原題:L'ennemi intime

ここに、正義はない──

2007年トロント国際映画祭 正式出品 2008年セザール賞 [最優秀撮影賞、最優秀音楽賞、最優秀音響賞] ノミネート

2007年/フランス/カラー/112分/日本語字幕:齋藤敦子 配給:ツイン

2009年2月28日(土)より、渋谷シアターTSUTAYA、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

(C) 2007 LES FILMS DU KIOSQUE - SND - FRANCE 2 CINEMA

公開初日 2009/02/28

配給会社名 0251

解説


1959年7月、フランス直轄領アルジェリア。
現代の日本からは、ただただ遠く感じられるかもしれない彼の地では、実は現代社会の起源ともいえる激しい戦闘が繰り広げられていた。第二次世界大戦〜インドシナ戦争を経て、ベトナム戦争の裏側で当時の世界を震撼させ、日本の新聞でも頻繁にその動向が報じられていたアルジェリア戦争(1954〜62年)は、フランスが経験した最大の植民地独立戦争である。それは、かつて同じ仏軍の戦友として、ともにナチス・ドイツに抵抗した者同士が戦うという歴史的悲劇でもあった。当時、200万人のフランス人兵士が戦地に送り込まれ、そのうち2万7千人が命を落とした。アルジェリア人の死者は30万から60万人(推定)。しかし、仏政府がこの戦争の存在を公式に認めたのは、なんと1999年のことであったという。映画の世界へ目を転じても、「アルジェの戦い」(65年イタリア/アルジェリア合作、ジッロ・ポンテコルヴォ監督)をはじめ、この戦争を題材とする作品のほとんどが70年代半ば以前に製作され、近年明らかになりつつある仏軍による拷問や虐殺といった衝撃の事実をフランス映画が描くことはなかった……。

1959年、アルジェリアではフランスの支配からの独立を求めるフェラガゲリラと仏軍との戦闘が続いていた。新しく赴任してきたテリアン中尉は、殺戮の泥沼に息を飲む。常態化する拷問と虐殺。戦場に不慣れなテリアンは歴戦の兵士たちの残虐さを軽蔑し、人間的に振舞おうとする。しかし、自らの部隊を率いて数々の修羅場を経験し、苦い失敗や部下の喪失を繰り返すうちに、彼は次第に理性を失っていく。やがて最後に彼が遭遇した敵の顔には、見覚えのある面影が…。

「アメリカがベトナムを描いたように、フランスもアルジェリアを描かねばならない」と、このフランス近現代史のタブー深い闇に挑んだのは、「ピアニスト」(01)でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した俳優・ブノワ・マジメル。74年生まれの“戦争を知らない”世代だ。かねてからこの戦争に強い関心を持っていたマジメルは、アルジェリア戦争についてのドキュメンタリー映画を手がけてきた脚本家のパトリック・ロットマンと、かつて出演した映画「スズメバチ」(02)を監督したフローラン=エミリオ・シリを自ら引き合わせた。立案後5年のうちに、ロットマンのドキュメンタリーがTVで900万人の目に触れ、シリはアメリカに呼ばれてブルース・ウィリス主演の「ホステージ」(05)を撮り、マジメルは映画界で名声を高めた。そうして、歴史の闇から目を逸らさず、人間の真実を見つめる壮絶な映画「いのちの戦場 −アルジェリア1959−」は誕生した。

原題の『L’ENNEMI INTIME』は、実は脚本を担当したロットマンのドキュメンタリーのタイトルで、内なる敵、内在する敵、親密なる敵、というような意味。アルジェリアは当時フランスに内在する、同国の一部であったという側面や、アルジェリア側とフランス側とに分かれて同じ民族が戦ったという背景を暗示するとともに、マジメル演じる主人公テリアン中尉をはじめ、戦場の兵士たちが極限の状況下で自分の中の敵と対峙するさまをも象徴する、大きなタイトルである。

フランス人自身にとっても馴染みの薄いこの戦争の複雑な背景を、あますところなく、かつ明快に2時間で語り尽くした驚異的なロットマンの脚本。加えて、空撮やナパーム弾での大規模な空爆はもとより、圧倒的な自然の雄大さを懐かしい色調でフィルムに収め、人間の卑小さを際立たせた見事な撮影(ジョヴァンニ・フィオーレ・コルテラッチ)。兵士たちの呼吸に寄り添う音楽(アレクサンドル・デスプラ)。マジメルはもちろん、近年のロマンチックな役柄から一変、鬼軍曹役で異彩を放つアルベール・デュポンテルをはじめ、初登場の一瞬でその人物を語る見事なキャスト陣。さらに、7週間にわたるロケで、装甲車、航空機、銃器、戦術に至るまで当時の戦場を徹底的に再現した退役軍人とプロの兵器ディーラー。監督シリの指揮の下で一丸となったそれらすべてが、武装した一つひとつの“いのち”が否応なく殺人兵器へと変えられていくさまを生々しく映し出し、作品全体を強い反戦の意思表示へと昇華させている。

戦争を知らない世代のマジメルが実現したとは信じられないあまりに忠実なこの“記録”には、本人の歴史認識はもとより、人間への鋭い洞察力、そして、映画という芸術の力を信じる強い信念がほとばしっている。そして、見事に配された個性際立つ男たちの中で若きテリアン中尉がラストに見せる、祈りにも似た表情は、早くもベテランの域に達しつつある俳優マジメルに代表作の到来を告げている。

生々しい戦場の恐怖を描く徹底したリアリズム。個人の内面をえぐる濃密な人間ドラマ。これは、「プラトーン」(86)や「地獄の黙示録」(79)などのベトナム戦争映画に魅せられた世代が作り上げた壮絶な真実の物語だ。

ストーリー




1954年11月1日——130年間のフランス支配の後、アルジェリア民族解放戦線(FLN)は武装闘争に突入した。独立を求めるFLNに対し、フランスは50万の正規兵を送り込んだ。1959年、国連から非難を受けながらもフランスは軍事作戦をさらに強化し、植民地支配からの独立を求めるゲリラとの戦闘は激化するばかりだった。新しく赴任してきた志願兵テリアン中尉は、殺戮の泥沼に息を飲む。常態化する拷問と虐殺。戦場に不慣れなテリアンは歴戦の兵士たちの残虐さを軽蔑し、「自分だけは変わるまい」と決意を新たにする。しかし、終ることのない数々の作戦——凄惨な戦争はそんな彼から理性を奪っていく……。

スタッフ

監督:フローラン=エミリオ・シリ
脚本:パトリック・ロットマン
撮影監督:ジョヴァンニ・フィオーレ・コルテラッチ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
プロダクション:LE FILMS DU KIOSQUE
プロダクション・マネジャー:アントワーヌ・ボー 
美術:ウィリアム・アベロ
編集:クリストフ・ダニロ
チーフ助監督:ミハエル・ヴィゲール
アート・ディレクター:ドミニク・カララ
音声:アントワーヌ・デュフランドレ、ジャーメイン・ブレー、エリック・レンピッカ
衣装:ミミ・レンピッカ
キャスティング:ステファーヌ・フェンキノス
スチル:チボー・グラベール
プロデューサー:フランソワ・クラウス&ドゥニ・ピノー=ヴァレンシアンヌ

キャスト

ブノワ・マジメル
アルベール・デュポンテル
オーレリアン・ルコワン
マルク・マルベ
エリック・サヴァン
モハメッド・フラッグ
ヴァンサン・ロティエ
ルネ・タザイール
アブデルハフィド・メタルシ

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