原題:Eros

映画史上、最も贅沢なコラボレーション カンヌを征した三名匠が織り成す、至高の愛のトリロジー

2004年/アメリカ・イタリア・フランス・中国/カラー/104分 配給:東芝エンタテインメント

2005年12月22日よりDVDリリース 2005年4月16日、シネスイッチ銀座、bunkamuraル・シネマにて公開

公開初日 2005/04/16

配給会社名 0008

解説



 『花様年華』『ブエノスアイレス』のウォン・カーウァイ、『セックスと嘘とビデオテープ』のスティーヴン・ソダーバーグ、『情事』『欲望』のミケランジェロ・アントニオーニ。それぞれ90年代、80年代、60年代のカンヌ映画祭を征し、アジア、アメリカ、ヨーロッパを代表する世界的な映画作家へと羽ばたいていった3人の名匠が、世紀のコラボレーションを結成。一級の芸術作品と呼ぶにふさわしい、風格に満ちた愛のトリロジーを完成させた。

 2004年ヴェネチア映画祭で、大きな話題をさらった『愛の神、エロス』。カーウァイ、ソダーバーグ、アントニオーニの3人が、エロスをテーマにそれぞれ“純愛”“悪戯”“誘惑”といった独自の視点から、愛とエロティシズムを描きあげた本作は、3人の名匠たちの薫り高い愛の美学が、見る者の心を揺るがす至高のコラボレート作品である。

 企画の発案者は、60年の『情事』でカンヌ映画祭の審査員特別賞、67年の『欲望』で同映画祭のパルムドールを受賞し、91歳を迎えた今もあくなき創作意欲を燃やす伝説の映画作家ミケランジェロ・アントニオーニ。前作『愛のめぐりあい』で組んだプロデューサーのステファーヌ・チャルガディエフからトリロジー創作のオファーを受けた彼は、自身と肩を並べるにふさわしい若手の映画作家を、多くの候補者のリストから指名。カーウァイとソダーバーグのふたりに、白羽の矢を立てた。

 そんな経緯から誕生した作品は、それぞれの作家の個性が全面に打ち出された、贅沢なフルコースともいうべき一編に仕上がっている。

 トップを飾るのは、『ブエノスアイレス』でカンヌ映画祭の最優秀監督賞を受賞し、同映画祭で2冠を受賞した『花様年華』のストイックな官能表現で世界中の映画ファンを魅了したウォン・カーウァイの「若き仕立屋の恋」。『欲望の翼』『花様年華』『2046』に続き、1960年代の香港を背景にしたこの作品は、高級娼婦のために服を縫い続ける仕立屋の一途な愛をみつめた物語。ただ一度の手の触れ合いに、彼女への永遠の愛を見出す仕立屋。その切ないほど美しく、泣けるほど純粋な思いを描くドラマを通じて、カーウァイは東洋的な「秘められたエロティシズム」を表現。『花様年華』と同様、鏡ごしの映像を多用した演出に、世界有数のヴィジュアリストとして知られる彼独特の美意識がさえわたる。ヒロインの高級娼婦を演じるのは、『2046』でカーウァイと初コンビを組んだアジアの華コン・リー。仕立屋には、『ブエノスアイレス』『2046』のチャン・チェンが扮し、イノセンスが香り立つ抑制のきいた演技で魅了する。

 一方、カンヌのパルムドールを受賞した『セックスと嘘とビデオテープ』で衝撃のデビューを飾った後、ハリウッドとインディーズの両フィールドでめざましい活躍を見せるスティーヴン・ソダーバーグは、夢に題材をとった「ペンローズの悩み」を、往年のハードボイルド映画を思わせるモノクロ映像を駆使したスタイリッシュな作品に仕上げた。主人公は、ロバート・ダウニーJr.が演じる1950年代の広告クリエーター。エロティックな夢の中に登場する女性の顔がどうしても思い出せない彼は、アラン・アーキン演じる精神分析医を訪ね、夢の解析を依頼する。そのふたりのやりとりと、青を基調にした映像で表現される夢のシークエンスで綴られたドラマに漂うのは、人間の深層心理をユーモラスに料理した知的遊技の趣き。『オーシャンズ12』などのハリウッド大作とはひと味違う、ソフィスティケイトされたテイストを、今回のソダーバーグは楽しませてくれる。

 そして、トリロジーの最後を飾るミケランジェロ・アントニオーニの「危険な道筋」。愛し合っているのにコミュニケーションがはかれない40代の夫婦を、クリストファー・ブッフホルツとレジーナ・ネムニが演じるこの作品は、アントニオーニの永遠のテーマである「愛の不毛」について言及すると同時に、カオス(混沌)の中からガイア(大地)とタルタロス(冥界の最深部)と共に誕生したとされるエロスの起源を深く掘り下げていく。自然の化身のような女と交わりを持つ夫、そして、その女とひとつの影で結ばれる妻。エロスは自然に宿り、その自然を媒介にして人間同士の結びつきが存在することを語りあげていくこの作品を通じて、アントニオーニは、宇宙的な視野に立ったエロス論を展開させる。そんな彼のみずみずしい感性、91歳にして新たなテーマに自らを駆り立てていくエネルギーには、誰もが驚嘆せずにはいられないだろう。

 人を愛することの切なさを、過去のどんな作品よりも情感豊かに描きあげ、胸に迫るドラマを紡ぎ上げたカーウァイ。エロティシズムのフロイト的な解釈にヒネリをほどこしたストーリー・テリングに、鬼才ぶりを発揮するソダーバーグ。哲学的・神話的な観点から、愛の定義を語りあげるアントニオーニ。まったく異なるアプローチから、深淵にして大いなる謎をはらんだエロスというテーマに挑んだ3人の名匠たち。それぞれのオリジナリティと独立した世界観が、極上のハーモニーを奏でるこの魅惑のトリロジーは、さらに、ひとつの絵画、ひとつの音楽によって、濃密に結びつけられていく。

 その大役を担ったのが、ニューヨーカー誌の表紙をしばしば飾ることで知られるイタリアのアーティスト、ロレンツォ・マットッティと、現代のブラジル音楽を代表するシンガー・ソングライターのカエターノ・ヴェローゾだ。各章のタイトルを飾る絵画を描きあげたマットッティは、シンプルで力強いタッチで、それぞれの名匠たちの世界を表現。バックには、ヴェローゾがアントニオーニのために書き上げたオリジナル音楽「ミケランジェロ・アントニオーニ」の官能的なメロディが流れ、陶酔の境地に見る者を誘っていく。

ストーリー




●〜エロスの純愛〜『若き仕立屋の恋』
 1963年の香港。仕立屋の見習いとして働き始めたチャン(チャン・チェン)は、師匠ジン(ティン・ファン)の命令で、大切な顧客の元を訪れた。彼女の名は、ホア(コン・リー)。たくさんのパトロンを抱え、瀟洒なアパートで優雅に暮らす有名な高級娼婦だ。

 緊張に身を固くしながら、彼女が仕事を終えるのを待つチャン。隣室から漏れてくる喘ぎ声を無視しようとしても、身体が勝手に反応してしまう。やがて、客と入れ替わりにホアの寝室に招き入れられたチャンは、ズボンの前を隠しながら、立ちつくすことしかできなかった。そんな彼に、ホアは命じる。「ズボンを脱ぎなさい」と。

 驚きと当惑にかられるチャンだったが、「従わなければ師匠に言いつける」というホアの言葉を聞いた彼に、選択の余地はなかった。言われるまま、ズボンと下着を脱いだチャンの手に、ホアがそっと触れる。「女の身体に触ったことがないんでしょ? それでどうやって仕立屋になるというの?」。彼女は、チャンの身体に手をのばし、優しく太股を愛撫した。「ジンは、あなたに才能があると言ったわ。いつかあなたが私の仕立屋になるのよ。この感覚を覚えておいて。そして、私に美しい洋服を仕立ててちょうだい」。チャンの両脚の間をまさぐっていたホアの手が、ゆっくりと動き出す……。

 その日から、チャンは何度もホアの元に呼ばれ、彼女のためにたくさんのドレスを仕立てた。しかし、最初の日のような出来事は、あれから一度も起こらなかった。チャンはただ、ホアが他の男のために着飾るドレスを仕立てるだけ。それでも、彼の胸は喜びで満たされていた。心をこめてドレスを仕立てる度に、あの時の手の感触が蘇ってくるからだ。

 そんな日々が数年間続き、チャンは仕立屋としての腕と評価をあげていった。それとは逆に、ホアの人生は下降線をたどった。パトロンに逃げられ、仕事も減った彼女は、仕立屋の支払いを滞らせるようになった。それが半年続いたあと、チャンはジンから集金に行けと命じられる。いまは掃除も行き届かなくなったアパートでチャンを出迎えたホアは、「旅に出るから服を売って」と、ドレスの山を差し出した。そして、これまでのお礼に酒をふるまいたいと申し出た。黙って杯を交わすふたり。数日後、チャンは再び集金にホアのアパートを訪れたが、そこにはすでに、彼女の姿はなかった。

 ジンの元に、ホアから連絡が入ったのは、それから数年後のことだった。新しいドレスの注文を受けたチャンは、うらぶれたホテルに彼女を訪ねて行く。やつれた顔に生活の苦労をにじませたホアは、チャンがまだ独身だと知ると、「私が相手ではだめかしら?」とたずねた。チャンは、この時をどれだけ待っていただろう。しかし、ホアの言葉が冗談だと知って、彼の喜びはすぐ落胆に変わった。彼女は、アメリカにいる愛人に会うためのドレスを仕立ててもらうために、チャンを呼び出したのだ。

 この最後のチャンスに、全財産を賭けてドレスを仕立てると言うホアに、チャンは言った。「私はまだ、あなたのドレスをとってあります。だから、それを仕立て直せばいい」。採寸のために、彼の指先が身体に触れたとき、ホアはチャンの手を握りしめて泣いた。

 チャンは、懸命に作業と取り組んだ。自分の仕立てるドレスが、ホアを窮地から救い、彼女に幸せをもたらすことを願いながら。しかし、ドレスが仕立て上がった頃、もはやホアのアメリカ行きの夢は潰(ルビ:つい)えていた。

 街娼の暮らしの果てに病を患ったホアのために、家賃を支払ってやるチャン。今ではベッドから起きあがることもできなくなったホアは、見舞いに来たチャンをみつめながら、「初めて会った日のことを覚えているかしら?」と、たずねた。チャンは答えた。「あの日、あなたの手に触れていなかったら、私は仕立屋になれませんでした」と。

 彼は、「もっと近くに来て」と呼びかけるホアに、たまらず唇を寄せる。しかし、ホアには、汚れきった自分が、チャンの純粋な求愛に値しない人間であることがわかっていた。「病気が染るから」と、手でチャンの唇を押しとどめたホアは、その手にチャンの熱い涙がこぼれるのを感じた。彼女は、チャンの気持に応えようと思った。いまの自分に、たったひとつだけ残された両手を使って……。

●〜エロスの悪戯〜『ペンローズの悩み』
 1955年のニューヨーク。精神分析医のパール(アラン・アーキン)の診察室に、ひとりの患者がやってきた。彼ニック・ペンローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)は、広告のクリエーター。サムソンの目覚まし時計に関する新しいコンセプトをひねりださなくてはならないという仕事のプレッシャーに加え、奇妙な夢に悩まされ続けているという彼は、せかせかと部屋を歩き回りながら、「いますぐ、夢の答えがほしい」と、パールにせまった。毎晩見るその夢のせいで、妻が泣き出してしまったからだという。
 とりあえず、ペンローズをカウチに落ち着かせたパールは、夢の出来事を最初から語るようにペンローズを促した。それは、こんな夢だった。とても魅力的な女(エル・キーツ)が、バスルームでバスタブにつかっている。電話のベルが鳴るが、彼女は電話に気づかない。やがて風呂からあがった彼女は、メイクをし、身支度を整え、バッグをつかむと、ベッドの中のペンローズにキスをして出て行く。ペンローズは、電話に出なければと思うが……。

「そこで必ず目が覚める」というペンローズの夢は、かなりディテールのはっきりしたものだったが、なぜかペンローズは、顔見知りであるはずのバスルームの女が誰なのかを思い出せず、苛立っていたのだ。

 そんなペンローズの告白を、心ここにあらずの面持ちで聞いているパール。ペンローズが目を閉じてカウチに横たわっているのをいいことに、窓の外にいる誰かの気を引くことにやっきになっている彼は、カルテで紙飛行機を折りながら、夢の世界に身を置いているペンローズに、「彼女のバッグを取りに行け」と呼びかける。「できない!」と言って、跳ね起きるペンローズ。それを無理矢理押しとどめたパールは、ペンローズが再びカウチに横たわるのを待ってから、「夢の中でいちばん好きなパートはどこか?」と、たずねた。「彼女が電話に出ないところだ」と、答えるペンローズ。それを聞いたパールは言う。「その電話は、外界からの遮断を意味しているのです。目覚まし時計のように。夢の中で、彼女は電話に出ない。彼女は、その瞬間を味わっているのです」

 しばらくそのパールの言葉を反芻しながら、自分自身の朝の日課について話していたペンローズは、突如、ものすごいアイデアを思いつく。目覚まし時計が鳴ってもあと数分眠っていたい自分のような人間のために、いったん鳴りやんだあと、数分後に再び鳴り始める目覚まし時計があったら、どんなにいいだろうか、と。

「そういうの、欲しくないですか?」というペンローズの問いかけに、「欲しい」と答えるパール。だが、実のところ、彼は、ボディ・ランゲージでコンタクトをとることに成功した窓の外の人間とのデートのことで頭がいっぱいで、気もそぞろだった。

「だいぶ気分が良くなったが、もう少し休んで行きたい」と言うペンローズに、カウチに横になるようにすすめると、パールはそそくさと診察室を出て行った。ひとり残されたペンローズは、再び夢の世界に落ちていく。そこで彼が見た、夢の女の正体とは……?

●〜エロスの誘惑〜『危険な道筋』
 真夏のイタリア、トスカーナ地方。40代のアメリカ人男性クリストファー(クリストファー・ブッフホルツ)と、イタリア人の妻クロエ(レジーナ・ネムニ)は、お互いの関係が行き詰まっていることに気づいていた。「なぜ、あなたは終わっていることを認めようとしないの?」と、クリストファーを詰問するクロエ。
 スポーツ・カーに乗ってドライブに出かけたふたりは、セイレーンのような少女たちが滝で沐浴を楽しんでいる美しい渓谷に立ち寄る。「こんなところがあったなんて」と、景色に目を奪われるクリストファーを、クロエは、「注意を払わないからよ」と冷たくあしらった。

 何を見ても、何をしても、噛み合わないふたり。無言で昼食を取った後、森を抜け、うち捨てられた桟橋までやって来た彼らは、激しい口論を繰り返す。クロエは、クリストファーを残してその場を去った。

 ひとり残されたクリストファーは、昼食のとき、レストランで見かけた若い女性(ルイザ・ラニエリ)を訪ねて、浜辺の塔へやって来る。女は、クリストファーを塔の中に招き入れると、彼をルーフ・テラスまで案内し、自分は部屋に戻って全裸でベッドに身を横たえた。そこへ、クリストファーが入ってくる。「私もここに寝たらどうなるんだ?」という彼の問いかけに、「私の名前を教えてあげる」と答える女。

 翌朝、塔を去ろうとするクリストファーに、女は告げる。「私の名前はリンダよ」。

 季節はめぐり、晩秋。クロエは、馬たちが跳ね回る草原へドライブに出かけた。彼女の携帯電話に、パリにいるクリストファーから電話がかかってくる。「こっちは雪が降っている」という彼の言葉に、「ここも雪になればいいのに」と応じるクロエ。相手の顔が見えない分、今日の彼女は、素直に自分の気持を口にすることができる。「私の愛は終わっていない。あなたの態度次第よ」。だが、クリストファーからの明確な答えは得られない。

 そのころ、浜辺には、着ているものをすべて脱ぎ捨て、楽しげに、自由奔放に踊るリンダの姿があった。しばらく水とたわむれた後、浜辺に仰向けに横たわるリンダ。

 同じ浜辺に、クロエもやって来る。彼女は、まるでリンダがしていたことを見ていたかのように、着ていた服を脱ぎ捨てると、水の中で優美に踊った。それから、彼女はリンダの元へ歩み寄

スタッフ

●〜エロスの純愛〜『若き仕立屋の恋』
原題:THE HAND
監督:ウォン・カーウァイ
●〜エロスの悪戯〜『ペンローズの悩み』
原題:Equilibrium
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
●〜エロスの誘惑〜『危険な道筋』
原題:THE DANGEROUS THREAD OF THINGS
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ

キャスト

●〜エロスの純愛〜『若き仕立屋の恋』
コン・リー
チャン・チェン

●〜エロスの悪戯〜『ペンローズの悩み』
ロバート・ダウニーJr.
アラン・アーキン

●〜エロスの誘惑〜『危険な道筋』
クリストファー・ブッフホルツ
レジーナ・ネムニ
ルイザ・ラニエリ

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