原題:LIFE and DEBT

本国アメリカにて2001年6月16日公開

2001/アメリカ/86min/DVCAM/ 配給:アップリンク

2005年12月22日よりDVDリリース 2005年7月16日、UPLINK Xにてロードショー

公開初日 2005/07/16

配給会社名 0009

解説



 『ジャマイカ 楽園の真実』は、ジャメイカ・キンケイドの多くの賞を受賞したノンフィクション、『小さな場所』(平凡社)のテキストを引用しながら、アメリカ及び欧米諸外国の経済政策によって、日々の生存のための手立てを限定されたジャマイカ人たちの状況に焦点を当てて織り上げられたタペストリーだ。
ナレーションを骨子とする伝統的なドキュメンタリーの手法とつなぎ合わせながら、国際融資や、構造調整政策や、自由貿易の複雑さと、それらに大きな影響を受けて生きる人々の日々の現実が伝えられる。

映画は、旅行者たちが島に到着するところから始まる。キンケイドのテキストが流れ、私たちは息を飲むような島の自然の美しさの影で、深刻な対立があることを理解し始める。キンケイドのテキストの詩的な切迫感は、この国の植民地としての過去の遺産から、現在の経済的な困難までを理解させる。
たとえば、ホテルでの旅行者のカットを見せつつ、ナレーションがこうかぶさるのだ、「おいしいごちそうにありつこうとする時、それらのほとんどがマイアミから船に載せられてきたものであることは知らないほうがいいだろう。驚くべきことが起こっている。でも、今ここで深く追及することはできない。」(『小さな場所』からの抜粋)

キンケイドのテキストによって、おおまかな植民地後の風景を知らされていくうち、私たちは前首相のマイケル・マンレイが独立後のスピーチで、IMFを非難する記録映像に出合う。いわく、「ジャマイカ政府は、私たちが自分たちの国でなにをなすべきかを指図する誰をも、またなにをも受け入れないだろう。なにより、私たちは売り物ではないのだ。」

前首相のマイケル・マンレイは、IMFとは無関係に1976年に選出された。1977年、ほかに現実的な方策がなかったため、彼は最初の融資契約をIMFに取り付けざるを得なかった。これはすべての第三世界に共通するパターンである。現在、ジャマイカは海外の融資機関の中でも、IMF、世界銀行、及び米州開発銀行(IDB)に、450億ドルもの負債を負っている。これらの負債は有意義な発展を約束するはずのものだった。
しかし現実には、利子を支払えるのに見合うはずの外貨と、それに付随して課せられた構造調整政策は、とてつもなく大多数の人間にマイナスの影響を与えている。ジャマイカは、歳入よりも多くの増え続ける負債を支払い続けているのだ。そしてもし査定基準に達しなければ、構造調整政策は再交渉の末、さらに厳しくなる。支払いとのバランスを取るため、通貨切り下げ(これは外貨のコストを上げる)、高金利(貸方のコストを上げる)、賃金のガイドライン(地元の労働賃金を見事に低下させる)が定められた。IMFは金利の引き上げと政府支出の削減が、財源を国内消費によるよりも個人投資によるだろうと想定した。 それどころか、賃金を低く抑えることが、雇用の増大と生産の増加につながるだろうと考えたのだ。
失業の増加、汚職の蔓延、高文盲率、暴力の増加、食品価格の高騰、病院施設の荒廃、貧富の差の増大などは、今日の経済危機のほんの一面に過ぎない。

自由貿易地域(フリーゾーン)に触れた場面では、私たちは法定最低賃金の週30U.S.ドル(1200〜1500ジャマイカドル)で、週に5、6日アメリカ企業のために縫製をする労働者たちに出会うことになる。キングストン港には、外資の衣料会社が安い賃貸料で借りられる、重警備の工場が立ち並んでいる。こういった工場には、外資企業として素材の船荷を関税なしで運び込め、加工し、ただちに海外の市場に輸出できるという特典もつけられているのだ。目下1万人を超える女性たちが、外資企業のために標準以下の労働条件で働いている。
ジャマイカ政府は雇用の確保のため、自由貿易地域では労働組合の結成ができないという条項に同意をした。かつて、賃金の値上げと労働条件の改善のために立ち上がった女性たちは解雇され、その名をブラック・リストに記載されて、二度と働けなくなってしまった。自由貿易地域はアメリカ政府によって促進されたもので、たとえば国際発展のためのアメリカ機関(U.S.エイド)は3,496万U.S.ドル以上の税金を注ぎ込み、アメリカ企業のジャマイカへの移転を特典つきで勧めてきた。それでもなおNAFTAのおかげで、この悲惨な状況はメキシコや、コスタ・リカ、ドミニカ共和国に比べればいいほうなのだ。

別の場面では、ジャマイカの国内市場向けに高品質の鶏肉を卸して、隆盛をきわめたある鶏肉工場について触れている。この事業は最近、低品質の鶏肉を”ダンピング”するアメリカのせいで、価格の切り下げを行った。アメリカが食品や製品を輸入する際には多大な制約が課せられる一方で、発展途上国への輸出にはまずほとんど制約がない。NAFTAやカリブ湾イニシアチヴのような協定が、こういった不平等を”自由貿易”の名目の下に押しつけているのだ。

『ジャマイカ 楽園の真実』は、ロメ協定によってジャマイカがイギリスから特恵措置を受けていたバナナ業界についても触れる。協定では、年間10万5千トンまでの果物をイギリスが無税で輸入できるようになっていた。アメリカがWTOに提訴し、アメリカ政府はロメ協定の割り当てを廃止し(もっとも、アメリカは自分の土地ではバナナを生産していないのだが)、ジャマイカに、中央アメリカや南アメリカの生産者、特にチキータやドールなどのアメリカがバナナを大規模に生産している会社と競争することを要求している。
中央アメリカは労働力が安いことが特徴で、土の性質といい、雨量の多さといい、気候といい、これほど効率よくバナナを大量生産できるところもない。1993年、コロンビアのチキータ農場で、よりよい賃金を求めて起こされた25,000人の労働者によるストライキは、労働者たちに銃火を浴びせ、40人の死亡者を出したことで鎮圧された。チキータの”効率性”が保証されたのだ。ジャマイカのバナナの総生産量は、中央アメリカの一農場で生産できる量だ。バナナは総輸出品の8パーセントに当たる、2,300万U.S.ドルをジャマイカにもたらす。しかし、ウインドワード諸島では、バナナは総輸出品の50パーセントを占め、セント・ルシアやセント・ヴィンセントでも、バナナは主要な輸出品だ。割り当て制度の廃止は、カリブ諸国全域に影響を与えることになるだろう。現在のところ、欧州連合は、ジャマイカがもっと効率的にバナナを生産し、2001年には”自由市場”で競合できるように6百万ドルの助成をすることが認められている。アメリカの多国籍企業によって無理やり競わされることになる割り当ては、全国のバナナ生産量のわずか5パーセント以下だ。これでは、ジャマイカのバナナ業界は、中央アメリカからのバナナの価格に対抗できないだろう。すでに、小規模だったジャマイカのバナナ生産者は、45,000人から3,000人までに縮小している。

どんな国でも、乳製品は自国で自給できることを目指している。乳業農家はアメリカでも、オーストラリアでも、ニュージーランドでも、そしてヨーロッパ連合でも、乳製品の価格を安く抑えるための助成金を受けている。この莫大な助成金のおかげで、アメリカやヨーロッパが乳固形物を輸出する際には、人工的に価格を低く抑えておくことができるのだ。
かつてジャマイカのミルク生産量はうなぎ登りで、5年間(1987〜1992)で自国消費の25パーセントを超える3千万リットルを生産できるまでに成長し、生産増加のできる体制を整えた。1992年、自由化政策が、西欧諸国からの乳固形物に課せられていた輸入税を取り去り、国内産業への助成金をなくすことを要求した。自由化から一年後の1993年、何百万ドル分という低温殺菌前の牛乳が価格切り下げをせざるを得なくなり、7百頭の牛が成長前に殺され、いくつかの乳業農家が廃業した。現在、乳製品産業は60パーセントにまで縮小され、いまだ衰退を続けている。もはや、この産業がその成長を復活させることはなさそうだ。

『ジャマイカ 楽園の真実』は、こういった経済政策が、恩恵を与えると言った国の人々の日常生活に及ぼす悪影響を明らかに映し出している。

IMF内の投票権は、その加盟国の貢献度に比例してはいない。民主主義の崩壊は、ジャマイカの人々が自分たちの生活に重大な影響を与える決定に参加できないところからも明らかにされてゆく。IMFは、緊縮財政や、通貨切り下げ、賃金カットといった政策を推進する。その目的は負債の返済と、輸出入による歳入のバランスとを取ることによって、インフレを抑えることだ。だがたいていは、不景気を招く結果となる。世界銀行はもっと長期的な視野に立ち、構造調整を目標にするが、それは借金国の経済体制を自由市場経済に変質させることを意味する。その典型的な提案は、時には世界銀行や個人からのさらなる融資を伴っての市場規制の撤廃だ。このような政策は、第三世界経済をグローバル・マーケットに参入させることによって、恩恵を与えられるためと考えられている。しかし実際には、北半球の商業銀行が多大な利益を集める一方で、第三世界の人々が苦しむことが起こっているのだ。ジャマイカでは、1977年以来の借金で国内に留まっている資金はわずか5パーセントなのだ。

こういった政策が25年近くにもわたって影響を与えているジャマイカの痛手は、すでにその国内だけに留まってはいない。近隣のハイチでは、前大統領のアリスティードがIMFの融資を受け入れることを迫られていたし、ロシアでは初めて受け入れた何百億というIMFからの融資で、同時に課された厳しい条件にすでにあえいでいる。アフリカは全土にわたって、各国が計画目標に到達できるよう奮闘している。『ジャマイカ 楽園の真実』は生き残りに賭ける人々の知恵とたくましさに捧げられたものであると同時に、なによりもアメリカや欧米の観客たちに、このような政策が世界の隣人に与える影響を知らせることを目的としている。

ストーリー


 青い海、白い砂、そして燦々と降り注ぐ太陽の光。これがカリブに浮かぶ島、ジャマイカのイメージであろう。まさに楽園そのものである。しかし、それは、観光客が訪れた際、目の前に広がっている姿であり、真実とはかけ離れたものである。映画『ジャマイカ 楽園の真実』は、ジャマイカが強いられている現状を真正面に捉えた、真実のドキュメンタリーである。

この映画のサントラで流れる、ボブ・マーリィ、ピーター・トッシュ、ムタバルーカ、ブジュ・バントンといったジャマイカを代表するアーティスト達によるレゲエの歌詞には、労働者達の嘆き、憤り、そして生きざまが込められている。

“貧困が貧しい者を破滅させる”
“名声のために働くのはよせ”
“革命の時が迫っている”、
“運命は俺たちのものだ”
彼らは歌い続ける。労働者達、職を失った者達を代弁するかのように。

女性監督のステファニー・ブラックは、1990年長編ドキュメンタリー「H-2 Worker」(日本未公開)を製作。サンダンス映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した。この映画は、H-2ビザ(米国での一定の期間内での仕事に従事するものの為の臨時労働者ビザ)を手に、フロリダで働くカリブ人を題材にしたものである。彼女は、この映画を撮影した後、ジャマイカに数カ月住み、現地の労働者達の問題を目の当たりにする。

「ジャマイカの日刊新聞、“The Gleaner”には、毎日、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の記事が掲載されていました。IMFについて、より知識のある人々の国で、アメリカ人として暮らすことに違和感を覚えました。IMFは赤十字みたいなものであるというのが、アメリカ人の典型的な考え方でした」

ステファニー・ブラックはジャマイカでの生活を体験してどういう映画を撮ればいいか気付いた。「これから作るべき映画は、いかに私が知り得た情報を反映するかです。」

ジャマイカは、現在45億ドル以上の借金を負い、その返済に苦しみ続けている。1962年、イギリスからの独立後、ジャマイカは経済的困難から、IMF(国際通貨基金)から借り入れた。その結果、高金利と厳しい制約により、人々は低賃金で働かざるを得ない状況なのである。

全編に流れるナレーションは、作家ジャメイカ・キンケイドの著書『小さな場所』(平凡社)にもとづくものである。カリブの小島アンティーガ出身の作家ジャメイカ・キンケイドのアンティーガを舞台にしたこの作品を、ステファニー・ブラックは、ジャマイカを舞台に書き換えた。「彼女の文章は、私の感じていることに最も近いものである」という。

『ジャマイカ 楽園の真実』は、グローバル経済やIMF、世界銀行によって規制されている、ジャマイカの人々の生活を赤裸々に、そして痛烈に描いている。
そして、この問題は、ジャマイカに限ったことではないのである。

スタッフ

監督・プロデューサー:ステファニー・ブラック

キャスト

ナレーション『小さな場所』著者:ジャメイカ・キンケイド

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