原題:Dear Wendy

正義の名のもとに、僕たちは銃を持つ。

2005年/デンマーク映画/デンマーク=ドイツ=フランス=イギリス合作/1時間45分 配給:ワイズ・ポリシー/シネカノン

2006年06月02日よりDVDリリース 2005年12月10日、シネカノン有楽町、渋谷アミューズCQNほか

公開初日 2005/12/10

配給会社名 0043/0034

解説


親愛なるウェンディ。僕はいつも君のそばにいたかった。
人目につくよう飾り立てられたスタイリッシュな君。
真珠が刻まれた美しい真鍮の君は小さく艶やかで、
たちまち僕の視線を釘付けにしたんだ。
最初から、僕たちの相性は抜群だったね。
たとえ僕が目を瞑っていたとしても、
君は僕の狙いを的確に見抜いてくれた。
僕だけのウェンディ、そのはずだった。
ところが、君はあの粗野な男の手の中で、嬉しそうだった。
どうしてだ、ウェンディ。あれはつかの間の浮気なのか?
それとも、君は見かけによらない危険な女なのか?
だから僕は、君から距離を置くことを決意した。
けれど、もしあのとき、君が僕のそばにいたら事情は変わっただろうか?
僕たちは終わりを迎えずに済んだのだろうか……?

坑夫として生きることこそが男の証のように目されているアメリカの小さな炭鉱町で、スーパーマーケットに勤めるディックはある玩具の銃と出逢った。“平和主義”の彼は小さくてスタイリッシュなそれに“ウェンィ”と名づけ、片時も肌身離すことなく、愛情を注ぐ。やがて、ディックは同僚のスティーヴィーからウェンディが本物の銃であることを知らされる。実は、スティーヴィーもバッド・スティールという銃を愛していた。彼に誘われるまま、ディックは廃坑でウェンディの試し撃ちをすると相性は抜群、何と一発必中で標的を射た。
やがて、ディックとスティーヴィーは、“銃による平和主義”を秘かに広めるため、“ダンディーズ”を結成。内気だが頭の切れる少女スーザン、下肢を失い松葉杖が手放せないヒューイ、彼の弟でいじめられっ子のフレディが仲間に加わり、それぞれが“ダンディー”に相応しいクラシックな銃を手にするのだった。
それまではこの町では“負け犬”に過ぎなかった彼らの身体は、銃という精神的な支えを得て、いつしか自信が漲るようになる。そんなある日、ディックはクラグスビー保安官から、幼馴染みのセバスチャンの保護観察を命じられる。セバスチャンが殺人を犯したというのだ。こうして・最もダンディーに相応しくない男の登場を契機に、ディックたちは思いがけず破滅の道を歩み始めることになる……。

アメリカの小さな炭鉱町。ウエンディという名の美しい銃に魅せられたディックをリーダーに、平和主義の志を高く掲げ、銃を握った若者たち。正義の名の下に結集した彼ら“ダンディーズ”は孤独で、世間からは“負け犬”と呼ばれているような少年たちのグループだ。
しかし彼らは、銃によって仲間としてめぐり逢い、やがて誰にも揺るがせにできない自信と強靭さを獲得するようになる。
あたかも生まれ変わったかのように、人生を謳歌する彼らの“栄光の季節”は、しかし思いがけない出来事によって、終焉を迎えることになる。けれど、悲劇的な結末の中でも、決して気高い理想を忘れない彼らは、青春のひと時を峻烈に生き抜く。まるで、淡く煌めいたひと時の最後の儚い輝きさながらに……。

『セレブレーション』で“ドグマ95”の鮮烈な第1作を放った若き奇才トマス・ヴィンターベアと・『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でカンヌ国際映画祭パルムドールに輝く世界的問題児ラース・フォン・トリアー。このふたりの稀代の映画クリエイターが投げかける感動の衝撃作、それが『ディア・ウェンディ』だ。
トリアーが執筆した脚本は、銃に魅せられた少年たちの若さの情熱と体制への反撥が、抗えない悲劇的な運命の中で描かれているが、その一方で、銃社会のアメリカに対する痛烈な皮肉が盛り込まれている。そのトリアーから「ディティール描写に優れた才能がある」と絶賛され、全幅の信頼を寄せられた監督のヴィンターベアは、西部劇風のスタイリッシュな映像美によって、それを普遍性あふれる青春群像劇として銀幕に息づかせることに成功している。
銃を愛した平和主義の若者たちは、“ダンディーズ”という秘密結社を結成し、彼らの“神殿”に思い思いのグッズやこだわりの品々を運び込む。その姿は、まるで自分たちの秘密基地を作り出し、仲間内だけでしか通用しないようなルールを定義づけた、私たち自身の少年・少女時代を思起させるような共感に満ちている。とりわけ、ヴィンテージかつレトロな“ダンディーズ”の衣裳を身にまとい、夜の町を闊歩する彼らの勇姿に、ゾンビーズの不世出の名曲「ふたりのシーズン」“Time of the Season”がオーヴァーラップするシーン
は、観客である我々もまた“ダンディーズ”の一員になったかのような昂揚感を抱かせてくれるはずだ。
ちなみに、トリアーはこの脚本を執筆するに当たって、ゾンビーズの楽曲に大いなるインスピレーションを受けたと語っている。

“ダンディーズ”のリ一ダー、ディックを演じるのは、『リトル・ダンサー』のビリー・エリオット役で一躍、国際的な脚光を浴びたジェイミー・ベル。往時の少年らしさは影を潜め、もはや青年と呼ぶに相応しいルックスへと変貌を遂げたジェイミーが、時折覗かせるナイーヴさとひたむきな眼差しは、ディックの一途な人間性を感受性豊かに露わにし、魅力たっぷりだ。と同時に、ウエンディに捧けられる熱愛と嫉妬が交錯する葛藤の表情は、女性ファンの母性本能をくすぐるのは間違いないだろう。ひと回り大人の俳優へと成長したジェイミーの熱演を、とくとご高覧あれ。
共演は、ディックを“理想的な青年”と認め、結果的にそれが彼にプレッシャーを与えることになる保安官クラグスビーに、『インディペンデンス・デイ』『ロスト・ハイウェイ』の人気スター、ビル・プルマン。“ダンディーズ”の仲間には、ディックに銃への興味を抱かせる契機を与えるスティーヴィーに、イーサン・ホークの初監督作品『チェルシー・ホテル』や製作総指揮を兼ねた『ボブ・ザ・システム』など、アメリカ・インディペンデント映画界で高く評価されるマーク・ウェバー。彼はニール・ラビュート演出の舞台でも注目を集める本格派である。“ダンディーズ”の紅一点、スーザン役で胸が膨らんだと大胆演技(?)を披露するのは、『エイプリルの七面鳥』でヒロインの実妹を好演したアリソン・ピル。義足ゆえ松葉杖が欠かせないが、銃を持たせば百発百中のヒューイに、『遠い空の向こうに』『アメリカン・パイ』の個性派クリス・オーウェン、彼の弟でドイツ軍の恐怖の克服法に並々ならぬ興味を抱くフレディに、『シービスケット』でトビー・マグワイア扮する主人公の幼少時代を演じたマイケル・アンガラーノなど、期待の若手スターが競演している。

撮影は、ウィンターベアとは『セレブレーション』などで、トリアーとは『ドッグヴィル』などで長年のコラボレーションを続けているアンソニー・ドッド・マントル。少年たちの無垢な表情と銃の冷徹さとが絶妙なコントラストを成す映像美は絶品である。コペンハーゲン郊外の古い軍用基地にアメリカの炭鉱町を建築した圧巻のプロダクション・デザインは、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『K-19』のカール・ユリウスン、美術監督はヴィンターベアの前作“It’s AII About Love”を手がけたジェット・ラーマン。そして、ユニオン・ソルジャーのコートや革命戦争時のシルクハットといった“ダンディーズ”のファッションを、現代にヴィヴィッドに甦らせた衣裳デザインは、『橋の上の娘』『列車に乗った男』など、パトリス・ルコント監督の諸作品で手腕を発揮するアニー・ペリエと、ヨーロッパの精鋭映画人が顔を揃えている。

なお、本作は05年1月にサンダンス映画祭でプレミア上映され、「ウエンディは究極のファムファタール」(スクリーン・インターナショナル誌)など欧米マスコミの絶賛を獲得。また6月にはモスクワ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、トマス・ヴィンターベアが監督賞に輝いたほか、9月にはカナダのトロント映画祭で招待上映されるなど国際的にも注目される衝撃の青春グラフィティ、ついに満を持しての日本公開となる!

ストーリー


親愛なるウェンディ。
僕たちの物語を手紙に書こう。君への想いを……。
君がいた頃は、言葉にする勇気がなかった。
話していたら、事情は違っただろうか、
終わりを迎えずに済んだのだろうか……?

ディックはウェンディと出逢った

僕はディック。小さな炭鉱町にあるエレクトリック・パーク広場で育った僕は、子供の頃、強情だった。父さんに連れられて、何度となく坑内の奥深くへ降りていったけれど、数分後には必ず地上へ戻ってしまう。炭鉱で働くのが嫌だったのだ。
そんな僕をいつも温かく迎えてくれたのは、家政婦のクララベルだった。炭鉱で働けない人間は男じゃないと言われるこの町で、彼女は僕の神経は繊細すぎ、炭鉱で働くには、身体も細いし、力もないと慰めてくれる。そして必ずこう続けるのだ。「あなたの想像力が、いつか世の中の役に立つはずよ」

こうして僕は、ソロモンさんのスーパーマーケットで働くことになった。同僚のスティーヴィーはロ数が少なく、彼もまた炭鉱嫌いだった。強盗を恐れて、いつも不安そうにしているソロモンさんの店で働く日々は、僕には退屈以外の何ものでもなかった。
ある日、僕はクララベルの孫セバスチャンの誕生日パーティに招かれた。僕は行きたくなかったけれど、クララベルに「新しい友達ができる」って背中を押されて、プレゼントを買うため、スーザンの玩具店に足を踏み入れた。ショウウィンドウに何年も飾られたままの玩具の銃。すっかり色褪せたガラクタだ。そうだ、これをプレゼントにしよう。嫌がらせのつもりでそう思った。ところが、何かが僕を思い留まらせた。僕は平和主義者だ、銃をプレゼントするなんて、とんでもない。
こうして僕は、銃の代わりに結末が破り取られた「ドリアン・グレイの肖像」の古本をプレゼントすることにしたのだった。

数年後、父さんが発作で急逝した。特別、何も感じなかった僕に声をかけてきたのが、保安官のクラグスビーだ。僕を、「幼い頃からいい子だった」という彼は、意味ありげにこう続けた。「君のことは、我々が見守っている」
母はすでに亡く、クララベルも老いのため家政婦の職を辞し、今や僕はまったくの独りぼっちだった。
そんなとき、物置のくたびれたダンボール箱の底から、君を見つけた。
そう、ウェンディ、そしてすべてが始まったんだ。

スタッフ

監督:トーマス・ヴィンダーベア
脚本:ラース・フォン・トリアー

キャスト

ディック:ジェイミー・ベル
クラグスビー:ビル・プルマン
フレディ:マイケル・アンガラーノ
セバスチャン:ダンソ・ゴードン
クララベル:ノヴェラ・ネルソン
ヒューイ:クリス・オーウェン
スーザン:アリソン・ピル
スティーヴィー:マーク・ウェバー
ディックの父:トレヴァー・クーパー
若い警察官:マシュー・ゲッジー
ウォーカー連邦保安官:ウィリアム・フーキンズ
サロモン:テディ・ケンプナー
客:トマス・ボー・ラーセン

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