原題:The Child

本年度 カンヌ国際映画祭 パルム・ドール大賞 受賞

2005年/ベルギー=フランス/1:1.66/カラー/ドルビーSRD/95分  配給:ビターズ・エンド

2006年06月23日よりDVDリリース 2005年12月10日(土)、恵比寿ガーデンシネマにてロードショー公開

公開初日 2005/12/10

配給会社名 0071

解説


カンヌ国際映画祭
1999年『ロゼッタ』パルムドール大賞・主演女優賞
2002年『息子のまなざし』主演男優賞・エキュメニック賞
そして2005年『ある子供』パルムドール大賞

史上5組目となるパルムドール2回受賞を果たしたベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟。
『ある子供』で、彼らが初めて描いた“とめどなく溢れる涙”は、希望を見出せない時代に射し込んだ、ひとすじの光。

涙も、本当の愛も、命の重さも、何も考えずに過ごしてきた毎日。この未来は変わるのだろうか—-。

20歳のブリュノ。定職には就かず、仲間とともに盗みを働いて、その日暮らしをしている。恋人はソニア、18歳。ふたりの愛は、まるでじゃれあう子犬のようだ。ある日、ふたりの間に子供ができる。だが、ブリュノにはまったく実感がない。盗んだカメラを売りさばくように、ブリュノは子供を売る。それを知ったソニアはショックの余り倒れ、ブリュノは、その時になって初めて自分が冒した過ちに気づくのだが……。大人になる意味も知らず、その道筋にさえ気づけないブリュノ。彼は、ただ“何も知らない”だけなのだ。涙も、働く汗も、本当の愛も、命の重ささえも。
現代の若者たちが抱える「私たちは大人になるのか、なれるのか」という困難を、厳しくも暖かな視点で見つめ、胸揺さぶる物語へと昇華させた本作。ダルデンヌ兄弟は、妥協のない彼らの映画スタイルを貫きながらも、これまでで最もエモーショナルな感動に溢れる新たな傑作を生み出した。

21世紀を代表する名匠となったダルデンヌ兄弟。その演出力から生まれる映画のダイナミズム。

『ロゼッタ』、『息子のまなざし』、そして本作『ある子供』と、カンヌ国際映画祭にて、3作品連続での主要賞の受賞と2度にわたるパルムドール大賞の受賞(*)という快挙を成し遂げ、名実ともに21世紀を代表する名匠としての地位を不動のものとしたダルデンズ兄弟。まるで現実かと思わせる演技、緻密な演出、完壁な脚本……息を呑みつづけた95分が終わった時、一瞬の沈黙ののち、カンヌの観客たちから惜しみないスタンディング・オベーションが巻き起こった。本作は、ヒューマンなドラマであるとともに、映画本来のアクションとサスペンスに満ちている。子供から大人への軌道を大きく外れた若者の、その行動と呼応するような映画の速度と緊迫感。その演出力は、人に何かを考えさせるだけでなく、「映画であること」のダイナミズムをも強く感じさせる。
主人公ブリュノを演じたジェレミー・レニエは、ダルデンヌ兄弟の長編第3作『イゴールの約束』の主演で映画デビューを飾った後、フランソワ・オゾン作品のほか、つねに作品選びに定評ある若手俳優。本作ではあらためてその才能の豊かさを証明し、多くの人を驚かせた。また、本作では赤ん坊・ジミー役になんと21人の名前がクレジットされている。現実の一場面を生のまま切り取ったかのようなシーンのひとつひとつが、如何に計算され、準備がなされているかを、「21人のジミー」は物語っている。
さらに、『息子のまなざし』でカンヌの主演男優賞を獲得したオリヴィエ・グルメが刑事役を、『ロゼッタ』でロゼッタを支える友人・リケを好演したファブリッィオ・ロンジョーネが若いチンピラ役を演じているのも見逃せない。

ラストシーン。まだ、希望はそこにある。

若年層の失業率が20%というベルギー。社会や経済の環境から発生した若者の問題にヨーロッパだけでなく世界が直面している。ブリュノやソニアは、決して特別な存在ではない。家庭に恵まれず、貧しさにさらされ、労働の価値も知らず、将来への期待を抱くことができない子供たちが、大人になれない若者たちになっていく。日本でも「NEET」や「引き篭もり」が増えているのは、どこかに同じ閉息感があるのかもしれない。この時代に、若者たちは未来への光を見つけることができるのだろうか。
「貧しい人たちにこそ、希望の光をわずかでも見せたい」—-ダルデンヌ兄弟のことばの通り、成長していく若者の中にある可能性を見つめる本作のラストシーン。何かが激しく揺さぶられるように。何かを洗い流すかのように。誰かと何かを分かち合うように。
そこにひとすじの希望の光があらわれる。

(*)パルムドール大賞を2度受賞した監督:フランシス・フォード・コッポラ『カンバセーション…盗聴…』『地獄の黙示録』、ビレ・アウグスト『ペレ』『愛の風景』、今村昌平『楢山節考』『うなぎ』、エミール・クストリッツァ『パパは出張中!』『アンダーグラウンド』

ストーリー


【誕生】
ブリュノ、20歳。ソニア、18歳。ふたりはソニアのアパートで暮らしている。ある日、ふたりの子供・ジミーを出産したソニアが退院してくる。だが、部屋には見知らぬ男女の姿。ブリュノが金のために貸したのだ。ソニアは何とかブリュノの居場所を探し出し、会いに行くが、ブリュノはチンピラ仕事の最中。ソニアが嬉しそうにジミーを抱かせようとしても、気もそぞろだ。

ブリュノは、手下のように使っている子供・スティーヴたちと共に、小さな盗みをしては盗品を売った金でその日暮らしをしている。ソニアが戻った夜、部屋に帰れないふたりは、簡易宿泊所に泊まる。夜中に抜け出し、盗んだビデオカメラを闇取引の女に売るブリュノ。自分の帽子をつけて450ユーロ。その金で携帯電話用のカードを手に入れる。女はブリュノに「お金を出して子供を欲しがる人もいる」と告げる。
盗んだ宝石を売るブリュノ。300ユーロ。その金で今度は乳母車を買い、車を借りる。
ソニァとジミーを乗せて、つかの間のドライブ。
久し振りのデートを楽しむふたり。母になったとはいえ、ソニアも18歳の女の子だ。まるで子供のようにじゃれ合い、無邪気に追いかけっこをする。部屋に戻るとスティーヴが、盗みの取り分を受け取りに来る。ビデオカメラが450、宝石が300。いくらで売れたかを話すブリュノ。子供相手と言っても、分け前をごまかすことはしない。その日、育児センターの人が来てジミーの様子をみてゆく。

【売買】
役所で子供の認知をする。満足げなソニア。「真面目に働いて欲しい」とソニアは頼むが、ブリュノは相手にしない。残っていた金で、ソニアにお揃いの皮ジャンを買う。ふたりは職業斡旋所に行くが、ブリュノは長蛇の列を見て辟易してしまう。列にはソニアが残り、ブリュノはジミーを連れて散歩をする。ふと思いついて、闇取引の女に電話する。「いくらで子供を買う?」。
買い手に指定されたビルに入るブリュノ。
エレベーターが壊れているので、慣れない手つきでジミーを胸に抱き、階上へ向かう。子供を空室に置き、部屋を離れる。数分後、そこにジミーの姿はなく、金が残されている。
ブリュノはソニアに黙って、子供を売った。
戻ってきたブリュノと空の乳母車を見て、血相を変えてジミーの行方を尋ねるソニア。「子供は売った。またできるさ」と屈託なく金を見せながら言う彼の言葉にソニアは卒倒してしまう。ブリュノはソニアを病院に運ぶ。
意識を戻さないソニアに「すべて解決するから」と伝言を残し、ジミーを取り戻しに出かけるブリュノ。足がつくのを恐れた買い手のおかげで、何とか子供は取り戻せたものの、闇売買に関わるチンピラから「もうけ損ねた分を返せ」と脅される。
病院に戻るとソニアがことの次第を警察に話していた。捕まりたくない一心で、「子供は母親に預けただけだ。彼女が浮気をしたいから俺を刑務所に入れる気だ」と適当なことを言うブリュノ。母親に口裏を合わせてもらおうと、母のアパートを訪ねる。母は見知らぬ男と一緒だった。息子の口裏合わせに協力を約束する母。

【拒絶】
空の乳母車を押し、病院から出てくるソニアを迎えに行くが、ソニアは口をきこうとしなければ、顔も見ない。家に着いてもなお、ジミーを片時も離さず抱いたままブリュノを無視しつづけるソニア。「こだわるなよ」と気軽になだめるブリュノ。ソニアの怒りは頂点に達し、ブリュノを乳母車と共に追い出す。
乳母車とソニアの服を売り払うブリュノ。乳母車は65ユーロ。皮ジャンは1ユーロ。その金でビールを飲もうとしたところ、昨日のチンピラたちに見つかり、一切の金をとられてしまう。
身ぐるみはがされ、一文無しになったブリュノはソニアの元へ。だが、ソニアはまったく取り合わない。「別れたくない。お前が必要だ。愛してる」とすがりついても「よくもそんなウソがつける」と拒絶される。「せめて金を貸してくれ」と無心をしても、無視される。
川沿いの小屋でダンボールに包まれ一晩を過ごすブリュノ。

【決心】
金に困り、スティーヴとひったくりをするブリュノ。成果は上々だが、執拗に車が追い掛けてくる。川で行き止まり、スティーヴと共に川に身を沈め、なんとかやり過ごす。だが、子供のスティーヴには真冬の水は冷たすぎた。身体が凍え、動けなくなる。あまりの痛みにわんわんと泣くスティーヴ。その冷えきった足を懸命にさすってやるブリュノ。急いでスクーターを廻し、スティーヴと共に逃げようとするが、ブリュノがスティーヴから離れたそのとき、警察がやってきて、スティーヴは補導されてしまう。ただ、黙って見過ごすブリュノ。スクーターを押してブリュノが向かった先はソニアの部屋。しかし、彼女は不在だった。
ブリュノは次の場所へ向かう。スティーヴが保護されている警察だ。スティーヴへの面会を求めると、彼にスクーターのキーを渡し、自ら、警官に「自分が首謀者である」と名乗り出る。

【慟哭】
服役するブリュノ。ソニアが訪ねてくる。「ジミーは?」「元気よ」—-初めて、ブリュノの口からジミーの名が出たその直後、ブリュノは鳴咽をあげていた。あとからあとからとめどなく溢れる涙。ソニアとブリュノはただ泣き続け、強く抱きしめあった。

スタッフ

監督・脚本:リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ
撮影監督:アラン・マルコァン
カメラマン:ブノワ・デルヴォー
カメラ・アシスタント:イシャム・アラウィエ
録音:ジャン=ピエール・デュレ
編集:マリー=エレーヌ・ドゾ
整音:ブノワ・ド・クレルク
ミキシング:トマ・ゴデ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:モニク・パレル
ヘアメイク:ティナ・コペカ
製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、デニス・フレイド
製作総指揮:オリヴィエ・ブロンカール

キャスト

ジェレミー・レニエ
デボラ・フランソワ
ジェレミー・スガール
ファブリツィオ・ロンジョーネ
オリヴィエ・グルメ
ステファーヌ・ビソ
ミレーユ・バイ
アンヌ・ジェラール
ベルナール・マルベクス
フレデリック・ボドソン
レオン・ミショー
サミュエル・ド・リック
ハシェミ・ハダド
オランド・ボルザン
ソフィア・ルブット
マリー=ローズ・ロラン
アネット・クロセ
アラオ・カソンゴ
ジャン=ミシェル・バルタザール
フィリップ・ジュゼット

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