原題:JAKOB THE LIAR

オレが今までに発明したものは、ジャムパンと嘘だけ… 絶望に支配された町に奇蹟をもたらしたのは、彼が創った“想像の”ラジオだった…

全米1999年9月24日公開

1999年/ブルーウルフ・プロダクションズ ウィズ カッソーインク ソニーピクチャーズ・エンタテインメント配給/2時間00分 SDDS/字幕翻訳:戸田菜津子

2008年01月23日よりDVDリリース 2000年5月5日よりビデオレンタル開始 2000年5月5日よりDVD発売 1999年12月4日よりシネマスクエアとうきゅうにてロードショー公開

公開初日 1999/12/04

配給会社名 0042

解説

第二次大戦中、ナチスの占領下にあったポーランド。ユダヤ人居住区ゲットーに住む元パン屋のジェイコブは、ある夜、ドイツ軍司令部でラジオのニュースを偶然耳にする。それは、ソ連軍がポーランドまで進攻してドイツ軍と戦っているという、ユダヤ人にとっては明るい戦況を伝えていた。翌日、ジェイコブはこの朗報を二人の友人にこっそり耳打ちした。ニュースはまたたく間にゲットーに流れ出し、ジェイコブがラジオを持っているという噂までも広まっていく。ここでは外部との接触自体が死に値する罪。しかし、ジェイコブは身の危険も顧みず、解放近しというニュースをでっちあげて伝え続ける。そして、絶望に支配されていた町に生きる希望が芽生え始め、勇気とユーモアが復活する。やがて、ジェイコブの嘘が奇跡を呼ぶ日が…。
これは、ゲットーという閉ざされた空間で絶望が希望に変わったときに起こる意外でユーモラスな物語。架空のラジオという秀逸なアイデアを軸に、人々に希望をもたらした“嘘つきジェイコブ”の奇跡と、彼が密かにかくまっている少女との優しさあふれる交流を感動的に描き出しています。ともすれば暗くなりがちな素材を、あふれんばかりのヒューマニズムと辛辣なユーモアでくるんで見せたアプローチは、批評家からも絶賛されています。ここでは愉快なシーンと悲惨なシーンが一瞬にして交錯します。極限状態であるからこそ、ふとした言葉や何げない動作がおかしみを生み、感動を醸し出します。映画は絶妙のセンスで突き抜けた明るさと暗い淵の間のバランスをとりながら、陰惨な時代を背景に生き生きとしたウィットと愛を見事に表現しました。日本でも「ほらふきヤーコプ」(同学社刊)として訳出されている原作は、そもそもユーレク・ベッカーによってドイツのテレビ用の脚本として著さました。この企画が頓挫したため、ベッカーは69年に小説として出版。これが数々の文学賞に輝くとともに世界的なベストセラーになり、74年には映画化され、ベルリン映画祭の銀熊賞、主演男優賞(ウラディミール・ブロドスキ)を受賞しました(日本公開題名は『嘘つきヤコブ』)。“苛酷な運命にあえぐユダヤ人”というイメージを覆すユニークな視点は、作者白身がゲットーと収容所を生き延びたユダヤ人であるという事実ゆえにより深い意味をもつことになります。

今回の映画化に当たっては、傑出したコメディアンにして『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のオスカー俳優でもあるロビン・ウィリアムズが、心ならずもヒーローになってしまった主人公ジェイコブ役に迎えられました。脚本を読んで感動し、そのパワーに圧倒されたウィリアムズは、自らエグゼクティブ・プロデューサーを買って出るほどの入れ込みよう。最初はこの物語をコミカルに料理することにためらいがあったと言うウィリアムズですが、「コメディを恐れるな」という監督の一言ですっかり払拭され、滑稽と悲惨が溶け合う“面白切ない”ジェイコブの世界に没入していきました。BBC放送を真似するシーンでは得意の声色芸も披露しています。
ウィリアムズを取り巻くキャストには、この映画の内容を理解し観客に伝えられる一流の俳優たちが集められた。旧東ドイツ出身で原作者ベッカーと親交のあった『ナイト・オン・ザ・プラネット』『シャイン』のアーミン・ミューラー・スタール、彼は74年の『嘘つきヤコブ』にも出演している唯一のキャストです。『ガタカ』『シザーハンズ』のアラン・アーキン、『未知との遭遇』のボブ・バラバン、『スフィア』『身代金』のリーブ・シュライバー、『アメリカンプレジデント』のニーナ・シーマスコのほか、『憎しみ』でカンヌ映画祭の監督賞を受賞し、『フィフス・エレメント』などに俳優として出演している監督の実子マチュー・カゾヴィッツも顔を見せています。また、明るい未来の象徴とも言うべき少女役に『フォー・ウェディング』に出演した愛らしさ抜群のハンナ・テイラー・ゴードンが可憐な花を添えています。監督のピーター・カソヴィッツはハンガリーに生まれ、今はパリを拠点に活動している作家です。子供のころ映画の登場人物と同じような体験をした彼は、自らの記憶を映画の中に塗り込めました。しかし、それは肉体的な苦しみや恐怖といった表面的なリアリズムで描かれることはない。もっと深く人々の心の中に踏み込んでいけたからこそ、アクロバティックとも言えるギリギリのユーモアが生み出されたのに違いない。ゲソトーという空間を緊迫感たっぷりに、そして人々の営みを躍動的に捉えた撮影は、ハンガリー出身のエレマー・ラガリ。ベッカーの小説を脚色したのは、監督自身と、ゴンクール賞受賞者でもあるフランスの小説家・脚本家ディディア・ディコイン。『グッドモーニング・ベトナム』以来『パッチ・アダムス』までロビン・ウィリアムズのほとんどの作品に関わってきたマーシャ・ガーセス・ウィリアムズと、『エマ』『ラストダンス』などを手がけたスティーブン・ハフトがプロデュースに当っています。

ストーリー

1944年、ナチス占領下にあるポーランドのとある町。すべてはゲットーの塀の前で始まった。一枚の新聞紙が風に舞って飛んでいる。外界のニュースを求めて新聞紙を追ったユダヤ人ジェイコブ・ハイエム(ロビン・ウィリァムズ)は、塀の前で衛兵に止められ、夜間外出禁止令に反したとして司令部に出頭を命じられる。「8時までにはまだ数分あるのに」とぼやきつつ、無人の事務所に入って行ったジェイコブはラジオ放送を耳にした。この町から400キロ先にあるベザニカでドイツ軍がソ連軍と交戦したというそのニュースは、ポーランドまでソ連軍が進攻してきたことを意味していた。思わず笑みを浮かべるジェイコブ。やがて事務所に入ってきた将校は、8時のサイレンが嶋り始めてからジェイコブを解放する。「ゲットーに戻りたいと思うユダヤ人は俺だけだ」。愚痴を言いながら鉄条網をくぐろうとしていたジェイコブの前に一人の少女が現れる。収容所に送られる列車から逃げ出してきたリーナ(ハンナ・テイラー・ゴードン)だった。ジェイコブは彼女の機転で無事ゲットーの部屋に帰り着き、屋根裏に彼女を匿うことにする。ゲットーの仲間たちはもうほとんど収容所に送られてしまった。ジェイコブの妻ハンナも射殺された。わずかに残された住人は外界から遮断され、ラジオを持つことも禁じられている。彼らは空腹を忘れるために本を読み、ブラックなジョークを言うことで辛うじて生きる気力を保っていた。ジェイコブはリーナに乏しい自分の食料を分け与える。彼にとって純粋で物おじしないリーナの存在は心の安らぎであり、明るい未来の微かな象徴でもあった。
ジェイコブは夜が明けると、早速咋夜のニュースを自殺願望のある床屋の友人コワルスキー(ボブ・バラバン)に伝えた。かつてマネージャーを務めていた若くて直情型のボクサー、ミーシャ(リーブ・シュライバー)にも教えた。人々の生きる糧になるだろう解放軍の情報を知らせないではいられなかった。そのニュースは、ジェイコブがラジオを持っているという噂とともにたちまちゲットー中に広まっていった。ミーシャの恋人ローザ(ニーナ・シーマスコ)の父で、シェイクスピア俳優だったマックス・フランクフルター(アラン・アーキン)は、ミーシャからジェイコブの話を聞くと、しまい込んでいた自分のラジオを叩き壊す。持っていると知れれば射殺されてしまうからだ。ジェイコブたちは、一杯のスープと引き換えに、駅の貨物置き場で荷下ろしの仕事についていた。ミーシャからニュースの続報をしつこく聞かれたジェイコブは、ドイツ軍がソ連に反撃するために東に向かっていると、口から出まかせの戦況を伝える。そのとき、駅にユダヤ人を満載した貨車が到着した。彼らに解放の日が近いことを教えようとしたハーシェル(マチュー・カソヴィッツ)はナチスの兵士に射殺されてしまう。
ハーシェルは人々に希望を与えようとした英雄だ。白分は嘘を教えてハーシェルを死に至らしめた人殺しなのか? ジェイコブは悩むが、住人たちはますますニュースを欲するようになる。医師キルシュバウム(アーミン・ミューラー・スタール)によれば、このニュースのお陰で自殺者が激減したという。調子に乗ったジェイコブは、ベニー・グッドマンらアメリカのジャズ・バンドが慰問団でやって来ると、苦し紛れに嘘の上塗りを続ける。人々の顔には明るさが浮かんだ。ラジオ・レポートはどんどんエスカレートし、しがないパン屋だったジェイコブは今や聖なる予言者になった。

ある日、リーナが病気になった。キルシュバウム医師に診てもらったものの薬も底をついている。ジェイコブはリーナを元気づけるために、良くなったらラジオを聞かせると約束する。やがてリーナは回復した。ジェイコブは約束を果たすため、リーナに目を閉じるように言うと、チャーチルの声色を使ってBBC放送を演じてみせる。「音楽は?」と聞かれ、蓄音機でレコードをかけたジェイコブは、自分の靴の上にリーナの足を乗せて一緒にポルカを踊り始める。それは、切ない愛に満ちたつかの間の幸せなひとときだった。
その日、荷下ろし作業中にドイツ兵が新聞紙を持ってトイレヘ行くのを見たジェイコブは、隙を見てトイレに入り込み、ニュースを探す。記事はドイツ軍のサッカーの結果だけ。けれど、みんなで記事を分析するうちにそれが「連合軍にとって好ましい戦況」となって伝わっていく。勇気を得た住人たちは、抵抗組織を作ることを思いつく。キルシュバウム宅で行われた組織作りの集会で、ジェイコブはリーダーに選ばれた。そのとき、ゲシュタポが家に入って来る。心臓を病んでいる将軍の命令で、心臓病の専門医であるキルシュバウムを連れに来たのだ。将軍は命と引き換えにキルシュバウムに治療させようとする。「あなたを助ければ、皆が殺される」。「助けなければ部下がお前を殺す」。キルシュバウムは難しい選択を迫られていた。しかも、将軍は町で語題になっているラジオの持ち主を密告するように迫る。キルシュバウムはためらうことなく、毒薬をあおって自らの命を断った。
ナチスはラジオの持ち主の捜索に乗り出した。本人が出頭しなければ、人質10人を殺すと言う。ジェイコブはラジオのニュースを聞いたいきさつをコワルスキーに告白する。そして、ミーシャにリーナのことをたのむと、ゲシュタポの司令部に事実を話しに行くことを決意する。コワルスキーは真実を知って首を吊った。残された住人たちは列車へと追い立てられていく。連合軍の進攻で、この町のゲシュタポは撤退の準備を始めていたのだ。司令部であの夜の将校に事の真相を語ったジェイコブは、住民たちの前でラジオのニュースも抵抗運動も、みな嘘だったと言うように強要される。駅の司令台の上へと引き立てられるジェイコブ。広場に集められ、ジェイコブを見守る住民たち。ジェイコブは逡巡していた。ゲシュタポに言われるままに話して今日一日を生き長らえるか、嘘をつき通して人々に生きる希望を与えるか…。

スタッフ

監督: ピーター・カゾヴィッツ
脚色: ピーター・カソヴィッツ、ディディア・ディコイン
原作: ユーレク・ベッカー「ほらふきヤーコプ」(同学社刊)
製作総指揮: ロビン・ウィリアムズ
撮影: エルマー・ラガリ
美術: ルチアナ・アリギ
編集: クレア・シンプソン
衣裳: ウィスラワ・スタルスカ
音楽: エドワード・シャローム
共同製作: ニック・ギロット

キャスト

ジェイコブ: ロビン・ウィリアムス
フランクフルター: アラン・アーキン
コワルスキー: ボブ・バラバン
リーナ: ハンナ・テイラー・ゴードン
アヴァロン: マイケル・ジェター
キルシュバウム医師: アーミン・ミューラー・スタール
ミーシャ: リーブ・シュライバー
ローザ: ニーナ・シーマスコ
ハーシェル: マチュー・カソヴィッツ

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