ランジェ公爵夫人
原題:Ne touchez pas la hache
岩波ホール創立40周年記念作品 セテラ・インターナショナル20周年記念作品
2007年/フランス・イタリア/カラー/137分/ 配給:セテラ
2009年04月03日よりDVDリリース 2008年4月5日、岩波ホールにてロードショー
公開初日 2008/04/05
配給会社名 0117
解説
ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠ジャック・リヴェット監督が、文豪オノレ・ド・バルザックの名作を忠実に、完璧なまでの美しさで映画化。19世紀パリの虚飾と欺瞞に満ちた貴族社会を舞台に、悲劇的な成就することのない愛に生きる男と女の数奇な運命を描く。
1823年、ナポレオン軍の英雄であるモンリヴォー将軍は、スペインのマヨルカ島にあるカルメル会修道院で、長い間探していた女性と再会する。テレーズ修道女となったかつてのランジェ公爵夫人である。5年前、パリの華やかな舞踏会でランジェ公爵夫人に出会い、激しい恋心を抱いたモンリヴォー。彼の心は公爵夫人の思わせぶりな振る舞いに翻弄され続ける。追い詰められた彼は、貴族のたしなみや信仰を語る彼女の優位性に対し、反撃に転じ、誘拐という手段に打ってでる。それを機に恋に目覚めたランジェ公爵夫人。彼女は熱烈な手紙を送り続けるが、モンリヴォーは徹底的に無視する。彼に拒絶されたと思い込んだ公爵夫人は、失意のうちに世俗社会から離れることを決意する…。
原作はバルザックの「十三人組物語」の一編「ランジェ公爵夫人」。バルザックは90編以上の小説と2000人以上の登場人物を創造し、19世紀フランスの貴族や市民の生活をいきいきと描いた傑作を残した偉大な作家である。監督は今年79歳のジャック・リヴェット。リヴェットはロメール、トリュフォー、ゴダール、シャブロルなど、ヌーヴェル・ヴァーグを生きた「カイエ・デュ・シネマ」出身の映画監督たちの中で、誰よりも鋭い批評を書き、困難な状況の中でも、妥協のない映画作りを続けてきた。そして1991年カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した『美しき諍い女』(91)に続き三度、バルザックに挑み、遂に『ランジェ公爵夫人』という力強く、堂々たる風格の文芸作品を生み出した。
物語はモンリヴォー将軍が、修道院に身を隠す公爵夫人を見つけ出すところから始まる。地中海の青く広がる海、教会から聴こえてくる「タホ川の流れ」の歌声は、物語の結末を予感させながら、モンリヴォーと公爵夫人の過去へと誘う。そしてリヴェットは、最初は戯れのように見えた二人が、いつしか激しく、恋愛に陶酔してゆく姿をとおして、男と女の関係の普遍性を見事に描き出した。リヴェットの徹底した細部へのこだわりと、冷静な眼差しは、恋に身を焦がす男女の心情を際立たせ、二人の完備で幻想的な世界に、観る者の魂を誘う。
相手に一歩も譲ることのない緊張感溢れる主人公たちの演技からは、ひと時も目を逸らすことはできない。リヴェット監督の『恋ごころ』(01)でも主人公を演じたフランスの人気女優ジャンヌ・バリバール。彼女は19世紀パリ社交界のコケティッシュな衣裳を見にまとい、艶やかにモンリヴォーを誘惑する社交界の華、ランジェ公爵夫人を演じる。実際に歌手でもある彼女が歌う「タホ川の流れ」はこの物語に深い余韻を残す。強烈な存在感を放つモンリヴォーを演じた『ポーラX』のギヨーム・ドパルデューの無骨で荒々しい情感、引きずる足、苦渋に満ちた表情…。父親ジェラール・ドパルデューに勝るとも劣らない素晴らしい名演技で魅了する。二人の演技は、時代と世界を超え、現代の私たちの胸に至高の愛を突きつけてくるようだ。また脇を固めるリヴェット作品の常連、名優ミシェル・ピコリとビュル・オジエの風格ある演技は作品に重厚感を与えている。そして撮影監督ウィリアム・リュプチャンスキーのカメラ・ワーク、蝋燭の灯などの自然光を生かした映像。19世紀フランスの貴族社会を忠実に再現した美術のマニュ・ド・ショーヴィニ、衣裳のマリア・ラメダン=レヴィなど、『ランジェ公爵夫人』はリヴェット監督の冴え渡った練達の演出とともに、彼を支える素晴らしいスタッフ、キャストによって格調高い輝きを放っている。
ストーリー
1823年、フランス軍がフェルナンド七世の王権を回復するために、スペインのカディスを占領した頃、ナポレオン軍の英雄アルマン・ド・モンリヴォー将軍は、スペインのマヨルカ島にあるカルメル会修道院のミサに参加していた。彼は5年前に当然消息を絶った、かつて愛したアントワネットという女性を、ヨーロッパ大陸からアメリカまで探し続けた。そして、この厳格な修道院にテレーズというフランス人の修道女が、どうやらアントワネットらしいという情報を得て、この島にやって来た。彼はアントワネットがよく歌っていた歌曲「タホ川の流れ」をミサで聴き、ここに愛しき女性がいると確信する。かくして修道院の鉄格子越しに、モンリヴォーは、テレーズという名のかつてのパリの社交界の花、アントワネット・ド・ランジェ公爵夫人と再会する・・・。
5年前、欺瞞と虚飾と金銭だけが幅を利かせていた時代のパリ、サンジェルマン。貴族階級は民衆の上に君臨していたものの、衰退をたどる運命にあった。そしてその時代にはコケティッシュなパリジェンヌ、ランジェ公爵と結婚したヴァラン家のアントワネットのような女性がいた。ある夜、セリジー伯爵夫人宅の舞踏会で、モンリヴォー将軍を見かけ興味を抱いたランジェ公爵夫人は、舞踏会の間中、ナポレオン軍の英雄である彼にアフリカ奥地での冒険譚を語らせ、続きを自分の家に来て話すようにと誘う。一目で公爵夫人へ激しい恋心を抱いたモンリヴォー将軍は、彼女を恋人にしようと誓う。
翌日からモンリヴォー将軍を毎晩自分の屋敷へ訪問させ、華麗を礼賛し、崇め、欲望に絶えず油を注ぎながら、自分に指一本触れさせずに、彼の心を翻弄するランジェ公爵夫人。毎晩彼女を訪問するモンリヴォー将軍のことはすぐに社交界の噂となる。公爵夫人の伯母であるブラモン・ショーヴリ妃や友人のヴィダム・ド・パミエは、彼女にモンリヴォー将軍を弄んでは後で公開することになるからやめるようにと忠告する。しかし、その後も毎晩訪問するモンリヴォー将軍を、あるときは貴族のたしなみを理由に、またあるときは宗教を理由に、公爵夫人は拒み続ける。
遂にランジェ公爵夫人の思わせぶりな態度に追い詰められたモンリヴォー将軍は、「刃には刃を」と心に決め、彼女を舞踏会の帰りに誘拐するという反撃に転じる。そして、彼は泣いて許しを乞う彼女に指一本触れようとはせず、舞踏会へと帰すのだった・・・。
これを機に、恋に目覚めたランジェ公爵夫人は後悔し、熱烈な手紙をモンリヴォー将軍に送りはじめる。しかし、彼は徹底的に彼女を無視するのだった。モンリヴォー将軍に3週間無視され続け、今や情熱に目覚めた公爵夫人の貴族にあるまじき振る舞いは街中の噂となり、親戚たちが心配して彼女の屋敷に集まる騒ぎとなる。ブラモン=ショーヴリ妃は、軽はずみなことは止め、男のために身を滅ぼさないように、と彼女に忠告する。
しかし、その後もランジェ公爵夫人はモンリヴォー将軍に手紙を送り続けるが返事が届くことはない。彼女はとうとうモンリヴォー将軍の屋敷まで押しかけ、彼が不在中の家で、自分の送り続けた封が切られていない手紙の束を見つける。絶望し、抜け殻同然となったランジェ公爵夫人。とうとう彼女は彼への最後の手紙を友人のヴィダムに託す。
「残酷なゲームはおやめください。この手紙を読んで3時間後に私の屋敷へお出かけ下さい。もし3時間経ってもあなたがいらっしゃらなければ、それがお返事と受け止め、私は世俗社会から去り、もう二度とお目にかかりません・・・。」
モンリヴォー将軍はランジェ公爵夫人の最後の手紙を読むが、友人の訪問を受け、すぐに彼女に会いに行くことができない。刻一刻と過ぎ行く時間を気にするモンリヴォー将軍。そして、部屋の時計が遅れていることに気がついたときにはもうすでに遅かった・・・。ランジェ公爵夫人はモンリヴォー将軍の屋敷の前で馬車を降り、彼が外出していないことを確かめると、そのままパリを後にした・・・。
モンリヴォー将軍とランジェ公爵夫人との修道院での再会から数ヶ月後、武装した帆船がマヨルカ島へ向かった。モンリヴォー将軍と仲間たちは、テレーズ修道女という名のランジェ公爵夫人を密かに誘拐する計画を立て、カルメル会修道院に忍び込む・・・。
スタッフ
監督:ジャック・リヴェット
原作:オノレ・ド・バルザック
キャスト
ジャンヌ・バリバール
ギヨーム・ドパルデュー
ビュル・オジエ
ミシェル・ピコリ
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