原題:Dopo mezzanotte

時計の針が真夜中を廻るとき、 この街に魔法がかかり、夢の物語は始まる……

イタリア映画際2005上映作品::http://www.asahi.com/event/it05/

2004年/イタリア/93分/ドルビーデジタル/1:1.85 配給:クレストインターナショナル

2007年04月25日よりDVDリリース 2006年2006年9月2日より、Bunkamuraル・シネマにて輝きのロードショー! イタリア映画際2005にて題名「真夜中を過ぎて」にて上映

公開初日 2005/04/29

公開終了日 2005/05/04

配給会社名 0467

解説


時計の針が真夜中を廻るとき、この街に魔法がかかり、夢の物語は始まる…

 イタリア映画発祥の地であるトリノの象徴、モーレ・アントネッリアーナの中にある国立シネマ・ミュージアム。映画の父リュミエール兄弟の作品からハリウッド作品まで古今東西の映画のフィルムや資料、セットが仕掛けたっぷりに展示され、さながら多くの映画人たちが残した人生を映すメリーゴーランドのようだ。このもうひとつの隠れた主役とも呼べる夢のような場所を舞台に、浮遊感をたたえながら紡がれていく愛の寓話、それが『トリノ、24時からの恋人たち』。
 シネマ・ミュージアムで夜警をしているマルティーノは孤独で夢想癖があり、ハンバーガーショップで働くアマンダに秘かに思いを寄せている。アマンダの恋人のアンジェロは、高級車を盗んでは売り飛ばす常習犯で、マルティーノとは対照的に、強引で、押しが強く、男性的な魅力にあふれている。このタイプの全く違う3人の人生が、映画の世界に迷い込んでしまったように絡み合っていく。
 バスター・キートン、フェデリコ・フェリーニ、フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール…。登場する夥しい映画への憧れと、映画への愛。さらに3人の男女が秘めている夢、そしてとりわけトリノという街への愛——。さまざまな愛と夢を、監督ダヴィデ・フェラーリオの映像の魔術はみずみずしく描き出し、主人公3人と、そして私たちにかつてあった人生への賛歌をふたたび思い起こさせてくれる。
イタリア本国で多くの支持を受け記録的な大ヒットとなり、もうひとつの『ニューシネマ・パラダイス』の誕生と絶賛された作品が、いよいよ公開となる。

映画へのオマージュを捧げた映画の誕生

 イタリア映画には、エットーレ・スコラの『あんなに愛し合ったのに』、ジュゼッペ・トルナトーレの『ニューシネマ・パラダイス』のような黄金時代の映画へのオマージュを捧げた秀作の系譜がある。そこにまた、新たに珠玉の一本として『トリノ、24時からの恋人たち』加わった。時にさりげなく、時に熱をこめて、映画ファンへのめくばせともとれるような、さまざまな映画が引用され、さながら<引用の織物>とも呼びうる傑作に仕上がっている。そこには、映画へのオマージュというだけにとどまらない、人生の機微が浮かびあがってくる。
映画は、『息子の部屋』などに出演したイタリアの名優シルビオ・オルランドの、「物語の生まれる場所は? 行く先は? それは空中の塵のごとく風に舞い、睦みあって、そして姿を消してしまう」という美しいナレーションと共に、夢とも現ともつかない<語り口>で、ファンタスティックな世界へと見る者を一気に引きこんでいく。

バスター・キートンから『突然炎のごとく』まで

 この作品では、サイレント時代に活用されたアイリス・イン(瞳孔が次第に開いていくかのように、暗い画面の中心から映像が円形に明るくなっていく技法)、アイリス・アウト(瞳孔が次第に閉じていくかのように映像が画面の周囲からだんだん円形に小さくなって消えていく技法)が意識的に使われている。とくに、マルティーノが心酔している<笑わない天才コメディアン>バスター・キートンの傑作短篇『キートンのマイホーム』『キートンのスケアクロウ』の場面が効果的に挿入される。
フランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』もさりげなく引用されている。トリュフォーも、アイリス・イン、アイリス・アウトやコマ落としなどのサイレント映画の技法を積極的に活用した監督であることは知られている。トリュフォーやゴダールたちが牽引した<ヌーヴェル・ヴァーグ>の運動は、映画の古典を再発見することによって、映画史に新たな一頁を切り開いたが、ダヴィデ・フェラーリオ監督は、低予算、少数スタッフ、ノースターという<ヌーヴェル・ヴァーグ>の映画づくりにオマージュを捧げることによって、ふたたび自らの映画的初心を確認したのである。

ストーリー


 イタリア、トリノの映画博物館=モーレ・アントネッリアーナ。ここで夜警をし、暮らしているマルティーノは、映画の中で生きているような男。ところが、ある事件をきっかけとして現実から飛び込んできた一人の女とその恋人によって、そのメリーゴーランドのような夢の生活は思わぬ方向へと廻り始めていく。 
マルティーノ(ジョルジョ・パゾッティ)はモーレの使われていない小部屋を自分の住処とし、さながらバスター・キートンの映画のセットのような内装のなかで、夜は夜警の傍らにフィルムを回し、昼は古びたカメラを持ってトリノの街を写し取っている。生身の人間とかかわることはほとんどない。

 アマンダ(フランチェスカ・イナウディ)はちいさなハンバーガーショップで働いている。しかしマネージャーとの折り合いも悪く、今日も深夜24時の終業時間をめぐって言い争いをしたばかりだ。先の見えない仕事に苛立ち、このままこの街で自分の夢も沈んでしまうのではないかと落ち込む日々。恋人のアンジェロ(ファビオ・トロイアーノ)がバイクで店に迎えに来てくれるときだけが楽しみだ。

 しかしそんな二人の関係も、決してアマンダの満足のいくものではなかった。アンジェロは車泥棒を稼業としているため、深夜が彼の活動の時間帯。わずかな時間をアマンダと過ごすと、そそくさと部屋を出て行ってしまう。それに本当に仕事のために出て行くのかすら、彼女には確証がもてない。アマンダのルームメート、バルバラ(フランチェスカ・ピコッツァ)だって、アンジェロを狙っているのだから。

 月明かりが美しいある真夜中…。アマンダは今夜もマネージャーと言い争っていた。そして怒りが沸点に達した彼女は、油をマネージャーの下半身にぶちまける。警察に通報され、思わず逃げこんだ場所が近くのモーレだった。事情の説明もなしに、あっさりアマンダを受け入れるマルティーノ。それがふたりの、奇妙な生活の始まりだった。まるで映画のセットの中で俳優たちが演じる物語のような…。

彼女とどう距離をとっていいかとまどっているマルティーノにアマンダはいらだちながらも、アンジェロにない控えめさに惹かれていく。触れ合えそうで触れ合えない、どこかもどかしくも心ときめく時間が、外の喧騒とは別に流れて行く。一方では、警察の捜査がアンジェロにまで及んでいた。

 ある夜、ようやく少し打ち解けてきたマルティーノは、アマンダに自分が撮影したフィルムを見せようという。そこにはトリノの街が、過去の映画へのオマージュのように映されていた。やがてそれは少しずつ様相を変え、アマンダが映し出されていく。それもモーレに迷い込む前のアマンダが。フィルムは彼女自身が忘れかけていたような感情まで映しとっていた。マルティーノが長い間、ハンバーガーショップの顧客だったことさえ、その時まで気づかなかった。それまでのささやかなマルティーノの思いが、やがてアマンダの心を満たしていく。そしてふたりはベッドをともにするのだった。

 しかし時間は、彼らのそんな想いとは別に進んでいく。アンジェロがハンバーガーショップのマネージャーに無理矢理、警察への告訴を取り下げるよう迫ったため、アマンダは無事自宅へ帰れることになったのだ。後ろ髪を引かれる想いをしながらも、モーレを後にするアマンダ。同時に、何事もなかったかのようにアンジェロとの生活に戻ることの違和感も感じていた。

 一方、マルティーノのアマンダへの想いは、日々募るばかりだった。その強い想いは、アンジェロに果たし状をつきつけるという行為に及ぶ。しかしアンジェロは冷静に、どうするかはアマンダの意思にまかせようとマルティーノに提案する。そしてアマンダの答えは、どちらも選ばない、だった。
 3人の複雑な想いが交差した恋愛関係が始まった。それは片方のバランスが決して崩れてはならない、繊細な関係でもあった。しかし、生身の感情を知ってしまったマルティーノは、そのバランスを保つことはできない。映画の世界から、現実の世界の感情に触れることの喜びを知った彼は、長年勤めてきたモーレの夜警を辞める決心をし、そしてアマンダと暮らしたい、という思いをぶつける。保たれていたバランスは、人間関係に無垢であるがゆえにその強さをもったマルティーノによって壊され、その強さに惹かれてしまったアマンダの想いまでも決定づける。

 ふたりの想いを敏感に感じ取ったアンジェロは、冷静に身を引いていく。アンジェロに想いを寄せるバルバラを旅に誘うこともするが、それが彼の本望ではない。整っていた世界は、少しずつほころびを見せ始める。そしてやがて、トリノの夜は彼を無常に飲み込んでいくのだった…。

 トリノに散ったアンジェロ。そして生きていくアマンダとマルティーノ。生きていくことを選んだふたりに、人生は厳しくもやさしくつつみ込んでいく。

スタッフ

監督:ダヴィデ・フェラーリオ
語り手:シルビオ・オルランド
音楽:バンダ・イオニカ、ダニエル・セーペ

キャスト

ジョルジョ・パゾッティ
フランチェスカ・イナウディ
ファビオ・トロイアーノ

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