原題:MADE IN HONGKONG/香港製造

フルーツ・チャンが描く、香港のリアルな“今”

☆1997年ロカルノ国際映画祭審査員特別賞・欧州芸術映画館連盟大賞・欧州青年観客賞 ☆1997年ナント3大陸映画祭グランプリ・青年審査員賞 ☆1998年台湾金馬奨監督賞・オリジナル脚本賞 ☆1997年釜山国際映画祭国際批評家協会賞 ☆1997年ベルギーNOVO映画祭グランプリ・監督賞 ☆1997年スペインGIJON国際青年映画祭グランプリ・最優秀脚本賞 ☆ロサンゼルスAFI映画祭最優秀劇映画賞 ☆1998年香港金像奨グランプリ・最優秀監督賞・最優秀新人俳優賞 ☆1998年香港映画脚本協会最優秀脚本賞 ☆第4回香港映画批評家協会最優秀監督賞・協会推薦映画 ☆1998年香港映画監督協会協会推薦最優秀映画・最優秀監督 ☆1998年香港第3回ゴールデンBAUHINIA賞グランプリ・監督賞

1997年香港映画/カラー/1時間48分/35ミリ/ビスタサイズ/ 製作:NICETOP INDEPENDENT LTD./天幕製作有限公司(TEAM WORK PRODUCTION HOUSE LTD.)/ 提供:東光徳間、ポニーキャニオン/ツイン/配給:東光徳間、ツイン/宣伝:P2

1999年6月12日より、銀座テアトル西友にてロードショー!!

公開初日 1999/06/12

配給会社名 0052/0251

解説

フルーツ・チャン監督の『メイド・イン・ホンコン』は、これまでの“香港映画”のイメージを大きく覆すものでした。殊に97年7月の中国返還を目前にした香港映画界にとっては、鮮烈かつ衝撃的な事件でした。その衝撃度は、ある意味で80年代前半の香港ニューウェーブの諸作や、『欲望の翼』や『恋する惑星』でのウォン・カーウァイ・ショックを超えていたと言えるでしょう。
近年日本でも人気を博した『欲望の街』シリーズを例にあげるまでもなく、誰もが香港のダウンタウンに住む不良少年の青春物語など語り尽くされていたと思っていました。だが、この映画はその使い古されたいかにも香港映画的なモチーフを逆手に取り、従来の香港映画とはまったく違うアプローチで、香港の若者たちが直面している問題と向き合い、おそらく香港映画ではじめて、香港のリアルな“今”を描くことに成功しています。これまでの香港映画には時事ネタを取り入れて茶化すような作品は山ほどありましたが、シリアスな問題を真正面から描こうとする映画などほとんど存在しませんでした。
過去の香港映画の中にも、ツイ・ハークの『ミッドナイト・エンジェル/暴力の掟』(80)、ジョニー・マックの『省港旗兵/九龍の獅子』(84)、ローレンス・アモンの『ギャングス』(88)など、『メイド・イン・ホンコン』に近いテーマを扱った力作はありました。特に『ギャングス』は街の実際の不良少年たちを出演させるなど共通する部分も多い作品でした。しかし、それらの作品とこの映画は決定的に違う部分がある。それは、香港という街そのものの描かれ方、その時代背景です。
かつて香港は活気に溢れ、可能性に満ちたエネルギッシュな都市の代名詞でした。当然、過去の作品はその極端な個人主義と金儲け至上主義の街の歪みにハマッてしまった孤独な若者たちの悲劇を描いきました。しかし、フルーツ・チャンは若者たちの置かれた状況や行動の中に、中国への返還が接近するのに伴い、まるで「シンデレラ」のカボチャの馬車のようにすべての夢が一夜にして消えてしまう焦燥感や諦念感、無力感に覆われたネガティブな都市・香港とそこに住む人々の心情を描き込んでいきます。
見えない未来、崩壊する家族、経済の急速な冷え込み、香港人としてのアイデンティティの喪失、コミュニケーションの不在から来る孤独感、まん延する社会的不公平…、生き続けることに意味を見いだせなくなった若者たちは当然のごとく、彼らの特権のように自ら死を選ぶ。しかし、それはたとえば北野武が『HANA-BI』で描いたような逃避的自殺願望ではありません。若者たちの自殺はつねに巨大な不条理に対する彼らの最大の抵抗であり、闘争の手段なのです。
と同時にこの映画は、何を撮るかの前に誰が出るかが重要視され、ウォン・カーウァイのような有名作家の作品さえ、人気スターが出演しなければ企画としては通用しない商業至上主義の香港映画界に投げ付けられたチャン監督の勇気ある挑戦状でもあるのです。
有名俳優を一切使わず、リアリティを追求しながらも、チャンは登場する少年少女を突き放すことなく、センチメンタルなまでに徹底的に感情移入して温かく見守る。その結果、ともすれば殺伐とした実録不良少年映画になりかねない題材が、レオン・ポーチの『風の輝く朝』(84)やウォン・カーワァイの『いますぐ抱きしめたい』(88)以上の瑞々しさで輝きだすのです。
香港の若手映画人がストックフィルムを使い、たった8万ドルの製作費で撮ったこの超低予算のインディペンデント映画は、興行面でハリウッド映画に圧倒されて急速に人気を失い、製作面でも優秀な才能や人気スターが次々とハリウッドに引き抜かれて瀕死の香港映画界全体に勇気と希望を与えました。従来の香港映画を過去のものにした『メイド・イン・ホンコン』は、中国語映画に偏見を持っていた映画ファンのみならず、長い間香港映画を愛してきたファンが待ち望んでいた作品に他ならない。香港映画はアクションだけでなく、作品的にもトップ・レベルに成長したことを衆目が認める作品と言えるでしょう。

ストーリー

1997年香港。チャウは、下町の老朽化した低所得者用公団に住む少年。父親は家を出て、スーパー勤めの母親と二人暮らしだ。中学卒業後、借金の取り立ての手伝いをしている。仕事は貰うが組織には属さない。一匹狼の身分に誇りを持っている。弟分のロンは知恵遅れの少年。チャウが守ってやらないと、白い制服を着た金持ちの高校生にいじめられる。いっものようにロンと一緒に行った取り立て先で、チャウは16歳の少女ペンと出会った。ペンの父は借金を残したまま行方知れず、彼女もまた母と二人暮らしだった。ペンのすらりと伸びた脚を見たロンは鼻血を流してしまい、取り立ては失敗に終わった。その時から、ロンの鼻はペンが近づくだけで敏感に反応して鼻血を出すようになった。
ある朝、ロンはビルの屋上から飛び降り自殺した少女を目撃、血に染まる二通の遺書を拾いポケットに入れた。その直後、ロンは白い制服の高校生につかまって袋叩きにあった。ポケベルの知らせで現場に急行する街中で、チャウは父親の姿を見つけ、尾行した。チャウの父は大陸から来た女と同棲して子供までもうけていた。
けがをしたロンを病院に迎えに行ったチャウは、看護婦からロンが持っていた二通の遺書を手渡された。帰りかけて、ふと見ると、待合のベンチにペンと母親が座っていた。うきうきした気持ちでペンに話しかけたチャウは、ペンの母親から激しく叱責されてしまう。自殺した少女が残した遺書を家に持ち帰ったその日から、チャウは毎日その少女サンの夢を見た。サンが何かを訴えている。夢の後には決まって夢精し、自分でパンツを洗った。街に出たチャウは、伸問のクンに呼び止められて車に乗り込んだ。クンは、チャウとその仲間に近づいて、何かと面倒を見てくれる福祉課の民生委員、美人のリーさんに求婚して0Kを貰ったのだという。クンは今、定職に就いていた。その上リーさんの勧めで臓器提供のドナーになっていた。臓器提供に関するパンフレットを渡され、説明を聞いたチャウだが、自分とは全く関係のない世界のように思われた。
そんなある日、ペンが突然チャウを訪ねて来て言った。「友達になってほしいの」。取り立て屋として会ったチャウに憧れを抱き、心を開いたのだった。チャウ、ペン、ロンの三人は、サンの二通の遺書をそれぞれの宛先に屈けることにした。1通目はサンが恋心を抱いていた女子高校の体育教師。校庭で女子生徒に囲まれた体育教師はその血染めの手紙を封も切らずに破り捨てた。もう1通は両親にあてたものだった。しかし、三人がサンの家の様子を窺っている時、家人に見つかり、三人は走って逃げた。
全力で走った後胸を押さえて苦しむペン。チャウは、初めてペンの体の異常を知った。ペンは重い腎臓病に冒されていた。腎臓移植をしなければ、命は長くない。クンのくれた臓器提供のパンフレットを思い出し、チャウは申込書に必要事項を書き込んだ。自分の腎臓が役に立つのだったら、ペンにあげたいと思った。チャウはペンを愛しはじめていた。チャウがペンの家を訪れている時、たちの悪い取り立て屋、デブのチャンが現れた。借金の代わりに娘をよこせと母親に強要するチャンを、チャウは追い払った。チャウは、ペンの家の借金を自分の手で返してやりたいと思った。母親の蓄え5000香港ドルをくすねた。

それがきっかけになって、母親はチャウを捨て、家を出た。ロンが住みついているものの、身内に見捨てられた寂謬感が彼を襲った。すべては自分を捨てた父親のせいと思い込んだチャウは、父親に復讐するために包丁を手に街へ出た。しかし、白い制服の高校生が、妹をレイプしたという自らの父親の腕を切り落とすのを目撃して、その気持ちは急速に萎えてしまった。
母親を捜し求めて途方に暮れるチャウ。家に帰ると、林立する金持ちの住む高級マンション街が窓から輝いて見えた。夜、泣いた。ペンが入院したことを知って、チャウとロンは病院に見舞いに行った。チャウはペンを病院から連れ出し、高台の墓地に向かった。三人はサンの墓を探しながら、大声で彼女の名を呼んだ。広々と開放感のあるその墓地は、本当に天国に続いているように感じた。ペンがチャウにささやいた。「私が死ぬとき抱いてね」。二人は初めてキスをした。ペンの父親の借金とペンの手術費用のため、チャウはボス、ウィンにかねてから言われていた、ウィンと敵対する大陸から進出して来た男の殺しを引き受ける決意をした。ペンのために初めてウィンから銃を受け取った。そして、恐怖におののきながら興奮し酔いしれ、ヘッドホンから流れるボリュームいっぱいの音楽を聴きながら一人踊り狂った。殺しは失敗に終わった。初めて経験する殺人の恐怖に、引き金が引けなかった。その晩、またサンの夢を見て夢精した。
突然、チャウはスケボーに乗った少年に襲われた。ドライバーで何度も何度も腹を刺された。デブのチャンの差し金だった。ペンの母親は、瀕死のチャウの腎臓を娘のために提供するように医師に懇願した。しかし、まもなくチャウは奇跡的に危篤状態を脱した。数ヶ月後、退院したチャウはペンとロンの死を知った。ペンは、チャウの入院中、容態が急変し、ロンは麻薬運びの途中、ボスのウィンに無惨な殺され方をした。チャウは自分を殺そうとしたチャン、ロンを殺したウィンヘの復讐のため再び銃を手にした。まずウィンを、続いてチャンに銃を向けて引き金を引いた。数日後、サンの遺書が両親の元に郵送された。差出人はチャウ。遺書の中には、ペンそしてチャウの最後の言葉が書き添えられていた。

スタッフ

エグゼクティブ・プロデューサー: アンディ・ラウ
プロデューサー: ドリス・ヤン
脚本/監督: フルーツ・チャン
撮影: オー・シンプイ、ラム・ワーチュン
美術: マ・カークワン
音楽: ラム・ワーチュン
録音: ユン・チーチュン
編集: ティン・サムファ
衣裳: ティン・ムッ

キャスト

チャウ: サム・リー
ペン: ネイキー・イム
ロン: ウェンバース・リー
チャウの母: ドリス・チョウ
ペンの母: キャロル・ラム
デブのチャン(借金取り): チャン・ターイェ
ウィン(ボス): チャン・サン
クン(チャウの友達): ウー・ウァイチュン
リーさん(民生委員): スーチュン
サン: エミィ・タン

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