人間ががらりと別人に豹変する様と、映画の質感が切り替わる瞬間を見事に捉えている。
 さらに漫画を映画の中に組み込む編集の妙、漫画自体のクオリティーには特筆すべきものがあり、またカラフルな音楽のフレイヴァーと相まって、映画に独特の彩りを与えている。

漫画「イエローキッド」は100年前の“アメコミ”
劇中、服部の描く漫画の元ネタになったのは、ずばりその名も「イエローキッド」。このキャラクターは今から100年ほど前に、リチャード・フェルトン・アウトコ−ルという人物が生み出したもので、当初はカラー印刷時の黄色の発色を試す存在であった。
しかし、このキャラクターが当時イエロー・ジャーナリズムと呼ばれた新聞に連載漫画として掲載されてから爆発的な人気を勝ち得、人気キャラクターとして市民権を得た、という経緯がある。
服部のように、既存のキャラクターを使って、新たなストーリーを創造するというのは、いわゆるアメコミには従来からある方式で、同じことをこの日本でやってみる、というのが今回の企画の主軸のひとつでもある。
          
多彩なキャスト・スタッフたち、そして音楽
 ボクサー志望の青年田村役には、今回が映画初主演で、『クローズZERO』で800人が参加したオーディションに勝ち抜き、デビューを飾った遠藤要。漫画家服部役には、岸田國士戯曲賞受賞作家である三浦大輔率いる人気劇団、ポツドールの舞台に数多く出演し、演劇・映像の両方で活躍を続ける岩瀬亮。元ボクシングチャンピオン三国役には、『クローズZERO』『ドロップ』など、数多くの話題の日本映画に出演する、名バイプレーヤー波岡一喜。服部の元恋人麻奈役には、劇団毛皮族の看板女優であり、主演映画『美代子阿佐ヶ谷気分』での記憶も新しい、町田マリー。他にも今回が本格的な映画初出演ながらも、榎本役で強烈な印象を残した玉井英棋、ボクシングジム会長役として、安定感溢れる演技で、作品の脇を固めたでんでんなど、多くの実力派の俳優陣が出演している。
 音楽を担当したのは、すでにバンド、チャンチキトルネエドの一員として、国内外を問わずに幅広く活躍している鈴木広志と大口俊輔。漫画制作を担当したのは、大脇勇亮と川崎秀和。

ストーリー

─ボクサー志望の青年と、隠れファンをもつマンガ家の“二重焦点活劇”─

舞台は現代の日本。東京の片隅に住まうボクサー志望の青年田村は、痴呆を患った祖母澄代の面倒をひとりで見ながら暮らしている。バイトもクビになり、夢も希望も金もない、最低な毎日の中で彼は生きている。唯一ボクシングだけが心の拠り所だったが、そこでもタチの悪い先輩榎本にそそのかされ、当たり屋をやって金を稼ぐなどしている。
そんなある日のこと、田村の通うボクシングジムへ、新進気鋭の漫画家服部が現れた。服部は「イエローキッド」という新作漫画のキャラクターモデルにと、高校時代の同級生である元アマチュアボクシング世界チャンピオンの三国を取材するためにジムへと訪れたのだった。榎本は田村をそそのかして、服部の財布を盗ませようとする。結局田村が財布ではなく、漫画原稿を盗んでしまったことで榎本の目論見は失敗に終わるが、田村は榎本によってひどく痛めつけられてしまう。ジムの会長が間に入ったことで、大事には至らなかったものの、この一件が原因で、田村は榎本に「貸し」を作ってしまうのだった。
その後原稿を盗んだことを服部に謝罪する田村。しかし、服部は盗みを働いたことよりも、田村のことが気にかかる。田村はかねてから服部の作品である「イエローキッド」シリーズのファンだと言うのだ。かくして両者は急接近し、服部は田村を主役「イエローキッド」のキャラクターモデルにすることを決める。
一方で服部は、取材の過程で三国がかつての自分の恋人である麻奈と同棲し、三国の子供を麻奈が妊娠していることを知る。ふつふつと三国に対する憎悪と嫉妬の念をたぎらせていく服部。彼は三国をモデルにしたキャラクターを当初の設定であるヒーローから悪役「ブラッディ・サン」へと変えて描いていくのであった。
「ブラッディ・サン」が麻奈をモデルにしたヒロイン、マリを誘拐し、「イエローキッド」と対峙することになる、というストーリーを書く服部。一方の田村は、自宅に訪れた榎本に、祖母澄代の年金を奪われてしまう。榎本を追い、街に出る田村だったが、榎本の姿はどこにもない。すると田村は突発的に通行人の財布を奪うのだった。その後、当たり屋の現場に赴き、榎本一味がタクシー運転手から奪った金を横取りする田村。田村は行き場のない怒りをぶつけるがごとく、ビルの屋上から奪った札を叫び声とともにばら撒く。
そんなとき、服部は屋上から札をばら撒いた者がいたという新聞記事を、行方のわからない田村のことを尋ねに訪れたジムの会長室で目にする。それは自分の描いた原稿の内容とまったく同じものだった。漫画のストーリー通りに田村が行動しているのであれば、彼は「ブラッディ・サン」こと三国を殺すつもりなのかもしれない。そう考えた服部は、一路三国と麻奈の住まうアパートへ向かう。そこには恐怖に怯える麻奈の姿と血まみれの田村、そして無惨な姿で浴室に横たわる三国の姿があった。しかし、すべては服部の妄想だった。三国は死んでなどいなかったし、いつからか彼は田村の本当の行いと、自分の漫画のストーリーを混同して考えてしまっていたのだ。一方の田村は家を出ることを決める。祖母は完全にボケてしまったし、もう自分には行く場所も帰る場所もない。しかし、荷物を抱え、家を出た矢先、何者かが背後から田村を切り付ける。榎本だった。血を流し、その場に倒れ込む田村。榎本は何処ともなく走り去って行くのだった。

スタッフ

監督・脚本:真利子哲也
プロデューサー:原尭志
撮影監督:青木穣
録音:金地宏晃
美術:保泉綾子
編集:平田竜馬
助監督:矢崎隼人、橋爪慧
照明:後閑健太
ヘア&メイク:寺島和弥
衣装:渡辺裕子
漫画制作:大脇勇亮、川崎秀和
音楽:鈴木広志、大口俊輔

キャスト

田村(ボクサー志望の青年):遠藤要
服部(漫画家):岩瀬亮
三国(元チャンピオン):波岡一喜
麻奈(服部の元恋人):町田マリー
榎本(田村の先輩):玉井英棋
橋本(田村の先輩):三浦力
ボクシングジムの会長:でんでん
澄代(田村の祖母):小野敦子
蕎麦屋の店長:酒井健太郎
霜島(ジムのトレーナー):吉増裕士
香川(先輩ボクサー):中島朋人
吉野(闇金業者):内木英二

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