原題:THREE SEASONS

花になり、詩(うた)になり、いま私はここにいる。

1999年サンダンス映画祭審査員グランプリ、観客賞、撮影賞 1999年ベルリン国際映画祭正式出品作品 1999年ブエノスアイレス国際映画祭正式出品 1999年カルロヴィヴァリア国際映画祭正式出品

1999年/アメリカ映画/オクトーバー・フィルムズ提供/オープン・シティ・フィルムズ=ザ・ゴートシンガーズ作品/ 108min/カラー/ヴィスタ(1:1.85)/ドルビーSR/日本語字幕:吉田由紀子/字幕監修:秋葉亜子/ 協賛:日本航空/提供:日本ビクター、アスミック・エース エンタテインメント 配給:エース ピクチャーズ、日本ビクター

2000年8月23日よりDVD発売 2000年7月28日よりビデオレンタル開始 1999年12月18日より渋谷ル・シネマにて<10周年記念>ロードショー!

公開初日 1999/12/18

配給会社名 0007/0059

解説

1999年1月、雪深いサンダンスは興奮に包まれていた。トニー・ブイの長編デビュー作『季節の中で』が、グランプリ、観客賞、撮影賞の3部門に輝いたのだ。
しかも審査員グランプリと観客賞のダブル受賞というサンダンス映画祭史上初めての出来事に、世界の映画人が注目した。その後もベルリン映画祭正式出品など海外の映画祭で高い評価を受け続けている。
ヴェトナム、現在。郊外の蓮が咲き誇る屋敷。病に冒された詩人ダオの下で、少女キエン・アンは蓮摘みの仕事に就いた。シクロの運転手ハイは、偶然難を助けた娼婦ランに心魅かれる。都会の片隅で必死に生きようとするストリート・キッズ、ウッディ。そして戦争中ヴェトナム女性との間に生まれた娘を探す元米兵ジェイムズ。日々変貌を遂げる街で、なにかを模索しようとする人々の、それぞれの季節が織りなされていく。
いくつもの巡り合いを繰り返し、何かしら小さな傷を負いながら都市に生きる人々。誰もが心に痛み、哀しみ、寂しさを抱え、喪失感を覚える現代。でも、そんなささくれだった心を優しく癒してくれる誰かと出会えたら。我々は出会いを繰り返しながら自分と向き合い、居場所を見つけ、そひて新しい生き方を探っていく。ここで語られた4つのストーリーは、それぞれがヴェトナムが抱える問題を描いているが、それは国を越え人種を越えて我々の心にも深く感応する。巧みなストーリーテリングによって、遠い国のお話は、普遍的な私たち自身の物語になった。
26歳になる監督のトニー・ブイはヴェトナムのサイゴン(現ホーチミン市)に生まれ、2歳で両親とともにアメリカに移住。父親がビデオ店を経営していたため、映画に浸って育った。少年時代はスーパー8での撮影に興じ、大学では映画を学んだ。そして19歳の時、ブイは物心ついてから初めてヴェトナムの地を踏んだ。
当初は今まで育ったアメリカと全く違う環境に嫌悪感さえ抱いたが、帰国するやヴェトナムが忘れられなくなり、3ヶ月後には再びヴェトナムを訪れた。その時の日記を基にした短編“Yellow Lotus(黄色い蓮)”(94)が認められ、本作の脚本もサンダンス・ラボで評価された。ハーヴィ・カイテルが製作総指揮に名乗りを上げ、企画が進行していった。
本作はヴェトナム戦争以来初のオール・ヴェトナム・ロケ、しかもヴェトナム人俳優によってヴェトナム語で演じられたアメリカ映画という、画期的な作品である。トニーは自分の故郷であるふたつの国を、もっとも美しい形で結びつけた。
確執の過去を越え、未来を見つめるブイの若さと強さと優しさが、ふたつの心を一つにつなげたのだ。
サンダンスが認めただけあって脚本は意欲的で野心的だが、出来栄えは新人とは思えないほどの完成度である。オープニングで4つのストーリーは編み上げられ、一つの物語世界に結実していく。“飾らずに、自分らしく生きればいい”。トニーのメッセージはポジティブだが決して押し付けがましくない。“花”や“詩”といったモティーフを効果的に散らした美しい映像と行間に漂う豊かな情感は、文学的でさえあり、深い余韻を残す。観客は丹念に紡がれた物語にひたり、たゆたうような、美しい詩を詠んだような鑑賞後感に酔いしれるだろう。
本作のもう一つの魅力は何といっても、サンダンスで撮影賞に輝いた、その瑞々しい映像である。タルコフスキーに影響を受けたというブイの感性が作り出したイメージは、川、沼、雨と水の風景を描き、奥行きのある叙情性を醸し出す。決して綺麗なだけではないリアルなヴェトナムを描きながら、土着的なわい雑さが匂わないのは、異邦人の視点で程よく濾過されているからであろう。
物語の主人公たちにはアメリカとヴェトナムの著名な俳優たちが配された。特にハーヴィ・カイテルは本作の企画に賛同し、主役の一人を演じるとともに製作総指揮も務めている。彼の存在感は作品に映像的にも精神的にも深みを与えている。
シクロの運転手ハイを演じるドン・ズオンと蓮売りの少女キエン・アン役のグエン・ゴック・ヒエップのふたりは、人気、実力ともヴェトナムを代表する俳優である。娼婦ランは、ヴェトナム生まれでアメリカに育ったゾーイ・ブイ。映画初出演でしかもヴェトナム語も習わなければならないという困難を乗り越えての撮影となった。シクロ乗りや裏町の子どもたちは、現地の素人が演じている。サンダンスで見事賞に輝いた撮影は『リスボン特急』、『トゥーリーズ・ラウンジ』のリサ・リンズラーが担当。音楽は坂本龍一とともに『シェルタリング・スカイ』を手がけたリチャード・ホロウィッツ。
本作の製作に当たっては、ヴェトナム政府の検閲をくぐり抜けたは良いが、ヒトデと物資の不足には苦労を強いられた。撮影にはアメリカとヴェトナムの混合チームによって4ヵ月を費やした。言葉や文化の違いを超えて完成した本作は、映画の持つポジティブなメッセージをそのまま体言しているといえよう。

ストーリー

郊外の美しい蓮沼。地方から出てきた少女キエン・アンは、世を捨てた詩人ダオ先生の屋敷で蓮摘みの仕事に雇われた。広大な美しい蓮の咲き誇るダオ先生の沼地では、たくさんの女たちが働いている。女たちは小舟を器用に操りながら、一本一本蓮の花を手折っていく。一人の口から歌がこぼれると、他の女たちも声を合わせ、全員の唱和が空に広がっていく。キエン・アンも思わず彼女が幼い頃母から聞き覚えた歌を口ずさむ。新入りが歌の口火を切ったことから、一緒に働く年上の女たちの嫉妬を買い、非難の的となるが、その歌声はダオ先生の屋敷まで届いていた。その夜、キエンは屋敷に呼び出される。人気のない屋敷の奥で、キエン・アンは机の上に無造作に置かれた紙片を見つけた。それはダオ先生が詠んだ幾編かの詩だった。若くしてハンセン氏病のために顔がただれ指を失ったダオ先生は、自分の醜さを恥じて沼の中にぽつんと建つこの薄暗い寺に何年も引きこもっていたのだった。しかし彼の詩の言葉の美しさ、込められた強い望郷の念に心を打たれたキエン・アンは、彼の手となって彼の言葉を、詩を、書き留めたいと申し出る。一度は断ったものの、ダオ先生も、もう一度詩を書く意欲を掻き立てられる。
サイゴンの繁華街。シクロの運転手ハイは、うだる暑さの中で今日も客を待っている。ある日性質の悪い2人のお客にからまれていた若い娼婦ランを、ひょんなことから助け出した。そのままハイのシクロで家まで送ってもらう道すがら、彼女は精いっぱいの虚勢を張って自分にについて話す。いつかお金持ちと結婚するのだと。シクロ乗りは自分の相手ではないと言い捨てるラン。ハイは彼女を今の境遇から救い出したいと思い始める。それからは毎日のように、豪奢な大理石のホテルの前で彼女が仕事を終えるのを待ち、家まで送り届ける。だがハイの無償の愛情も、今の自分自身を素直に受け入れられないランにとっては、ただ鬱陶しいものだった。それでもハイは、ランと一緒に過ごす時間のために、賞金目当てでシクロレースに参加することに決める。
雨の降りしきる下町。夕やみが迫るころ、少年ウッディの仕事は始まる。通りを歩きまわり、時折ホテルのロビーやバーに忍び込んで、肩にかついだスーツケースの中に詰まった時計やガム、ライター、雑貨などを売るのだ。アポカリプス・ナウ・バーで、ウッディは米兵ジェイムズ・ヘイガーと知り合う。彼は戦時中にヴェトナム女性との間に生まれた、まだ見ぬ娘を捜している。ヘイガーに勧められるままビールを飲み、彼の話を聞いているうちに、酔って眠り込んでしまったウッディは、目覚めた時にスーツケースが無くなっていることに気づく。仕事の元締めは、なんとかそれを取り戻さない限り、ウッディは戻ってくるなと冷たくあしらう。ヘイガーがスーツケースを盗んだと思い込んだウッディは、土砂降りの中、彼を探し回る。短い滞在期間中でなんとか自分の娘を探しだし、過去と折り合いをつけたいヘイガーは、すでにバーから姿を消していた。
美しい古都サイゴンは今、ネオンやコカコーラの看板やプラスチックの蓮が溢れ、西洋文化の嵐に吹きさらされている。日々変わりゆく都市の中で、それぞれの想いを胸に抱いた人々の人生が、織りなされていく。

スタッフ

監督・脚本:トニー・ブイ
製作:ジェイスン・クリオット、ジョアナ・ヴィセンテ、トニー・ブイ
製作総指揮:ハーヴィ・カイテル
共同製作総指揮:チャールズ・ローゼン
共同製作:ティモシー・リンプイ
原案:トニー・ブイ、ティモシー・リン・ブイ
撮影:リサ・リンズロー
プロダクション・デザイナー:ウィン・リー
衣装:ギア・チー・ファム
編集:キース・リーマー
追加編集:ジェイ・ラビノウィッツ
音楽:リチャード・ホロウィッツ

キャスト

ハイ(シクロの運転手):ドン・ズオン
キエン・アン:(蓮摘みの少女):グエン・ゴック・ヒエップ
詩人ダオ:チャン・マイン・クオン
ジェイムズ・ヘイガー:ハーヴィ・カイテル
ラン:ゾーイ・ブイ
ウッディ(ストリート・キッズ):グエン・ヒュー・ドゥオック
フイ(ダオ先生の世話係):ホアン・ファット・チャウ
ザン(親切な蓮沼の女):キエウ・ハイン
ビン(仲間のシクロ運転手):レ・ホン・ソン
ドン(仲間のシクロ運転手):グエン・バー・クアン
ゴン(仲間のシクロ運転手):チャン・ヒュー・スー
ミン(仲間のシクロ運転手):ルオン・ドゥック・フン
ケースを盗む男:ミッシェル・サラモン
コイ(シクロレースの強敵):ホー・ヴァン・ホアン
空き缶を集める少女:タイック・ティ・キム・チャン
フオン(ジェイムズの娘):ローラ・グィモンド

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