原題:THE HI-LO COUNTRY

「ハイロー・カントリー」の完成までのいきさつは、 それだけで1本の映画を つくることができるほど多くの物語に満ちている。

1999年第49回ベルリン国際映画祭銀熊[最優秀監督]賞

1999年/アメリカ映画/114min/カラー/スコープ・サイズ/DTS、DOLBY DIGITAL、SDDS/ 日本語字幕:岡田荘平/ポリグラム・フィルムド・エンタテインメント提供/ ワーキング・タイトル・プロダクション=マーティン・スコセッシ=デ・フィーナ&カッパ作品 提供:アスミック・エース エンタテイメント、WOWOW、角川書店/配給:アスミック

2000年6月9日よりDVD発売 2000年6月9日よりビデオレンタル開始 1999年11月27日よりシネマライズにてロードショー

公開初日 1999/11/27

配給会社名 0007

解説

『ハイロー・カントリー』が完成するまでには、1本の映画をつくれるほど多くの物語があった。発端は『カジノ』の制作現場だった。監督のマーティン・スコセッシと名脇役のL・Q・ジョーンズが休憩中に雑談をしているとき、ジョーンズが映画化されなかった1本の企画を話し始めた。第二次世界大戦後のニューメキシコを舞台に、魅力的な女性モナとふたりのカウボーイ、ビートとビッグ・ボーイの愛情を描いたリリカルな物語。それこそ巨匠サム・ペキンパが映画化を夢見て果たせなかった企画だったのだ。スコセッシはこの企画に強い興味を持ち、自らをプロデューサーに、監督を『グリフターズ』でで組んだスティーブン・フリアーズに託した。ここにサム・ペキンパが果たせなかった幻の企画が実現、映画『ハイロー・カントリー』が誕生した。本作は99年のベルリン映画祭に出品され、見事に銀熊[最優秀監督]賞に輝いた。
ファースト・シーン、ピートが思いつめた顔つきでショットガンを握りしめている。その理由は次第に解き明かされていく。ピートの回想シーンが始まり、彼が尊敬してやまない友人ビッグ・ボーイとの出会い、その弟リトル・ボーイや仲間たちと過ごした楽しい日々が綴られていく。カウボーイがカウボーイとして存在し、男が男として生きていくことの出来た時代。そんな時、第二次世界大戦が始まり、真っ先にビッグ・ボーイが、続いてピートも出征していく。やがて戦争は終り、ピートは昔通りの楽しい生活を送れると信じて帰って来るが、すでに時代は変わっていた。戦争に行かなかった者が成り上がり、牛を買い占め、土地を占有していた。かって楽しく時を共にした仲間リトル・ボーイはそんなジム・エドの手下に成り下がっている。牛は、カウボーイが馬を追って移動させるのではなく、トラックで運搬する。牧場は会計士がきちんと収支を計算して経営する。ピートが戻ってきたのはそんな時代だった。そこに、ピートを追うようにビッグ・ボーイも帰ってきた。しかし、彼だけは変わっていなかった。昔の気概を忘れていないカウボーイ、男の中の男のまま。そして、ピート、ビッグ・ボーイと仲間達は、ジム・エドに対して、そして進もうとする時の流れに対して、敢然と向かっていく。『ハイロー・カントリー』には、そうした失われていくものに対するオマージュが脈々と流れている。あたかも、サム・ペキンパが成しえなかった幻の企画を成功させようとするがごとく。
そして、二つ三角関係によって映画は語られていく。一つは、ビッグ・ボーイ、リトル・ボーイ、ピート。男同士の憧憬と尊厳、友情から昇華した深い愛情、そして越えられない存在への愛情がある。リトル・ボーイはビッグ・ボーイを乗り越えられないまま終らせようとし、ピートはそれと共に自身の決着をつけなくてはならなくなる。もう一つは、ビッグ・ボーイ、モナ、ピート。ビッグ・ボーイをその中心に、三人それぞれの愛情の流れが複雑に形成されていく。美しい恋人ジョセファがいるにも拘らずどうでぃてもモナに傾いていくピートの心。しかもモナは尊敬するビッグ・ボーイの恋人である。一方、モナは自らをだましていた長い時期を耐え忍び、やっとビッグ・ボーイとの愛をつかんだ。この二つの関係が映画が進むにつれて醸成され、やがて運命を迎えるがごとくそれぞれの分岐点がやってくる。『ハイロー・カントリー』には、そうした胸を焦がす男と女の熱い思いが描かれている。
原作者は『ケーブル・ホーグのバラード』にも出演し、『ランダース』などを著した西部小説の巨人マックス・エヴァンズ。サム・ペキンパがこの原作の映画化企画を長年温めたが到頭実現せず、今回スコセッシが製作、フリアーズが監督、脚本を『ワイルド・バンチ』のウォロン・グリーンが書き完成に至った。はたしてペキンパの『ハイロー・カントリー』が実現していたら、どんな出来上がりになっていただろうか?実現した本作は『マイ・ビューティフル・ランドレット』などを作ってきたフリアーズらしく、細やかで複雑な感情表現、流れ行く時代の空気、運命の流れの中で生きざるを得ない人間というものを、重層的に構築して見事な作り上がりを見せている。その映像を優秀なスタッフが支えている。撮影は『グリフターズ/詐欺師たち』のオリヴァー・ステイプルトンが西部の四季を表情豊かにとらえている。音楽はコーエン兄弟全作品を手掛けているカーター・パウェルが、人間の哀しさ、喜びを見事に表現している。プロダクションと衣装のデザインはパトリシア・ノリスが担当、厳冬でのカウボーイの服装や時代に取残されていくたたずまいなど、時代の表現に成功している。編集は、ダニー・ボイル全作品を手掛けているマサヒロ・ヒラクボが緩急を心得たモンタージュでリズムを刻んでいる。そして製作はコーエン兄弟、ティム・ロビンズ作品などを手掛けているティム・ビーヴァン&エリック・ファルナーが、スコセッシと彼の名パートナーであるバーバラ・デ・フィーナと組んで映画史の伝説の企画であった『ハイロー・カントリー』を実現した。
キャスティングがまた素晴らしい。ビッグ・ボーイには、『ウェルカム・トゥ・サラエボ』、『シン・レッド・ライン』で独自の道を歩むウディ・ハレルスン。
映画中、一種の偶像となる存在、ビッグ・ボーイを見事な肉付けを施して具現化している。ピートには『スリーパーズ』、『秘密の絆』のビリー・クラダップ。
本作の中ですべての感情の発端となる難しい役柄を、伸び盛りを感じさせる若さと才能で演じきっている。モナには『トゥルー・ロマンス』、『ロスト・ハイウェイ』のパトリシア・アークエット。映画中ではっきりと態度を表さないミステリアスな女性を、複雑な感情表現で演じ、観客を最後まで物語の流れに誘っている。そして、脇で支える演技人を絶妙に配している。物語を決着に導く難役リトル・ボーイには『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のコール・ハウザーが扮し、見事にものしている。ピートを愛するジョセファには、『ライブ・フレッシュ』、『オープン・ユア・アイズ』のスペインのナンバーワン女優ペネロッペ・クルスが、哀感をこめた絶世の美しさで演じている。成り上がり者ジム・エドには『ビッグ・リボウスキ』の語り手が印象的だったサム・エリオット。後見人役であるフーヴァーには『シルバラード』、『ワイアット・アープ』のベテラン、ジェームズ・ギャモンがいぶし銀の演技で土の匂いを映画中に封じ込めている。そのほか『エンド・オブ・バイオレンス』のエンリケ・カスティーヨ、『評決のとき』のジョン・ディール、『アミスタッド』のダーレン・バロウズ、『ゲット・ショーティ』のジェイコブ・ヴァルガス、そしてインディアン役の呪い師にペキンパ作品常連のカティ・フラドが演じ、厚い配役で幻の企画を成功させている。

ストーリー

<STORY>

ピートは思い詰めた顔をしてショットガンを握っていた。ある男を狙うために。彼の思いは、敬愛する友人ビッグ・ボーイに初めて会った時に溯る。
1930年代後半のニューメキシコ。見渡す限り広がる広大な平野ハイロー・カントリー。小さな牧場を持つピートは両親を交通事故で失い、たった一人で牧場を取り仕切っていた。ある日、ピートは馬に乗って牧場の付近を見回っている際、煙草を吸おうとふと油断した際に落馬してしまう。彼はその気性の荒い馬を見限るべく、初めて会ったカウボーイ、ビッグ・ボーイにその経緯を話す。それが同じハイロー・カントリーの土地で牧場を営んでいたビッグ・ボーイとの出会いだった。豪放磊落なビッグ・ボーイは目の前で荒馬を乗りこなし、ピートの言い値でその馬を引き取るのだった。
ビッグ・ボーイと出合い、ピートは楽しさとは何かを知り人生がわかったような気さえした。ピート、ビッグ・ボーイ、それにビッグ・ボーイの弟リトル・ボーイと仲間たちは協力し、小さいながらも自分たちの牧場で友情を育んでいった。
天涯孤独のピートは、いつしかビッグ・ボーイを家族同様に思うようになっていた。しかし、第二次大戦が勃発、二人は海軍に志願し別々の戦場に旅立って行くのだった。
戦争は終り、ヨーロッパ戦線から帰郷したピートは広漠としたハイロー・カントリーへと戻ってきた。ビッグ・ボーイは最前線で負傷したらしく、音信不通だった。若い牧場主が戦争に行っている間に、近隣の牧場は成り上がり者のジム・エドに買収され占有されていた。ピートは思いを寄せているジョセファに久しぶりに会おうとサノの祭に出かける。しかし、ピートはそこで出会った美しい女性モナに魅かれてしまう。実は彼女はジム・エドの手下レスの妻だった。モナは夫に束縛され幸せでないとピートに語る。ピートは恋人のジョセファに愛を囁きながらも、次第にモナに惹かれていくのだった。
そんな時ビッグ・ボーイが帰還する。ピートは再会を喜び、昔ながらの友情を確かめあう。牧場の再興を胸に牛の競り市に出向いた二人はジム・エドに出会う。
近代的な牧場経営を敷くジム・エドに対し、昔ながらのカウボーイとして誇りを持つビッグ・ボーイは反感を持っていた。ビッグ・ボーイを旗頭に仲間たちは、父親代わりの老牧場主フーヴァーと強力しジム・エドの占有に抵抗すべく共闘するが、その広大な敷地に対して圧倒的に不利だった。しかも戦争に行かなかったビッグ・ボーイの弟リトル・ボーイは、ジム・エドの手下として働いていた。ジム・エド一派の挑発は続き、時に乱闘も起こった。
そうした騒動が一段落したある晩、ビッグ・ボーイがピートに恋人を紹介すると言う。相手が人妻なので、二人は人目をはばかり逢引きを重ねていた。淡い月明かりが照らす中に浮かび上がったその恋人はモナだった。しかも、不倫でありながら二人は真剣に愛し合っていた。心の中をモナが大きく占めるようになっていたピートは衝撃を受ける。複雑な想いに苦しんだ揚げ句に、ピートは一度だけモナを強引に抱いてしまう。
モナとビッグ・ボーイの関係は次第に噂になり始め、両グループ間は一触即発となっており、町には不穏な空気が流れていた。そんな雰囲気の中、3人の関係も揺れていた。はたして、ピートとビッグ・ボーイの友情は、そしてモナとの3人の愛の行方は果たしてどうなるのだろうか…?

スタッフ

監督:スティーヴン・フリアーズ
脚本:ウォロン・グリーン
原作:マックス・エヴァンズ
撮影:オリヴァー・ステイプルトン
音楽:カーター・パウエル
プロダクション・デザイン/衣装:パトリシア・ノリス
アート・ディレクター:ラッセル・J・スミス
編集:マサヒロ・ヒラクボ
キャスティング:ヴィクトリア・トーマス
共同製作:リサ・チェインジ
製作総指揮:ラド・シモンズ
製作:ティム・ビーヴァン&エリック・フェルナー
マーティン・スコセッシ&バーバラ・デ・フィーナ

キャスト

ビッグ・ボーイ・マトスン:ウディ・ハレルソン
ピート・カルダー:ビリー・クラダップ
モナ・パーク:パトリシア・アークエット
ジョセファ・オニール:ペネロペ・クルス
リトル・ボーイ・マトスン:コール・ハウザー
ジム・エド:サム・エリオット
ビリー・ハート:ダーレン・バロウズ
モンドラゴン:ジェイコブ・ヴァルガス
フーヴァー:ジェームズ・ギャモン
ショウ:レイン・スミス
ミーサ:カティ・フラド
レス・バーク:ジョン・ディール
ゴメス:エンリケ・カスティーヨ
マトスン夫人:ロザリーン・ラインハン
ジャック・コフィー:ロバート・ノット

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