原題:BUKOWSKI:BORN INTO THIS 2002

墓碑銘は“DON'T TRY” パンクでクールな73年の生涯を疾走した男

2003年サンダンス映画祭ドキュメンタリー部門正式出品

2002年/アメリカ/35㎜/113分 配給:ザジフィルムズ

2005年10月8日、シネ・アミューズにてレイトロードショー

公開初日 2005/10/08

配給会社名 0089

解説


〈会員制よりも厳しい資格〉
 同じ映画、同じ本を好きだという意識で相手を信用できそうな気になることはよくあるが、それは人のライフスタイルや価値観が素早く理解できるからだろう。目に見えない踏み絵か、同じ危険を冒すもの同士の共通意識か。だが人の意識に何かを刻み、影響を与え、思想的に体制を転覆させかねない、危険な“爆弾”を抱える作品であれば尚更だ。鋭利なナイフというより、何度も重い鈍器で殴られるような効果で、そのうち彼の下に跪くことになる。

〈“負け犬”か“英雄”〉
 “短編の神様”と呼ばれながら、その詩や短編・長編は、無数の雑誌に掲載され、40冊以上の書籍で出版されるチャールズ・ブコウスキーも、そんな玄人好みの切り札の一人だ。代表作には『町でいちばんの美女』『〈そったれ!少年時代』などがあり、社会的には“負け犬”でありながら、そこから外れた価値観を持つ者にはたちまち“英雄”となる。確かに、酒浸りの酔っ払い、男尊女卑の好色家、口の悪い野蛮人、ギャンブルに開け暮れる暴力男など、陽の当たる世界の彼のイメージはすこぶる悪い。それは生理的な嫌悪感だけでなく、自分たちの生活に何らかの危機感を与えるからだろう。だが日々、真実と向き合っているアーティストたちにとっては、ロサンジェルスの下水の側溝から社会を見つめ続けてきた男の語る“真実”は、心に響く“賢人”
の生きた言葉でしかない。揺るぎない“真実”が響き渡る酒枯れた声は、ファッションや一過性の流行といった表層的なものとは無縁で、日雇い労働者、郵便局員などとして働いてきた男の、純粋な労働者としての考え方だ(かと言って、酒を呑むは、喧嘩をするはで、模範的な労働者とはほど遠いのだが)。

〈逸話の一人歩き〉
 だからこそ、1994年に73年の生涯を閉じたブコウスキーの人生を長り炙り出すドキュメンタリー『ブコウスキー:オールド・パンク(原題Bukowski:Born lnto This)』は彼のファンに熱狂的に迎えられるはずで、これまでブコウスキー・ワールドを知らなかった人にも、彼の素顔を知るいい機会となるはず。そうすれば、世間 に溢れかえる、のんだくれだの、女好きだのという負のイメージが、あくまで彼をとり囲む“逸話”に過ぎないことが分かる。本当に“書く”ためだけに生きた男の人生を目の当たりにすることで。

〈彼を慕う人々〉
 まあ、噂通りの破天荒な人生も強ち間違いでもないのだが、それ故に、彼に影響を与えられた人、交友のある人間は多岐に富み、トム・ウェイツ、ショーン・ペン、U2のボノらも映画の中で惜しみないリスペクトを送りながら、元妻や元恋人、また最後の妻と娘らも、今でも彼との時間を愛しそうに振り返り、小さな雑誌にばかり書いてきて、生計もままならなかったブコウスキーが、長年勤めた郵便局を辞めるきっかけとなり、作家として“食える”機会を与えた出版社ブラック・スパロウ・プレスのジョン・マーティン、彼と親交のあった映画作家、伝記作家、翻訳家などが快く登場する。挿入映像は彼のインタビュー集などで知られる翻訳者フェルナンダ・ピヴァーノやHigh Times誌の取材などが使用され、日本を含めた翻訳小説の売れ行きから見て
も、いかに本国アメリカよりも海外で認められていたかが分かる。

〈ビートと離れて歩く〉
 またケルアック、ギンズバーグ、バロウズらビート作家とほぼ同時代を生きたために、その仲間と考えられることも未だに多いが、1920年にドイツ生まれてからLAへ移住した彼は、“ビートの連中もちゃんと働けば、書くのがどういうことか分かるのに”と言うほど(本人が相当の遅咲きということもあるが)、中産・上流階級の出身だったりする彼らと一線を隔していた。だからというわけでもないが、愛読する人間も、まずはビートを入口に、ブコウスキーに辿り着くというパターンは多い。そして彼の世界に入ってからも、小説から徐々に詩の世界へという流れもある。

〈なぜブコウスキーか〉
 だがなぜ、今、ブコウスキーなのか?それは我々が、この(不況の真っ只中と言われる)ネオ・バブルとも呼べる物質的で表層的な時代に、暴言という形で最大限に声を吐き出す彼に、何らかの真実を求めているからかもしれない。与えられることに慣れてしまった時代に、彼は自分から動いて、読者自ら“発見するべき”作家であり、何物にも媚びず、刑務所へぶち込まれようが、コントロールされない真の“パンク精神”を持ち合わせていた人だ(実際はパンクなど聴かず、マーラーなどクラシック音楽が趣味だったが)。

〈発見されるべく作家〉
 よく男は背中で判断する、なんて言うが、彼が男女・年齢を問わず慕われるのには、何か理由があるはずで、裏表なく、誠実だからかもしれない。顔中にできた痘痕や父から受けた虐待や貧乏生活など、コンプレックスの固まりと言われた彼の周りに常に人がいたのは、その誠実さ故。
それとも時代がようやく彼に追いついたのか?だがその理由はきっと、この映画の中にあるに違いない。忘れないでほしい。彼が“発見されるべく”作家だったということを…。

ストーリー

スタッフ

監督:ジョン・ダラガン

キャスト

チャールズ・ブコウスキー
リンダ・ブコウスキー(妻)
トム・ウェイツ
ボノ
ショーン・ペン
ハリー・ディーン・スタントン
ローレンス・ファーリンゲティ

LINK

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