原題:The Merchant of Venice

2004年12月29日全米公開

2004年/アメリカ・イタリア・オランダ・イギリス/130分/ 配給:アートポート、東京テアトル

2005年10月29日〜テアトルタイムズスクエアにてロードショー

公開初日 2005/10/29

配給会社名 0014

解説


シェイクスピアの書いた37の戯曲の中で最も人気が高く、日本でも最初に上演されたシェイクスピア劇として知られる『ヴェニスの商人』。ロマンチックなラブストリー、スリリングな法廷劇、そして人権と復讐、偏見と友情をめぐるヒューマンドラマの魅力も備えたこの作品を、大スクリーンの中に蘇らせることは、ハリウッドの映画人たちが長年にわたって抱き続けてきた見果てぬ夢だった。その夢の実現のために、アル・パチーノ、ジョセフ・ファインズ、ジェレミー・アイアンズといった当代最高の演技派スターが集結。実際のヴェネチアでロケを敢行するという贅沢なお膳立てのもと、至高のアンサンブル演技を楽しませてくれるのが、本作『ヴェニスの商人』だ。
 舞台は、貿易都市として栄えた16世紀末のヴェニス。アントーニオは、この街で貿易商を営む裕福な紳士。ある日、彼の元に、年下の親友バッサーニオが借金の申し込みにやって来る。ベルモントに住む才色兼備の令嬢ポーシャにプロポーズをするためだ。が、あいにく全財産が海を渡る船の上にあったアントーニオは、自らが保証人となり、バッサーニオにユダヤ人の高利貸しシャイロックを紹介する。そんなふたりにシャイロックが出した条件は、「もしも3カ月の期限までに借金が返せなかったら、アントーニオの肉1ポンドをもらう」というもの。常軌を逸した申し出にアントーニオはたじろぐが、期限内に船が帰還すると信じる彼は、この条件を承諾。おかげで、金を手にベルモントへ旅立ったバッサーニオは、難しい結婚の条件をクリアしてポーシャと結ばれる。そんなとき、アントーニオの輸入品を積んだ船が難破。借金返済の目処が立たなくなった彼と、約束どおり1ポンドの肉を要求するシャイロックの闘いは、法廷の場に持ち込まれることになる……。
 有名な人肉裁判がクライマックスを彩るドラマのなかで、異彩を放つ敵役のシャイロック。迫害される者の哀しみを背負った希代のキャラクターを、アカデミー賞に輝く名優アル・パチーノがいかに演じるかは、本作の最大の見どころだ。キリスト教徒に蔑まれ、不自由なゲットー暮らしを強いられるユダヤ人としての悲劇。最愛の娘ジェシカに裏切られた父親としての悲劇。二重の悲劇からもたらされる怒りと苦しみを全身にたぎらせ、リベンジへと駆り立てられていくシャイロックの心情を、パチーノはこのうえなくリアルに表現。負の感情しか持ち得なかったことから破滅へ追いやられていく人間の悲しさを、物の見事に演じきり、見る者に深い感慨を与える。
 そのパチーノに負けじと、作品の現代的なテーマを際だたせる自然な演技に冴えを見せるのは、ジョセフ・ファインズ、ジェレミー・アイアンズの2大英国スター。『恋におちたシェイクスピア』のシェイクスピア役で知られるファインズは、持ち前の美貌をいかし、軽薄だが純粋な心を持つ貴公子バッサーニオの魅力をいきいきと体現。いっぽう、英国有数のシェイクスピア俳優としても知られるアイアンズは、バッサーニオとの友情から窮地に陥っていくアントーニオの苦悩を抑制のきいたスタイルで表現し、『運命の逆転』のオスカー俳優の底力を見せつける。
 もうひとりの主役ポーシャに扮するのは、リーヴ・シュライバーと共演した『ハムレット』のステージでオフィーリアを演じ、批評家から絶賛を浴びた新星リン・コリンズ。ハンサムなバッサーニオに一目惚れしてしまうロマンチックな女性であると同時に、財産でも頭脳でも男性を遙かに上回るスーパー・ウーマンでもあるポーシャの役柄に、知性派の個性を開花させたコリンズは、21世紀の女性たちの共感と憧れをかきたてるポーシャ像を、見事に作り上げることに成功。ジョセフ・ファインズと共に、ゴールデン・サテライト賞の助演部門にノミネートされた。
 監督・脚本は、詩情溢れるヒューマンドラマの名作『イル・ポスティーノ』でアカデミー賞候補にあがったマイケル・ラドフォード。脚本執筆の過程でヴェニスに移り住むほどこのプロジェクトに情熱を傾けた彼は、ドラマ、キャラクター、ヴィジュアルのすべての面でリアルさを追求。シェイクスピアのオリジナルのセリフを忠実に踏襲しながらも、クローズアップや情景描写などの映像テクニックを通じて登場人物の内面に肉薄し、映画版ならではの臨場感に満ちた世界を作り上げている。
 そんなラドフォードのヴィジョンに手を貸すべく、スタッフには、ヨーロッパの気鋭の顔ぶれが集結した。ヴェニスの情景を官能的な色彩で捉えた撮影監督は、『青い夢の女』のブノワ・ドゥローム。ロケーションとセットを通じて、華麗にして猥雑なルネッサンスの空気を再現したプロダクション・デザインは、『ドライビングMissデイジー』でアカデミー賞候補にあがったブルーノ・ルベオ。衣装デザインは、本作で英アカデミー賞にノミネートされたサミー・シェルドン。音楽は、『アイズ ワイド シャット』の幻惑的なピアノの旋律で名をはせたジョスリン・プークが手がけている。

ストーリー


1596年のヴェニス。ヨーロッパの貿易の中枢として栄えたこの運河の街で、土地を持つことを許されないユダヤ人たちは、ゲットーの中に隔離される生活を余儀なくされ、金貸し業を営んでいた。シャイロック(アル・パチーノ)も、そんな金貸しのひとりだ。彼らが、キリスト教徒から迫害の対象にされたのは、宗教の違いに加え、高利で金を貸す行為がキリスト教の教えに反するとみなされたからだった。ユダヤ人を示す赤い帽子をかぶって出かけたゲットーの外で、キリスト教徒の暴行の恐怖にさらされるユダヤ人たち。シャイロックも例外ではなく、顔見知りの貿易商アントーニオ(ジェレミー・アイアンズ)から、顔にツバをはきかけられる屈辱を味わう。
 そんなアントーニオとシャイロックの力関係が逆転する日が訪れたのは、それからまもなくのことだ。原因を作ったのは、アントーニオの年下の親友バッサーニオ(ジョセフ・ファインズ)だった。放蕩生活で財産を使い果たしたバッサーニオは、ベルモントに住む美しい女相続人ポーシャ(リン・コリンズ)に求婚するための資金を借りようと、アントーニオの元へやって来た。が、アントーニオの全財産は、いまは船の積荷となって、世界中の海に散らばっている。そこでアントーニオは、自分が保証人となり、シャイロックから金を借りることを提案した。彼の書いた証文を携えて、さっそくシャイロックを訪ねて行くバッサーニオ。驚いたことに、シャイロックは、3000ダカットもの大金を無利子で貸すことを承諾した。ただし、それには条件があった。「3カ月の期限内に借金が返せなかったら、アントーニオの肉1ポンドを引き替えにもらう」というものだ。常軌を逸したシャイロックの申し出に、アントーニオはたじろぐが、積荷が期限内に戻ると信じる彼は、バッサーニオの幸せのために、この条件を承諾した。
 まもなくバッサーニオはベルモントへ出発。その一行の中には、バッサーニオの友人ロレンゾ(チャーリー・コックス)と駆け落ちしたシャイロックの娘ジェシカ(ズレイカ・ロビンソン)の姿もあった。彼女が、家の宝石類を持ち出したのを知り、怒り狂うシャイロック。娘と財産を同時に失った彼の慟哭は、ヴェニスの闇を突き、街中に轟き渡った。
 ベルモントで、バッサーニオたちは熱烈な歓迎を受けた。それまでの求婚者とは違う若くハンサムなバッサーニオに、ひと目惚れしたポーシャは、結婚の条件である箱選びの試練に挑戦するバッサーニオを、祈るような気持でみつめる。その思いが通じたのか、バッサーニオは正しい箱を選び、堂々とポーシャの夫となる資格を手にする。さらに、バッサーニオの仲間グラシアーノ(クリス・マーシャル)が、ポーシャの侍女ネリッサ(ヘザー・ゴールデンハーシュ)に求婚したことによって、一行の喜びは二倍にふくらんだ。
 だが、それもつかの間、バッサーニオの元にヴェニスからショッキングな知らせがもたらされる。アントーニオの荷を積んだ船がすべて難破。借金返済の目処がたたなくなったアントーニオは、約束どおり、肉1ポンドをシャイロックに支払わなければならなくなったのだ。その正当性を決する裁判が開かれることを知ったバッサーニオは、ポーシャと急いで結婚式をあげると、借金の2倍の額の金を携えて、ヴェニスへと戻った。
 裁判では、アントーニオが窮地に立たされていた。アントーニオに侮辱された過去の恨みに加え、娘の駆け落ちによってますますキリスト教徒への憎しみをつのらせたシャイロックは、公爵の「慈悲を」という言葉にも頑なに耳を貸さず、証文どおりにアントーニオの肉1ポンドをもらうと言って譲らない。バッサーニオが差し出した2倍の金も、彼ははねつけた。と、そこにベラーリオ博士の推薦状を携えた若い法学博士が到着。裁判は、彼の手に委ねられることになった。博士の冷静な尋問が進む中、依然として意固地な態度を変えないシャイロックと、「もはやこれまで」と覚悟を決めるアントーニオ。そしてついに、アントーニオの肉が切り取られようとしたとき、博士の言い放った一言がすべてを変えた。「切り取る肉は正確に1ポンド、一滴たりとも血を流してはいけない」。それが、自ら求めた「法による公正な裁き」の結果だとわかり、シャイロックは愕然。あわててバッサーニオの金を受け取ろうとするが、時すでに遅し。全財産の没収とキリスト教徒への改宗という判決にうちのめされた彼は、よろめくような足取りで法廷を立ち去った。
 いっぽう、土壇場での逆転劇を喜んだバッサーニオは、博士に謝礼がしたいと申し出る。そんな彼に博士が求めたのは、ポーシャと婚約するさい、「ぜったいに外さない」と誓った愛の記念の指輪だった。バッサーニオは、なんとか指輪を手放すまいとするが、結局は博士の言葉に負け、指輪を贈ってしまう。
 アントーニオを伴ってベルモントへ戻ったバッサーニオを待ち受けていたのは、例の指輪に対するポーシャの厳しい追求だった。指輪を男に贈ったというバッサーニオの言葉を、信じようとしないポーシャ。しかし、それは彼女のイタズラだった。ポーシャは、例の指輪をバッサーニオに返すと、自分が男装して博士を演じていたことを打ち明ける。同じように、博士の助手に変装してグラシアーノから指輪を取り上げたネリッサも、夫に指輪を返し、すべては丸くおさまった。
 こうして、2組のカップルは幸せなまどろみの中へ。そのころ、ベルモントの浜辺には、何もかも失った父シャイロックに思いを馳せるジェシカの姿があった。

スタッフ

監督:マイケル・ラドフォード
製作:ケイリー・ブロコウ、マイケル・コーワン、バリー・ナヴィディ、ジェイソン・ピエット
製作総指揮:エドウィジュ・フェネシュ、ゲイリー・ハミルトン、マイケル・ハマー
製作:ピーター・ジェームズ、ロバート・ジョーンズ、ピート・マッギー、
   アレックス・マーシャル、ジェームズ・シンプソン、マフレッド・ワイルド
原作:ウィリアム・シェイクスピア
脚本:マイケル・ラドフォード
撮影:ブノワ・ドゥローム
編集:スチア・ズケッティ
音楽:ジョスリン・プーク

キャスト

アル・パチーノ
ジェレミー・アイアンズ
ジョセフ・ファインズ
リン・コリンズ
ズレイカ・ロビンソン
クリス・マーシャル
チャーリー・コックス
マッケンジー・クルック
ヘザー・ゴールデンハーシュ
ジョン・セッションズ
グレゴール・フィッシャー
ロン・クック
アラン・コーデュナー
アントン・ロジャース
デヴィッド・ヘアウッド

LINK

□公式サイト
□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す