原題:CRONICAS

2005年5月27日全米公開

2004/メキシコ・エクアドル/カラー/98分/SRD/ビスタサイズ/字幕:松浦美奈 配給:東北新社

2006年09月22日よりDVDリリース 2006年1月21日、VIRGIN TOHO CINEMAS六本木ヒルズにてロードショー

公開初日 2006/01/21

配給会社名 0051

解説


またひとつ、南米から恐るべき映画が誕生した。
カンヌ、サンダンスで熱い注目を浴びた『タブロイド』(原題:クロニカス=記録、記事、年代記)は現実に起きた殺人事件にインスパイアされた物語。TVレポーターの目を通して、人間がもつ悪魔的な二面性に鋭く切り込むサスペンスフルなドラマである。

連続殺人犯を追ってマイアミからエクアドル入りしたタブロイド番組の人気レポーター、マノロ・ボニーラ。そのTVクルーの目の前で無実の罪を着せられて投獄された男、ビニシオ・セペダ。
ふたりの間で、その〈取り引き〉は静かに始まった。
〈番組の力で冤罪を晴らして欲しい。見返りに誰も知らない連続殺人犯の情報を教えよう〉
この、ごく平凡で家族思いの男は殺人鬼かもしれない……そんなかすかな不安を抱きながら、マノロはスクープ欲にとり憑かれ、〈取り引き〉に応じてしまう。
インタビューという名の壮絶な心理戦の果て、
衝撃の事実がマノロたちをのみこんでいく───!!!

『シティ・オブ・ゴット』を超える濃厚なドラマを備え、『羊たちの沈黙』に並ぶ緊張感に満ちた衝撃のサスペンス。『天国の口、終りの楽園。』の鬼才アルフォンソ・キュアロンが発掘した若き才能、セバスチャン・コルデロ監督による野心的な一作だ。

ガラパゴス諸島に代表される豊かな大自然を有する一方、1.4時間に1人が命を狙われ(未遂含む)、殺人犯検挙率13.5%という過酷な社会問題を抱えた地、南米・エクアドル。経度・緯度0度の赤道直下に位置する楽園でありながら、明るい未来を描くことを許さない厳しい現実が横たわり、先の見えない貧困と終わりなき暴力が横行する国–シャープな映像作家、セバスチャン・コルデロを生んだのはそんな地だった。やがてコルデロは、犯罪の奥に隠された衝動を描いた長編デビュー作『Ratas, ratones, rateros』(99)でいきなり注目を集め、ヴェネツィア映画祭ほか50以上もの映画祭で上映されるという快挙を果たす。続く二作目となる『タブロイド』は、サンダンス・NHK国際映像作家賞のラテンアメリカ部門で最優秀脚本賞を受賞。完成した作品はカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に選出され、サン・セバスチャン国際映画祭で特別賞受賞、グァダラハラ国際映画祭最優秀作品賞&主演男優賞を受賞した。すでに国際的なレベルで、クリエーターとしての彼の野心は存分に満たされたといえる。

そんなコルデロ監督が選んだのは名前だけが一人歩きをした空虚なスターではなく、確かな実力を備えたいずれ劣らぬ本格派ばかり。マイアミの人気TVレポーター、マノロに扮するジョン・レグイザモ。二コール・キッドマンと共演した『ムーラン・ルージュ』(01)、ジョージ・A・ロメロ監督の『ランド・オブ・ザ・デッド』(05)などで、強烈なキャラをつくりあげたクセ者俳優だ。
そんな彼が「アル・パチーノ級の名優」と呼ぶのが、謎の男ビニシオを演じるダミアン・アルカザール。聖書の販売で家族を養う心優しき家庭人にして、他人の不幸を心から気遣う常識人。一方で底知れない闇を抱え、その闇こそが役柄に強烈な魅力を与える。そんな複雑なキャラクターを、ダミアンはさすがの説得力で演じている。
マノロとチームを組むTVクルーの紅一点、マリサを演じるのはレオノール・ワトリングだ。ペドロ・アルモドバル監督の傑作『トーク・トゥ・ハー』(02)、サラ・ポーリー主演の感動作『死ぬまでにしたい10のこと』(03)など、良質作に立て続けに出演する実力派。〈取り引き〉のプレッシャーに押しつぶされそうになるマノロをサポートし、夫を持つ身ながら彼に心惹かれていくマリサにリアルな存在感を与える。

そうして彼らがつむぐのは人間の業を巡る物語。TVカメラには決して映らない心の闇を描き、善良な一般人も冷酷な殺人鬼も、一面的な存在ではないことをありありと感じさせる。殺人鬼は血も涙もない加害者としてだけ存在するのか、絶望的な社会の被害者なのか。TVレポーターは世のため人のため、危険を顧みずに犯人を追う現代のヒーローか。それとも名声のためにひたすらスクープを欲し、それを手に入れるためには手段を選ばない鬼畜なのか。すべての答えは、映画の中にある!

ストーリー



子供ばかりを狙う連続殺人鬼”モンスター”を追って、エクアドルのババオヨに降り立ったマイアミのタブロイド番組の人気レポーター・マノロ(ジョン・レグイザモ)。ドキュメンタリー番組「真実の1時間」のTVクルーは”モンスター”に殺害された少年の葬儀を取材していた。葬儀の終了後、マノロとプロデューサーのマリサ(レオノール・ワトリング)は、被害者の双子の弟に取材を試みるが、急に駆け出したその少年はトラックの前に飛び出してしまう。トラックを運転していた聖書販売員ビニシオ(ダミアン・アルカザール)は、葬儀に参列していた息子と同級生達を家まで送る途中だった。少年を助け出す為にトラックを動かそうとするビニシオを、逃げると勘違いした村の男たちが騒ぎ出し、一気に集団リンチへと発展してしまう。ビニシオに弁明する隙も与えず、怒り狂った被害者の父親は、ビニシオに灯油をかけ、火をつけようとする。
「パパが殺される!」ビニシオの息子は身重の母を呼んでくるが、殺気立つ人垣で中まで辿り着けない。警察も同様に集団リンチを目の前に成すすべもなく立ち尽くしていた。ビニシオに火がつけられた時、マノロが人を掻き分け割って入る。「何をしてるんだ! 母親と子供を通してやれ!」火が消され、夫を抱きかかえる妻と、母にすがる息子。その映像がマノロのスクープとして、「真実の1時間」で放送される。期せずしてマノロはババオヨのヒーローになってしまうが、捜査の指揮を執るロハス警部(カミロ・ルツリアーガ)だけは「無駄に恐怖心を煽り立てている」とマノロ達の番組に批判的な目を向けていた。

翌日、息子ふたりを”モンスター”と交通事故に奪われた不幸な父親を取材するために留置場を訪れたマノロに、ビニシオが話しかけてくる。彼もまた事故の過失を問われて拘束されていたのだ。「私をここから出して欲しい。あなたの番組ならそれができる」と懇願、断るマノロに食い下がり、マノロ達が追っている”モンスター”に関するある情報を耳打ちする。

その夜、半信半疑のままビニシオの指示した場所を掘り起こしたマノロとカメラマンのイバン(ホセ・マリア・ヤズピック)は、警察が見過ごしていた少女の遺体を発見する。しかし、二人は遺体をまた土に埋め戻してしまう。捜査に協力するよりも、自分たちの番組でスクープをものにする道を選んだのだ。その夜、表向きは自信にあふれていても動揺を隠せないマノロはすがるようにマリサを抱いてしまう。

翌日、次の取材地、コロンビアへ行けという局の指示に逆らい、マノロたちは留置場のビニシオを訪ねる。ビニシオは面会に来ていた妻に、自分に火をつけた少年の父親への告訴を取り下げるよう頼んでいた。息子ふたりを失い失意の底にいる男に、これ以上辛い思いはさせたくなかったのだ。

〈番組の力で冤罪を晴らして欲しい。見返りに誰も知らない連続殺人犯”モンスター”の情報を話す〉という取り引きが成立したのだ。
ついにマノロとビニシオの〈取り引き〉という名のインタビューが始まった。
「聖書を売って旅をする途中で出会った」と”モンスター”との出会いを静かに語りはじめるビニシオ。「顔は思い出せない。信用できる感じだった」、「彼は自分でも動機がわからず苦しんでいた……」。マノロはその温和な外見からは想像できない、闇の顔を感じ取り、実は彼が”モンスター”本人では!? と疑いを抱きながら取材をすすめていく。

ビニシオは信心深く、近所でも職場でも評判のいい男だった。知り合って1年半だという妻は、前夫との息子を愛する夫を心から信頼し、息子も実の父のようにビニシオを慕っていた。
その頃、妻は禁酒を誓ったはずのビニシオのトラックから酒の空き瓶と、見知らぬ子供の服を見つける。”モンスター”関連のTVニュースで「行方不明の少年が着ていた」と報じられたその赤い格子柄のシャツと酒の空き瓶を、妻は密かに捨ててしまう。

ほどなく交通事故の無罪を晴らすVTRが完成、その夜オンエアーを迎えるというときに、マリサはビニシオの業務日誌からある事実を突き止める。一方、”モンスター”と疑いを深めながら、自白させようとプロの巧みなインタビューで追い詰めるマノロだが、いつの間にか彼自身が追い詰められていた。微塵も正体を現そうとしないビニシオに業を煮やしたマノロは、少女の遺体のことをロハス警部に通報する。逆に情報の出所を執拗に調べられ行動を監視されるマノロたち。
そして事故に関する”真実”を伝えたはずのTV番組が、マノロたちを逃げ場のない闇に引きずりこもうとしていた……。

スタッフ

監督・脚本:セバスチャン・コルデロ
プロデューサー:アルフォンソ・キュアロン
撮影:エンリケ・シャディアック
美術:エウジェニオ・キャバレロ
音楽:アントニオ・ピント
編集:ルイス・キャルバラ
衣装:モニカ・ルイジグラ

キャスト

マノロ:ジョン・レグイザモ
マリサ:レオノール・ワトリング
ビニシオ:ダミアン・アルカザール
イバン:ホセ・マリア・ヤズピック
ロハス警部:カミロ・ルツリアーガ

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