原題:FREAKS

1932年/日本初公開1932年/アメリカ/モノクロ/モノラル/64分 配給:クロックワークス+トルネード・フィルム

2006年03月24日よりDVDリリース 2005年11月5日、ライズXにてロードショー

公開初日 2005/11/05

配給会社名 0033

解説


 映画界において「史上最高」ほど安売りされる言葉はない。だが、これだけは掛け値なしに真実だろう。『フリークス』は史上もっとも呪われた映画である。『魔人ドラキュラ』をはじめ多くのヒットを出し、アメリカ映画きってのホラー・マスターと目されていた監督トッド・ブラウニングのキャリアはこれ一本で完膚無きまでに破壊された。試写会では上映中に逃げ出す者が相次ぎ、映画を見たショックで流産した、とMGMを訴えた妊婦までいた。MGMはもっとも過激と思われるシーンを切って公開したが、映画は制作費の半分ほどの 興収しかあげることができなかった。英国では実に三十年間にわたって上映禁止とされていたのである。映画史上もっともショッキングな映画にしてもっとも呪われた映画、それが『フリークス』である。
 トッド・ブラウニングのフリークスへの興味は決してたまさかのものではない。それはブラウニングの生涯にわたる執着だった。映画界に入る前、ブラウニングはカーニバルで芸人として働いていた。当然ながら、見世物小屋のフリークたちとも親しんでいた。ブラウニングのカーニバル時代を映画化した『見世物』には、下半身のない半分少女や人魚姫などが登場する。どれも鏡などを使ったトリックだが、ブラウニングの身体欠損に対するオブセッションは強烈に伝わってくる。それを開花させたのが「千の顔を持つ男」ロン・チャニイとの共同作業である。
 チャニイが身体表現にこだわるようになったのは聾唖者の両親を持ったためだという。チャニイはやがて特殊メイクと変身の達人として知られるようになったが、その特技をもっともよく生かしたのがブラウニングとの共同作業である。ブラウニング作品によって、チャニイはそれまで以上に奇怪な役で自分を表現できるようになったし、ブラウニングにとってチャニイはどんな無茶な要求にも応えてくれる相手だった。二人は得難いコンビになった。女装する腹話術師(『三人』)、せむし男(『黒い鳥』)、手なしの芸人(『知られぬ 人』)と二人のコンビはエスカレートしていく。役柄がいくら奇怪でも——いや、奇怪であればあるほど−−ブラウニングの演出は冴えわたり、チャニイの苦悩は観客の心をとらえた。
 ブラウニングはなぜそんなにもフリークたちにこだわったのだろう? ブラウニングのサディズムゆえとする説もある。ブラウニングが哀れな奇形者たちを嘲笑していたのだと。実際、ブラウニングがサディストであり、他人の苦しみを見て喜んでいたことには疑問の余地はない(ブラウニングは『ひとりぼっちの青春』に描かれる過酷なマラソン・ダンスの愛好者だった)。だが、それだけで生涯をフリーク映画に捧げられるわけもない。ブラウニングはあくまでもフリークたちに自分を仮託し、決して世界に受け入れられないはぐれ者の悲しみを表現していたのである。そのブラウニングにして究極のはぐれ者たちの映画となったのが『フリークス』だった。
 『フリークス』は究極のホラー映画として構想された。出演するフリークたちを集めるため、全米の見世物小屋にスカウトが送られた。集まったのは一人でテントを満員にできるだけのスター・フリークばかりだった。みなスターだっただけに、お互いのエゴのぶつかりあいも並大抵のものではなかったという。中でも美人シャム双子のヒルトン姉妹や半分人間ジョニー・エックは映画一本を支えられるスターの輝きを放っている(実際にヒルトン姉妹には他に主演作があるし、ブラウニングはジョニー・エック主演で人造人間ものの企画を練っていた)。映画においてはフリークたちの団結が謳われるが、実際には彼らはそんなに仲が良かったわけではない。シャム双子と小人たちは他のフリークたちを見下していた(小人は自分たちを単なる「小さな人間」だと考えていた)。映画に馴れてはいないが、ある意味ではハリウッドのトップスター以上に癖の強い人々が一同に介したのである。撮影の困難さは想像するにあまりある。多くの人がフリークたちに嫌悪感をあらわにしていた。だが、ブラウニングただ一人はフリークたちに取り囲まれ、心底幸福そうだったという。そのとき、ブラウニングは人生の頂点にあった。ブラウニングははじめて「我らの仲間」の一員となったのである。

ストーリー


「ここにいるのは、まさに生身の怪物たち。その姿に笑い、身震いするだろうが、ひとつ間違えば皆様もこうなるところでした・・・」見世物小屋の呼び込みの声が響くなか、籠の中身を覗き込んだ観客たちの悲鳴が響きわたる——

舞台はサーカス。小人のハンスは(ハリー・アールズ)は、同じ小人の婚約者フリーダ(デイジー・アールズ)がありながら、美しい空中ブランコ乗りクレオパトラ(オルガ・バラクノヴァ)に心を奪われる。恋に目がくらんだハンスは、クレオパトラに弄ばれているというフリーダの忠告も聞かず、乞われるままに彼女に貢ぎ物を贈り続けていた。

サーカス団では、アシカ使いのヴィーナス(リーラ・ハイアムズ)が、怪力男・ヘラクレス(ヘンリー・ヴィクター)と喧嘩別れをしていた。そんな傷心のヴィーナスに救いの手を差し伸べたのは、優しいピエロ・フロソ(ウォレス・フォード)。一方、ヘラクレスは、早速クレオパトラとねんごろに。そして、ハンスが莫大な財産を相続したことを知った2人は、遺産金目当でハンスと結婚、その上で彼を毒殺するという計画を企てるのだった。

いよいよ、ハンスとクレオパトラの結婚式の日。2人の船出を祝う披露パーティの席で、ハンスの妻になったクレオパトラを自分たちの「仲間」と歓迎する彼らに向かって、酒に酔っていたはずの彼女が、突如真顔に返り、こう叫ぶ。「冗談じゃない、汚らわしい化け物(フリークス)め!」

パーティで毒を盛られ、病の床に臥せるハンス。そんな彼を甲斐甲斐しく世話するクレオパトラ。だが、彼女が舞台へ出かけるや否や、ハンスは、彼女が調合した薬を吐き戻すのだった。彼は、クレオパトラの陰謀に気づいていたのだ。
嵐の夜、次の興業地へと馬車で移動するサーカス団。いつものように毒入りの薬をハンスに飲ませようとするクレオパトラだったが、毒を混ぜるところをハンスと仲間たちに見咎められ、嵐の道へと遁走する。逃げるクレオパトラ、復讐に立ち上がる仲間たち——雷鳴轟くなか、闇夜にクレオパトラの絶叫がこだまする。
やがて時は過ぎ、ある見世物小屋にて。ガチョウの身体に人間の頭の乗った「フリークス」が、見世物になっている。それは、かつてサーカス団で一世を風靡した美女・クレオパトラのなれの果ての姿だった・・・。

スタッフ

監督:トッド・ブラウニング
原作:トッド・ロビンス
脚本:ウィリス・ゴールドベック
   レオン・ゴードン
   エドガー・アラン・ウルフ
   アル・ボースバーグ
撮影:メリット・ガースタッド

製作:MGM映画社

キャスト

ハリー・アールズ
オルガ・バクラノヴァ
ヘンリー・ヴィルズ
ヒルトン姉妹
オルガ・ロデリック
ジョニー・エック
プリンス・ランディアン ほか

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