原題:SONG OF THE STORK

忘れない— あの夏のアオザイ、恋、そして戦争の真実を…

アジアフォーカス福岡映画祭2004正式出品作品::http://www.focus-on-asia.com/

2001年/ベトナム・シンガポール/99分/日本語字幕:松岡葉子 提供:ギャガ・コミュニケーションズ、エレファント・ピクチャー 配給:ギャガ・コミュニケーションズ、アニー・プラネット

2004年11月26日よりDVD発売開始 2004年8月28日より銀座シネパトス、新宿ジョイシネマ3にてロードショー以降全国順次公開

公開初日 2004/08/28

配給会社名 0025

解説


ハノイに咲いた恋、ジャングルに散った命。ベトナムの美しい自然を背景に描く戦争の悲話。

<誰も語らなかった、ベトナム戦争の本当の姿>
多くの日本人は、これまでアメリカ映画やアメリカのテレビ映像を通してしかベトナム戦争を垣間見ることができなかった。アメリカ映画には『地獄の黙示録』『プラトーン』『フルメタル・ジャケット』といったベトナム戦線そのものの苛烈さを描いた傑作があり、ほかにもアメリカ人の喪失感を描いた『ディア・ハンター』『帰郷』『7月4日に生まれて』といった反戦系の問題作も生まれた。しかしどの映画もベトナム兵士は野蛮なサルのような存在としか扱われず、“チャーリー”と呼ばれて揶揄されていた。わずかにノン・フィクションを原作とした『ワンス&フォーエバー』でベトナム軍が勇敢で戦闘能力が高い優秀な兵士の集団として描かれていたのが印象に残る程度だった。 だが、実際にはベトナム軍の兵士は米軍に比べ戦力が劣る中で実に立派に戦った。この映画でもサンダルをはいた兵士たちが、それぞれに内面の葛藤を抱えながら前進していく姿を感動的に捉えている。この映画に描かれたベトナム軍兵士たちは、アメリカ映画に描かれた戦闘マシンのような兵士ではなく、それぞれが故郷や肉親や妻や子を愛する人間であることが強調されている。ベトナム戦争で心に深い痛手を受けたのは、アメリカ人ばかりではなかった。ベトナムの人々にとっても戦争で失ったものは、あまりにも多かった。その事実をベトナム人の立場で描いているのが本作なのだ。

<ドキュメンタリーとドラマの統合>
映画は、ベトナム戦争の従軍カメラマン、トラン・バン・チュイの回顧から始まる。彼は1966年から72年まで従軍してベトナム戦争をカメラで記録し、現在はドキュメンタリー映像作家として活躍している。彼の回顧で語られる若きベトナム兵士たちのエピソードは、実際にあったことを基にして作られている。映画の途中で初老のアメリカ人が登場する。ベトナム戦争当事に海兵隊員として参戦していたウェイン・カーリンだ。彼は帰国後戦争体験の本を書き、今回は脚本を書いている。仇敵同士だった2人がベトナムの豊かな田園風景の中で思い出を語り合うことができるのも平和のありがたさだ。またこの映画には、かつてのベトナム軍諜報部員も出てくる。現在はマッサージ師をしている彼の体験は、工作員ラムのエピソードに生かされている。 フィクションの部分では、5人の青年を中心にしたエピソードが取り上げられている。演じているのはベトナムで期待されている有能な若手俳優たちだ。詩人のバン(クアン・ハイ)は美しい女性ホアイ(ドー・ハイ・イエン)と結婚し、娘が生まれるが家族を置いたまま遠い戦地にとどまっている。ホアイによく似たアオザイ姿の娘が道端でバンの乗ったトラックを見送るシーン、ホアイと娘が前線にバンを訪ねてくるシーンは情感があふれ、感動的だ。地方出身の陽気なメイ(トラン・マイ・グエン)、あどけなさが残るマン(クー・ゴク・バオ)、従軍カメラマンのビン(ルー・クアン・ビン)らは互いに助け合いながらホーチミン・ルートを南下していく。過酷な戦場で厚い友情が芽生え、運命に立ち向かいながら成長していく。一方、サイゴンに派遣された工作員ラム(ファム・ジア・チー・バオ)のエピソードは、異彩を放っている。作戦で南ベトナム軍の大佐の娘チュイ・ラン(グエン・ゴク・イエプ)に近づき結婚して子供ができる。ラムを愛したチュイ・ランがラムに黄色い葉っぱを手渡し、「幸運を運んでくれるのよ」と告げるシーンも女心がにじみ出て印象に残る。彼女はラムが工作員と知り、子供を連れてアメリカに旅立つ。このように家族が引き裂かれる悲劇はベトナム戦争でどれほど多く生まれたかわからない。

<国境を越えたスタッフが結集して出来たベトナム映画>
監督のジョナサン・フーはシンガポールでテレビの仕事に携わってきた。アメリカ映画でステレオタイプに描かれてきたベトナム人に飽き足らなかった彼はベトナム人の友人でテレビ番組のディレクターをしているグエン・ファン・クアン・ビンに呼びかけ共同監督をした。この映画は史上初のベトナム・シンガポール合作映画ということになる。脚本はベトナム人3人にアメリカ人ウェイン・カーリンが加わった。撮影はマレーシア人のモー・ジェフリー・ビン・ユソフ。美術はシンガポールのアンディ・ヘン、音楽はシンガポールのジョシュア・ホンとベトナムのグエン・チエン・ダオと多国籍のスタッフが結集した。史上初のベトナム・シンガポール合作映画である。

ストーリー


サイゴン解放25年の前日、2000年4月29日。ハノイの街はいつものようににぎわっている。ベトナム人の映像作家トラン・バン・チュイは従軍カメラマン時代を思い出し、感慨に浸っている。「なぜ大勢の仲間は死んだのに私は生き残っているのだろうか」 ベトナム解放軍のキャンプで大勢の若者が訓練を受けている。地方出身のマン(ター・ゴク・バオ)は左向け左ができない。ラッキーことメイ(トラン・マイ・グエン)はマンの左足首に赤い紐を巻いて教えてやっている。 ハノイ出身のバン(クアン・ハイ)は詩人だ。彼には恋人のホアイ(ドー・ハイ・イエン)がいて、ホアイはバンとの結婚を望んでいる。しかしバンは入隊して訓練を受けていた。バンはホアイのことばかりを考えて一向に訓練に身が入らない。隊長は「戦争は長引く。待つのは耐えられないだろう」といって3週間の休暇をくれた。バンはホアイと結婚式を挙げる。バンはマンやメイらとトラックで移動中、ホアイによく似た白いアオザイ姿の若い女性が道端で見送ってくれた。バンは残してきた妻を思い出した。

部隊はホーチミンルートに沿って南下した。荷物を背負ってジャングルを徒歩で移動する最中、敵の爆撃だけではなく、飢えや病気、野生生物の犠牲になって仲間たちは倒れていった。米軍との激しい戦闘もあった。バンは撃たれて負傷した。米軍兵士はバンの日記帳を拾って持ち去った。 ハノイでは空爆が激しくなっていた。ホアイはバンとの間に生まれた娘ヒエンを守っていたが、意を決して前線にいるバンに会いに行く。政治委員であるバンは妻に会うことを躊躇するが、隊長は「兵士である前に人間なのだ。会って来い」と3日間の休暇をくれた。バンは妻と娘を堅く抱きしめ、つかの間の再会を喜ぶ。 サイゴンでは工作員が暗躍していた。ラム(ファム・ジア・チー)は建築技師と偽って大佐の娘チュイ・ラン(グエン・ゴク・イエプ)に近づく。ラムは大佐の妻に頼んで香港ドルを米ドルに交換してもらい解放軍の資金にする。チュイ・ランはラムと結婚、2人の子供が生まれた。しかし解放軍がサイゴンに迫ったときチュイ・ランはラムが解放軍のために橋を確保するところを見てしまう。失意のうちに娘たちを連れて米国に飛び立つチュイ・ラン。ベトナム戦争は多くの人々の心に深い爪あとを残して終わった。

スタッフ

監督:ジョナサン・フー、グエン・ファン・クアン・ビン
脚本:グエン・クアン・サン、トゥ・ボン
オーケストラ編曲・指揮:グエン・チエン・ダオ
オリジナル音楽・プロデューサー:ジョシュア・ホン
配給:ギャガ・コミュニケーションズ、アニープラネット

キャスト

ドー・ハイ・イエン
ファム・ジア・チー・バオ
ター・ゴク・バオ
トラン・マイ・グエン
グエン・ゴク・イエプ
クアン・ハイ
ルー・クアン・ビン
トラン・バン・チュイ
ウェイン・カーリン
ダン・ゴン・バン

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