2005年日本/製作:リトル・モア、ポニー・キャニオン、衛星劇場、 朝日放送、カルチュア・パブリッシャーズ、アスミック・エース エンタテインメント 制作プロダクション:フィルムメイカーズ 配給:アスミック・エース

2006年05月26日よりDVDリリース 2005年10月8日、ユーロスペースほかにて全国順次ロードショー

(C)2005「空中庭園」製作委員会

公開初日 2005/10/08

配給会社名 0007

解説


『青い春』で透徹な空気感と刹那的な絶望感を突き抜けるような青い空に仮託して、男の子たちの青春をライブ感覚で描き出し絶賛された豊田利晃。男を描き続けてきた豊田が、最新作で初めて”女性”を描くことに挑戦しました。主演には、『風花』以来4年ぶりの主演映画への復帰となる小泉今日子。そして原作には、第132回直木賞を「対岸の彼女」にて受賞し今もっとも注目を浴びている作家、角田光代の、第3回婦人公論文芸賞受賞作「空中庭園」。人間の孤独と愛が凝縮された映画のエンディングには、今年でデビュー10周年を迎えるUAの歌声。まさにそれぞれが新しい地平に踏み出した、今でなければできない、珠玉の映画となりました。

舞台は、東京郊外。”ダンチ”とよばれるかつての巨大マンションに住む”普通”の家族の物語が始まります。物質的に満たされているからこそ、空虚が絶望という音をたてながらダンチの四角いハコに降り積もり続けている、いまもっとも現代的な舞台装置において、”家族”とは、”孤独”とは”愛”とは、といった普遍的なテーマに真正面から挑戦していきます。

小泉演じる主婦・絵里子が、狂信的に固執する”家族の間で隠し事をつくらない”という家族のルール。彼女にとってのガーデニング、つまり”空中庭園”と同じく、このルールは絵里子の一方的な”再生と計画=過去のやり直し”の象徴として機能します。そしてそれは、母・さと子とのトラウマがあるからこそ、今度こそ、自分で作ったこの家族を自分の手で守ろうとする強迫観念となって、より一層絵里子を孤独へと追い込んでいきます。
 監督・豊田は、家族にひとつ、またひとつとそのルールを破っていることを露見させ・絵里子に絶望と対峙させ、思い込みと現実の乖離に目を向けさせることで、二重露出となっていた家族関係を剥き出しにしていきます。不様で、ときに滑稽なほど不器用な家族たちが、あらためて気づく終幕。「繰り返せばいい。やり直せばいい」・壮絶なクライマックスの先には、脚本も手掛けた豊田によって、原作とも違う、なんとも優しいラストシーンと最高の解放感が用意されています。

原作者・角田光代は、直木賞受賞時の数々のインタヴューで、「空中庭園」という作品が彼女にとってひとつのきっかけとなった、と答えています。彼女の小説に常に潜んでいる”毒”が、原作では登場人物それぞれの視点で語られつつ、物語の中心にぽっかりと”家族”といううつろなハコを衆り出すことに成功しています。そして映画化において、高ぶることなく静かに描かれる怒りと絶望感という通奏低音が、豊田の持つドライヴ感と共鳴し、張り詰められた緊張感もまた途切れることなくクライマックスまで駆け抜けます。走りつづけるストーリーと形を変えつづける感情、そのダイナミクスは妨げられることなく観客をぐいぐいと作品にひきこんでゆきます。

“空中庭園”というその浮遊感あふれる音の響きに呼応するように、左右に揺れつづけるカメラの視点。そのカメラによって縁取られてゆく食卓、ダイニングの照明器具、観覧車…。記号的な円の象徴を重ねつつ、パッチワーク風の家族のスケッチがテンポよく紹介されていきます。そのなかで俳優たちが、ふと見せるリアルな表情。現実と虚構と妄想が入り混じる映画的構成のなかで、映像に血が通う瞬間!監督の演出のキレが冴え渡る瞬間といえるでしょう。

80年代には『家族ゲーム』、90年代に『アメリカン・ビューティ』といったような、その時代を反映した家族映画の秀作が必ず登場します。2000年代を代表するであろう本作では、従来の異端子が訪れて家族という共同体に変化をもたらす形ではなく、最初から内包された崩壊と、そして再生が描かれます。”再生”を託したクライマックスでは、小泉今日子の熱演とも相まって、登りつめた感情が一気に解放されて。我々は、まさにあたらしい家族映画が出来上がる瞬間に立ち会うのです。

高度経済成長期に造られたニュータウンも今や「ダンチ」と呼ばれる集合住宅にすぎなくなっていた。京橋家の人々は”家族問では秘密をつくらない”という自分たちで作ったルールを守ることもできず、それぞれ誰にも言えない秘密をもっていた。

娘のマナは、学校をサボタージュし「ディスカバリーセンター」と呼ばれる巨大ショッピングセンターで時間を過ごし、時には見知らぬ男性とラブホテルに向かう。弟のコウもまた、学校に行ってないようだし、父・貴史は浮気に忙しく、長年の恋人・飯塚にストーカーまがいに付きまとわれたり、新しい恋人ミーナの若さに振り回されている。妻・絵里子もベランダのガーデニングに丹精を込めつつも、内心、母・さと子とのこれまでの関係に悩み、また、自分がかつてひきこもりの少女であった事実をトラウマとして抱え、生きている。ルールを言い出した彼女ですら、「わたしには、家族にたったひとつだけ秘密がある」。

ふとしたきっかけから、ミーナがコウの家庭教師として京橋家に乗り込んできた!”存在するはずのない”お互いの秘密が暴露されはじめて……。豪華キャストの結集!微妙な距離を持って浮遊する家族間で、アンカー代わりの”笑顔”を作りつづける主婦・絵里子には小泉今日子。文字通り”生まれ変わる”シーンは、圧倒的な迫力で観る者の胸に迫ってきます。絵里子の母親・さと子役には大楠道代。物語のバックボーンとなる<さと子・絵里子>の母娘関係に説得力をもたせる卓越した名演を生みだしました。”ラブホテルで仕込まれた”娘・マナに、17歳にして演技派女優としての名声を確立した鈴木杏。家族との距離感をもてあます、多感な娘役を力演しています。浮気に忙しい絵里子の夫・貴史役には板尾創路。軟派な風情のなかに家族愛がにじみ出る中年男性を見事に演じきりました。息子・コウ役には本作が映画初出演となる広田雅裕が好演し、”京橋家”が完成します。貴史を悩ませる長年の恋人・飯塚役に永作博美、そして若き恋人ミーナにソニン。京橋家の外側から家族という存在に揺さぶりをかける、インパクトのある愛人像は、見終わった後にも強烈な印象を残します。絵里子の兄には國村隼。ささやかだけど重要な一言をもたらすことで、母娘関係に絶妙な陰影をつけます。そのほかにも今夏『亡国のイージス』、『この胸いっぱいの愛を』など超話題作への出演が目白押しの成長著しい勝地涼、物語のテーマを隠喩する重要なキーパーソン役に、映画『電車男』や『サマータイムマシン・ブルース』などの出演が決定し人気急上昇の瑛太、カリスマモデル出身で現在幅広いジャンルで活躍を続けている今宿麻美など、いまの日本映画界の実力派キャストが結集、見ごたえのある人間ドラマをつくりあげています。

ストーリー



 <何事もつつみ隠さず、タブーをつくらず、できるだけすべてのことを分かち合う>
それが京橋家の決まり。その決まりにしたがって、今朝マナは自分の”出生決定現場”を知らされた。ラブホテル。しかも「野猿」。がっかりした気持ちをボーイフレンドの森崎に告げるが、逆に森崎に、そこまで家族でフランクに会話をしていることに驚かれる。そのせいというわけではないが、最近マナは学校をさぼりがちだ。
 弟のコウもまた、あまり学校に行っていない。だが建物に興味があり、”ラブホテルには窓がない”と聞いて行ってみたくなる。案内してもらおうと思い、飛び込んだ先の不動産会社で受付をしていたのがミーナだった。
 ミーナは実は父・貴史の愛人だった。貴史にはもうひとり、長くつきあいつづけている愛人・飯塚もおり、会社をサボっては二人の愛人の間を右往左往しているといういい加減ぶり。妻の絵里子はうすうす夫の浮気に気がついているものの、〈隠しごとをしない>という家族の決まりを守るため、あえてそのことは問い詰めない。いつも笑顔で、家族を守ろうと彼女なりのやり方で主婦業に専念する日々だ。というのも、かつてひきこもりだった自分と母・さと子との関係がわだかまりとして残っており、さと子の世話をするものの、いまひとつ気持ちはかみ合っていない気がしている。
 ある日、帰宅した貴史は、ダイニングで目を疑った。なぜかミーナがそこにいる。絵里子が笑顔で説明してくれる、「コウの家庭教師をお願いするミーナ先生よ」。貴史もミーナも初めて会った振りをしつつ、京橋家ではミーナ先生の歓迎の宴が進んでいく……。さらに別の日、さと子はコウの身元引受人として呼び出される。なんとコウが万引きしたというのだ。品物は女性用生理用品。不審に思ったさと子を、コウが説明のために連れていった先はラブホテル「野猿」。そこではミーナがコウの帰りを待っていた。見学のために来たのだと説明するが、さと子とミーナは激しくやりあう。結局はミーナが捨て台詞を残してその場を去ってしまう。
 一方、絵里子は、ちょうど退院したさと子とミーナ先生の合同誕生日パーティを京橋家で開催することを企画する。手作りの装飾やケーキを作って、皆の帰りを待つことにするのだが……。

スタッフ

監督/脚本:豊田利晃
原作:角田光代
企画:孫家邦、森恭一
プロデューサー:孫家邦、菊池美世志
録音:上田なりゆき
美術:原田満生
編集:日下部元孝
衣装:宮本まさ江

主題歌:UA

キャスト

小泉今日子
板尾創路
鈴木杏
広田雅裕
ソニン
大楠道代

今宿麻美
勝地涼

山本吉貴
渋川清彦
中沢青六
千原靖史
鈴木晋介

國村隼
瑛太

永作博美(特別出演)

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