巨匠・山田洋次監督が吉永小百合主演で描く、激動の昭和を生きた母とその家族の愛の物語

第58回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作

2008年/日本/カラー/ヴィスタサイズ/ドルビーデジタル/上映時間:2時間12分 配給:松竹

2010年08月04日よりDVDリリース 2008年07月25日よりDVDリリース 2008年1月26日、丸の内ピカデリー2系ほか全国松竹東急系にてロードショー

(C)「母べえ」製作委員会

公開初日 2008/01/26

配給会社名 0003

解説


巨匠・山田洋次監督が描く、
激動の昭和を生きた家族の物語

 第76回米国アカデミー賞外国語映画部門ノミネートの快挙を成し遂げた『たそがれ清兵衛』、続く『隠し剣鬼の爪』、『武士の一分』の時代劇三部作で、国内のみならず海外でも絶賛され、今や世界から注目される存在となった山田洋次監督待望の最新作『母べえ』が、ついに完成した。
 原作は、長年に渡り黒澤明監督のスクリプターを務めた野上照代が、幼い頃の家族の思い出を綴ったノンフィクション作品。
 舞台は、昭和15(1940)年の東京。夫の滋と二人の娘とつましくも幸せに暮らしていた野上佳代。その平穏な暮らしは、ある日突然、滋が治安維持法違反で検挙されてしまったことで一変する。戦争反対を唱えることが、国を批判するとして罪だったこの時代、平和を願う信念を変えない限り、滋は自由の身には戻れない。滋の元教え子の山崎や義理の妹の久子、型破りな性格の叔父・仙吉たちの優しさに助けられながら、佳代は娘たちを育て家計を支えるため奔走する。しかし、新年を迎えても滋は帰らず、やがて日本はアメリカとの戦いに突入していく……。

吉永小百合と実力派俳優たちの味わい深い演技

 どんな困難を目の前にしても常に子供たちと喜怒哀楽を精一杯共にする情愛深い母、野上佳代。同時に、戦争反対の信念を曲げない夫を尊敬し、何があっても信じて支え続ける、一本芯の通った妻でもある。そんな主人公・佳代を演じるのは、名実共に日本を代表する映画女優、吉永小百合。長年にわたる原爆詩の朗読やボランティア活動を通して、静かに平和の尊さを訴え続けている彼女が演じたからこそ、佳代の人物像に魂を吹き込むことができた。平和への願いを投影した渾身の演技で、見事に新境地を開いた作品となった。
 夫の野上滋には、歌舞伎界の重鎮であり、山田組には『武士の一分』以来2度目の出演となる坂東三津五郎。家庭では、妻や娘たちを慈しむ優しい父親であるが、一方でどんな苦境に立たされようとも自らの信念を貫こうとする高潔の人を見事に体現した。滋の教え子で留守家族を支える山崎徹には、浅野忠信。国内外の著名な監督に愛され、多くの作品に参加してきた若き個性派俳優が、これまでの作品では演じたことのないユーモラスな味わいを持った心優しい青年?山ちゃん?を好演している。滋の妹・久子には、『武士の一分』のヒロイン役で鮮烈なスクリーン・デビューを果たした檀れい。また、佳代と滋の二人の娘役は、半年間にわたるオーディションで選ばれた。しっかり者だがナイーブな一面を合わせ持つ長女・初子役にはTVドラマ「14才の母」で注目され、近年TVドラマ、CMなど活躍めざましい志田未来。天真爛漫でおてんばな次女・照美役には佐藤未来。そして佳代の変わり者の叔父・藤岡仙吉には、近年俳優としても高く評価されている笑福亭鶴瓶が扮する。また、埼玉県川口市のSKIPシティに、綿密な時代考証を重ねて戦前の街並みを再現したオープンセットも見所である。

混迷する現代を生きる
すべての日本人へ贈るメッセージ

 「家族」というテーマは、山田洋次監督が折々の時代に大切に描いてきたテーマである。1970年には『家族』で、高度経済成長期の真っ只中、長崎から北海道へ移動する道中、幾多の困難に出会いながらも生きる希望を捨てない家族を描いた。1991年の『息子』では、バブル崩壊後、田舎と都会に離れ離れに暮らす父と息子が、一度は切れかけた絆を取り戻していく姿を描いた。いずれも、時代の空気を反映しながら、普遍的な家族愛を描き、多くの観客から深い共感を呼び、その年の主な映画賞を総なめにした傑作である。そして今、時代の求めに応じるかのように、山田監督が再び「家族」を描いた。物語の中で主に描かれる昭和15(1940)年から昭和16(1941)年は、日本が太平洋戦争へと歩みを進めていく不穏の時代。国際情勢の変化や不安定な政情の中、人々が先行きの見えない不安を抱えているという点で、現代とも重なる時代だといわれている。しかし、そこには、人と人の絆があった。ちゃぶ台を囲む家族の団欒は、信頼と愛情に満ちた空間であり、隣家に向かって開け放たれた風通しの良い縁側は、他人同士でも気軽に入り込み、助け合える交流の場でもあった。そんな今日の日本が失いつつある心を描き、困難な時にこそ何を信じ、守るべきかを問いかける感動作——それが、『母べえ』である。
 2008年、混迷する現代を生き抜くための真の希望を、日本に生きるすべての人に贈ります。

「母べえ(かあ)」とは───

物語の舞台となる野上家では、お母さんのことを「母(かあ)べえ」、 お父さんのことを「父(とう)べえ」、初子を「初(はつ)べえ」、照美を「照(てる)べえ」という愛称で呼んだ。

ストーリー




何もなくても、母の手があった。
悲しくても、母の胸があった。

最後の晩餐

 昭和15(1940)年2月、東京に暮らす野上家では、その夜も夫の滋(坂東三津五郎)と妻の佳代(吉永小百合)、二人の娘たちが笑いの絶えない楽しい夕食を囲んでいた。まさかそれが、家族揃った最後の晩餐になるとも知らずに……。翌早朝、まだ闇深い頃、ドイツ文学者である滋が、治安維持法違反で検挙される。政府批判につながる反戦を唱えたというのだ。特高刑事の小菅(笹野高史)ら、土足でなだれこむ刑事たちに縄をかけられる滋。怯える娘たちや呆然とする佳代に「父べえは必ず帰ってくるからな」と言葉を残して滋は連れ去られる。
 山口県で警察署長をしていた父・久太郎(中村梅之助)に猛反対された結婚だったが、佳代は後悔したことなど一度もなかった。夫への尊敬と愛情を胸に、しっかり者の長女初子(志田未来)と天真爛漫な次女照美(佐藤未来)の成長を楽しみに、つましくも、明るく前向きに暮らしていたのだ。野上家はお互いを「父(とう)べえ」「母(かあ)べえ」「初(はつ)べえ」「照(てる)べえ」と愛称で呼び合う仲睦まじい家族だった。しかし、突然夫を奪われたその日から、波乱の日々が始まった。

山ちゃん

 不安と悲しみを募らせる野上家に、滋のかつての教え子で、今は小さな出版社に勤める山崎徹(浅野忠信)が訪ねてくる。山崎は、事細かに調べてきた面会申請の手続きについて佳代に伝え「希望を失ってはいけません。大勢の心ある人たちが先生を応援しています。」と涙を浮かべて励ました。大真面目に頭を下げて立ち上がった途端、慣れない正座のせいでひっくり返ってしまう山崎。その慌てふためく様子に、佳代と娘たちは、思わず笑い出してしまう。暗く沈みがちだった母娘に久々に笑顔をもたらした不器用だが心優しい山崎は、親しみを込めて?山ちゃん?と呼ばれるようになり、野上家にとってなくてはならない存在になる。
 山崎の助言を受けて、佳代は何度も検事局や警察署に通い、桜が満開の頃、ようやく滋との面会が叶う。厳しい冬を凍てつく留置場で越した滋は、やつれ果てていたが、それからまもなく拘置所に移され、定期的な面会や手紙のやり取り、差し入れなどが許されるようになる。佳代は山崎を伴って拘置所に面会へ赴いた。滋の変わり様を見た山崎は、ショックを受け、泣いてばかりで大事な話は何も出来ぬまま、面会時間は終わってしまう。帰り道、恐縮しきりの山崎の姿を見て、佳代はしみじみと呟いた。「山ちゃんはいい人ね。」

父のいない家

 滋がいつ帰れるか全く見通しが立たないため、佳代は小学校の代用教員として一家の家計を支え始める。今では、家族4人の心をしっかりとつないでいるのは、会えない淋しさを埋めるように日常の些細なことまで綴った何通もの手紙だった。まるで日記を書くように父に手紙を書く初子と照美。ふたりの娘がのびのびと成長していく姿が佳代の心の支えとなっていた。隣組の付き合いもこなし、帰宅すれば深夜まで家の雑事に追われる毎日の中、滋の妹の久子(檀れい)が折りにふれ顔を出し、手伝いに来てくれた。広島から絵の勉強をするために上京してきた久子は、料理は苦手だったけれど、持ち前の快活さで野上家に明るさを振りまいた。
 夏休みに入ると、叔父の仙吉(笑福亭鶴瓶)が奈良から上京してきた。変わり者でわが道を行く性格の仙吉は、新宿の街角で「贅沢は敵だ!」のスローガンのもと、贅沢品撲滅運動を行っていた婦人運動家たちと一悶着起こしたり、家では思春期をむかえた初子にデリカシーのない発言をして怒らせてしまう。しかし、佳代にとっては、職場でも隣組でも、辺りをはばかって本当のことを言えない時代だからこそ、仙吉のあけっぴろげな率直さが、心の救いなのだった。しかし、その仙吉もやがて一人奈良へ帰っていった。生活の足しにするようにと大事にしていた金の指輪を置いて……。

揺るぎない愛

 昭和16(1941)年1月1日、佳代と娘たちは、ちゃぶ台に置かれた滋の写真に新年の挨拶をする。山崎が滋のいない淋しさを埋めるように付き合ってくれた。滋は改心すると誓う転向上申書がなっていないと、かつての教え子である杉本検事(吹越満)に突き返され、「国賊」と非難されていた。
 山口から父・久太郎が上京してきた。娘婿が思想犯として逮捕されたことによって公職を辞した久太郎は、滋が改心しないのなら、離婚しろと佳代に詰め寄る。しかし、どんな苦境に立たされようとも、佳代の滋を想う気持ちには、一片の曇りもなかった。ついに佳代は久太郎から勘当を言い渡されてしまう。
 そして、滋のいない2度目の夏が来た。「1年に1回、娘たちを海に連れて行くのは父親の僕の役目だったのに」と手紙で嘆く滋の代わりを山崎が務めることになったが、泳げない彼は、浅瀬で溺れかけてしまう。佳代が海に飛び込んで事無きを得た。「あぁ、参ったなぁ」と情けない声を出す山崎に安堵の笑い声を漏らす佳代と娘たち。とんだハプニングに見舞われながらも、父のいない淋しさを、一瞬忘れられた砂浜だった。

激動の時代へ

 昭和16(1941)年12月8日、日本軍はハワイ真珠湾を攻撃、遂に太平洋戦争が始まった。灯火管制のため電灯にカバーをかけた薄暗い茶の間で縫い物をしながら、滋にどんな手紙を書くか、娘たちに語って聞かせる佳代。「今年もあとわずかになりましたが、お変わりありませんか……子供が成長する姿を見るのは本当に楽しいものです。あなたがどんなにか二人をギュッと力いっぱい抱き締めたいだろうか。それを思うと私の胸は……私の胸はキュンと痛むのです……」思わず声をつまらせ、うつむく佳代。ハラハラと頬を伝うのは、夫の無事と帰宅を願う深い愛の涙だった。
 昭和17(1942)年1月、ますます激しくなる戦況のなか、野上家に一通の電報が届いた……。

スタッフ

監督 山田洋次

プロデューサー 深澤宏 矢島孝
原作 野上照代「母べえ」(中央公論新社)
脚本 山田洋次 平松恵美子
撮影 長沼六男(JSC)
美術 出川三男
音楽 冨田勲
ソプラノ 佐藤しのぶ
照明 中須岳士(JSL)
編集 石井巌
録音 岸田和美
スチール 金田正
製作担当 相場貴和
ラインプロデューサー 斉藤朋彦
協力 埼玉県 川口市 東宝スタジオ
製作 母べえ」製作委員会 松竹 住友商事 テレビ朝日 博報堂DYメディアパートナーズ 衛星劇場 日販 TOKYO FM Yahoo! JAPAN 読売新聞 朝日放送 メ〜テレ
制作・配給 松竹株式会社

キャスト

吉永小百合
浅野忠信
檀れい
志田未来
佐藤未来
笹野高史
でんでん
神戸浩
近藤公園
茅島成美
中村梅之助
松田洋治
赤塚真人
吹越満
左時枝
鈴木瑞穂
戸田恵子
大滝秀治
笑福亭鶴瓶
坂東三津五郎

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