原題:三峽好人 Sanxia haoren / Still Life

第7回 東京フィルメックス正式出品作品 オープニング作品 第63回ベネチア映画祭/金獅子賞受賞

2006年/中国/カラー/113分/ 配給:ビターズ・エンド

2008年04月25日よりDVDリリース 2007年8月18日(土)より、シャンテシネほか全国順次ロードショー

公開初日 2006/11/17

公開終了日 2006/11/26

配給会社名 0424

解説


ベネチア映画祭でサプライズ上映。すぐさま審査員がグランプリを決めた傑作。

 2006年ベネチア国際映画祭で、上映まで作品名を一切明かされず、最後の最後に「サプライズ上映」という異例の形でコンペティションに招待された『長江哀歌』。しかし、『クイーン』をはじめ力作の揃ったコンペ作品の中から、審査員長カトリーヌ・ドヌーヴはじめ、韓国のパク・チャヌク監督、アメリカのキャメロン・クロウ監督ら審査員は、『長江哀歌』を金獅子賞グランプリに選んだ。ドヌーヴは、『長江哀歌』を金獅子賞に決めるのに時間はかからなかった、と述べた。それほどすぐさまに、すべての審査員を魅了した傑作。それが、弱冠36歳の「若き名匠」ジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督の最新作であった。

万里の長城以来の中国一大国家事業といわれる長江・三峡ダム建設と、沈みゆく街に暮らす市井の人々の「生」の瞬き。

 つねに中国指導者の壮大な夢でありながら、様々な障害や困難によって、建設反対意見がまきおこる中、1993年に着工した長江の三峡ダム。それは経済開放以来、急速な変化を遂げ、来年2008年には北京オリンピックを控えた超大国・中国を象徴する一大事業である。長編デビュー作の『一瞬の夢』以来、たえず中国社会の大きな変化の中に、小さき人々の「生」を切り取ってきたジャ・ジャンクー監督は、この三峡ダムという叙事詩的プロジェクトを背景に、これまでの集大成といえる傑作を完成させたのだ。
 大河・長江の景勝の地、三峡。そのほとり、二千年の歴史を持ちながら、ダム建設によって、伝統や文化、記憶や時間も水没していく運命にある古都・奉節(フォンジェ)を舞台に綴られる二人の男女の物語。16年前に別れた妻子に再会するため、山西省からやってきた炭鉱夫サンミン。2年間音信不通の夫を探しに、やはり山西省からやってきたシェン・ホン。山西省はジャ・ジャンクー監督の故郷だ。物語は、2人の山西人の物語を中心に、時代の大きなうねりに翻弄されながらも日々を精一杯に生きる人々の、小さくも愛おしく輝く一瞬を感動的に捉える。船上の人々の顔、古ぼけた扇風機、竹団扇、花柄の魔法瓶……そこでは画面に映るすべてが愛おしい。

ダムに沈む長江・三峡の人々とジャ・ジャンクー組のキャスト・スタッフがつくりあげた奇跡。

 自分のために、夫のために、精一杯の「嘘」で新たな人生を歩み出そうとする女性シェン・ホンを演じるのは、ジャ・ジャンクー監督のミューズであるチャオ・タオ。最初は朴訥すぎるように思わせながら、最後には力強く寛容に、感動的な人間性で、やはり新たな人生にこぎだそうとする炭鉱夫サンミンを演じるのは、監督の第2作『プラットホーム』でも炭鉱夫を演じたハン・サンミン。この他、シェン・ホンの夫、その友人を除いて、すべての出演者がロケ地である三峡の人々。彼らの声音、息遣い、身のこなしが、映画に瑞々しい手触りを与えている。
そして誰をも驚かせる映像美は、すべてのジャ・ジャンクーの全長編作品を手がけているユー・リクウァイの手による。撮影は小型のHDVカムで行われたが、デジタル撮影された映像として、この美しさは、映画史に残るといっても過言ではないだろう。
また、『プラットホーム』以来のジャ・ジャンクー組であるチャン・ヤンの音響も特筆に値する。たえず響く工事の音をはじめ音の存在は映画に素晴らしい生命力を与えた。
音楽は、台湾のカリスマ的ミュージシャンであるリン・チャン。コンピュータを駆使した音と大衆的な中国歌謡を組み合わせ、本作の映画世界をさらに豊かなものにしている。この映画で使われる「歌」はある意味で、寡黙な中に深い感情をたたえた主人公たちを代弁するかのように、エモーショナルに響く。

烟(タバコ)、酒、茶、糖(アメ)。中国人に大切な4つの言葉で語られる物語は、変わりゆく時代の記憶、そして決して失われない人の記憶。

 デビュー以来、その市井の人々の描写でホウ・シャオシェン(候孝賢)監督や日本の小津安二郎監督の影響が語られ、第2作『プラットホーム』では、時代を捉える眼差しのスケールでギリシャのテオ・アンゲロプロス監督にもたとえられたジャ・ジャンクー監督が、その眼差しの細やかさと大きさを、自身のオリジナリティあふれる驚くべき映画性で融合させた傑作、それが『長江哀歌』だ。
本作は中国語の原題を「三峡好人(三峡の善人)」という。これはドイツの劇作家ブレヒトが、善人こそ生きがたい資本主義の世間を寓意的に描いた<セツアンの善人>からとられた。英語題は「STILL LIFE(静物)」。ジャ・ジャンクーは、「時は、静物の上に深い痕跡を残すが、静物はただ黙って人生の秘密を湛えている」という。
この2つのタイトルに込められた思いを、映画は「烟(タバコ)、酒、茶、糖(アメ)」という古来より中国人に欠かせない、「とても素朴な形で普通の人々に喜びと幸福をもたらす」(ジャ・ジャンクー)4つの品を題したパートで描く。本作を見終えた観客は、おそらくはまたふとした瞬間に、記憶のつまったアルバムを見返すように、ふたたびこの映画が映した普通の人々に出会いたくなるに違いない。そこにはきっと滔々と流れる大河・長江に切なく響く哀歌(エレジー)が聞こえるだろう。

ストーリー

どこからか歌が聞こえる。どうやら船の上らしい。花札をする人、タバコを吸う人、携帯電話をかける人、手相を見る人。中国の今を生きる人々。一人の男が暑さのために上着を脱ぐ。その後ろに長江・三峡の絶景が見える。

船を下りた男は、近くのマジックショーに連れ込まれ、金を巻き上げられそうになるが、したたかな度胸をみせて切り抜ける。今度はバイクの連中が、5元で行きたい場所へ乗せていくとつきまとう。男は、16年前に別れた妻子を探しに、山西省からやってきた炭鉱夫ハン・サンミン。昔、妻が住んでいた場所にバイクで連れてきてもらうが、すでにそこは三峡ダム建設で水の底に沈んでいた。どこか人なつこいバイクのチンピラにすすめられ、役所を訪れるが、妻子の行方はわからない。サンミンは、しばらく三峡の街、奉節(フォンジェ)に腰を落ち着け、妻子を探すことにきめる。

チンピラが面倒見てくれた宿には、マジックショーの呼び込みをしていた若い男がいた。名前はマーク。大好きな人気俳優チョウ・ユンファの『男たちの挽歌』からいただいた呼び名だ。サンミンが煙草をすすめると、チョウ・ユンファを真似して火をつける。なぜかサンミンとウマが合うようだ。方言しか話さない宿の主人はサンミンの言葉がうまく聞き取れないが、妻の兄の居場所を教えてくれた。サンミンは船で暮らす義兄を訪ねる。義兄は、サンミンの妻ヤオメイはもっと南の街で船に乗って仕事をしているという。娘の居所はわからない。サンミンは義兄に山西省の酒をさしだすが、義兄は受け取らない。

労働者が泊る宿・唐人閣に職の相談に行くサンミン。翌日から、住民移住で必要なくなった建物の解体作業に精を出す。唐人閣の女主人はサンミンに女の世話をしようという。女主人はヤオメイを知っていたが、消息は知らなかった。ある日、サンミンはマークと酒を酌み交わす。マークは、サンミンとヤオメイが売買結婚だったことを見破る。2人は携帯番号を交換する。サンミンの着メロは「好人一生平安」。マークの携帯着メロ「上海灘」にテレビの山峡ダムの映像が重なる。「絶え間なき水流よ、世間のすべてを淘汰し、滔々と河は流れる」。

サンミンが眺める峡谷を、同じく眺めている女がいる。彼女の名はシェン・ホン。三峡の工場に働きに出て2年間音信不通の夫を探しに山西省からやってきた。工場責任者の妻は、夫グォ・ビンを知っていたが、もう夫はここを離れ、荷物だけが残っていると言う。

夫の荷物の中にあったお茶を、シェン・ホンは飲んでみた。
シェン・ホンは、夫の友人ワン・トンミンを訪ねる。優しいトンミンは、夫の今の職場である住民撤去管理部に案内してくれた。しかし夫は留守だった。住民立ち退きを違法にやっているらしい若い衆が、住民といざこざを起こし頭を殴られて戻ってくる。看護婦だったシェン・ホンは包帯を巻いてやる。青年は、グォさんは独身だが経営者のディン女史と怪しい仲だと言う。
ひとまずトンミンの家に身を寄せるシェン・ホン。トンミンは本場の四川料理をふるまってくれる。あきらめて明日の8時には小三峡へ旅立つと言いながら、あきらめきれぬ夫への思いをトンミンに吐露するシェン・ホン。その夜。2人は、グォ・ビンが経営する社交ダンス場へ出かける。昔、夫はダンスなんかしなかったのに。シェン・ホンが、そう呟く。
ダム建設で金持ちになった成金風な男がお客を連れ、自分がつくったと自慢げに大橋に明かりを点灯させる。

翌日。シェン・ホンはようやく奉節に戻って来た夫に会うが・・・。
一方、サンミンも義兄からヤオメイが戻ったとの連絡を受け、船へと急ぐ・・・。

スタッフ

監督:ジャ・ジャンクー
脚本:ジャ・ジャンクー
撮影:ユー・リクウァイ
音楽:リン・チャン

キャスト

チャオ・タオ
ハン・サンミン
ワン・ホンウェイ

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