眠りにおちた夜の街。 眠らないふたりは、歩く−−

2000年ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

1999年/日本映画/55min/カラー/16mm/スタンダード 製作:ウォーターメロン・カンパニー/配給:ビターズエンド

2000年ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品作品

公開初日 2000/07/01

配給会社名 0071

解説

哀しい夜に出逢ったら、やさしい朝まで歩いていこう。

それはちょっぴり、切なくて、たまらなく、心地よい一晩だけのロードムービー。

最終電車に乗り遅れ夜の街をぶらつくトオルと、流れの静かな河に飛び込むナオ。
ふたりの間に痛みを残して、自ら逝ってしまったユウはこんな毎日の何を生きていたんだろう…。
「辛い」とか「哀しい」とかいう想いとは裏腹な、ユウがいなくなってしまったことの実感のなさ。
トオルとナオ、真夜中に出逢ったふたりはどこにいくでもなく歩き出す。夜ふけの街を、たわいのない会話を交わし、ただ歩き続ける—

流ゆく夜の時間に、哀しい気分のふたりは漂う—

真夜中に出会ったふたりが、明け方の街までくりひろげる一夜のロードムービー。そこにはシンプルながらも確実に、今この時をどこかで生きている若者の姿が映し出される。淡々と過ぎていく日々のなかで、人は様々な出来事に出会い、哀しい気分のままともに夜の街を微妙に気分を変化させながら毎日を生きている。
本作に登場するトオルとナオは、みじかな友人を突然亡くし、やりばのない想いを胸に抱くなかお互いと出会い、哀しい気分のままともに夜の街を歩き出す。いつかの見慣れた風景が違って見える夜、ふたりをやさしく包み込む夜の空気。ゆるやかに流れゆく夜の時間にふたりは漂い、やがておとずれる朝に、哀しみを負った心の傷は傷痕となって癒されていく…。

なんでもない毎日、いつも通りの生活。映画はそんな私たちの「日常」に着眼する。積み重なるささやかな出来事、ゆるぎなく流れる時間、そこに生きる、人というちっぽけな存在の尊さ、愛しさ。作り手たちの「小さきもの」に対する温かいまなざしは、そのままフィルムに焼き付けられて、観るものに生きることの勇気と安心感を与える。そして、またこの世界にありのままの自分でいることの心地よさを教えてくれる。

ささやかな日常、ちっぽけな自分、そんな“いま”が愛しくなる「瞬間」。
そして、作り手たちの軽やかなコラボレーションが始まった。

主演のトオルに村上淳。近年『trancemission』(99)、『ナヴィの恋』(99)などの話題作に続々と出演、自ら「思い入れのある、お気に入りの映画」と語る本作では、単調な日々を生きる若者の姿を独特の存在感と特有の人間味で演じる。ナオに関西で活躍する維新派の女優、赤松美佐紀。ひとり夜の街を疾走する場面 では、映画初出演とは思えないほどの強烈な印象を残している。さらに、主題歌にはフィッシュマンズの『ナイトクルージング』。この曲のもつ心地良い浮遊感が、夜の街を漂うふたりの気分に、やさしく寄り添う。そして、淡々と過ぎゆく日常にこそあるリアルな瞬間をフィルムにおさめたのは、『Helpless』(97)、『萌の朱雀』(97)などの作品に現場スタッフとして参加し、本作で監督デビューとなる新鋭、山本浩資。脇を固める製作陣のそうそうたる顔ぶれからも今後の動向が楽しみな作り手として今、注目を集めている若手監督の一人である。

ストーリー

〜終電から始発までの、夜のお散歩〜

START 1【NIGHT】

夜のとばりが降りるころ…

ふらふらに酔っ払って駅のホームに座り込むトオル。
終電車を乗り過ごした彼は閉まる駅のゲートを横目に、夜のまちへと歩き出す。

Walkin’g ↓ 2【STREET】

飲み屋街で呼び込みの兄ちゃんにからまれたトオルは、よせばいいのにたてついてしまう。ポケットから箱入りの白いハンカチを取り出し、血を拭うトオル。そのぶざまなスーツ姿は葬式帰りのようだ。

Walkin’g ↓

再び立ちあがり、夜の街へと出ていくトオル。橋の上にさしかかったとき真下に流れる河から バシャ! と、いう音を聞く。慌てて、駆けつけるトオル。

3【COIN LAUNDRY】

びしょぬれの服をまわる洗濯機にまかせ、河から助けた女の子の心配をするトオル。
「本気なんだったら次、歩道橋にしなよ」「それ、ユウ?」
彼女は、今日トオルが出席し弔ったユウの友だちだったことが分る。
叫ぶトオル…「やめなよぉ〜」

Walkin’g ↓ 4【PARK】

少し落ち着いた彼女は、公園でたこ焼きをつっつく。
ぽつり、ぽつりと会話を交わすふたり。
トオル「ねぇ、なんで行かなかったの葬式?」女の子「…」
「名前なんていうの?」「ナオ」
トオルとナオ、ふたりなんとなくただ、まちを歩く。
「あの、電話かけてみません?」

5【GAS STATION】

夜のガソリンスタンド。カウンターの電話でダイアルをまわすナオ。
つづく、コール音。遠目にトオルが様子をうかがう。
ガソリンスタンドの店員にいちゃもんをつけて、店を飛び出すふたり。
そのままのスピードで、寝静まった商店街をかけぬける—

Walkin’g ↓ 6【OVERBRIDGE】

ふたり何気にただ、まちを歩く。
トオルの幼なじみ=ユウ ナオのともだち=ユウ
ユウの話をしながら、歩く。
さしかかった歩道橋の上からみえる、夜のまちはどんなふう?

Walkin’g ↓ 7【ZOO】

ナオがユウとよく通った動物園。ユウはしろふくろうとカメが大好きだった。
夜の動物園は、ひっそりとただ遠くから動物たちの声が聞こえるのみ。

そして歩くだけ歩いたふたりはなにごともなかったかのように、別れる。

Walkin’g ↓

(TORU)
疲れ切ったトオルは、あてもなくただ、ただ歩きつづける…
途中、自動販売機で飲み物を買おうとするが、自販機のなかに、つめたくなった小
猫の死骸を見る。白いハンカチで包むトオル。そのまま、土に埋めてあげる。
(NAO)
ナオもまた疲れ、歩きつづける。それにしても、心にたまったモヤモヤは何だろう?
思わず、走り出す…

8【OVERBRIDGE】

再び、歩道橋の上で出逢うふたり。
トオル「あぁっ、ひさしぶりぃ」ナオ「30分ぶりやろ」
けがをしたナオのことを気にかけてやるトオル。
ただ、なんとなくその場にまどろむふたり。

始発の電車が歩道橋脇の線路を走り抜ける
「帰ろう!」なにごともなかったかのように、別れるふたり。

9【MORING】

そうして、夜は明ける。

(TORU)
遠くに見える朝日を感じながら河辺を歩いてゆく…
(NAO)
朝一の電車にさし込む光を感じながら座席でうたたね…

スタッフ

プロデューサー:磯見俊裕
プロデューサー補:芳根聡
撮影:伊藤寛
照明:佐藤譲
録音:滝澤修
編集:船見康恵
主題歌Zakumiko
フィッシュマンズ「ナイトクルージング」(ポリドール)
助監督:萩生田宏治
撮影助手:萩生田宏治
制作:篠塚智佳子、安田邦弘
ネガ編集:山森重之
製作協力:トランスフォーマー
現像:IMAGICA
録音スタジオ:アオイ・スタジオ
タイミング:金子洋一
光学リレコ:利沢彰
スタジオ助手:上野未来、横澤国広
キャスティング協力:近藤亮一、百武恵美子、奈良歩(On The Run)
造形協力:宗理起也
監督・脚本:山本浩資

キャスト

トオル:村上淳
ナオ:赤松美佐紀
呼び込み:木村基秀
ガソリンスタンドの店員:福重友

LINK

□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す