原題:Moj Nikifor / MY NIKIFOR

色と話した。絵筆と生きた。 いま、世界が最も注目するポーランドが生んだ“アール・ブリュットの聖人”、 魂のままに描いたその感動のリアルライフ。

第40回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(チェコ)グランプリ受賞作

2004年/ポーランド映画/ポーランド語/カラー/ドルビー・デジタル/100分 提供:パイオニア映画シネマデスク 配給:エデン/配給協力:レゾナント・コミュニケーション 宣伝協力:フリーマン/宣伝デザイン:大寿美トモエ

2007年11月09日よりDVDリリース 2006年11月3日、東京都写真美術館ホールにてロードショー!

公開初日 2006/11/03

配給会社名 0113

解説


20世紀のヨーロッパにおける絵画芸術の分野で今最も注目されている画家の一人、ニキフォル。今やポーランドを代表する現代絵画の鬼才として世界的に知られる彼の人生は、歴史に名を残す多くの天才アーティストたちと同じく孤高の輝きに満ちていた。言語障害を持ち、文字の読み書きもできなかった彼にとって絵を描くことは生きることそのものだった。
素朴にして純粋、自由なイマジネーションと人間的な温もり、そして天才的な色彩感覚に彩られたその作品によって彼は、世界的な美術シーンにおいて大きなムーブメントとなっている“アール・ブリュット”の代表的作家として、日本でも昨年(05)、ハウス オブ シセイドウで開催された「生の芸術 アール・ブリュット」展で紹介された。
古き良きヨーロッパの面影を今も残し、いくつもの世界遺産を有するポーランド南部の町クリニツァの美しい風景をこよなく愛し、教会や宗教的イコンなどを数多く描いたことからも“アール・ブリュットの聖人”とも称される彼の作品は、世界中の美術館や収集家の注目の的となっており、現在各国のオークションでも値段が高騰している。
73年間の生涯(1985-1968)に彼が残した絵画は約4万点、だが彼がようやく注目すべき芸術家と本格的に認められはじめたのは死の数年前のことだった。そして、その陰にはすべてを投げ打って彼の晩年を見守った一人の男の存在があった…。これは、ニキフォルが後見人マリアン・ヴォシンスキと出会い、共に過ごした珠玉の日々を描いた感動の実話である。

1960年、ポーランド南部の保養地クリニツァ。ある日、役所の管理部の美術担当マリアン・ヴォシンスキのアトリエに、小さな旅行カバンを持った小柄な老人ニキフォルが入ってくるとそこに居座り、絵を描き始めてしまう。頑固でわがままなうえ、肺結核を患うニキフォルは町中の厄介者だったが、画家でもあるマリアンはニキフォルの持つ他のアーティストにはないユニークな才能を見抜いていた。やがて、自分の才能に限界を感じていたマリアンは仕事や家族そっちのけでニキフォルの世話をはじめるが、ニキフォルの病状はしだいに悪化していく…。

男性であるニキフォルの晩年を、まるで彼が蘇ったかのような生き写しの容姿と圧倒的な演技力で演じるのは、長年に渡り映画、テレビ、舞台と幅広く活躍し、日本公開作には『モンローに憧れて』(87)や『ぼくの神さま』(01)などがある、今年86歳になるポーランドのベテラン女優クリスティーナ・フェルドマン。彼女は本作の演技でカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭の最優秀女優賞やキエフ国際俳優フェスティバルのグランプリなど、世界各国の映画祭で数多くの演技賞を受賞している。ニキフォルの後見人マリアンには、この映画でシカゴ国際映画祭最優秀男優賞を受賞したロマン・ガナルチック。他に、クシシュトフ・キエシロフスキ監督の『ふたりのベロニカ』(91)や押井守監督の『Avalon アヴァロン』(00)のイエジ・グデイコ、『戦場のピアニスト』(02)のマリアン・ジーゼルなどポーランドの演技派たちが脇を固める。
監督は99年のグディニャ・ポーランド劇映画祭グランプリ受賞作『借金』が05年の「ポーランド映画 昨日と今日」で上映された俊英クシシュトフ・クラウゼ。脚本は監督のクラウゼと、監督の妻でもあり助監督とキャスティングも兼ねるヨアンナ・コスの共同で執筆、田舎町クリニツァの季節の移り変わりを美しく捉えた撮影は『天国への300マイル』(89)、『エディ』(02)のクシシュトフ・プタク、60年代の風俗を完璧に再現した美術監督はアンジェイ・ワイダ監督の『鉄の男』(81)やクシシュトフ・キエシロフスキ監督の『殺人に関する短いフィルム』(87)のマグダレナ・ディポント、衣装はジョン・アーヴィン監督のハリウッド映画『密告者』(90・v)、クシシュトフ・ザヌーシ監督の『巨人と青年』(92)などのドロタ・ロクエプロ、温かくも物哀しい旋律が印象的な音楽はバートロメオ・グリニャク。製作は東京国際ファンタスティック映画祭‘89で上映されたファンタジー『キングサイズ』(87)、『ダ・ヴィンチ・プロジェクト』(04・v)など、本国では監督として有名なジュリアス・マチュルスキ。
キャスト、スタッフともに現代ポーランド映画界最高のメンバーが揃った本作は、第40回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリ、最優秀監督賞、最優秀女優賞、特別賞ドン・キホーテ賞の4部門を受賞したのをはじめ、世界各国で数々の賞に輝く傑作である。

ストーリー

1960年、社会主義政権下のポーランド。南部の保養地クリニツァは湯治客の観光収入だけが頼りの田舎町。役所の管理部で美術担当として働くマリアン・ヴォシンスキは画家としても活動しており、事務所の建物の一角に小さなアトリエを持っていた。彼はクラクフの文化省への栄転が決まった上司ノワクから、一緒に来てほしいと誘いを受けていた。
ある日、マリアンのアトリエに小さな旅行カバンを持った小柄な老人ニキフォルが入ってくると、そこに居座って勝手に絵を描きはじめてしまう。ニキフォルは変人の放浪画家として町ではすでに有名人だった。言語障害を持ち、文字の読み書きができない彼は、ただひたすら絵を描き続け、それを路上で観光客にわずかな金で売って生活していた。町の人々の多くは彼を芸術家などではなく、年老いた少し頭のおかしな物乞いとして嘲笑がちに見ていた。
仕事場を占領されて困り果てたマリアンは、仕方なくニキフォルを自宅に連れてきて物置に住まわせ、そこで絵を書かせることにする。マリアンは役所の受付係をしている妻ハンカと幼い2人の娘と暮らしていた。ハンカもクラクフへの引越しまでの間、彼を家に置くことを快諾した。そうして仕事場を確保したマリアンだったが、今度は上司のノワクがニキフォルを仕事場に連れてくる。当初、仕事場から叩き出せと言っていたノワクは、ニキフォルがクロニツァ出身の画家として新聞で取り上げられると態度を一変させ、町の芸術家として優遇し、マリアンのアトリエをニキフォルに自由に使わせ、創作のために便宜を図るように指示するのだった。
マリアンは彼の作品を忌憚なく「駄作だ」と批判し、「お前は絵を描くな」とまで言うニキフォルが不愉快だった。しかし、ニキフォルの言葉が真実であることは、マリアン自身が一番よく判っていた。そして、上司に芸術を見る目を高く評価されているマリアンは、絵画の基礎を何も学んだことのない子供の落書きのようなニキフォルの絵に、素朴で純粋な本物の芸術性を見出していた。
マリアンは身分証も持たないニキフォルの出生を調べるため、彼を連れて各地の役所や教会を廻るが正式な戸籍は見つからず、本名や両親の墓の場所もわからなかった。マリアンはさらに友人の医師ローゼンに頼んで、いつも咳をしているニキフォルの検査をしてもらう。一方、休みも取らずニキフォルと行動を共にするマリアンにハンカは不満を募らせ、平和な家庭に亀裂が入り始めていた。
やがて、検査の結果が出て、ニキフォルが肺結核の末期であることが発覚する。ハンカがそのことをノワクに告げると、ノワクはニキフォルをすぐに役所の仕事場から追い出すように命じた。マリアンはニキフォルをドライブに誘い、彼が幼い頃暮らした村などを訪ねながら各地でデッサンをする。ニキフォルはマリアンの絵をけなしながら「色を決めるときは、まず色によく聞け」と絵の極意を伝授するのだった。その後、マリアンはニキフォルを結核のサナトリウムへと連れて行き、自分が保証人となって嫌がるニキフォルを強制的に入院させる。家に戻ったマリアンはニキフォルが退院するまで引越しを引き伸ばしたいとハンカに提案するが、怒ったハンカは2人の娘を連れてクラクフの彼女の実家へ行ってしまうのだった。
 1967年。マリアンは一人クリニツァに残り、一時退院したニキフォルの世話をしながら二人で暮らしていた。ニキフォルは相変わらずひたすら絵を描き続けていた。ある日、マリアンはニキフォルを連れ、電車に乗り込むとワルシャワに向った。ワルシャワのザヘンタ美術館では大規模なニキフォルの個展が開催されていた。その頃すでにニキフォルは国際的に知られる画家となっていた。それはニキフォルにとってかつてない晴れの舞台だったが、名声も美術業界人たちからの賞賛も彼にはまるで興味のないことだった。
 病状が悪化したニキフォルは再び入院した。付き切りで看病するマリアンにニキフォルはハンカが描かれた一枚の描きかけの絵を渡して言った。
「仕上げてくれ、お前なら出来る。教えたとおりに描くんだ」
病院の廊下でニキフォルの最期を見つめるマリアン、その傍らにはハンカの姿があった。

スタッフ

監督:クシシュトフ・クラウゼ
製作:ジュリアス・マチュルスキ
製作総指揮:ヴォイチェフ・ダノウスキ
      ヤチェク・モチユドロウスキ
脚本:ヨアンナ・コス
クシシュトフ・クラウゼ
撮影:クシシュトフ・プタク
音楽:バートロメイ・グリニャク
美術:マグダレーナ・ディポント
衣装:ドロタ・ロクエプロ
編集:クシシュトフ・ゼペトマンスキ
録音:ニコデム・ウォルクラニエフスキ

キャスト

ニキフォル:クリスティーナ・フェルドマン
マリアン・ヴォシンスキ:ロマン・ガナルチック
ハンカ・ヴォシンスキ:ルチアナ・マレク
ノワク:イエジ・グデンコ
ローゼン:アルトゥール・ステランコ
コワルスカ:ヨヴィータ・ミオンドィコワウスカ
ブドニク:マリアン・ジエドジエル
ザヘンタ美術館長:エヴァ・ウェンセル
アラ・ヴォシンスキ:カタリーナ・パチンスカ
エヴァ・ヴォシンスキ:カロリーナ・パチンスカ
家政婦:マグダ・セロワナ
アンジェイ・バナフ:クシシュトフ・ゴードン

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