原題:the sea inside

ゴールデン・グローブ賞 最優秀外国語映画賞受賞 ベネチア映画祭2004主要3部門受賞(審査委員賞・最優秀男優賞・外国映画賞) ナショナル・ボード・オブ・レビュー外国語映画賞受賞

2004年9月3日スペイン公開

2004年/125分/カラー作品/スペイン・フランス合作映画/ ドルビーデジタルSRD・SDDS/全7巻/3.446m/スコープサイズ/字幕翻訳:松浦美奈/ 提供:ポニーキャニオン、東宝東和、テレビ東京、カルチュア・パブリッシャーズ/ 配給:東宝東和

2005年10月05日よりDVDリリース 2005年4月16日、日比谷シャンテ・シネにてロードショー

公開初日 2005/04/16

配給会社名 0002

解説



2004年のベネチア映画祭で絶賛の拍手を浴び、審査員特別賞、主演男優賞、ヤング・シネマ賞(外国語映画賞)の3賞を受賞。その後、ナショナル・ボード・オブ・レビューの外国語映画賞、ヨーロッパ映画賞の監督賞と主演男優賞を受賞したほか、ゴールデン・グローブ賞でも2部門にノミネート。スペイン映画でありながら、アカデミー賞最有力の呼び声も高い、本年度屈指の話題作が登場した。

ハリウッド・デビュー作の『アザーズ』で世界的な巨匠の座に就いたアレハンドロ・アメナーバル監督が、本国スペインに戻って作り上げた『海を飛ぶ夢』。ラモン・サンペドロの手記”LETTERS FROM HELL”を映画化した本作は、四肢麻痺の障害を負った主人公が、魂の解放を求めて繰り広げる闘いを描いた真実のドラマ。主人公ラモンに扮したハビエル・バルデムの圧倒的な名演によって浮かび上がる生と死、愛と救済のテーマが、見る者の心に深く染みわたる珠玉の感動作である。

19歳でノルウェー船のクルーとなり、世界中の国々を旅してまわったラモン・サンペドロ。彼にとって海は、世界へ向けて開かれた広大な扉だった。だが6年後、皮肉にも同じ海で起きた事故により、ラモンは肉体の自由を完全に奪い取られてしまう。部屋の窓から意識だけを外の世界へ飛ばし、ベッドで寝たきりの生活を送る日々。それを28年間続けた末、ラモンはついにひとつの決断を下す。それは、自ら死を選び取ることによって、生の自由を獲得するという決断だった……。

「他人の助けに頼って生きるしか方法がないと、自然に覚えるんだ。涙を隠す方法を」常に微笑みを浮かべている理由を問われ、こう答えるラモンは、穏やかさと優しさとユーモアで、周囲の人々を温かく包み込む知的でチャーミングな人物だった。そんな彼の内面に奥深く分け入っていくドラマは、死に解放と救いを求め自身の生の意味を求めるラモンの姿を通して、「生きるとは何か?」という問題を提起。同時に、彼を心から愛する人々が繰り広げる葛藤を、共感あふれるタッチで描き出していく。

ラモンの法廷闘争を支援する過程で、自らも不治の病に倒れたことから、死を希求する思いでラモンと強く結ばれていく女性弁護士のフリア。生の価値を伝えようとして接触したラモンに激しい恋愛感情を抱き、自らの愛を成就させる道を模索する村の女ロサ。そして、ラモンを実の息子のように愛するがゆえに、彼の死の決意を尊重しようと考える義姉のマヌエラ。魂、感情、母性。それぞれの愛し方で、ラモンの人生と深く関わっていく3人の女性たち。さらに、息子を失う悲しみをひとりで耐え抜く父、弟を死なせまいと激しく抵抗する兄、純粋にラモンを慕う甥など、人々の錯綜する思いが細やかに描かれ、熱く胸を揺り動かす。

もしも愛する人の死に直面したとき、自分なら誰の立場に立って彼を見守るだろう? そう考えずにはいられないドラマチックな物語は、絶望ではなく救い、終焉ではなく解放の意味を帯びた死と、それを取り巻く多様な愛の形をさまざまな角度から見据え、いつまでも心に残り続ける深く静かな感慨を掻き立てる。

ストーリー



ラモン・サンペドロ(ハビエル・バルデム)にとって、生きることは自由を謳歌することだった。太陽の光に照らされ、青くまばゆくきらめく故郷ラ・コルーニャの海。その海を渡り、世界中を旅してまわった青春時代。だが、その輝かしい日々は、25歳の夏の日に唐突に終わりを告げる。

1968年8月23日、岩場から引き潮の海へダイブしたラモンは、海底で頭を強打し、首から下が不随の身となってしまう。それ以来、実家のベッドの上だけが、ラモンの生きる世界となった。そんな彼を、献身的に支える家族たち。兄のホセ(セルソ・ブガーリョ)は、一家の生活を支えるために農場で懸命に働き、ホセの妻マヌエラ(マベル・リベラ)は、母親のような愛情を持ってラモンの面倒をみた。そして、父のホアキン(ホアン・ダルマウ)と甥のハビ(タマル・ノバス)は、詩を愛するラモンのために、口で支えたペンで文字を綴ることができる手製の機械を作り上げた。強い絆を持つ家族たちとの暮らしの中で、心穏やかに過ごす術を身につけていくラモン。しかし、あの事故の日以来、彼の胸には、常にひとつの疑問が渦巻いていた。「自分は何のために生きるのか?」そして、事故から26年目を迎えた時、ラモンはひとつの結論に達する。自らの選択によって人生に終止符を打つことが、自分にとって最も尊厳のある生き方ではないか、と。

最初にラモンが接触したのは、尊厳死を法的に支援する団体のジュネ(クララ・セグラ)という女性だった。ラモンの決断を重いものとして受け止めた彼女は、自分ひとりでは望みを遂げられないラモンの死を合法的なものにするために、弁護士フリア(ベレン・ルエダ)の援助を仰ぐ。

フリアが、助手のマルク(フランセスク・ガリード)とともにラモンの元を訪れたのは、ラ・コルーニャに冬の嵐が吹き荒れた2月のことだった。「死は誰にでもいつかは訪れる。なぜ死を恐れる? 感染しないのに」そう言って優しく微笑むラモンの人柄に、深い感銘を受けるフリア。2年前に不治の病を宣告された彼女にとって、生と死を真正面から見据え、明晰に語るラモンの言葉は、強く心に響いた。

そしてもうひとり、ラモンの存在に心を動かされた女性がいた。TVで放映された彼のドキュメンタリーを見て、会いにやって来たロサ(ロラ・ドゥエニャス)だ。近郊のボイロの工場に勤めながら、ふたりの子供を育てている彼女は、「逃げてはダメ。人生は生きる価値があるわ」と言い、ラモンに死の決意を翻させようとする。そんな彼女に、「君は挫折感に満ちた女で、人生の意義を見出すためにここへ来た」と言い放つラモン。たまらずその場から逃げ出したロサだったが、ふと我に返ったとき、彼女は、ラモンが初対面の自分と率直に向き合ってくれたことに気づく。「もう二度と、彼の選択を批判しない」という約束のもと、ラモンと仲直りをしたロサは、それからたびたび彼の元を訪れては、日常的な悩み事を相談するようになった。

一方、尊厳死を求める闘いの準備を進めるフリアも、ラモンの家を再訪、事故に遭う前から現在にいたるまでの彼の人生を、より深く知ろうとインタビューを重ねる。その時間を通じて、男としての自分が、フリアに強く惹かれていくのを感じるラモン。意識を窓の外に馳せ、肉体の自由を得た彼は、海岸を散歩するフリアを追いかけて空を飛び、彼女と唇を重ねた。

フリアが発作で倒れる出来事が起きたのは、彼女がラモンに、書きためていた詩を出版するように勧めた直後のことだった。病院に見舞いにやってきたジュネに、フリアは、治療法のない病への不安と絶望をぶちまける。そんな彼女を、「恐れに流されないで」と諫めたジュネは、ラモンから預かってきた手紙を手渡した。そこに書かれていたのは、紛れもない愛の告白だった。「同じ状況にいる者だけが、この地獄を理解してくれる。でも君に会って、この地獄に生きる意味を見出した」さらに、「著作の出版に向けて、詩や文の手直しを始めた。君に戻って手伝ってほしい」と続くラモンの言葉に、生きる目的と希望を見出したフリアは、苦痛の伴うリハビリに懸命に打ち込む。

そのフリアに代わり、ラモンの尊厳死を求める闘いは、恋人同士になったジュネとマルクが引き継いだ。が、バルセロナの法廷に提出していた訴えには、却下の裁定が下されてしまう。そのニュースを報じるTVでは、ラモンと同じ障害を負った神父が、「ラモンが死を望むのは、家族に愛情がないからだ」とコメント。それを聞いた家族たちは、激しいショックを受ける。後日、ラモンを説得しようと訪ねてきた神父に、マヌエラは、これまで抑えてきた思いの丈をぶつけた。「あなたがTVで言ったことは、一生忘れない。義弟は愛情に包まれて暮らしている。私は彼を息子のように愛しています」と。

やがてめぐってきたクリスマスの季節。ラモンの家に、妊娠7カ月目を迎えたジュネとマルクが訪ねてきた。ジュネの大きなお腹に耳を押し当て、命の成長に顔をほころばせるラモン。そんな彼を喜ばせる出来事が、もうひとつ。車椅子に乗って、フリアが戻ってきたのだ。そのままラモンの家に滞在し、著作を完成させる作業と取り組み始めたフリアは、いまやはっきりと、ラモンと自分が分かちがたい絆で結ばれているのを感じた。ラモンの夢想が現実になったのは口づけを交わした後、フリアはラモンに言う。「私もいつか植物状態になる。だからそうなる前に命を絶つと決心したの。その前に、あなたが望むなら楽にしてあげる。一緒に旅立ちましょう」思いがけない申し出に、感激の涙を浮かべるラモン。ふたりは、ラモンの著作の初版が出版される日を、その旅立ちの日と決めた。

死に手を貸してくれる人がみつかったことは、ラモンが裁判で闘う必要がなくなったことを意味していた。しかし、「いつか後に続く人のためになる」というマヌエラの言葉に心を動かされたラモンは、あれほど嫌っていた車椅子に乗り、地元ラ・コルーニャの法廷に出かけていこうと決意する。法廷では、マルクが生死の権利と自由について力強く語り、裁判官にラモンの発言の機会を求めた。しかし裁判官は、その申し出を却下。さらに、現行の法律では、死を幇助する者は罪に問われるという裁定が下る。

しかし、ラモンには、その裁定以上にショッキングなことがあった。フリアが持ってくるはずの初版本が、郵送の形で届けられたのだ。同封の手紙から、フリアが夫の説得によって死の決意を翻したのを知り、驚きと失望にかられるラモン。その夜、彼は家中に轟きわたるような声で号泣した。「なぜ、みんなのように人生に満足できない? なぜ、ぼくは死にたいんだ?」という叫びをあげながら。

ロサから電話があったのは、その翌日のことだった。ラモンを訪ねてきた彼女は、彼をまっすぐに見据えながら、「手を貸してほしい?」と尋ねる。ロサにとってのラモンは、世界中でただひとり、自分の言葉に耳を傾けてくれる人 ─ 優しく自分を包み込み、生きる力を与えてくれる人だった。ラモンに正真正銘の恋愛感情を抱いていた彼女は、いつまでも彼に自分のそばに居て欲しいと願っていた。が、あの裁判の日、「僕を本当に愛しているのは、死なせてくれる人だ」とラモンに告げられた彼女は、ラモンの望みをかなえることで、自分自身の愛をまっとうする道を選んだのだ。

旅立ちの場所は、ロサの住むボイロの海の見える部屋。車椅子に乗ったラモンが車に乗って出発する時、別れを告げる家族たちの心は揺れ動いた。息子を失う悲しみをじっと耐える父。最後の瞬間まで、死の選択に反対し続ける兄。涙をこらえ、必死で笑顔を浮かべようとするマヌエラ。そして、去っていく車の後を、ハビはどこまでも追いかけた。

やがて車はボイロに到着。はれやかな笑顔で出迎えたロサに導かれて室内に入ったラモンは、海に向かって大きく開かれた窓辺に座り、人生で最後の夕陽を眺める。「死後、私にサインを送って」と言うロサに、「僕は君の夢の中にいる」と答えるラモン。

そして訪れた旅立ちの時。自分の死に手を貸した人々が罪に問われないよう、ビデオに告白をおさめたラモンは、薬が体内に広がるのと同時に、自分の魂が解き放たれていくのを感じた。今、彼の思いは還っていく。あの青くきらめく海に向かって……。

スタッフ

監督:アレハンドロ・アメナーバル
製作:フェルナンド・ボバイラ、アレハンドロ・アメナーバル
脚本:アレハンドロ・アメナーバル、マテオ・ヒル
撮影監督:ハビエル・アギーレサロベ
ライン・プロデューサー:エミリアノ・オテギ
キャスティング・ディレクター:ルイス・サン・ナルシソ
音楽:アレハンドロ・アメナーバル+スペシャル・コラボレーション:カルロス・ヌニェス
美術監督:ベンハミン・フェルナンデス
音響:リカルド・スタインバーグ
衣装:ソニア・グランデ
特殊メイクアップ・デザイン:ジョー・アレン
メイクアップ:アナ・ロペス・プイグセルベル 

キャスト

ハビエル・バルデム
ベレン・ルエダ
ロラ・ドゥエニャス
マベル・リベラ
セルソ・ブガーリョ
クララ・セグラ
ホアン・ダルマウ
アルベルト・ヒメネス
タマル・ノバス
フランセスク・ガリード
ホセ・マポウ
アルベルト・アマリーリジャ

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