原題:L' Enfer

本国フランスにて2005年11月30日公開

2005年/フランス/カラー/102分 提供:ビターズ・エンド、スタイルジャム、アーティストフィルム

2006年09月29日よりDVDリリース 2006年4月8日〔土〕、bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマにてロードショー 

公開初日 2006/04/08

配給会社名 0071/0650/0023

解説


ポーランドが生んだ永遠の名匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺稿を『ノー・マンズ・ランド』のダニス・タノヴィッチ監督が映像化。

22年前に起こった不幸な出来事によって父親を失った三姉妹。美しく成長した彼女たちは今、それぞれに問題を抱えている。長女ソフィは夫の浮気に悩み、次女は恋人のいない孤独な日々を過ごし、三女は年の離れた大学教授との不倫関係を引きずっている。そして、彼女たちの母親が抱える、ある秘密。
映画は、彼女たちが愛の地獄でさ迷い、もがき苦しみ、心に傷を負うさまを描きつつ、その運命を受け入れて現実を強く生きぬこうと“再生”する姿を、繊細かつ熱情的に映し出してゆく。
三姉妹と母親が集うラストシーン。母親が過去を振り返り、「私は何も後悔していない」とつぶやく時、父を失って以来ずっと三姉妹の心の中に残っていたわだかまりが解け、彼女たちは過去の呪縛からようやく解き放たれる。その瞬間、絶望から希望へと向かうひとすじの光を、彼女たちと共に私たちもまた見出すことが出来るのだ。

本作の大きな見どころの一つは、何といってもヨーロッパを代表する俳優たちの豪華な顔ぶれ。まさに”夢の共演”と呼ぶにふさわしい、ゴージャスな顔合わせが実現した。長女ソフィに扮するのは、『美しき謹い女』で一躍フランス映画界を代表する女優に上りつめ、『ミッション:インポッシブル』といったハリウッド映画でも活躍し名実ともに国際派としての;地位を確立したエマニュエル・ベアール。胸が痛くなるほどの孤独感をたっぷ三女のアンヌには若手の中でも群を抜く美しさを誇るマリー・ジランが扮し、報われない愛に苦悩するアンヌを可憐に演じている。

三姉妹の母親役にはフランスを代表する聡明なクールビューティー、キャロル・ブーケ。本作ではほぼ全編でその美貌を封印した老けメークで登場し、圧倒的な存在感を見せる。まさに“百花績乱”と呼ぶべきキャスティングは女優陣に限らない。男優陣もゴージャスで、ソフィの夫、ピエールを演じるのは、『クリクリのいた夏』『レセ・パセ 自由への通行証』のジャック・ガンブラン。後ろめたく思いながらも浮気を続けるピエールを情けなくも愛すべき存在として絶妙に演じきった。アンヌが一途な思いをぶつける大学教授のフレデリック役には、『ニュー・シネマ・パラダイス』での大人になった主人公トトを演じた俳優として、また大ヒット作『WATARI-DORI』の総監督として有名なジャック・ペラン。さらに、物語の重要なキーパーソンとなるセバスチャンに俳優としてだけではなく映画作家としても最近大きな注目を集めるギョーム・カネが扮し、三姉妹の父親役には旧ユーゴ出身で、エミール・クストリッツァ作品やヨーロッパ各国の作品で独特の存在感を見せる名優ミキ・マノイロヴィッチが扮している。圧巻はフランス映画界の至宝、ジャン・ロシュフォール。母を見舞うセリーヌの心のオアシス的存在であるルイを高貴なユーモアたっぷりに演じ、映画に重厚な品格を与えている。

『トリコロール』三部作や『ふたりのベロニカ』といった多くの傑作を生み出し、世界中の映画ファンに崇拝されながらも96年に54歳の若さで急逝したポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキ。彼が最後に遺した「天国」「地獄」「煉獄」三部作の第一章「天国」を『ヘヴン』として映画化したドイッの新鋭トム・ティクヴァに続いて第二章「地獄」に挑んだのは、デビュー作『ノー・マンズ・ランド』でアカデミー:賞外国語映画賞ほか数々の賞を受賞して一躍世界の注目を集めた若き天才ダニス・タノヴィッチだ。「運命と偶然」というキェシロフスキ作品の永遠のテーマを盛り込んで亡き巨匠にオマージュを捧げつつも、タノヴィッチはこの遺稿を大胆に脚色。
出演者たちの魅力を最大限に輝かせる優れた演出力と、観客の心をぐいぐいと作品世界に引き込む卓抜したストーリーテリングカで、確実に自分の作品へと昇華させた。『ノー・マンズ・ランド』で、生きるか死ぬかという戦争下の緊迫した状況に生きる二人の兵士の関係と、彼らをとりまくマスコミや国連軍の異常ぶりをブラックなおかしみたっぷりに描いたタノヴィッチならではのユーモアと皮肉は本作でも健在。息が詰まるようなシリアスな描写の後に、ミルクチョコレートに固執する母親やタイミングの悪い車掌といった、思わずクスリと笑ってしまうエピソードを盛り込んで、緩急のリズム豊かに物語を紡いでゆく。別々の個性を持った二つの才能の、時空を超えた奇跡のコラボレーション。この異色の、かつとびきり魅力的なコラボレーション企画に名優たちも続々と賛同し、「運命と偶然」によって生まれた出会いが起こした化学反応は、美しくも哀しい愛を描いた傑作として結晶した。

三姉妹は、幼い時に父親を失ったことがさまざまな形でトラウマとなっている。再び”父親’に捨てられてしまうのではないかという不安と嫉妬から予想外の行動に出る長女。父親を失う発端となった事件を目撃したことがきっかけで、男性との距離のとり方が下手でなかなか心を開くことが出来ない次女。末っ子で父親との共有時間が三姉妹中最も少なかったからこそ父親への強い憧れを抱き、自分と同い年の娘を持つ大学教授と付き合い、その愛を独占しようとする三女。嫉妬、疑惑、欲望、憎しみ一一。程度の差こそあれ、こうした”負の情念”が生んだ心の傷を誰もが一つや二つは抱えているもの。ただ傷痕は残っても、再びつらい出来事が起こった時に痛みを和らげるための”免疫”になることだってある。苦しい過去が明るい未来に変わることも……。それはまるで、その時々によってさまざまな模様を見せる万華鏡のように光と陰、明と暗とが対になっていて、角度や位置、高さによってさまざまな見え方をするこの現実世界そのものでもある。彼女たちが陥った”地獄’は特殊な状況にあるものではない。私たちの日常に、いつでもそれは顔を覗かせていて、私たちはいつでもそこにはまりうる可能性を持っているのだ。

共に、夫である男からの”裏切り”を受ける母親とその長女ソフィ。表面では何事も起こっていないように振る舞いながら、心の中では嫉妬と愛憎の炎が激しく燃え盛っている”阿修羅”のような女たちである。向田邦子作品を彷彿とさせる女性像を、鬼気迫る演技で表現した女優i二人が、いわゆる「華を添える」だけの女優とは一味も二味も違う個性と知性を持っている点にも注目したい。実生活では二人の子供を持つシングルマザーであるエマニュエル・ベアールは、96年からユニセフ大使、2002年からユニセフ親善大使を務め、不法滞在者支援のデモに参加して逮捕される経験:を持つなど、人道活動に熱心な女優としても知られている。ソルボンヌ大出身の才媛であるキャロルヴーケは、人権侵害反対を訴えるアムネスティ・インターナショナルをはじめ政治活動にも参加しているほか、現在の恋人でもあるジェラール・ド・パルデューとパリでレストランを共同経営するビジネス面でも活躍している。

ストーリー




刑務所の扉が開き、一人の中年男性が出て来る。カッコウ
のヒナが巣から地面に落ちている。男はヒナを巣に戻して
やるとその場を立ち去って行く。

現代のパリ。ソフィは三姉妹の長女で36歳。写真家の夫との問には二人の子供がいる。夫の浮気に悩む
ソフィ。苦悩と嫉妬、そして絶望の中、ソフィは夫と愛人を尾行し、ホテルまで追って行く。上へ上へと続
くらせん階段はまるで果てしなく続く愛の地獄のよう。夫が部屋から出た後、彼の愛入が残る部屋へ侵入するソフィ。眠っている彼女の体にそっと顔を近づける。この一件を愛人から聞いた夫は怒り、「なぜ彼女の所へ行ったのか?」とソフィを問い詰める。「自分を辱める為に行ったのよ!」彼女は夫に迫るが力づくで拒まれる。「貴方にいてほしいわ。でも、もういいの。出て行って!」と夫を追い出してしまう。
子供がいることを理由に愛人に別れを告げられた夫は、ソフィのいる家へ戻る。彼は子供に会わせてほしいと妻に懇願し、鍵のかかっているドアをこじ開けようとする。ソフィは必死で防衛する。この光景は、22年前、彼女たちの父親が刑務所から出所し家へ戻って来た日のようだ。ある日、ソフィが子供たちに絵本の読み聞かせをしているとドアベルが鳴った。何年も会っていない妹、セリーヌの訪問だった。「話があるの。アンヌも呼んで二人に話したいわ」

三女のアンヌは聡明で魅力的な大学生。アンヌはフレデリックという年の離れた大学教授に激しく恋を
し不倫関係にあったが、突然の別れを彼から告げられる。悲しみながらも、アンヌは激しい感情を抑えることが出来ない。いてもたってもいられないアンヌはフレデリックの自宅まで行ってしまう。アンヌを迎えたのは彼の娘、ジョセフィーヌ。アンヌの親友でもある。感情の高ぶっているアンヌは、不倫の苦しみを告白する。「私には彼だけが生きがい」。愛する人がジョセフィーヌの父であることはふせている。
大学で口頭試問に臨むアンヌ。テーマは「王女メディア」。アンヌは答える。「メディアは妻として母として完壁な存在だった。ところが夫に裏切られると復讐を決行する。それはつまり、夫が愛した我が予を殺すこと。夫がこうむる不幸は偶然ではなく意味のある不幸だ」。まるでアンヌ白身の家族に起こった悲劇を語るかのようだ。妊娠の可能性のあるアンヌは産婦入科を訪れる。待合室で、フレデリックの急死を伝える新聞記事を発見し、悲しみにうちひがれる。

次女のセリーヌは32歳、恋人もおらず孤独な日々を過ごしている。体が不自由な母親の世話を彼女が一身に引き受けている。22年前のあの日、教師をしていた父親と男子生徒の、あの現場を目撃したのは、母とセリーヌだけなのだ。あの日、母と彼女が、父親の研究室のドアを開けて目にしたのは、全裸の男の子と父の姿だった……。告発された父親は刑務所送りになったのだった。
ある朝、セリーヌは見ず知らずの男に通りで話しかけられるが、ふり切って家へと急ぐ。この男こそ22年前にあの現場にいた男の子、セバスチャンであることを彼女は知る由もない。その夜、家の向かいのカフェにセバスチャンの姿を見つけたセリーヌは、自分に何か用かと彼に話しかける。彼は彼女に詩を詠んで聞かせる。
孤独だったセリーヌの心にかすかな変化が起こり、恋の兆しさえ感じ始める。
別の日、セバスチャンはセリーヌを家まで訪ねる。あの事件について告白しようとするセバスチャン。セリーヌたちの父親が出所して、家へ戻った夜の悲劇が彼女の頭の中で回想される—。

スタッフ

監督・脚色:ダニス・タノヴィッチ
原案:クシシュトフ・キェシロフスキ
   クシシュトフ・ピェシェヴィチ
脚本:クシシュトフ・ピェシェヴィチ
撮影:ローラン・ダイヤン
美術:アリーヌ・ボネット
衣装:カロリーヌ・ドゥ・ヴィヴェーズ
録音:ディルク・ボンベイ
編集:フランチェスカ・カルヴェリ
音楽:ダニス・タノヴィッチ
   ダスコ・セグヴィッチ

キャスト

エマニュエル・ベアール
カリン・ヴィアール
マリー・ジラン
キャロル・ブーケ

LINK

□公式サイト
□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す