原題:The Frame

この悪意は伝染する

第12回東京国際映面祭コンペテイション部門正式出品 第43回江戸川乱歩賞受賞 傑作サイコ・サスペンス

1999年日本映画/108分/35mm/カラー/ドルビーステレオ/配給:アスミックエース

2000年10月6日よりDVD発売&ビデオレンタル開始 2000年3月11日より丸の内シャンゼリゼほか全国劇場公開

公開初日 2000/03/11

配給会社名 0007

解説

 1997年9月、発刊当初からその衝撃的な内容で物議をかもしていた一遍のミステリーが第43回工戸川乱歩賞に輝いた。
 手元に寄せられた事件の断片を撮った映像をつなぎ、独自の視点から事件の”真相”を作り上げることで名を駆せている気鋭の編集ウーマン。1本の内部告発テープよって彼女の作り上げた”真相”は、二重三重に仕掛けられた巧妙な罠へと彼女を誘いこむエサだった…。自らが仕掛けたはずの映像の罠に搦め取られていく一編集者の姿に、テレビ報道の欺瞞と原罪を問う異色のサスペンス・ミステリー「破線のマリス」。”映像化不可能”といわれたこのベストセラーを原作者野沢尚自ら脚色、誰も踏み込めなかった禁断の領域に「Focus」の井坂聡監督が豪華キャスト陣を配して挑む衝撃の問題作。

 看板ニュース番組の中で、独自の切り口で5分間の『事件検証』のコーナーを作り、高視聴率をたたき出している気鋭の独身編集ウーマン、遠藤瑤子。彼女のもとに、ある官僚から郵政省の贈収賄事件にからんだ殺人疑惑を内部告発する1本のビデオテープが持ち込まれた。彼女はさっそくそのテープをもとに事件を検証する番組を作るが、疑惑の官僚、麻生公彦の証言から事件は遠藤瑤子が想像もしていなかった方向へと波紋を広げていく…。

 日々ブラウン管を通じて垂れ流される大量の情報。視聴者はすでに編集済の映像によって知らず知らず心理操作され、常に送り手の意図という呪縛からは逃れられない。当たり前すぎて忘れられてしまっているこの事実と危険性を、脚本・野沢尚は「マリス(亜意)の除去」という報道の鉄則をキーワードにえぐり出す。一つの事実が編集次第で全く異なった様相を示すこのドラマの構図そのものが、我々が日常生活で無自覚にさらされている危険性と相似型であることを観客に提示する。カメラを媒介とした主観と客観の交錯点に、ほっかりと口を開けた”真実”という暗がりを炙り出した本作は、現代社会への警鐘となる上質の心理サスペンスであるといえよう。「Focus」で”撮られる”側の切迫した心理状態を克明に描き出すことで”撮る”という行為を反証した井坂聡が、加害者が被害者に、また被害者が加害者へと”真相”が二転三転していく緊迫のサスペンスを、たたみ込むよう
なテンポとキャラクターの丹念な心理描写によって一級の人間ドラマにまで昇華させている。

 男社会の中で不器用なまでに一人戦い続ける編集ウーマン、遠藤瑤子役を演じるのは黒木瞳。「どうしてもこの役を演じてみたかった」という彼女の熱意が、もう一つの主題でもある母親と息子の絆を通して人間味溢れる女性像を作り上げることに成功している。また、遠藤によって笑顔をブラウン管に映し出された疑惑の官僚・麻生公彦役には陣内孝則。これまでにない迫真の演技が観客を”真相”の暗闇に引きずりこむ。暴走しがちな遠藤を脇で支える新米ディレクター赤松役に山下徹大、そのほか筧利夫、白井晃、中原丈雄、中村敦夫、中尾彬、辰已琢郎ら、豪華キャスト陣が競演、極上のサイコ・サスペンスを奥行きのあるドラマに仕上げている。

ストーリー

 VTR開始1分前。編集機の上で女の指が躍る。「事件検証」のVTR素材はまだサブに届かない。30秒前。緊張と殺気がピークに達した。と、その瞬間女が滑りこんでくる。VTR開始。広がる安堵の空気。「あの女、いつか殺してやる!」現場責任者が悪態をつく。いつもの光景。
 首都テレビの看板ニュース番組「ナイン・トゥ・テン」の高視聴率コーナー「事件検証」。名編集ウーマン・遠藤瑤子が事実上一から作り上げているこのコーナーは、わずか5分の映像と解説で番組の中でも高い視聴率と絶大な影響力を誇る。事件の検証・編集までほぼ瑤子の独断で作業は行われ、編集テープを持ち込まれるのは毎回オン・エアぎりぎり。ディレクターのチェックを避けるための確信犯だ、と瑤子のやり方に批判的な人間も少なくなかった。瑤子にとって「事件検証」の映像編集は、戦場であった。夫と別れ、小学生の息子と離れ離れになってまでも仕事を選んだ瑤子にとって、ニュース編集は生きがいであると同時に、離れて暮らす息子と自分を結ぶ接点のようにも感じていた。
 ある日、瑤子の自宅に春名と名乗る郵政官僚から、一本の電話が。重大な話があるという。自宅への直接の電話に瑤子は不信感を抱くものの、好奇心を抑えられず会う約束をする。実直そうな男の口から洩れてきたのは、郵政省の内部告発であった。
 市民オンブズマン事件。先月、吉村弁護士が投身自殺とも見られる怪死を遂げた依然捜査中の事件である。その吉村弁護士が生前単独で調査をしていたのが、BS放送チャンネルの取得を狙うマンモス大学・永和学園と、放送事業者の認可を担当する郵政省放送行政局との癒着問題であった。春名は上司命令で、吉村弁護土の動きを監視することに。ところが、彼が目撃したのは、春名と同様に吉村を尾けている郵政省ノンキャリアの姿であった。つまり、吉村弁護士は自分が追求すべき人間に逆に尾行されていたことになる。
 瑤子のもとに一本のビデオテープと春名の名刺が残された。ビデオテープを見た瑤子は、抑えられないほどの昂奮をおぼえる。ビデオテープは、グレーの背広を着た男の行動をありのままに収めていた。飲み屋の物陰から吉村を監視する様子、吉村の転落現場の野次馬に紛れた姿、吉村の葬式…。続いてカメラは、警察の事情聴取を受けた郵政省官僚3人が警察を後にする様子を映し出した。疑惑の男をカメラが正面から捉える。同僚と別れた男はふっと立ち止まり、こちら側に向き直った顔にはゾッとするような表情が浮かんだ。一点を見つめて口の端を歪めた、不自然な笑顔。笑うべきでない場面で笑った不謹慎な笑顔。瑤子の編集意欲を燃やすには十分すぎる映像だった。
 瑤子の手により編集された「事件検証」が放送された数日後、自分の’笑顔’を電波に乗せられた張本人が抗議に乗り込んできた。男の名は麻生公彦。「事件検証」の放送内容を見た麻生は、あの’笑顔’は視線の先にいたボール遊びをする少女に向けたものだと主張。放送内容が事実を捏造したインチキだとわめきたてた。実際、麻生は正しかった。瑤子の手元にあるビデオテープは確かに少女を映し出していた。
 事実確認のため、瑤子はビデオテープを持ち込んだ春名との接触を試みるが、渡された郵政省の名刺は偽物であった。さらに、ビデオテープもヤラセであることが判明し、ガセネタを掴まされたことを知った瑤子は愕然とする。誰かが麻生を犯人に仕立て上げるために罠を仕掛けたのか?上司から深入りをせぬよう厳重注意を受けたにも関わらず、瑤子は弁護士殺害事件の真相究明に乗り出す。自ら仕掛けた映像の罠に落ちていく自分に気付かずに…。

スタッフ

監督:井坂聡
企画:稲垣しず枝
製作:岩下孝広
エグゼクティブ・プロデューサー:大平義之
プロデューサー:八木欣也、井口喜一
原作・脚本:野沢尚(第43回江戸川乱歩賞受賞作・講談社刊)
撮影:佐野哲朗
照明:渡部嘉
録音:今井義孝
美術:斎藤岩男
編集:菊池純一
音楽:多和田吏

キャスト

遠藤瑤子:黒木瞳
赤松:山下徹大
森島一朗:寛利夫
春名誠一:白井晃
倉科:篠田三郎
阿川孝明:中原丈雄
淳也:堤寛大(子役)

鳩山邦夫

中村敦夫

麻生の妻:秋本奈緒美
疑惑の助教授夫人:大場久美子
須崎:辰巳琢郎(友情出演)
有川:中尾彬
麻生公彦:陣内孝則

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