原題:Hundstage

2001年/オーストラリア/カラー/121分/ 配給:イメージフォーラム

2006年5月6日、シアター・イメージフォーラムにて公開

公開初日 2006/05/06

配給会社名 0250

解説

おおいぬ座のシリウスが天頂に輝く1年中で最も暑い日々(ドッグ・デイズ)、人々はそれぞれの欲望を解き放つ・・・ウィーン郊外の新興住宅地に暮らす一見「普通」の人々の内側に潜む狂気があぶり出される。離婚後も同居する元夫婦。妻は秘密のセックス・クラブに通い、夫は空っぽのプールでスカッシュをし続ける。銃を突き付けられ、ズボンをおろされた男が、オーストリア国歌を歌わされる。頑固者の老人が、家政婦の老婆のストリップを鑑賞する。ヒッチハイクを繰り返し、不快なおしゃべりと歌で人をいらだたせる女には、残酷な仕置きが住民たちによって科せられる。愛を求める孤独な心は、やがて嫉妬と怒りを爆発させ、性と暴力への欲望をはらんで疾走する。

『Animal Love』(95)、『Models』(99)などのドキュメンタリーで評価を得てきたウルリヒ・ザイドル監督が、その方法論を活かして長編劇映画に初挑戦した本作は、2001年度ヴェネチア国際映画祭で大反響を巻き起こし、同映画祭審査員特別大賞を受賞した。カオスと狂気を描き出すことで知られるドイツの巨匠、ヴェルナー・ヘルツォークは「私はザイドルほどには地獄の部分を直視していない」と驚嘆。人間性を、その負の部分も含めて徹底的に描き出したこの群像劇に対して、海外での上映時、観客の意見は賞賛と否定のまっぷたつに分かれた。映画の内容の過激さゆえに日本公開は一時危ぶまれたが、その強力な賞賛の声に押されて、ついに問題作『ドッグ・デイズ』がその姿をあらわす。

ウィーン・フィル、ウィーン・オペラ、少年合唱団、壮麗なバロック建築…。オーストリアの首都ウィーンは古くからヨーロッパ文化の中心地として栄えてきた。しかし、反面その文化的な伝統が重くのしかかっている都市とも言える。それゆえか、ウィーンはそれまでの価値観に対抗し、それを覆す過激な表現を生みだしてきた地でもある。その斬新さのあまり生前殆ど理解されなかったモーツァルト、19世紀末-20世紀初頭のギュスタフ・クリムトやエゴン・シーレ、現代音楽の祖アーノルド・シェーンベルク、20世紀半ばには過激な身体パフォーマンスを含む前衛美術運動ウィーン・アクショニズムのアーティストたちもこの都市から輩出された。現代の映画界では、やはり革新的な切り口、賛否を巻き起こす作風で知られる巨匠、ミヒャエル・ハネケ監督(『ファニー・ゲーム』、『ピアニスト』)があげられるだろう。ザイドル監督の過激さや『ドッグ・デイズ』に描かれる人々の狂気の原点にはそうした背景がある。この作品からはヨーロッパの文化が行きつく最果てが見えてくるはずだ。

ストーリー

自分の恋人クラウディアが踊るのを見ていたというだけで、ディスコで見知らぬ客に突然殴りかかる男、マリオ。帰り道「腐った売女」とののしられ、車から引きずり出されたクラウディアはひどく傷つく。

子供を事故で亡くした後、離婚した夫婦。妻が連れ込んだ愛人が家でくつろいでいるのをみた夫は、愛人に拳銃を突きつけて脅す。

愛犬を絶対的に信頼して暮らす頑固で偏屈な老人、ヴァルター氏。結婚50周年の記念日に、太った中年家政婦に今はいない妻のドレスを着させてストリップをさせ、満足げに鑑賞する。

目的地のないヒッチハイクを繰り返す女、アナは騒々しいCMソングや不愉快なおしゃべりで車の持ち主をイライラさせる。その上、勝手にカバンの中や持ち物を漁って嫌がられ、最後にはいつも車から降ろされる。

警備会社の訪問セールスマン、フルビィ氏は、車に傷をつけた犯人を探し出せと顧客たちから責められて困り果て、アナを捕まえて怒りに燃える住民たちの前に差し出す。アナは彼らによって暴行を受ける。

年下の恋人を持つ女教師は、恋人ヴィケールと彼の男友達のラッキーに無理に酒を飲まされて、しつこく乱暴な嫌がらせを受ける。翌日再びやって来たラッキーは、前夜の振る舞いを反省し、復讐と称してヴィケールを銃で脅し、謝らせようとする。しかし彼女は「それでも愛してる」と彼をかばう。
 
町中の人々を狂わせるような暑さが頂点に達したとき、激しい雷鳴が轟き、まるで人々の熱を冷ますかのように強い雨が降りしきる。

女性教師の態度にぼう然として、銃を振り回すのをやめ、一人泣くラッキー。解放されたアナは雷の中を黙りこくって歩き続ける。クラウディアは母と住んでいる家の窓から外をぼんやりと眺めている。愛犬を何者かによって殺されたヴァルター氏はがっくりと肩を落す。そして、元夫婦はかつて子供が遊んだ庭のブランコに並んで座り、ただ無言で揺られているのだった。

スタッフ

プロデューサー:ヘルムート・グラッサー、フィリップ・ボベール
監督:ウルリヒ・ザイドル
脚本:ウルリヒ・ザイドル、ヴェロニカ・フランツ
撮影:ヴォルフガング・ターラー
録音:エッケハルト・バウムング
編集:アンドレア・ヴァーグナー、クリストフ・シェルテンライプ
美術:アンドレアス・ドンハウザー、レナーテ・マルティン
衣装:ザビーネ・フォルツ
キャスティング:マルクス・シュラインツァー、エファ・ロート
助監督:ヴェロニカ・フランツ、クラウス・プリドニク

キャスト

アナ:マリア・ホーフステッター
フルビィ氏:アルフレート・ムルヴァ
ヴァルター氏:エーリヒ・フィンシェス
家政婦:ゲルティ・レーナー
クラウディア:フランツィスカ・ヴァイス
マリオ:ルネ・ヴァンコ
元妻:クラウディア・マルティーニ
元夫:ヴィクトール・ラートボーン
元妻の愛人:クリスティアン・バコンニ
女教師:クリスティーネ・イルク
ヴィケール:ヴィクトール・ヘンネマン
ラッキー:ゲオルク・フリードリヒ

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