玲玲の電影日記
原題:Electric Shadows / 夢影童年
2006年1月19日香港公開
2004年/中国/カラー/104分/ビスタサイズ/ドルビーSR/字幕:佐野ちなみ 配給:アルバトロス・フィルム
2006年11月02日よりDVDリリース 2006年5月13日、シアターN渋谷にてロードショー!
公開初日 2006/05/13
配給会社名 0012
解説
中国映画界にまたひとつ、新しい才能が誕生した。本作がデビュー作となるシャオ・チアンは、文革時代を背景に映画を愛する家族の人生をノスタルジックな映像美で描き出した。物質的にも精神的にも豊かだったとは言えない1972年の中国に生まれた彼女は、自身の子供時代に体験した、野外映画館の懐かしい記憶を3年の月日を費やして脚本に綴った。政治的な窮屈さをのぞかせながらも、母と娘が辿った激動の人生を心温まる家族愛の物語に昇華させた手腕は見事で、各国の映画祭で絶賛されている。
物語は、北京で働く青年ダービンが、ある事故をきっかけに知り合った少女の日記を偶然読むところから始まる。日記には彼女の幼い頃の想い出が綴られていた。舞台は文革真っ只中の1971年、中国西北部の田舎町。少女の母はかつて映画スターを夢見た美しい女性で、娘は大好きな母と野外映画館に行くのが楽しみだった。父親はいなくても母と映画があったから、暮らしは貧しくても楽しかった。でもそんな幸せも長くは続かなかった。幼なじみの少年との別れ、母の再婚と新しい父・異父弟の存在、野外映画館の閉館、そして悲しい旅立ち・・・。
母がいつも聞かせてくれた歌、幼なじみの少年と走った草原、屋根の上に登って見た野外映画館のスクリーン・・・家族と別れた孤独な少女はその頃の記憶だけを胸に生きてきた。そしてかつての幼なじみダービンによって明かされる、優しい真実。その切なさに涙せずにはいられない。長い年月の中で離れてしまったそれぞれの人生が、映画を愛し続けたことで再び寄り添う珠玉の感動作。まさに中国版ニュー・シネマ・パラダイスと言えるだろう。
日記を読むことで母娘の人生の語り手の役割を果たすのは、中国映画界を代表する若手実力派、シア・ユイ。映画を愛する青年として母娘の人生にやさしい眼差しをそそぐ温かさは、ヴェネチア国際映画祭主演男優賞を受賞した『太陽の少年』の少年役や、4人の兄姉弟妹の別れと再会を感動的に描いた『再見〜また逢う日まで〜』の弟役に続き、その印象を残した。リンリンの母親には『鬼が来た!』でチアン・ウエンの妻役を演じたチアン・イーホン。映画スターに憧れる時代を華やかに若々しく、また妊娠・出産を経て母親としての希望・絶望を繰り返す難しい役どころを丁寧に演じ分けた。また、北京電影学院で演技を学ぶチー・チョンヤンが女優デビューを飾るほか、子どもたちの瑞々しい演技が物語を盛り上げている。
文革時代、中国内外の映画のほとんどが発禁処分となり、国内で上映が許可されたのは当時中国と友好関係のあった、ごく小数の国の作品に限られていた。生きる希望を失ったリンリンの母親が自殺を思いとどまるのは、そのときに見たアルバニア映画『Victory Over Death』に勇気づけられたからである。そのほか、中国でもっとも人気のあるクラシック映画『馬路天使』(邦題:街角の天使/1937年)ほか随所にちりばめられた古き懐かしい日本未公開の中国映画や、30〜40年に活躍したスター歌手・周璇(チョウ・シュアン)の映像なども必見である。
ストーリー
毛大兵(マオ・ダービン)は北京で水の配達の仕事をしている。映画好きの彼は、ある日の夕方、仕事の帰りに自転車で急いで映画館に行く途中で通りに積まれたレンガに突っ込んでしまう。起き上がろうとすると、真っ青になった少女が突然目の前に現れ、傍にあったレンガでダービンの頭を思い切り殴りつけた。
病院で目覚めたダービンは頭に傷を負っていた。警察官の説明によれば、彼は仕事をクビになった上、壊れた自転車の弁償を求められているという。ダービンは自分を殴った少女を怒鳴りつけるが、彼女は何も聞こえていないようだ。そして彼に自分のアパートの鍵と「お魚に餌をあげて」というメモを渡すのだった。映画ポスターやスチール写真、切り抜きなどが壁一面に飾られた彼女の部屋を見て、ダービンは彼女も自分と同じく映画が好きなのだと知る。そしてふと見つけた日記を読み始めると・・・。
1971年。中国の田舎町、寧夏(ニンシャ)。チアン・シュエホアは公共放送の花形アナウンサーで、戦前のスター、チョウ・シュアン*のような女優になることを夢見て地元の劇団に参加していた。そんな輝くばかりの美しいときに彼女は危険な恋に落ち、身ごもった。しかし、恋人に捨てられ、女優への夢も諦められなかったシュエホアは遠くで秘密に子供を産み、里子に出すことを決める。出発の夜、彼女は野外映画館で上映中に産気づき、映写技師のパン氏の助けで出産する。子供は女の子で玲玲(リンリン)と名づけられた。シュエホアは父親の名前を明かさず、そのために職を失った。世間からの冷たい視線に耐えられず死を選ぼうとするが、そのとき見たアルバニア映画に勇気づけられ生きる希望を見出す。映画スターへの夢をきっぱり諦めたシュエホアは、母親としての喜びに目覚め、貧しいながらも落ち着いた暮らしを取り戻す。リンリンは母親の映画への愛を受け継ぎ、母娘でパンおじさんの野外映画館を度々訪れるのだった。
そんなある日、リンリンのクラスに毛小兵(マオ・シャオビン)という問題児が転校してきた。ケンカしながらもやがてふたりは親友になり、シャオビンは虐待する父親から逃げるようにリンリンの家に身を寄せ家族のように暮らし始めるが、ほどなく祖父母の家に引き取られ離ればなれに。別れ際シャオビンはリンリンに、彼曰くどんな映画も見ることができる魔法の双眼鏡をプレゼントする。
そんな時、リンリンの母は映写技師のパン氏と結婚することになったが、リンリンは素直に喜べなかった。さらにふたりの間に生まれた異父弟ビンビンに母の愛情が向けられると、リンリンは弟に嫉妬し恨むようになる。映画スターを夢見て受験した少年宮*の試験に合格したリンリンとビンビンだが、二人分の学費を払う余裕がなく弟だけが入学することになり、リンリンはここでも我慢を強いられる。テレビが台頭し、映画人気が落ちていく中、パン氏の野外映画館はとうとう閉館することになった。最後の上映の日、悲劇が起こってしまった。リンリンと貯水塔のてっぺんから映画を見ていた弟が誤って転落死してしまったのだ。パンおじさんは怒りを抑えられずリンリンを殴り、彼女は永遠に聴覚を失うことになる…。
リンリンの日記にダービンは大きなショックを受けた。彼こそがリンリンの幼少期の親友シャオビンだったのだ。彼は警察から今リンリンが精神療養所にいること、そして道で突然彼に殴りかかった理由を聞く。彼が倒したレンガの下敷きとなり、彼女の大切な犬が死んでしまったのだ。リンリンのアパートのバルコニーで、ダービンは自分が昔プレゼントした望遠鏡を見つける。それはすぐ近くの家に向けて固定されていた。そして望遠鏡を覗いた彼が見つけたのは、懐かしいふたりの人物だった…。
*チョウ・シュアン(周璇):1918年生まれ。30〜40年代上海のナイトクラブで活躍した歌手。その歌声はゴールデンボイスと呼ばれ200曲以上を録音したが、多くはレコードにならず終わった。映画にも出演。1957年37歳で病死している。
*少年宮:地域ごとに設けられた少年少女の学校外教育施設。胡弓・ピアノ・バイオリン・舞踊・絵画・書道などの芸術、武術・囲碁・コンピューター・英会話など、あらゆるカリキュラムが設置されている。親の費用負担は軽くないが、少年宮で才能を開花させ各界へと進出していく子どもたちも少なくないため、期待を抱く親が多い。
スタッフ
監督・脚本:シャオ・チアン(小江)
製作総指揮:ジョン・シャム(岑建勋)
製作:ホアン・チェンシン(貴建新)、デレク・イー(爾冬升)
撮影:ヤン・ラン(杨轮)、チェン・ホン(陳洪)
美術:フー・トーリン(付?林)
音楽:チャオ・リン(逍麟)
キャスト
シア・ユイ(夏雨)
チアン・イーホン(姜易宏)
リー・ハイビン(李海濱)
クアン・シャオトン(關曉彤)
チャン・イージン(張懿靖)
チー・チョンヤン(齋中晹)
ワン・チャンジア(王正佳)
LINK
□公式サイト□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す