どうしても捨てられないものって何ですか? 愛する人のすべてを知りたい——恋をしている人なら誰もが感じる想い。 そんな想いを抱く女の子の日常を繊細に、軽やかに、そしてキュートに描く。

2000年/日本映画/デジタル・ビデオ/カラー/88min 製作協力:ボノボ/製作:シネロケット、日本トラスティック 配給:シネロケット/配給協力:ビターズ・エンド

2000年10月7日よりシネマ下北沢にてロードショー!

公開初日 2000/10/07

配給会社名 0071

解説

【ラブシネマとは…】

廣木隆一、三原光廣、行定勲、篠原哲雄、塩田明彦、三池崇史、日本映画の枠を超えて活躍する6人の俊英が、デジタルビデオを使って自由自在に撮りあげる“6つの純愛”物語「ラブシネマ」。今を生きる女性達の等身大の姿を捉えた、ちょっぴりエロティックで、ちょっぴりハートフルな物語は、きっとあなたの心に届きます。

 喫茶店でウェイトレスをしているみゆきは、同じマンションに住むヨシノリに片想い。彼女はヨシノリのすべてを知ろうとして、彼が捨てたゴミを集めて、ヨシノリの生活を想像している。そんなある日、みゆきはついにヨシノリと出会うことができたのだが…。

 愛する人のすべてを知りたい。そんな、誰もが感じたことのある想いを描く『東京ゴミ女』。彼と同じタバコを吸い、同じシリアルを食べる。ゴミを知ることで彼自身に近づいていくような感覚を持つことが彼女の幸せ。決して器用には生きられないけれど、思わず愛しくなってしまう女の子の日常を、繊細かつキュートに描いた珠玉の青春映画です。

 女の子の日常を、等身大に切り取ったのは、『800』『MIDORI』の廣木隆一。都会に住む人々の描写には定評のある彼の、登場人物を描く目線はどこまでも優しく、ゴミを捨てに行くみゆきの姿にwyoiicaの『さあいこう』が流れる感動的なラストシーンを紡ぎ出している。

 撮影は『どこまでもいこう』の鈴木一博。『不貞の季節』に続いての廣木作品となる彼は、デジタル・ビデオの特性を生かした、人物に寄り添った映像で抜群の効果を生み出した。本作品のもう一つの主役である“ゴミ”を手掛けた美術は、『M/OTHER』の林千奈。ゴミに溢れるみゆきの部屋を、生活感を失わず、なおかつファンタジックに仕上げている。

 みゆきを演じるのは、『ファザーファッカー』でデビューし、『富江』『御法度』などの話題作への出演が続く中村麻美。彼に対する一途な想いから、ゴミを集める女の子という難しい役柄を体当たりで演じて、誰もが共感できる魅力的なキャラクターを作り出した。
 ヨシノリ役は鈴木一真。青山真治、阪本順治などの実力派監督の作品に出演し、最近では舞台にも出演するなど、役者としての幅を広げている彼にとって、『ゲレンデがとけるほど恋したい』以来、久しぶりの廣木作品出演となる。また、みゆきの同僚・京子をポンズのCMで注目された柴咲コウが映画初出演を果たし、存在感たっぷりに演じている。

ストーリー

 なんの夢も目的もなく日々を淡々と暮らす、みゆき(中村麻美)、ロリコンのマスター(田口トモロヲ)が経営するバイト先の喫茶店では、暇さえあればセックス中毒のバイト仲間、京子(柴咲コウ)とともにタバコをふかす。みゆきを想って通い詰める常連客のサラリーマン川島(戸田昌宏)にも笑顔ひとつ見せたことがない。そんな彼女の唯一の楽しみは、同じマンションに住むオトコ(鈴木一真)の出すゴミをあさることだ。階段ですれ違っても、まともに挨拶さえ出来ない憧れの彼、人のいない隙を見計らって、彼のゴミを部屋へ持ち帰っては、ひとつひとつ丁寧に中身を確認するのだ。部屋のいたるところに、彼のゴミをオブジェのように飾りつけ、タバコの吸い殻から彼の好きな銘柄を知り、自分も同じタバコを吸い、彼の好きな食べ物を買い込む。ゴミを知ることで、彼自身に近づいていくような感覚は、彼女にとって何にも代えがたい幸せなのだ。そしてある日ゴミの中から彼の写真が貼ってある履歴書を見つける。彼の名はアサモトヨシノリ。28歳のミュージシャンだった。

 飽きることなくゴミをあさり続けるみゆきの前に現れた様々なゴミは、ヨシノリの生活を赤裸々に物語った。時には口紅のついた吸い殻と、使用済みのコンドームが見つかった。オンナが出来たらしいが一週間後には別れてしまったようだ。また着古した洋服が出てくると、彼の匂いを体中で感じるように抱きしめる。無造作に捨てられていたビデオテープには、ライブで歌うヨシノリが映し出された。そんな彼の姿に思わず口づけるミユキ。

 昔の彼女サヤカ(小山田サユリ)からの手紙を見つけたみゆきは、ジェラシーからとうとう行動を開始した。ヨシノリの好きな物を買い集め、部屋のドアに下げてきたのだ。「ファンより」というメッセージを添えて。

 次のゴミからは、彼女の差し入れを受け入れた形跡と、クシャクシャに丸められた楽譜が出てきた。ヨシノリが作曲したその曲を弾くために、みゆきは楽器を購入するが、彼女の前に現れたヨシノリの腕には、酔いつぶれた女性が抱かれていた。みゆきはつぶやく、「どうせ、あのバカ女もやられるだけで、捨てられる。あの人には、ひとりだけ…」。

 いつものようにゴミを調べるみゆきの部屋に、川島が訪ねてきた。彼女への想いを募らせる川島に、はじめは拒絶するような素振りを見せるみゆきだったが、2人で夜の散歩に出かけていく。深夜、店を閉めたバイト先にこっそり潜り込んだ2人は、やがてソファで体を重ね合うのだった。

 川島との情事の後も、相変わらずゴミをあさるみゆきは、度重なるサヤカの手紙によってヨシノリのライブがあることを知る。当日、ライブハウスからサヤカを連れ出すと、未練たらしい彼女の手紙をなじったうえ、自分はヨシノリと同棲しているとウソをつき、2度と彼に近づかないことを約束させたのだ。みゆきがライブハウスに戻ると、すでにヨシノリの演奏は終わっていた。客のはけたステージで1人ギターをつま弾くヨシノリと初めて面と向かって言葉を交わすみゆき。彼女のために何かを歌おう、というヨシノリの申し出に、みゆきはゴミの中から見つけだした楽譜のメロディを口ずさんだ。驚きを隠せないヨシノリは「ずっと待ってたよ、あんたのこと」とみゆきにキスするのだった。

 とうとう一夜を共にした2人。やっと手に入れた幸せな瞬間を噛みしめるみゆきに、ヨシノリからとんでもない事実が告げられる。彼はみゆきが自分のゴミを盗んでいたことを知っていたのだ。あまりの衝撃に部屋を飛び出したみゆきは、自分の部屋へ駆け込むと、今まで集めた彼のゴミを泣きながら捨てに行く。

 ゴミの捨て場所を探してあちこちさまよい歩くみゆきは、決心のつかぬままサヤカのもとを訪ねる。しかし、「もう、ヨシノリのことはあきらめた。あんなことやってちゃ、やばいですよね」という言葉を聞くと、ゴミ袋を抱えたまま駆け出し東京湾へと向かった。そして、「自らの手でゴミと決別する」ために、船に乗って夢の島を目指すのだった。

 みゆきは夢の島に彼の全てが詰まったゴミ袋を捨てた。そして、ヨシノリはひと月ほどしてそこかの女のところに引っ越していった。喫茶店では、京子が相変わらずセックスの話しに花を咲かせ、タバコをふかす。いつもと変わらない日常の中、みゆきは心の中でつぶやく。「ヨシノリのゴミの中で一つだけ捨てられなかったものがある。そのゴミは死ぬまで忘れられないだろう」。

スタッフ

監督:廣木 隆一
製作:斎藤晃、遠藤久典
プロデューサー:中島進、荒川礼子、東康彦
アソシエート・プロデューサー:菊田昌史
キャスティングプロデューサー:水永久美子
企画:成田尚哉
脚本:及川章太郎
音楽:岡村みどり
撮影:鈴木一博、飯岡聖英
録音:土屋和之
助手:松本敦子
美術:林千奈
助手:露木恵美子
助監督:宮城仙雅
演出助手:白垣量童
メイク:永江三千子
スタイリスト:小倉久乃
劇用写真:八尋研吾
ライブ映像:藪田修身
スチール:平野晋子
制作担当:鈴木嘉弘
制作主任:平原大志
劇中曲:L.P.&F.
エンディングテーマ:“さあいこう”wyolica lyrics & music so-to
          (エピックレコード)

キャスト

みゆき:中村麻美
ヨシノリ:鈴木一真
京子:柴咲コウ
サヤカ:小山田サユリ
川島:戸田昌宏
喫茶のマスター:田口トモロヲ

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