原題:Vidas privadas

孤独の果てに、あなたがいた——。

サン・セバスチャン国際映画祭2001正式出品作品 ハバナ映画祭2001正式出品作品 リオ・デ・ジャネイロ国際映画祭2002正式出品作品 ベローナ・ラブ・スクリーンズ・フィルム・フェスティバル2002最優秀作品賞ノミネート アルゼンチン映画批評家協会賞2003助演女優賞ノミネート

2001年11月2日スペイン公開

2001年/アルゼンチン・スペイン/105分/カラー 配給:アットエンタテインメント

2005年06月24日よりDVDリリース 2004年12月11日、シアター・イメージフォーラムにてロードショー!

© Circo Beat S.R.L. ARGENTINA 2001

公開初日 2004/12/11

配給会社名 0104

解説



 
孤独な心を熱く抱きしめる、愛の再生の物語。
マドリードの女性とブエノスアイレスの青年一“声”に導かれ、出会ってしまった2人の美しくも哀しい宿命が描かれる。
セシリア・ロス、ガエル・ガルシア・ベルナルの情熱的な演技が胸に迫る!

ヒロイン、カルメンを演じたのはペドロ・アルモドバル監督の「オール・アバウト・マイ・マザー」で世界中から絶賛の嵐を浴びたセシリア・ロス。スペイン、アルゼンチンの両国で国民的スターの座を確立しているロスだが、アルゼンチン移住後はスペイン映画への出演も減っていて、そのキャリアに対して日本で紹介されている作品は非常に少ない。そのため、本作はセシリア・ロスの演技を存分に堪能できる非常に価値のある作品。ロス演じるカルメンは、過去につながる一切と決別して、他人に頼らず毅然と生きてきた。過去の事件の謎が少しずつ明かされ始めると、戸惑いすら覚えるカルメンの倒錯的な行動が、実は傷の深さと想像を絶する長い孤独によるものだと分かってくる。しかし、カルメンは他人に同情されることを許さない。傷を舐め合う事も救いを求めることも拒絶し、痛みの中に立ち続ける、その頑なまでの誇りの高さが、手の届かない崇高な存在として、観客を圧倒する。
ミステリアスなカルメンに魅せられ無償の愛を捧げる青年グスタボを演じたのは「モーターサイクル・ダイアリーズ」「バッド・エデュケーション」など続々と話題作が控えるメキシコの新星ガエル・ガルシア・ベルナル。野性味と純真さを併せ持つその魅力は、従来のラテン系俳優たちとは一線を画し、日本でも女性を中心に熱狂的なファンが増幅中。ハリウッドでもナタリー・ポートマンとのゴシップ的話題だけでなく、演技の実力も確実に評価され、世界的ブレイク間違いなしの次世代俳優。高級な男娼として登場するグスタボは、初めは堕落の象徴であるかのように思えるが、物語が進むにつれ、グスタボの純粋な穢れのない内面が明らかになっていく。その存在は、過去を隠すために歪みや嘘を抱えた大人たちの存在の中で輝きを放ち、汚れた社会に順応しながらもその純真さを失わない、グスタボのしなやかな美しさが鮮烈な印象を残す。
この二人をつなぐのが“声”。人に触れることができないカルメンとグスタボは、顔を合わせることもなく、聴覚だけの官能で感情を高めていく。目を閉じて相手の声だけに感情を沿わせていくその関係は、通常の五感をフルに使う愛撫と異なり、スクリーンの中で濃密な緊張感と異様なまでの高揚感をかもし出す。
監督は本作が長編デビューとなるフィト・パエス。著名なミュージシャンとして知られるパエスは、アルゼンチンの痛ましい歴史を土台にしたストーリーに、宿命に導かれるギリシア悲劇を取り込むことで、美しい物語性を高めた。
カルメンの母を演じたチュンチューナ・ヴィラファーネは、最後の貴族として時代と共に美しく毅然と滅び行く貴婦人役が賞賛されアルゼンチン映画批評家協会賞助演女優賞にノミネートされた。

20年間の愛の喪失
人と触れあえない心の傷、耳に残る恐怖の残像。
1976年の事件は彼女の全てを奪い去った一
アルゼンチンの国民にとって政情が安定した今もなお、忘れえぬ過去である軍事クーデター。残酷な事実を前に、人の心はあまりにも壊れやすい。残虐の嵐の中で、夫を失い、自らも拷問され、心身ともに傷を負ったカルメンは、忌まわしい国と過去を捨てた。しかし、彼女は20年後、祖国への帰郷をきっかけに若い青年と出会い、いびつとも思える倒錯した愛の行為で、生の歓びを心と体の両面から取り戻す。二人は体を触れ合わないこの逢瀬を重ねるうちに、更なる過去の扉を開けるのだった…。
アイデンティティを失い愛することを忘れた孤独な二人が、求め合いながらも激しく傷つけあう姿が、切なく痛々しい。だからこそ、生きる力の再生と、人間が本質的に持つ愛に、再び目覚めていくことを象徴的に描いたラストシーンが、静かな感動を呼ぶ。

ストーリー


 カルメン(セシリア・ロス)42歳。美しく有能な彼女は、冷たく心を閉ざしたまま、故郷から遠く離れたマドリードにたった一人で住んでいたが、アルゼンチン貴族の父の財産分与のため、20年ぶりに故郷のブエノスアイレスに帰ってきた。
 長い孤独な年月がカルメンを心の冷たい人間に変えていた。1976年、アルゼンチンで起きた軍事クーデターがカルメンの全てを奪ったのだ……ジャーナリストの夫も心も。突然の逮捕、1年問にも及ぶ暗い独房での過酷な拷問。軍に解放されたカルメンは国を捨てた。それからずっと、カルメンの心は人を愛することを忘れ、肉体的にも人と触れ合うことができなくなった。しかも拷問の恐怖が与えた異常に敏感な聴覚はカルメンを絶え間なく苛み続けてきた。

 2週問の滞在のためにカルメンは家族に秘密でアパートを借りた。雇った男女の愛の営みを壁越しに隣室で聞くために……。それが、カルメンの得ることができる唯一の性的な悦びだった。
 依頼の電話をかけた瞬間に耳に飛び込んだ男の声。初めて聞く若い男の声にカルメンはかってない感覚に陥り、震えた。その声の主グスタボ(ガエル・ガルシア・ベルナル)が女性と連れ立ってやってきた夜、カルメンはグスタボに告げる。
「今度は1人で来て」次の夜から、カルメンはグスタボに本を読ませた。壁越しにつむがれる甘く淫らな言葉がかつてないほどカルメンの情熱をかきたて、他人を拒絶して生きてきたカルメンの心を揺り動かす。グスタボもまたカルメンのミステリアスな言動に心落ち着かなくなっていた。年若く、名門の軍家系に生まれ、全てに恵まれていたグスタボだったが、何故かカルメンの孤独感に深い共鳴を覚えるのだった。全く異なる境遇の二人は、どうしようもなく惹かれ合っていく。
 しかし若いグスタボにはこの顔を合わせない不自然な関係にこれ以上耐えられなかった。約束を破って姿を現したグスタボは、動揺したカルメンに酷い言葉を浴びせられ、傷ついてアパートを飛び出した。カルメンもまた深く傷ついていた。

 帰国前夜、アパートを引き払う手配をしているカルメンに電話がかかった。カルメンを探してアパートの外にやってきたグスタボからだった。雨に降られながらグスタボは必死で語りかけた。「なぜ君に触れるのも見るのもダメなんだ 僕は夢中なんだ」熱い純粋な思いがカルメンの心の壁を打ち崩す。そして二人の心はついに結ばれた。
 カルメンは渡欧を延期した。20も年若いグスタボに愛され守られる甘美な生活が傷ついた心を癒す。自分を守るための孤独な殻を捨てたカルメンは、人を愛する喜びを取り戻した。だが、愛し合いながらも過去に怯える二人の行く末には、更に残酷な影が潜んでいた……。

スタッフ

監督:フィト・パエス
制作総指揮:フィト・パエス、アレハンドロ・クランシー
製作:マテ・カンテロ/ステファン・ソーラ
脚本:フィト・パエス/アラン・パウエル
撮影:アンドレス・マッソン
美術:ジョルジュ・フェラーリ/ファン・マリオ・ロースト
音楽:フィト・パエス/ヘラルド・ガンディーニ
衣装:アナ・マルカリアン
配給:アットエンタテインメント

キャスト

セシリア・ロス
ガエル・ガルシア・ベルナル
ルイス・シエンブロウスキー
ドロレス・フォンシ
カローラ・レイナ
ヘクトル・アルテリオ
チュンチューナ・ヴィラファーネ

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