第30回モントリオール世界映画祭「First Films World Competition」部門正式出品

2005年/日本/カラー/35mm/ステレオ/ヴィスタサイズ/102分/ 配給:東北新社クリエイツ

2007年08月31日よりDVDリリース 2006年11月25日より岩波ホールにてロードショー

(C)2005 ASプロジェクト

公開初日 2006/11/25

配給会社名 0714

解説


私たちは、日常に埋もれ、いろいろな出来事が慌しく過ぎ去る時代を生きています。日々、様々な悩みを抱え、苦しみを迎え…それでもやっぱり前に進んでいくのです。

大切だった人や出来事を、あなたは心に留めていますか?

誰にでも心に残る大切な思い出があるでしょう。それは、家族と過ごした子供時代のことかもしれないし、またある人にとっては、歯を食いしばり、人知れず涙した青春時代のことかもしれません。日常に忙殺され、普段、思い出さなくても、心に影響を受けた事実はふとした瞬間に甦ってくるものです。過去なくして現在はあり得ません。良い出来事、苦い出来事の一つ一つが今の自分を作っているのです。そしてそれらの出来事は、その人が確実に存在していた証でもあるのです。この『赤い鯨と白い蛇』は、自分が生きていく中で出会った人たちや出来事が、前に進むためには必要なのだ、忘れないで覚えていてほしいという、いつの時代にも共通な不変的願いが込められた、次代に伝えたい作品です。

監督は、75歳にして初めてメガホンを取ったせんぼんよしこ。”脚本の向田邦子、演出のせんぼんよしこ”と呼ばれ、数々のテレビドラマを手がけてきた経歴を持ち、男性社会とも言える業界に、女性が活躍する時代を生んだ存在です。そんな彼女が、豊かな自然にあふれた穏やかな海辺の町・千葉県館山を舞台に、五世代の女性たちの運命的な出会いと別れの中で、「あなたを忘れない」「自分に正直に生きる」といういずれもシンプルな想いを、叙情豊かに描き上げています。
また、作品名の”赤い鯨”には、戦時中、海軍基地だった館山の悲しい出来事が、”白い蛇”には、旧家に棲みつく守り神から日本古来の風情が込められ、テーマの重みも出しています。

出演は、黒澤明、小津安二郎、溝ロ健二など、日本映画を築いた巨匠たちの作品で次々とスクリーンを飾った香川京子、映画、テレビ、舞台においての活躍で幅広い層に親しまれている浅田美代子、若手女優の中でますます期待視されている宮地真緒、今回映画出演がまったく初めてのなか、浅田美代子の娘役を好演した坂野真理、そしてどんな作品においても観客に存在感を残す樹木希林。彼女たちのバランスの取れた演技は、その土地に生きる、そして今の時代を生き抜く女性たちを見事に表現しており、心にじんわりと温もりを残してくれます。

さらに、先人たちが築いた住文化である古民家、真っ赤に染める海辺のタ日、戦争当時の防空壕、そして本土決戦の抵抗拠点として建設された施設内一室の天井にある誰が彫ったのか分からない飛龍のレリーフ、やわたんまち大祭り…。それら全て心に留めておきたい「和」の情景が、作品に溶け込んでいます。「和」の織り成す空気が全体にゆったりと流れ、ロハスに通じる心地よさがあり、スピードを求められる昨今、逆に新鮮さを感じるのではないでしょうか。

本当の気寿ちにフタをして過ごしていませんか?

今、自分の思っていることを言えずに、頑張りすぎてしまう人が増えています。そしていつしか、「仕方がない」「そうするしかない」と諦めや思い込みに縛られてしまうのです。頑張りすぎなくてもいい、自分の気持ちに正直に、たとえ孤軍奮闘しなければならなくても、たまには肩の力を抜いてみて…。そう映画が語りかけてくるのを、ぜひ感じて下さい。『赤い鯨と白い蛇』は、心を休めたい瞬間に思い出す田舎の母のようであり、また、受け継いでいくぺき「和」の神髄に触れることができる、今の時代に求められる映画なのです。

ストーリー



雨見保江(香川京子)は、千倉に住む息子夫婦のもとに身を寄せることになった。孫の田中明美(宮地真緒)を伴って、千倉に向かう途中で「どうしても昔住んでいた家を見に行きたい…」と、館山駅で途中下車する。その家は藁葺き屋根の古い民家だった。保江らは、何かにひきこまれるようにこの家の中へ入って行く。すぐに人の気配を感じた家の持ち主・河原光子(浅田美代子)が姿を見せ、この家を取り壊して建て直すために、昨日引っ越したばかりだと説明する。
保江の家族は戦争中この家を借りて疎開してきた。終戦後も何年かそこで暮らしたので、保江にとって青春の思い出が詰まった家だった。母屋、蔵、離れもある。庭の一隅には天神様を祀った小さな社も残っていた。庭の向こうには館山の海が見える。なかなか格式の高い家だ。そこへ光子の娘・里香(坂野真理)が学校から帰ってくる。
里香も、三年前に失踪してしまった父の思い出が詰まっているこの古い家が大好きだった。
一通り家を見せてもらった後、千倉に向かおうと促す明美に、「できれば今日はここに泊まりたい…」と言い出す保江。明美が困るなか、光子はイヤな顔を見せずに「よければ何日でも」と承諾する。
暮れゆく館山の海、台所裏手の古井戸、懐かしそうに一つ一つ眺めた保江は、虫の音を聞きながら、「遠い昔の約束を思い出すためにここに来た」と明美に打ち明ける。認知症のせいで年々記憶が薄れていく今、ここにいると少しずつだがどんな約束だったかを思い出す。だからここに泊まりたかったのだ…と。
ふと外に目をやると、見知らぬ女性が家を覗いていた。彼女は大原美土里(樹木希林)。以前、この家を借りていたことがあり、光子から取り壊すと聞いて仕事のついでに訪ねてみたのだと説明する。だが、光子は釈然としない。
美土里はずけずけと保江の素性を聞いたり、光子の私生活に介入したりする。明美も遠慮のない現代っ子だ。女性たちはいつしか古い知り合いのように打ち解けて話し始めていた。
保江が唐突に「この家には百五十才になる白い蛇が住んでいて、その蛇と話をすると幸せになれる」と言い出す。美土里は老人の空言と笑い飛ばすが、里香は「私は見たことがある」と言った。明美は優しく「夢だったのでは?」と祖母に問いかける。しかし保江の記憶の中では、白い蛇は紛れもなく存在しているのだった。
記憶を辿るように白い蛇を探す保江の脳裏に、少しずついろいろな事が思い出されていった。そして、「十五夜の月が蒼い夜、天神様の前に立っていたら白い大きな蛇が目の前にいて、足がすくんで動けなかった。その時、『自分に正直に…』という声が聞こえたのだ」と話す。その記憶は、保江の心に深く刻まれた、青春時代のある出来事に深く関わりがあるのだった…。

スタッフ

監督:せんぼんよしこ
プロデューサー:中林千賀子
エグゼクティブプロデューサー:井川幸広、林田洋
製作総指揮:奥山和由
アソシエイトプロデューサー:山本恭史
企画プロデューサー:岡部英紀
脚本:冨川元文
撮影:柳田裕男
美術:古谷美樹
衣裳:宮本まさ江
編集:高橋幸一
音楽:山口岩男
音楽プロデューサー:倉田真二
VFXスーパーバイザー:石井教雄
スクリプター:赤澤環
照明:市川徳充
制作担当:市川幸嗣
整音:小松将人
録音:尾崎聡
助監督:宮崎暁夫

キャスト

香川京子
浅田美代子
宮地真緒
坂野真理
樹木希林

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