原題:the bow

2005年5月12日韓国公開

2005年/韓国/カラー/90分/ 配給:ハピネット・ピクチャーズ

2007年02月23日よりDVDリリース 2006年9月9日、Bunnkamuraル・シネマにてロードショー

公開初日 2006/09/09

配給会社名 0187

解説


広い海に浮かぶ船の上で、2人きりで暮らす老人と少女。10年前、老人がどこからともなく連れて来て、宝物のように大切に育ててきた少女が、もうすぐ17歳になる。その日が来たら、結婚式を挙げる──それは老人にとっては生きる目的であり、少女にとっては彼への愛と信頼の証だった。老人の船で海釣りを楽しむ客たちは、2人の関係を好奇の眼で見ていたが、2人にとって互いを想う気持ちは、空気のように自然で、太陽のごとく温かく、海のように深い、かけがえのないものだった。ところがある日突然、2人の世界に嵐が訪れる。少女が客の青年と淡い恋におちたのだ。楽園は、嫉妬と憎しみで荒れ果ててしまった。ついに青年の導きで少女が船を離れる朝、老人は思わぬ行動に出る。少女に命までも捧げようとする一途な姿に、真実の愛を見た少女は、老人の待つ船へ戻るのだが……。
 強い絆で結ばれた、永遠の愛にめぐり逢いたい──。それは、いつの時代もどこの国でも、誰かを愛さずには生きていけない私たち人間の、心からの願いではないだろうか。『弓』は、この人類永劫の切なる願いを叶えることができた、老人と少女のラブ・ストーリーである。2人の愛は、第3者の出現に一度は揺さぶられるが、その試練を乗り越えて永遠の絆を結ぶ。無骨な老人と無垢な少女という一見奇妙な組み合わせの2人が、真の愛を成就させた瞬間、神々しいまでの美しさを放つ。現実社会の常識や道徳から遠く離れ、魂と魂で契られた、むきだしの愛の美しさに、すべての人が胸を衝かれずにはいられないだろう。

 2004年、それはキム・ギドク監督の名前を世界に知らしめる年だった。『サマリア』でベルリン国際映画祭監督賞を、『うつせみ』でヴェネチア国際映画祭監督賞を受賞、同じ年に世界3大映画祭の監督賞2冠に輝くという、滅多にない快挙を成し遂げたのだ。韓国社会では何よりも教育が重視され、映画界も例外ではない。映画学校を卒業したわけでもなく、助監督の経験もないのに、“ギドク・ブランド”としか言いようのない独創的な世界を確立したギドク監督は、国内では異端児と恐れられた。やがて海外の映画祭で高く評価され、今や世界各国の観客がその最新作を心待ちにする監督となった。
 決して立ち止まらず、一作ごとに変化と挑戦を続けているギドク監督だが、彼が一貫して追い求めているテーマ、それは“至上の愛”である。ギドク監督は常に、様々な趣向を凝らした、どこか奇妙な設定を創造する。前作『うつせみ』で言えば、出逢って間もない男女が、見知らぬ人の留守宅を転々とする旅に出る。『弓』では、老人と少女が世間から切り離された海の上で暮らしている。ギドク作品を観る者は、物語の予想もつかない行方に心を奪われ、不思議な世界にのめりこんでいく。そして最後には、ギドク監督が渾身で描ききる“至上の愛”にたどり着く。かつて体験したことのない妖しい道のりは、神話のように美しい楽園に続いていたのだ。

 『弓』の全篇に漂い、観る者を魅了するのは、東洋の伝統文化に彩られた秘めやかなエロティシズムである。まず目を引くのは、タイトルでもある“弓”。シンプルなフォルムに巻きつけられた色とりどりのリボンが風になびく弓矢は、老人が外界から少女を守る武器となる。また、別の時にはヘグム(韓国二胡)に似た楽器になり、大空にこだまする典雅な音色が、言葉の代わりに愛を奏でる。さらにそれは“弓占い”の道具にもなる。老人は、海上に揺れるブランコを漕ぐ少女をかすめて、船体に描かれた神秘的な観音像に矢を放つ。この危険を伴う占いは、2人の信頼関係の証でもあるのだ。
 結婚式に向けて、老人が少しずつととのえていく婚礼衣装の優美さも見逃せない。たった一度しか身にまとわないのに、丹念に贅沢に織り上げられた衣装の数々。それは老人が生涯をかけて夢にみた、純粋な愛の象徴なのだ。
 しかし、何といっても心を揺さぶる美とエロティシズムのイコンは、少女の存在そのものである。この重要な役に抜擢されたのは、ギドク監督の『サマリア』にも出演したハン・ヨルム。無垢な幼女のようなあどけなさと、成熟した女性のエロティシズムの危ういバランスを、見事に演じきった。台詞が1つもない難しい役どころだが、老人への信頼と怒り、青年への恋心、そして愛とは何かを知った女の顔まで、すべてを全身の表情で現すことに成功した。彼女を得たギドク監督は、『春夏秋冬そして春』で極めた東洋美をさらに深化させ、唯一無二の愛の物語を誕生させた。

ストーリー

 広い海の上にぽつんと浮かぶ1隻の漁船と、寄り添うように揺れるボート。そこは老人と少女の2人だけの世界だった。どこからともなく少女を連れてきてから10年、老人は慈しむように大切に彼女を育ててきた。そしてついに3ヵ月後、老人の夢がかなう。彼女が17歳になったら、2人は結婚式を挙げるのだ。老人は1日の終わりにカレンダーに×印をつけ、その日を心待ちにしていた。
 まだ寝ている少女の朝食を作り、弓矢を改造した楽器で少女のためだけに音楽を奏で、夜にはタライで少女の体を清めて髪をくしけずり、2段ベッドの上下に分かれるとそっと手だけ握って眠る……。老人は少女のためだけに生きていた。

 楽園のごとき暮らしにも、先立つものが必要だ。老人はボートで釣り客を運び、漁船を海釣りに開放していた。客の中には、美しく成長した少女に手を出そうとする者もいた。そんな時、老人は弓矢で威嚇して少女を守るのだった。
 弓矢にはもう1つ役割があった。客の間で評判の高い“弓占い”だ。海の上に吊るされたブランコを漕ぐ少女をかすめて、船体に描かれた観音像に矢を放つ老人。客たちはひとつ間違えば命を落としかねない占い方法に驚くが、少女は艶然と微笑みながら、矢の位置で未来を読む。少女と老人は信頼の絆で結ばれているのだ。

 ある日突然、2人の穏やかな世界に嵐が吹き荒れる。少女が、釣り客の1人である大学生らしき青年に、ひと目で恋をしたのだ。青年もまた、天使のように無垢でありながら、誘い込むような妖しさも秘めた少女の微笑みに、たちまち心を奪われる。最初は青年の側にいたいという無邪気な願いにすぎなかったが、彼にもらったヘッドホン・ステレオを嫉妬に燃える老人に壊された時、少女の中で何かがはじける。彼女は自分を縛りつける老人に、初めて嫌悪と反発を覚える。
 数日後、再び青年が船にやって来る。老人は急速に燃え上がる2人の恋心を止めるため、青年を乱暴に追い返すしかなかった。

 それでも青年は、みたび船へ戻って来た。少女の家族が捜索願を出していることを調べた彼は、少女を家族の元へ返すつもりだった。怒りをあらわにする老人に、少女の未来を占うよう迫る青年。心が乱れ、手元が狂いそうになりながらも矢を放つ老人。占いの結果を聞いた青年は、少女を外の世界へ連れて行くと宣言する。
 翌朝、いざ老人と別れるとなると、淋しさがこみあげる少女を乗せて、ボートが船を離れていく。ところが、しばらくするとボートは止まってしまう。老人がボートにロープを結び、なんとその先を自分の首に巻きつけていたのだ。

 老人が苦痛に耐えられなくなったその時、異変に気付いた少女が船へ舞い戻る。老人のただならない想いを全身で感じ取った少女は、たとえ誰にも祝福されなくても、運命をも超える強い絆があることを知るのだった。
 老人と少女は、この日のために老人が少しずつととのえた優美な衣装をまとい、婚礼の儀式を行う。最後に老人は、少女をボートに寝かせると、弓を奏で始める。心に沁みる美しい音色に眠りに誘われる少女を、愛しげに見つめる老人。2人の上を平和で優しいひと時が流れていく。

──その時突然、老人は大空に矢を放ち、海の中へと消えていく。その思いがけない行動が、老人と少女を永遠の絆で結ぶことを、眠り続ける少女は、まだ知らない……。

スタッフ

監督:キム・ギドク

キャスト

チョン・ソンファン
ハン・ヨルム
ソ・ジソク
チョン・グクァン
キム・イクテ
チャン・デソン
チョ・ソギョン
コン・ユソク
ソ・ジェイク
シン・テッキ

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