思い出のすべてを、あなたへ託す。

2006/日本/ 配給:東映

2006年10月21日よりDVDリリース 2006年5月13日、全国東映系ロードショー

(C)2006「明日の記憶」製作委員会

サブ題名 Asita no kioku

公開初日 2006/05/13

配給会社名 0004

解説


知っているはずの言葉が咄嵯に出てこない。人の名前がスッと思い出せない……。物忘れ、ド忘れだろうと思っていたら、原因不明の眩量や頭痛、不眠に悩まされる。念のためにと病院で検査を受けてみれば、医師から告げられた病名は、あろうことか!早発性のアルツハイマー病——。高齢者の認知症の介護が社会的課題となっている一方で、40代、50代でのアルツハイマー発症も珍しいことではなく【日本の臨床報告にある最年少の発症事例は、なんと28歳!】だというのは、あまり知られていない真実である。アルツハイマー病は、脳の神経細胞が冒され、脳が萎縮して痴呆症状が出る疾患。言語や思考のみならず体の機能も奪われ、確実に死に至る。つまり体が生きることを忘れていくのだ。国内患者数は150万人以上とみられ、うち65歳未満の若年性の発症は約10%を占める。

もしも身近な人がそうなったら?もし自分がそうなったら?果たしてどんな覚悟で立ち向かえるだろうか。
今年50歳を迎えた、広告代理店の営業部長・佐伯雅行。激務をこなしてきた体は人一倍頑健だと思っていた。最近、多少物覚えは悪くなったが、それはおそらく年のせい。1人娘の結婚式も間近で、ちょっと早いが「おじいちゃん」にもなる予定。人生は”実りの秋”を迎え、すべてはまだこれからのはずだった。ところがある日宣告されたのは、まさかの若年性アルツハイマー病!記憶を失ってしまうことへの言い知れぬ恐怖と悲しみ…。主人公と妻の二人三脚の闘いが始まった。「せめて娘の結婚式までは現役でいたい」と切なる願いを抱きながら。が、病は無情にも彼の記憶を次々と奪っていくのだった…。

人そのものの存在を、人格を形作る<記憶>。人間にとって最も大切なその”装置”が破壊されてしまったら、私たちは何によって相手と繋がり、絆や関係の意味を見出せるのだろう——?
人を愛するとは。共に生きるとは。『明日の記憶』に託された深い想いは、人間の愛の本質に真っすぐに斬り込んでいく。主人公と家族に起こりくるさまざまな出来事を追う物語は、時としてドキュメンタリーを見るごとく胸に迫る。病と対峙して闘う家族と当事者が、苦悶を越え、やがて現実と添いゆく時、そこには何の打算も爽雑物もない人間賛歌が映し出されていく。

原作は山本周五郎賞を受賞し、2005年<本屋大賞>の第2位に輝く荻原浩の傑作長編『明日の記憶』(光文社刊)。重いテーマの中に心和ませる上質なユーモアを織り込み、喪失を乗り越えていく夫婦の情愛を映像化するのは、『トリック』『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』を手がけ、本作で新境地を切り拓く才人・堤幸彦監督。配役は、佐伯雅行に『ラストサムライ』以降、『バットマンビギンズ』『SAYURI』と世界に活躍の場を広げる渡辺謙。ハリウッド滞在中に原作と出会い、映像化するならば是非出演したいと願い出た熱い想いがこもる本作は、渡辺にとって映画初主演作となる。妻・枝実子には、『阿弥陀堂だより』で演じた清らかな夫婦像が高く評価された樋口可南子。娘・梨恵に吹石一恵ほか、及川光博、香川照之、渡辺えり子、大滝秀治と多彩なキャストが作品を彩る。生きることの素晴らしさを教えてくれる感動のエンディングは、一生胸に残るはず——。

ストーリー




すべての想い出を失っても
あなたは生きていけますか。

中堅広告代理店の営業部長を務める佐伯雅行は、今年50歳になったばかり。日頃は部下たちにハッパをかけつつ、仕事人間として営業の第一線を取り仕切っている。学生時代に知り合った妻・枝実子と、24歳になる1人娘・梨恵との家庭は、ありふれてはいるが穏やかな幸せに満ちていた。数カ月後に結婚式を控えた梨恵のおなかには”新しい生命”が宿り、孫も誕生する。男として仕事にも脂が乗り、大きなプロジェクトを手がけ、今まさに人生の”円熟期”にさしかかっていた。そんな彼を突然襲った〈若年性アルツハイマー病〉。
…予兆はあった。「最近、固有名詞が浮かばず、つい代名詞で話す」「会議の時間を忘れた」。最初は年のせいだろうとたかをくくっていたが、物忘れは加速度的に激しさを増していく。原因不明の頭痛、眩壁、不眠。欝病を疑い始めた彼は、妻に引き立てられるようにして行った病院で診断結果を告げられたのだ。アルツハイマー病の初期症状だと。
「どうして俺がこんな目に……なんで、俺なんだ!!」。混乱し、苛立ち、自分が壊れていく不安と恐怖でパニックになる佐伯。脳が萎縮し、やがては死に至るというアルツハイマー病。それはまさしく”ゆるやかな死刑宣告”に思えた。どん底に突き落とされながらも、こぼれ落ちる記憶を必死に繋ぎ止めようとあらゆる事柄をメモに取り、病気と闘い始める佐伯だったが、毎日会社で会う仕事仲間の顔が、通い慣れた取引先の場所が…思い出せない…知っているはずの街が、交差点が突然”見知らぬ風景”に変わっていく……恐ろしかった……自分が自分でなくなっていくことへの底知れぬ恐怖。「脳味噌をかき集めるような」死に物狂いの努力も空しく、病状は進み、記憶は確実に奪われていった。当然、業務にも支障をきたす。信頼していた部下は彼を裏切り、唯一の息抜きであった陶芸教室では手もなく騙される。絶望の淵に立っその夫を懸命に受け止め、慈しみ、いたわる妻。彼女は共に病と闘い、来るべき時が来るまで彼の妻であり続けようと心を決め、家計のために陶芸店で働き始める。
「お前は平気なのか?俺が俺じやなくなってしまっても」。一緒に積み重ねてきた人生を忘れ、妻の顔さえいつか忘れてしまうのだ。ひりつく想いでそう訊く夫に、彼女は静かに答える。「何があろうと受け入れられるから。私がそばにいるから」——そして、彼が仕事を失ってから2度目の夏が訪れる頃。随伴症状と呼ばれる幻覚や嫉妬妄想が立ち現れ、我知らず枝実子に手を挙げていた佐伯。嗅覚、味覚も狂い始め、もはや言葉も思考も想い出も薄闇の中に消えつつあった。ある日、デイパックを背負って家を出た佐伯が辿り着いたのは奥多摩の山の中。どこからともなく現れた陶芸家の老人と一夜を過ごす。山を去る彼を吊り橋の畔で待っていたのは…!?
〈記憶〉を喪失しても、なお忘れなかったものが美しい夕映えの空気に溶けていった。

スタッフ

監督:堤幸彦
脚本:砂本量、三浦有為子

キャスト

渡辺謙
樋口可南子
吹石一恵
及川光博
香川照之
渡辺えり子
大滝秀治

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