2006年ヴァンクーヴァー国際映画祭正式招待作品 第57回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式招待作品

2006年/日本/カラー/35mm・HDステレオ/90分 配給:NEGA

2007年2月24日、シアター・イメージフォーラムにてロードショー!(全国順次公開)

(C)M6 TRANCE PICTURE WORKS

公開初日 2007/02/24

配給会社名 0793

解説


祈れ、愚かな者たち
汝、この町の磔とならん。

主人公は、15歳で母親を殺し、医療少年院で孤独な10年間を過ごした棟方。
舞台は、戦後日本の経済成長を象徴する工業都市・川崎。貨物列車で石灰石が運び込まれるように、棟方はこの町の電子部品を組み立てる小さな工場にたどり着く。求めたのは、暗い森から抜け出るための新しい暮らし。なにかが始まる予感、人との触れ合いに期待を感じながらも、一度貼られた「殺人者」のレッテルは、棟方を新たな森へと誘い込む。工場を経営する大森、従業員の毛、牧師松村、その娘ゆかり。取り巻く人々と向き合うにつれて、善良そうな人間の底に潜む醜さ、平凡な人生に漂う限りない悲しみ、当たり前の日常を支える不条理が次々と浮き彫りになっていく。
棟方は、テレビリモコンの形をしたピストルの製造という秘密の仕事を命じられる。愉快な娯楽を映し出す従順で便利な機械は、気分一つで人を脅し殺す武器にもなる。ある者には金儲けの手段であり、ある者には職人の腕をかけた作品であり、ある者には現実逃避の隠れ家となる。そして棟方が生み出したピストルは、この町の歯車を狂わせていくことになる。どれだけ償えば青い空を見ることができるのか。内に秘めたエネルギーをどこにも向けることができない棟方の絶望は、同じ灰色の空の下をさすらう私たちが抱えている悲しみそのものである。

主演の渡辺一志は、触れると壊れそうな繊細さと暴発しそうな凶暴さをあわせ持つ心に残る棟方を生み出した。奥秀太郎が最も信頼する同世代の作家として作品を支えている。ゆかり役はオーディションで発掘した高校2年生の楊サチエ。天真爛漫さの中に冷めた眼を持って、棟方に寄り添う少女を美しく誠実に演じている。
このほか、田口トモロヲ、古田新太、飯田孝男、小松和重、内田春菊pという日本の映画や舞台の中心で活躍する役者たちが出演。忙しいスケジュールを割いて駆け付けたことからも若い才能に対する期待と信頼を表している。
撮影現場にセットを組んだ独房のような棟方の部屋は、壁面に中古の芝居用の平台を使った。3畳ほどの殺伐とした空間ながら、多くの役者が踏みしめたであろう平台の傷や汚れからは、不思議なぬくもりが伝わってくる。照明には柔らかに発光する裸電球を使い、ほとんどの役者がノーメイクでカメラの前に立った。若いスタッフに支えられた撮影現場では、既存の映画、フィルムの常識を超えた新しいデジタルムービーの手法が次々と生み出されていった。
奥秀太郎の映画は、孤独や怒り、やりきれなさが満ちていながらも、人間に対するやさしさや、生きることのせつなさがにじみ出る。現実と虚構、愛撫と暴力、繊細と大胆、2つの極の間を激しく行き来する映像は、奥秀太郎という才能を通じて、現在進行形の日本の姿を映し出す。

ストーリー



 戦後日本の繁栄を支えた京浜工業地帯の中心都市・川崎を象徴する町、‘夜光’。15歳で母親殺しという許されない罪を犯した男、棟方(渡辺一志)は、医療少年院を出て、この町にたどり着く。精密機械の試作品を製造する小さな工場「国際電子工業」に拾われ、住み込みで働くことになる。
 自分らしく生きる自由な生活が始まる—。そんな淡い期待は翌日から打ち砕かれる。塵と埃にまみれ、半田付けの煙が充満する工場は、上司である毛(古田新太)の下品な笑い声が虚しく響き渡るばかり。薄汚れた工場と、映りの悪いテレビしかない狭い部屋との往復。待ちに待っていた新しい生活は、感動も刺激もない、ただ平坦な日々だった。
 そんなある日、一人の少女ゆかり(楊サチエ)が部屋を訪ねてくる。「マルテル会・準川崎福音教会」と名乗る怪しげな教会をこの地で開く牧師松村(田口トモロヲ)の娘だ。ゆかりは、「コミュニケーションを取りたいんです」と屈託ない笑顔で話し掛け、仲間が集まる日曜学校へと誘う。

 一方、父親の松村からはテレビの旧型テレビリモコンをピストルに改造する秘密の仕事を依頼され、棟方はおそるおそる引き受ける。改造に必要なパーツを扱う田村工業を訪ねると、国際電子工業と以前から因縁のある店主の田村(岸建太朗)に不良品を持たされ、怒った松村からは作り直しを命じられる。大人同士の激しい対立に戸惑う棟方。優しく見守る田村の妻・和江(内田春菊)の計らいで、なんとか新しいパーツを手に入れる。リモコン銃の製造が軌道に乗ると同時に、遠い日の母親の記憶が重なる和江と棟方の関係も深まっていく。
 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。棟方の脳裏には、10年前に犯した許されない罪の肌触りと、医療少年院で受けた説教師(今奈良孝行)の言葉がフラッシュバックし始める。そして工場の経営者大森(飯田孝男)の死をきっかけに、残酷な現実が次々とピストルのように棟方に突きつけられていく。
 夜光の不穏な曇り空。それは人間が犯した罪を覆い隠そうとしているようで、生きながらえた命の欠片を静かに包み込んでいくようでもある。

スタッフ

監督:奥秀太郎
脚本・監督:奥 秀太郎
美術:江津匡士
撮影監督:蔭山周
撮影:工藤里沙
スチール:大山ケンジ
デザイン:野寺尚子
編集協力:アクティブ・シネ・クラブ
協力:キヤノン販売株式会社
製作:M6 TRANCE PICTURE WORKS
配給・宣伝:NEGA

キャスト

渡辺一志
田口トモロヲ
古田新太
内田春菊
楊サチエ
小松和重
岸建太朗
飯田孝男
今奈良孝行

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