第43回ニューヨーク映画祭出品 2005年カンヌ国際映画祭監督週間出品

配給:ワコー、グアパ・グアポ

2006年09月22日よりDVDリリース 2006年1月14日よりユーロスペース 他にてロードショー

(C)2006「カミュなんて知らない」製作委員会 Copyright 2004 (c) Cinema Service Co., Ltd.

公開初日 2006/01/14

配給会社名 0321/0231

解説


それはママンを埋葬した日と同じ太陽だった。
あのときのように、特に額に痛みを感じ、ありとある血管が、
皮膚のしたで、一どきに脈打っていた。
焼けつくような光に堪えかねて、私は一歩前に踏み出した。
アルベール・カミュ「異邦人」(窪田啓作訳)より

「人殺しを経験してみたかった。人を殺したらどうなるか、実験してみたかったと言ってもいいです」。2000年5月、愛知県豊川市で実際に起きた老婆刺殺事件。その犯人である男子高校生の証言を手がかりに、都心のキャンパスに通う大学生たちが、この衝撃的な事件の映画化に取り組んだ。彼らの<殺人>をめぐる動揺や、<犯人>に対する共感と反撥、そして映画製作と濃密な関係を深めるにつれ、私生活で複雑に錯綜してゆく<愛>のゆくえ。現代を生きる等身大の若者像を鮮烈に刻印した、新しい青春映画の誕生である。

都心にある大学キャンパス。“映像ワークショップ”を受講する学生たちは、高校生が犯した<不条理殺人>をテーマに、「タイクツな殺人者」と題された映画を製作することになった。クランクイン5日前、主演俳優が突然降板し、助監督の久田は代役探しに奔走する。一方、監督の松川は妄信的な恋人ユカリの存在に悩まされていた。やがて、主役の代役に演劇サークルの池田が抜擢され、こうして撮影リハーサルが始まるが、<殺人>をめぐるテーマの解釈について、松川は久田や池田たちと対立を深めてゆく。果たして、狂騒と白熱の映画製作の渦中に投げ出された学生たちは、無事、「タイクツな殺人者」をクランクインさせることができるのだろうか……。

映画という集団作業における非日常環境に置かれた学生たちは、一方で、恋愛問題や就職活動といった個人的な現実に苛まれている。ごく平凡な高校生が犯した殺人や暴力について、喧々諤々と口論を繰り返すうちに、彼らの立ち惑う青春の焦燥や奔放な愛のエネルギーが、映画製作の現場に大きな影響を与えてゆく。そして取り返しのつかない決定的な出来事が!青春の無軌道さと生真面目さを同居させた彼らが、<不条理殺人>の向こうに見い出したものとは?

本作のタイトルに引用されている「カミュ」とは、言うまでもなく20世紀のフランス文学を代表するノーベル賞受賞作家アルベール・カミュのことである。1913年、アルジェリア生まれの彼が27歳のときに発表した小説「異邦人」は、“太陽が眩しかったから”殺人を犯した主人公ムルソーの<不条理殺人>が社会現象となる衝撃を生み出した。それから60年後の2000年、老婆刺殺事件の犯人である男子高校生は、“人を殺したらどうなるか実験してみたかった”とその殺人動機を語り、<現代版ムルソー>と喩えられるなど、センセーショナルな話題を巻き起こしたのは、今も記憶に新しい。

その「異邦人」と老婆刺殺事件に共通する<不条理殺人>をモチーフに、殺人の衝動と倫理、生と死の本質という難題を、文字通り<カミュなんて知らない>世代である現代の大学生たちに問いかけるという、野心的かつ斬新なアプローチを展開させた監督は、『さらば愛しき大地』『チャイナシャドー』など既成の映画ジャンルを超越した精力的な映画作りを続ける柳町光男。『旅するパオジャンフー』以来となるこの最新作では、こうして学生たちの間で生まれる波紋のゆくえを、映画製作の現場で意気盛んなキャンパスライフを縦糸に、事件に対するアプローチを探求し続ける彼らの創造力を横糸に、繊細かつ大胆に紡ぎあげ、疾走感あふれる“柳町ワールド”、その新境地を拓くのに成功した。とりわけ、老婆刺殺事件へと至るクライマックスは圧巻で、その身も凍るような迫真のシーンは、観る者に現実と虚構の狭間を衝撃的に突きつけることは間違いないだろう。また、映画製作の現場を舞台にしているだけに、『アデルの恋の物語』や『ベニスに死す』、そしてヌーヴェルヴァーグの名作の数々が、オマージュにも似たパロディとしてたっぷりと盛り込まれているのも、注目すべきユニークさである。
出演は、ハンサムだが女と金に優柔不断な監督の松川に、『きょうのできごと』『血と骨』など今や気鋭の日本映画には欠かせない男優のひとりとなった柏原収史。松川の恋人で、『アデルの恋の物語』の“アデル”のような妄信的なユカリに『TOKYO EYES』でヨーロッパの映画人から高く支持された個性派、吉川ひなの。その生真面目さゆえに自身に混乱を抱えてしまう助監督、久田に『バトルロワイヤルⅡ 鎮魂歌』などで成長著しい前田愛。物語の鍵を握る“異端児”池田に『PAIN』の主演で注目された新鋭、中泉英雄。そして、大学教授を魅了して翻弄するレイに黒木メイサのほか、期待の若手俳優が丁々発止のアンサンブルを織りなしている。また彼らの指導教授で、学生たちから“『ベニスに死す』のアッシェンバッハ”と称される元映画監督の中條に本田博太郎。学生の若さの傍観者的存在として、妻に先立たれた男の老いの悲哀を際立たせた名演は必見だ。

撮影は『はつ恋』『お墓と離婚』の名手、藤澤順一。音楽は国際的ミュージシャンとして活躍し、柳町作品では『チャイナシャドー』『旅するパオジャンフー』に続く3度目のコラボレーションとなる清水靖晃。

都会の異空間であるかのような視覚的効果あふれる大学キャンパスは、2004年に創立130年を迎えた立教大学が特別協力というかたちで賛同、全編にわたってロケ撮影されているほか、池袋西口界隈の街並みが青春映画に相応しい若さの臨場感を醸し出している。また立教大学の映画研究会を中心に、多くの学生スタッフが参加、キャンパス内でヒップホップダンスやパントマイムに興じる学生たちの奮闘ぶりも、作品の瑞々しい躍動感の一端を担っている。
本作は、2005年5月のカンヌ国際映画祭<監督週間>に出品され、さらに秋にはニューヨーク映画祭で公式上映を果たすなど、国際的にも高い評価を獲得した新たなる“柳町ワールド”最新作、ついにその全貌が明らかになる!

ストーリー


月曜日。大学の正門前で、助監督・久田喜代子(前田愛)が携帯電話を掛けている。文学部の授業<映像ワークショップ>のカリキュラムで製作される映画『タイクツな殺人者』の主演俳優が突然役を降りてしまったのだ。クランクインまであと5日。一刻も早く代役を探し出さねばならない。監督の松川直樹(柏原収史)を始め、撮影担当・本杉(阿部進之介)、制作担当の上村(鈴木淳評)、美術担当で社会人学生の大山(田口トモロヲ)、指導教授で元映画監督の中條(本田博太郎)が続々と姿を見せた。代役の候補に上がっているのは、演劇サークルの風変わりな青年・池田哲哉(中泉英雄)。稽古中の舞台に乗り込み、なんとか出演の了承を取り付けた。

一方で個々で恋愛・就職などの個人事情も抱えていた。松川には、長い間別れられない恋人のユカリ(吉川ひなの)がいる。彼を熱烈に愛し、執拗につきまとうユカリ。松川を追いかけ、彼のいるこの大学に転入までしていたのだ。結婚話まで持ち出すユカリにうんざりしながらも、裕福なユカリに借金までして、別れることは出来ない。山岳部の西浦(玉山鉄二)と付き合っていつ久田は、合宿に出発する西浦を見送りに行く。冷やかし半分でそれを見ている本杉たち。だが本心は嫉妬に燃えているのである。

翌日から怒涛の日々が始まった。映画の原作は、実際に起きた高校生による老婆殺人事件を題材にしたノンフィクション「退屈な殺人者」。“一度人間を殺してみたかった。殺したらどうなるか実験してみたかった”という主人公の心理解釈を巡って、松川と久田は激しい議論を戦わせる。民家に侵入し老婆を殺害したとき、少年の精神状態は「異常」か「正常」か、一体どちらだったのだろう。スタッフルームに集まった製作の吉崎(伊崎充則)、助監督の中根(金井勇太)、スクリプターの綾(たかだゆうこ)らも準備に奔走している。

学生たちを穏健に見守る指導教授・中條も、陰では学生たちにアッシェンバッハ(『ベニスに死す』でダーク・ボガードが演じた作曲家)と揶揄されている。かつて映画監督として鳴らした彼は、15年前に現場から遠ざかり、今では大学の教授として学生に映画を教えているのだ。私生活では2年前に妻を病気で亡くして以来、孤独な日々を送っている。しかし彼の視線の先には、最近密かに淡い思いを寄せる美しい女子大生レイ(黒木メイサ)がいた・・・。

連日のハードスケジュールによる疲弊とハイテンションの持続が、学生たちの間に新たな恋の火花を迸らせる。リハーサル中にまたしても松川と言い争い、取り乱して泣き出してしまった久田は、かねてから彼女に思いを寄せていた本杉に優しく慰められ、思わずキスをしてしまう。さらに池田もまた人懐っこい性格と両性具有的な妖しさで、次第に「台風の目」のように周囲を撹乱し始める。久田を待ち伏せて「いい演技をするために」と強引にキスをせがむかと思えば、なんと中條までをも平然と「誘惑」しようとする池田。だが、さらなる厄介を抱え込んだのは松川である。自分の部屋のベッドで綾と浮気している現場を、訪ねてきたユカリに目撃されてしまったのだ。翌日から、ユカリの言動の執拗さは狂気の色を帯び始める。『アデルの恋の物語』のイザベル・アジャー二のように。
そんな中、ついに松川と久田の間にも、ただならぬ恋の気配が漂い始める。クランクインを間近に控えたある夜帰り道で、ふとしたことがきっかけで互いを意識していることに気が付く二人。それぞれ別の相手との恋愛に問題を抱え、不安定に揺れる気持ちのまま、激しく口づけを交わす松川と久田。

偶然、あの女子大生・レイと大山が校内で親しげに話しているのを目にした中條は、彼を呼び出し三人での食
事の約束を取り付ける。当日、心を躍らせめかし込んで出掛けて行く中條だが、食事の席で彼を待っていたのは、思いもよらない事実であった。実はレイと大山は結婚をしていて、二人は「もしレイが中條を落とせたら、大山が海外旅行をプレゼントする」という賭けをしていたのだ。あっけらかんとレイに真相を打ち明けられた中條は、絶望と落胆のあまり茫然自失しながらも、辛うじて研究室にたどり着き、机の上のものをすべて床にぶちまけ、酒をあおり酩酊してしまう。

その頃、撮影クルーは校舎の屋上でカメラテスト中だった。池田の演技、松川の演出指導にも俄然真剣さが加わる。するとそこに、ふらふらと覚束ない足取りでユカリが屋上の端を歩いている。思いつめた表情の彼女は、松川を追ってここまで来ていた。テストを中断して駆け寄り、彼女を抱きとめようと手をさし伸べる松川。次の瞬間、松川が姿を消していた。一瞬遅れて異変に気が付き、慌てて駆け寄るスタッフから悲鳴が上がる。松川は屋上から転落していた。あとには虚空を見つめるユカリの姿があった。

土曜日。松川が奇跡的に一命をとりとめた知らせを受け、中條は学生たちに映画製作の続行を指示する。警察から事情聴取を受けたユカリは、「松川を突き落としたらどうなるのか一瞬試してみようと思った。その後の記憶はない」と答えたらしい。「正常」にして「異常」、事件の真相は誰にもわからない。

久田が松川に変わって監督を務めることになった。彼女は合宿から帰ってきた西浦をチャペルに呼び出し、彼の留守中に「2人の男とキスをした」と涙ながらに打ち明ける。本杉と池田の名前を挙げるが、もう一人の名前は胸に秘めたまま。優しく微笑んで久田を抱き締め、それを許す西浦。

火曜日。のどかな田舎道を自転車で走る高校生。演じているのは池田。『タイクツな殺人者』の撮影初日だ。クルーが息を詰めて見守る中、「アクション」の声がかかる。少年による老婆殺しの場面の撮影が始まる。彼の目に映るものは・・・。

スタッフ

監督:柳町光男
プロデューサー:清水一夫
撮影:藤澤順一
音楽:清水靖晃
照明:小野 晃
録音:山田 均
美術:斉藤岩男
編集:吉田 博
監督補:門奈克雄
製作補:澤木慶瑞
    安西志麻
記録:石田芳子
助監督:東條政利
製作担当:安田憲邦
装飾:松本良二
衣装:浜井貴子
ヘアメイク:小堺なな
効果:帆苅幸雄
特機:多 正行

製作:プロダクション群狼、ワコー、Bugs film

キャスト

松川直樹:柏原収史
ユカリ:吉川ひなの
久田喜代子:前田愛
西浦 博 :玉山鉄二(友情出演)
レイ:黒木メイサ
池田:中泉英雄
大山:田口トモロヲ

本杉:阿部進之介
上村:鈴木淳評
吉崎:伊崎充則
中根:金井勇太
佐々木綾:たかだゆうこ
藤原:北口裕介
女子大生:藤真美穂
検察官役:佐藤恒治
古橋教授:津村鷹志

老婆役:今井和子
老人役:山谷初男
蕎麦屋の店主:柳家小三治
中條教授:本田博太郎

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