原題:The Overture

気がつけば、世界は音楽に満ちている。

第14回スパンナホン賞(タイ・アカデミー賞)作品賞・監督賞ほか主要7部門・受賞 第13回タイ映画批評家協会最優秀作品賞・監督賞ほか主要5部門・受賞 ブラスサワディー賞主要9部門・受賞 スター・エンターテイメントアワード主要7部門・受賞 2004年度・アカデミー賞外国語映画賞正式エントリー作品(タイ代表) 2004年・バンコク国際映画祭ワールドプレミア上映 2004年・バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガーアワードノミネート 2004年・アジア大平洋映画祭in福岡正式出品(最優秀音響賞・音楽賞受賞) 2005年・マイアミ国際映画祭(観客賞受賞) 2004年・トロント国際映画祭 2004年・釜山国際映画祭「アジアの窓」部門 2004年・マラケシュ国際映画祭 2004年・バンクーバー国際映画祭 2004年・セント・ルイス国際映画祭 2004年・ロンドン国際映画祭 2004年・ロッテルダム国際映画祭 正式出品ほか多数。

2004年タイ映画/東宝東和提供/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/サハモンコンフィルム・インターナショナル=プロムミット・プロダクション=ハンサー・フィルム製作/ギミックフィルム制作/1時間46分 配給:東宝東和

2006年09月22日よりDVDリリース 2006年12月3日より銀座テアトルシネマ(東京)、テアトル梅田(大阪)ほか全国順次公開予定

公開初日 2005/12/03

配給会社名 0002

解説


 香港映画に始まり、インド、中国、ベトナム、台湾、そして2004年、韓流ブームが頂点に達する中で、すさまじい成長を遂げ、アジアで最も機知に富んだ独創的な業界のひとつとなったタイ映画界。アクション映画ファンを瞠目させた「マッハ!」のスマッシュ・ヒットで、ついにハリウッド進出に成功したタイ映画は、今や注目の的である。
 だが2004年一最もタイの観客の心に深い感銘と余韻を残したのは、”ラナート”と呼ばれるタイ式木琴奏者の生涯を描いた1本の映画『風の前奏曲』だった。

 2004年2月6日にタイで公開されるや、その感動は、口コミやインターネットの掲示板で評判となり、異例の劇場ロングランを記録。マスコミが日を追う毎に盛んに記事に取り上げ、伝統楽器を習い始める若者が急増するなど、『風の前奏曲』は2004年を象徴するタイの社会現象となった。タクシン首相も映画館に足を運び、王族たちは先を争つて劇場を借り切り観賞。ついにはバンコクに駐在する各国の大使夫妻を招待して、政府主催の特別上映会までが開かれたのである。

この様な国民的熱狂を巻き起こした要因は、どこにあったのだろうか?

 19世紀末・シャム時代の”人が人として生きた時代”と、第2次大戦下の”タイ人であることが危機に陥った時代”をカットバックさせて描くことで、タイの人々のナショナリズムを高揚させたというのも1つの要因ではあるだろう。だが、何より本作を2004年最大のヒットに導いたのは、娯楽映画としての質の高さである。監督のイッティスーントーン・ウィチャイラックは本作が10年ぶり、わずか2本目の監督作品となる。しかし、この10年間テレビドラマやCM制作を手がける傍ら、イッティスーントーン監督が求めていた映画のテーマは、1990年代後半のアジア経済危機以来、失われかけていたタイ人の心の拠り所を取り戻すことだった。彼はリサーチの過程で、国民的”ラナート”奏者ソーン・シラパバンレーン師の伝記から着想を得、師の人生の過去と現在を行き来する映画のスタイルを選択する。しかし監督の意図は単なる”偉人の伝記映画”を作ることにはなかった。20世紀前半にラマ王8世の宮廷に仕え、タイ文化のルーツ=”ラナート”を芸術の高みにまで引き上げたにもかかわらず、後に西洋文明の権威がシャム国内の伝統芸術を制圧し、タイ伝統音楽にも禁止令が下されたことにより、師がシャム政府と対立する過程を、若き日の出来事を巧みに織り交ぜて描き出す一。タイ文化のルーツに対する深い理解と、新しい世界に向かって開かれた創作力が絶妙のバランスを保持し、豪華な撮影から慎重に再現されたシャム時代の雰囲気作りまで、全ての面に精妙さが見受けられる。
巧みに編成されたストーリーはひとつのメロディーに溶け込み、観客を音楽に乗せたまま心地よい瞑想の中に引き込んでいく。そして、タイ文化の素晴らしさを直に、パワフルに体感することができる。その面白さに、タイの国民は興奮し、熱狂し、感動したのだ。

 主役のソーン師を演じたアドゥン・ドゥンヤラットは、タイ映画・演劇界の重鎮。青年時代のソーンには、2002年のタイNo.1ヒット作「メコンフルムーンパーティー」(アジアフォーカス福岡映画祭2003招待作品)で鮮烈な銀幕デビューを飾り、香港の”レスリー・チャン”の再来といわれる新進スター、アヌチット・サパンポンが抜擢された。2作目の出演作にあたる本作では、”ラナート”の特訓を積んで撮影に臨み、迫真の演奏シーンを演じて幅広い層の観客の感動を誘った。また、”嵐を呼ぶ”伝説の”ラナート”奏者クンインに扮し、ソーンと壮絶な演奏対決シーンを超絶指技とド迫力の眼力で実演したナロンリット・トーサガーは本物の現代”ラナート”のマエストロ。実生活でも代々伝わる由緒正しい”ラナート”奏者で、その強烈なキャラクターから本作公開後は役名で国民に呼ばれるなど、一躍時の人となった。またサムットソンクラーム県プラプッタルートラーナパラーイ王記念庭園(ラーマ2世庭園)を中心に各地でロケを行い、撮影地はツアーが組まれるほどの人気となった。

 これまでにも歴史を振り返り、タイ人のルーツを刺激し、心を奮わせた作品はあった。しかし音楽という分かり易い文化の力を借りて、これほどまでに幅広い観客の心に届いた映画は初めてである。『風の前奏曲』には、フィクションと伝記を上手く融合させた物語と、いつの間にか忘れ去られた、タイ文化の象徴ともいえる誇り高き美しさがある。この映画を観終えると、タイという国に対するあなたのイメージが、大きく変わることになるだろう。

ストーリー

 1人の老人がいま、息を引き取ろうとしていた。第2次世界大戦下、国家政策としての近代化至上主義と、それに伴う伝統芸能の”禁止・統制”という名の弾圧にも決して屈することのなかった”ラナート”奏者ソーン・シラババンレーン師(アドゥン・ドゥンヤラット)である。300以上の曲を作り、それらが現代でも名曲として伝えられ、国民的尊敬を集める師の脳裏に、若き日の想い出が去来する。

 19世紀末。タイがまだシャム王国と呼ばれていた時代、バンコク近郊のアンパワーでソーン(アヌチット・サパンポン)は生まれた。父は音楽の師匠であり、地元でも名の知られた伝統楽団を率いていた。当時は王族が楽団のパトロンになり、お抱え楽団同士の競演会が盛んに開催され、タイ音楽のルネサンスと言える全盛期を迎えていた。地方都市のアンパワーも例外ではなく、競演会は時に音楽家の殺し合いにまで発展するほど白熱した。そんな中、ソーンは幼少の頃から天賦の才を発揮し、木々の葉や、水の流れや、風の音の中にハーモニーを見出し、華麗な手つきで”ラナート”を叩いてはそのハーモニーを自然に奏で、最高のリズムを生み出した。しかし他の流派の策略で”ラナート”奏者の兄を殺害された事件以来、師匠である父に”ラナート”を禁じられてしまう。だが彼の音楽への想いが止むことはなく、父の目を盗んでは、夜な夜な森の中で、洞窟で、廃嘘となった寺で”ラナート”を叩き続け、地元で一番の”ラナート”の名手へと成長していった。やがて、父の許しも得て、アンパワー郡長付きの楽団に採用され有頂天となったソーンは、競演会でライバルに敗退するという入生最大の屈辱を受けた。彼を完膚なきまでに打ちのめしたのは、伝説の”ラナート”奏者クンイン(ナロンリット・トーサガー)だった。文字どおり”嵐を呼ぶ”凄絶な演奏に「自分には一生かかってもあのような演奏は出来ない」とソーンは打ちひしがれる。

 その後、バンコクの王族の宮廷楽団へと重用されたソーンは、親王直属の楽団との競演会に挑むことになる。その楽団の”ラナート”奏者こそ、かのクンインだった。持てる才能のすべてを燃え立たせ、かつての無垢な修行時代を思い起こし、ソーンの”風と大地のハーモニー”を取り戻す特訓が始まった。

スタッフ

製作総指揮:チャートリー・チャルーム・ユコン/ノンスィー・ミニブット/ドゥアンガモン・リムジャルーン
製作:イッティスーントーン・ウィチャイラック/ピサマイ・ラオダーラー
監督:イッティスーントーン・ウィチャイラック
脚本:イッティスーントーン・ウィチャイラック/ドンガモン・サターティップ/ピーラサック・サックシリ
撮影:ナタウット・キティクン
編集:イッティスーントーン・ウィチャイラック
美術:ラッチャーノン・カヤンガーン/ナワチャート・サンパオグン/キアディチャイ・キリスィー
録音:コンラット・ブラッドリー・スレーター
タイ伝統音楽:チャイパック・ブトラチンダ/コー・パイ/ナロンリット・トーサガー
音楽スコア:チャーチャイ・ポンプラパーパン
衣装:プラーオプルーン・タンミットジャルーン

キャスト

青年時代のソーン……アヌチット・サパンポン
ソーン師……アドゥン・ドゥンヤラット
チョート……アラティー・タンマハープラーン
クンイン……ナロンリット・卜一サガー
ウィラ大佐……ポンパット・ワチラバンジョン
テユート……プワリット・プンプアン
プラシット……スメット・オンアード

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