原題:Copying Beethoven

トロント映画祭にてワールドプレミア上映

2006年/イギリス、ハンガリー/カラー/英語/104分/SRD/シネマスコープ 字幕翻訳:古田由紀子/字幕監修:平野昭/字幕アドバイザー:佐渡裕 配給:東北新社

2007年11月07日よりDVDリリース 2006年12月9日、日比谷シャンテシネ、新宿武蔵野館、他にて全国ロードショー

(c)2006Film & Entertainment VIP Medienfonds2 GmbH & Co. KG

公開初日 2006/12/09

配給会社名 0051

解説



耳の聴こえない悲劇の《楽聖》と呼ばれ、世界中の人々に愛された
最も偉大な音楽家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。
生涯に渡り、愛を成就できなかった孤独な音楽家の狂気と苦悩を描いた、
ベートーヴェン史上最高傑作の映画が誕生した!

 当時、モーツァルトを代表する音楽家の誰もが宮廷や貴族に仕える中、唯一誰にも仕えず作曲活動を行ったベートーヴェンは、音楽家として初めて自立した芸術家であり、孤高の天才音楽家として知られている。しかし、耳が聴こえなくなる病を患うなど、他にも様々な持病を抱え、溺愛する甥にも裏切られた彼の私生活は、苦悩に満ちたものだった。
 本作品は、ベートーヴェンの晩年に焦点をあて、史実に基づきながらも、今なお謎とされる3人目のコピストを女性として、”歴史に隠されたもう1つの物語”として描かれる。
 ”第九”が生み出された背景には、いったいどんなドラマが存在したのであろうか?音楽史上、最大のミステリーに本作は、53歳の孤独なマエストロと23歳の若き作曲家志望の女性が、音楽を創作していく過程で、師弟愛を超越した魂の絆で結ばれていく姿を、濃密に、ウィーンの街を舞台に描かれる最高の音楽ドラマとなっている。
 ベートーヴェンを演じるのは、監督のホランドと『ワルシャワの悲劇/神父暗殺』などでコンビを組んだエド・ハリス。『アポロ13』など、4度のアカデミー賞ノミネート歴を誇る名優が、実在の天才音楽家を演じるのは、自ら監督も兼ねた『ポロック 2人だけのアトリエ』に続いて2度目。本作でも事前に入念な準備を行い、演奏、指揮、作曲のすべての面で完璧な役作りの成果を披露。狂気と純粋さを併せ持ち、音楽家としての苦悩と孤独、耳の聴こえない悲しみを背負ったベートーヴェンが、才能を認め、必要としたアンナという理解者を得ることで、人間として音楽家として成長を遂げていく過程をきめ細かく演じ、演技派の底力を見せつける。
 そんなハリスの相手役として、共に映画の格調高いクオリティを支えているのが、『戦場のアリア』でアカデミー外国語映画賞候補になった好演が記憶に新しいダイアン・クルーガー。彼女が演じたアンナ・ホルツは、ベートーヴェンが心で聞いた音楽を、世界に伝える役目を担ったコピスト(写譜師)。譜面を書き写すだけではなく、修正が加えられるほどベートーヴェンの音楽を深く理解している彼女は、ベートーヴェンの作曲活動に欠かせない右腕になると同時に、彼の孤独を癒し、魂を浄化する天使の役割をも果たすことになる。その一方、女性作曲家を認めない時代に、婚約者との愛に生きるか、音楽家として生きるか、人生の選択を迫られるアンナ。現代女性の共感をも呼ぶ要素を多く持つキャラクターをクルーガーは、気品と凛々しさをたたえて熱演、清々しく、毅然とした美しさで魅了する。
 脚本は、『ニクソン』でアカデミー賞候補になったクリストファー・ウィルキンソンとスティーヴン・J・リヴェルのコンビ、多くの資料を携えほとんど史実に基づいた世界を構築した。その他に、イギリス映画界で活躍するベテランが顔を揃えている。絵画的だが躍動感に溢れた映像を作りあげた撮影監督、『アルフィー』『カレンダー・ガールズ』のアシュレイ・ロウ。19世紀に存在した素材のみを使い、ベートーヴェンの住居を再現したプロダクション・デザインに『ラヴェンダーの咲く庭で』など手掛けたキャロライン・エイミーズ。「年老いたポップ・スター」をイメージしてベートーヴェンの服装を考案した衣装デザインは、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』のジェイニー・ティーマイムが手がけている。
 監督は、レオナルド・ディカプリオ主演『太陽と月に背いて』で、世界中にセンセーションを巻き起こしたアニエスカ・ホランド。主人公ランボーと同じく芸術家を主人公に据えた本作では、ベートーヴェンの複雑な人間描写に、女流監督ならではの繊細さを発揮。さらに、コピストをつとめるヒロインのアンナが、ベートーヴェンと互いに尊敬しあい、創作活動を進めていく中、愛と芸術の深淵に触れていく様を、こまやかなエピソードとして丹念に拾いあげ、観る者に深い感動を与えている。
 とりわけ魅力溢れるのは、耳の聴こえないベートーヴェンの指揮のもと”第九”が初演されるシーンだ。耳の不自由さで不安と恐怖を抱えながら指揮台に上るベートーヴェンと、彼から見える位置に座り、テンポと入りの合図を送るアンナ。彼女の指先から繰り出されるリズムが、ベートーヴェンの指先に伝わり、ひとつに溶け合ってオーケストラに音楽を奏でさせていく。それが<愛の交歓>に感じられるほど、ホランド監督は、このシーンを官能的な映像で描写、『歓喜の歌』をハイライトにした10分間を、映画史に残る名場面に仕立てあげている。

ストーリー



 1824年のウィーン、”第九”の初演4日前。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(エド・ハリス)は、まだ合唱パートが完成してなかった。途方に暮れていたベートーヴェンの音楽出版社シュレンマー(ラルフ・ライアック)は、音楽学校にベートーヴェンのコピスト(写譜師:作曲家が書いた楽譜を清書する職業)として一番優秀な生徒を依頼していた。そこに現れたのは作曲家を志す若き女性アンナ・ホルツ(ダイアン・クルーガー)だったのだ。思いも寄らない女性コピストの登場に、困惑するシュレンマー。彼は、今回の仕事相手は「あの”野獣”ベートーヴェンだぞ」と告げ、アンナを追い返そうとするが、ベートーヴェンの名を聞いたアンナは、期待のあまり目を輝かせてしまう。アンナは、ベートーヴェンを尊敬し彼の音楽を愛していたのだ。早速アンナは、シュレンマーに代わって写譜を始め、出来上がった原稿を持ってベートーヴェンのアトリエを訪ねて行く。
 期待に反し、女性のコピストが来たことに激怒するベートーヴェンは、彼女の写譜した原稿を見るなり、音符の写し間違いを指摘する。そんなベートーヴェンに対し、「あなたなら、ここは長調にしません。だから短調に修正したんです」と、きっぱり言い切るアンナ。その一言で、ベートーヴェンには、アンナがただならぬ才能の持ち主であり、同時に自分の音楽を深く理解していることがわかった。「私の音楽をこれほど認めてくれるとは」と嫌味を言いながらも、彼はアンナの才能を認め写譜の仕事をまかせることにした。
 翌日からベートーヴェンの部屋に出入りするアンナは、”第九交響曲”の誕生に手を貸す喜びを味わうかたわら、尊敬する巨匠の孤独な人生を垣間見ることになる。ベートーヴェンは、甥のカールを溺愛し、ピアニストにさせようとしていたが、才能のなさを自覚するカール(ジョー・アンダーソン)にとって、叔父の愛情と期待は重荷だったのだ。
 ついに迎えた”第九”初演の日。ドレスを身にまとい劇場へやって来たアンナは、婚約者のマルティン(マシュー・グード)が用意した席に座ろうとした時、シュレンマーが現れる。アンナを舞台裏へと連れていった彼は、指揮棒を振るベートーヴェンにテンポの合図を送る役目を、代わりにアンナに頼みたいと懇願する。そのアンナが舞台裏で見たのは、耳の不自由さで満足に指揮棒を振れない不安と恐怖に駆られた、ベートーヴェンの姿だった。アンナは、そっと手を取り、「私がいます」と励まし、その言葉に勇気を取り戻したベートーヴェンは、アンナに楽譜を手渡してオーケストラの指揮台に立つ。そしてアンナは、バイオリン奏者たちの後ろの足元にうずくまった。指揮棒を振り上げようとするベートーヴェンの目が、アンナの視線をとらえる。その目を力強く見返しながら、静かに合図を送るアンナ。こうして二人三脚の指揮による歴史に残る”第九”の演奏が始まった。演奏が終盤になるにつれ、観客は”第九”の世界に魅了され、いつの間にか甥のカールまでもが現れ演奏に聞き入っていた。第4楽章「歓喜の歌」の演奏終了と共に鳴り響く拍手喝采の音。総立ちの観客、自然と涙する甥カール、劇場中にこだまする大歓声、指揮をやり終えたベートーヴェンに届いていないことに気づいたアンナは、指揮台のベートーヴェンを客席に振り向かせた。観客の熱狂ぶりを見て大喜びのベートーヴェンは、「2人でやり遂げた!」と、アンナに賞賛の言葉を贈る。
 その興奮がさめやらない翌日、ベートーヴェンに署名入りの”第九”の譜面を贈られ、感激するアンナ。そこで作曲した曲をベートーヴェンに見せるが、彼の無神経な反応に心を深く傷ついてアパートを飛び出してしまう。アンナの後ろ姿を見て、自分の過ちに気づいたベートーヴェンは、アンナの下宿先である修道院を訪ね、楽譜に「この曲を一緒に完成させよう」とメモを添えて許しを請うた。それ以来、アンナは、ベートーヴェンの指導のもとで曲作りに没頭する。形式や構成にこだわり、作曲する彼女に、「曲は生き物だ。形を変える雲だ」と教えるベートーヴェン。心を無にし、魂で音を感じることの大切さを、学んでいくアンナに「君は私になりたがっている」と、ベートーヴェンはアンナへ苦言を呈していた。そんな中、”第九”に次いで完成した《大フーガ》の演奏会は、演奏の最中に聴衆が次々と席を立ち、最後まで残っていた大公にまでも「思っていたより耳が悪いんだな」と酷評され、さんざんな結果に終わってしまう。それを、「予想どおりの結果だ」と強気に受け止めるベートーヴェンだったが、心労は思いのほか大きく、無人の客席に倒れてしまう……。

スタッフ

監督:アニエスカ・ホランド
脚本・製作:クリストファー・ウィルキンソン
製作:シドニー・キンメル
製作:マイケル・テイラー
脚本・製作:スティーヴン・リヴェル
制作:ロナルド・ヴァスコンセス
撮影監督:アシュレイ・ロウ
美術:キャロライン・エイミーズ
衣装:ジャイニー・テマイム

キャスト

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:エド・ハリス
アンナ・ホルツ:ダイアン・クルーガー  
マルティン・バウアー:マシュー・グード 
ウェンツェル・シュレンマー:ラルフ・ライアック 
カール・ヴァン・ベートーヴェン:ジョー・アンダーソン
ルディー:ビル・スチュワート 

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