原題:THE TALENTED Mr.RIPLEY

他人の人生を、欲しいと思ったことはありますか。 太陽に焦がれて、月は彼になろうとひたすら重なる……罪深き日蝕。

アカデミー賞 5部門ノミネート イギリスアカデミー賞(BAFTA フィルム・アワード)7部門ノミネート ナショナル・ボード・オブ・レヴュー 2部門受賞

1999年/アメリカ映画/140min/カラー/ドルビーデジタル 字幕翻訳:松浦美奈/配給:松竹

2011年01月26日よりDVDリリース 2009年08月28日よりDVDリリース 2007年11月28日よりDVDリリース 2000年8月5日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系劇場にてロードショー! 2000年12月21日よりビデオ・DVD 同時発売/レンタル開始!

公開初日 2000/08/05

配給会社名 0003

解説

富豪の放蕩息子ディッキーを連れ戻す役目を負って、イタリアに渡ったトム・リプリー。彼の前に現れたディッキーは、自分の思うままに生き、太陽のように人をひきつけてやまない男だった。その存在のすべてに、強烈な憧れを抱くトム。しかし、胸にたぎる思いを拒絶されたとき、彼は最も哀しい殺人者へと変貌を遂げる……。
 アカデミー賞9部門に輝く『イングリッシュ・ペイシェント』から3年。アンソニー・ミンゲラ監督が、またもマスター・ピースと呼ぶにふさわしい傑作を放った。原作は、ルネ・クレマン監督の『太陽がいっぱい』として知られるパトリシア・ハイスミスの小説。これを、旧作とまったく異なるアプローチで映画化した本作は、愛を拒絶され、愛されるチャンスを逸した青年がたどる悲劇的な運命を、サスペンスタッチで描いた切な青春ドラマだ。
 ニューヨークのうらぶれたアパートに住む貧しい青年トムと、ヨーロッパで気ままな豪遊生活を送るディッキー。本来なら交わるはずのないふたりの人生が、南イタリアのまぶしい太陽のもとで交錯したとき、危険をはらんだドラマの幕はあがる。マージという恋人はいるものの、刺激のない毎日に退屈していたディッキーにとって、下層階級のトムは物珍しいオモチャそのものだった。トムを連れ、セーリングやジャズ・クラブで遊びまわる日々。そんななかで新しい世界の扉を開かれたトムは、自由奔放なディッキーの発散するオーラにひきつけられ、贅沢なライフスタイルに魅せられていく。自分もディッキーのようになれたら……。その望みが、期せずしてディッキーの死によってかなえられたとき、トムは自分が永遠に逃れられない罠に落ちたことを知る。トムではなくディッキーとして生きること。それは、本当の自分を認め、愛してくれる人をも手にかけねばならないという代償を支払うことを意味していた。太陽を失った月のように、暗闇のなかで孤独に回り続ける宿命を負ったトム。「すべてを消せるなら過去を消したい」という彼の痛切な心の叫び、自ら犯した過ちの連鎖に縛られて生きなければならない人間の哀しみが、見る者の胸に深い感慨を呼び起こす。
 主演は、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でオスカーの脚本賞を受賞、いまや若手スターのトップを走るマット・デイモン。「観客の共感をかきたてずにはおかない殺人者」という難役に挑戦し、陰影に富む演技で新境地を開拓した彼を筆頭に、キャストには21世紀のハリウッドを担う実力派が勢揃いしている。子供のような無邪気さとカリスマ性を備えたディッキーに扮するのは、『ガタカ』のジュード・ロウ。上流階級特有の傲慢さや気まぐれまでもが魅力に映る人物を気品たっぷりに演じ、オスカーの助演賞にノミネートされた。その恋人マージには『恋におちたシェイクスピア』のグウィネス・パルトロウ、ディッキーになりすましたトムに思いを寄せるメレディスには『エリザベス』のケイト・ブランシェット。前年のオスカー・レースでデッドヒートを繰り広げたふたりが、サスペンスの鍵を握るヒロインとして華麗なる競演を繰り広げているのも、本作をめぐる大きな話題のひとつだ。また、トムの素性に疑いを抱くフレディを『マグノリア』『ブギーナイツ』のフィリップ・シーモア・ホフマン、リプリーを理解し後半のドラマの担い手となるピーターを『キャリア・ガールズ』のジャック・ダベンポートが演じ、味のある個性を光らせている。
 原作のエッセンスを忠実に捉えながら、よりドラマチックに映画的な見どころをふくらませた脚本は、ミンゲラ監督自身が担当。画家志望だった原作のディッキーを音楽愛好家に変更、クラシックの世界からディッキーの体現するモダンジャズの世界に飛び込んで行ったトムが、天性のアドリブの才能を発揮してピンチを切り抜けて行くという、キャラクターとプロットが密接にからみあった物語を巧みに織り上げている。チャイコフスキーのオペラ「エウゲニー・オネーギン」の決闘シーンを通じて、トムとディッキーの関係を象徴的に物語る場面など、舞台出身の強みをいかした演出ぶりも鮮やかだ。音楽のガブリエル・ヤレド、撮影のジョン・シール、衣装のアン・ロス、編集のウォルター・マーチなどは、『イングリッシュ・ペイシェント』でもミンゲラの右腕となって活躍した顔ぶれ。今回は新たに『バリー・リンドン』のオスカー受賞者ロイ・ウォーカーがプロダクション・デザイナーとして参加、『甘い生活』の時代の雰囲気を見事に再現している。製作総指揮は、監督・製作のみならず俳優としても活躍するシドニー・ポラック。製作は、『ボビー・フィッシャーを探して』のウィリアム・ホルバーグと『ロスト・ハイウェイ』のトム・スターンバーグが共同であたっている。

ストーリー

すべては、一着のジャケットから始まった。
 1958年、ニューヨーク。上流階級が集うガーデン・パーティで、トム・リプリー(マット・デイモン)は、造船業界の大物ハーバート・グリーンリーフ(ジェイムズ・レブホーン)と出会った。ピアノの伴奏に雇われたトムが着ていたのは、プリンストン大学のエンブレム付きジャケット。これに目をとめたグリーンリーフは、「56年卒業なら息子のディッキーと同じだ」と、声をかけた。実はジャケットは借り物で、トム自身は雑多なバイトで食いつなぐ生活を送っていたのだが、真実を口にするのもはばかられ、とっさにディッキーが知り合いであるかのように装ってしまう。そんなトムに、グリーンリーフがある申し出をした。イタリアに行ったまま帰国しないディッキーを、連れ戻してほしいというのだ。報酬は1000ドル。このとき、ディッキーがモダンジャズのファンだと知らされたトムは、調子を合わせようとレコードをあさって知識を仕入れ、一等船室の乗客になった。
 船は、無事ナポリに到着。出入国審査のとき、アメリカの名家の令嬢メレディス(ケイト・ブランシェット)と知り合いになったトムは、出来心から自分がディッキー・グリーンリーフだと名乗る。それが、のちに自分自身への危険な罠になるとも知らずに……。
ディッキー(ジュード・ロウ)は、パリで出会った作家の卵マージ(グウィネス・パルトロウ)と、モンジベロの海を見下ろす邸宅で優雅な同棲生活を送っていた。ビーチでくつろぐ彼らに、偶然を装って近づくトム。マージに昼食の招待を受けた彼は、さっそくふたりの家を訪ね、自分がイタリアへ来た真の目的を明かした。帰国を強要されたと知ったディッキーは、あからさまに迷惑そうな顔をしたが、トムが自分と同じジャズ・ファンだと知るや態度を一変。行きつけのジャズ・クラブにトムを誘う。
 ステージに飛び入りして陽気にはしゃぐディッキーと、彼の姿にみとれるトム。自分の思うままに生き、横柄な態度さえも魅力に感じられるディッキーのすべてが、トムにはたまらなくまぶしく映った。それゆえ、アメリカへ戻らず経費を使ってしまおうというディッキーの言葉に、彼は一も二もなく従った。
 セイリングを楽しみ、ベニス旅行やコルティナでのスキーの計画に思いをはせる日々。イタリアの太陽のもと、トムは、みじめな現実を忘れさせてくれる夢の生活に酔いしれた。
 しかし、彼とディッキーは、しょせん違う世界の住人だった。ディッキーに連れられて初めて出かけたローマで、トムは、旧友フレディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)と遊びに出かけたディッキーに、邪魔者扱いされる屈辱を味わう。そのままモンジベロまでやって来たフレディに「ディッキーのお気に入り」の座を奪われてしまったトムは、傷心をなぐさめてくれたマージに、コルティナ行きのスキーの計画からもはずされたことを教えられる。
 「ディッキーは、新しい人と出会うといつもそうなの。気に入っている間だけは大切にしてくれるけど、飽きると忘れられてしまう」
 そんなトムとディッキーの関係に変化が生じたのは、モンジベロで聖女の祭りが行われた日のことだ。聖女の像の行進に続き、ポッカリ海に浮かびあがった水死体。彼女が、ディッキーの秘密の愛人であることを知っていたトムは、動揺するディッキーに迫り、妊娠した彼女を見捨てたという告白を引き出す。それを聞いたトムは、自分とディッキーの間に、マージも入り込めない強固な絆ができたと感じた。
 しかし、ディッキーにとって、トムはあくまでも、父の金庫と結ばれた金蔓にすぎなかった。父親からトムあてに解任を申し渡す手紙が来たとき、ディッキーは、サンレモへの小旅行を最後に別行動を取ろうと言い出した。
 素直にサンレモへ同行したトムは、ボートで沖合いに出たとき、ディッキーにこれからの計画を打ち明ける。「年が明けたら自分の金でイタリアに戻ってくるよ。だから、ふたりでローマに部屋を借りよう」
 「無理だ」と冷酷にはねつけたディッキーは、マージと結婚するつもりであること、トムにまとわりつかれて迷惑だったことを、あけすけにぶちまけた。たまらず、オールを握りしめるトム。やがて我に返った彼は、自分が最愛の人を殺してしまったことに気づいた。
放心状態のまま、死体とボートを海に沈めたトムは、ホテルのフロントにディッキーと人違いされたことから、ある計画を思い付く。自分がディッキーにまりすますのだ。いったんモンジベロへ戻った彼は、ディッキーから預かったと言って、マージに別れの手紙を渡す。さらにローマへ出向き、ディッキーと自分が別々のホテルに宿泊していると見せる工作をほどこした。
そんなとき、トムは偶然メレディスと再会する。彼女からオペラに誘われた彼は、幕間で最も会いたくない人物と鉢合わせした。ディッキーの真意を問いただすため、ローマにやって来たマージだ。彼女をエスコートするピーター(ジャック・ダベンボート)がメレディスと顔見知りだったことから、1人二役の芝居が発覚しそうになるトム。そのピンチを切り抜けたと思ったのも束の間、ディッキー名義で借りたアパートに不審を抱いたフレディが訪ねて来る……。

スタッフ

監督・脚本:アンソニー・ミンゲラ
原作:パトリシア・ハイスミス(角川文庫・河出文庫)
製作:ウィリアム・ホルバーグ、トム・スタンバーグ
製作総指揮:シドニー・ポラック
撮影監督:ジョン・シール
プロダクション・デザイナー:ロイ・ウォーカー
編集:ウォルター・マーチ
衣装デザイン:アン・ロス、ゲイリー・ジョーンズ
共同製作:ポール・ゼインツ
ライン・プロデューサー:アレッサンドロ・フォン・ノーマン
音楽:ガブリアエル・ヤレド(サントラ ソニー・クラシカル)
セット・デコレーター:ブルーノ・セザーリ

キャスト

トム・リプリー:マット・デイモン
マージ・シャーウッド:グウィネス・パルトロウ
ディッキー・グリーンリーフ:ジュード・ロウ
メレディス・ローグ:ケイト・ブランシェット
フレディ・マイルズ:フィリップ・シーモア・ホフマン
ピーター・スミス・キングスリー:ジャック・ダベンポート
ハーバート・グリーンリーフ:ジェイムズ・レブホーン
ロヴェリーニ警部補:セルジオ・ルビーニ
私立探偵マッカロン:フィリップ・ベイカー・ホール
ジョーン叔母:セリア・ウェンストン
ファウスト:フィオレッロ
シルヴァーナ:ステファニー・ロッカ
エミリー・グリーンリーフ:リサ・エイヒホン

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